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Vegynのデビュー・アルバムから見るサウス・ロンドンの現在と、彼のリードするローカル・コミュニティ

13 November 2019 | By Shintaro Yonezawa

フランク・オーシャンのアルバム『Blonde』(2016年)はR&Bという枠を遥かに超えてアンビエント~エレクトロニカ~フォーク~ソウル~ゴスペルにクロスオーバーした傑作だった。この作品でラップミュージックという枠を拡張し、異なる音楽性を昇華するセンスを発揮したのが、作曲やアレンジで携わったJoe Thornalleyである。サウスロンドンを拠点にする彼は『Endless』収録の「Slide On Me」、『Blonde』収録の「Nights」の作曲や「Close to You」の編曲に携わり、フランク・オーシャンの“blonded radio”のキュレートも務める。そんな彼のプロジェクト、Vegyn (ヴィーガン) のデビュー・アルバム『Only Diamonds Cut Diamonds』が11月8日にリリースされた。

1〜2分のインストルメンタル71曲を詰め込んだ前作『Text While Driving If You Want to Meet God!』(2019年)はミックステープ的なラフさを持った作品だったが、本作もその即興的なアレンジやスウィングするグルーヴは受け継ぎつつ、より練られた構成と、ポップなシンセ・サウンド、ロウなドラムマシンの軽妙なバランス感をもったアルバムになった。JPEGMAFIAを迎えた「Nauseous / Devilish」では彼のメタなラップとの組み合わせがある種のファニーさを引き出しているし、メンフィスのラッパーM.C. Mackの曲をサンプリングしてスクリューした「Thoughts of Offing Me」ではボイスサンプルとアルペジオシンセの組み合わせが独特のハーモニーを生んでいる。メンフィス・ラップはこのアルバムの大きなインスピレーションとなっているようで、メンフィスのレジェンドThree 6 Mafiaはアルバム中で何度もサンプリングされ、ループ・スクリューされることでタイムレスな感覚を与えているし、JPEGMAFIAもまたThree 6 MafiaメンバーのProject Patのフロウを強く意識している。

ユニークなサウンドを生むバックグラウンドには、ロンドンのローカルなコミュニティがありそうだ。彼が世に出た最初のきっかけは、2013年にロンドンのクラブ《Plastic People》でVegynがジェームス・ブレイクにデモを渡し、BBC Radioで紹介されたときだという。“ポストダブステップ”のほとぼりが冷めた頃だが、次世代の萌芽があったことを感じさせるエピソードだ。Vegyn自身も仲間と《PLZ Make It Ruins》というレーベルを立ち上げ、リリースはテクノ・トラックから、メンフィス・ラップのリイシューまで、彼の嗜好が反映されている。また、マーチャンダイジングにはサイン入りのビールやフォーチューンクッキーといった気の抜けた商品が並んでいるのも、彼の音楽性とどこか一貫しているように思える。また、レーベルアーティストのArthurは本作にもギターやキーボードで参加している。

また、サウスロンドンのペッカムのインターネットラジオBalamiiでは本作のA&Rを務めるRoof Accessの番組が放送されている。Vegyn、フランスのラッパーのRetro X、Kyverdale Roadに携わるJeshi、Lava La Rueといったフィーチャリング・アーティストがゲスト出演していて、この界隈のミュージシャンのつながりが垣間見える。

これまでのプロデュースワークで培った美しいアレンジや構成力は間違いなく高く、エレクトロニカの軽い質感とラップのサンプリングの組み合わせの背後には、彼のユニークな美学を感じさせる。また制作だけでなく、拠点であるサウスロンドンを拠点に、彼の美学にフィットするさまざまなアーティストを呼び、コミュニティをリードする姿勢が垣間見える。今後のVegynの展開も注目せずにいられないだろう。(米澤慎太朗)

Text By Shintaro Yonezawa


Only Diamonds Cut Diamonds

Vegyn

Only Diamonds Cut Diamonds

LABEL : PLZ Make It Ruins
RELEASE DATE : 2019.11.08

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