「彼は様々な音楽に好奇心を持っていた」
トッド・ラングレンが語るあの頃の高野寛
高野寛がデビュー35年を迎えた。大阪芸術大学芸術学部在学中に高橋幸宏、鈴木慶一主催のオーディションで合格したのが1986年のこと。その2年後の88年に高橋プロデュースのデビュー・シングル「See You Again」を含むファースト・アルバム『hullo hulloa』をリリースした。そこから現在に至るまで、高野は決してその歩みを止めることなく、それどころかキャリアを重ねるごとに、上の世代から下の世代まで広く交流しながら柔軟に音楽制作、ライヴ活動に向き合うようになっている。“ポップ・マエストロ”というイメージに収束されることなく、時にはエッジーに攻めた音作りに挑み、時にはラップトップを用いて作業に没入し、あるいはポリリズミックにステージでギターを弾き、泥臭く歌の可能性を追求する姿は、彼自身が若き日に思い描いていた音楽家像なのかどうかはわからないが、この35〜40年ほどの日本の音楽シーンの変化や拡張と符合するところは大きい。高野という存在がその中枢にずっといた、そう言ってもいいのではないかと思う。この秋に届けられた30周年記念アルバム『Modern Vintage Future』は、自身初となる全編打ち込み主体のエレクトロな作品で、ヴォーカルもあればメロディももちろんあるが、コロナ禍を挟んで高野が感じた閉塞感、窮屈さを反映させつつも、たくましく現代をサヴァイヴする生命力にも富んでいる。まさしく35年を生き抜いてきた強さが表出されているということなのかもしれない。
さて、そんな高野寛の充実したキャリアの初期作品に大いに力を貸したのがトッド・ラングレンである。「虹の都へ」「ベステン ダンク」といったヒット・シングルと、『CUE』(1990年)『AWAKENING』(1991年/トニー・レヴィン、ジェリー・マロッタらが参加!)というオリジナル・アルバムをプロデュース。しかも、海外(ウッドストック)録音で制作した。高野の作品の、気品と歪みに満ちたポップネスは、YMO、ムーンライダーズらはもとより、トッドの影響によるところが大きい。そこで、今回、そのトッド・ラングレンをキャッチしてメールで取材を試みたのでここにお届けする。2月〜3月にかけて12年ぶりにそのトッドの来日公演が決定していることも付記しておきたい。
(インタヴュー・文/岡村詩野)
Interview with Todd Rundgren
──高野寛をプロデュースする前は、LÄ-PPISCHの『KARAKURI HOUSE』(1989年)をプロデュースされています。まず、どういう流れで日本のミュージシャンをプロデュースするようになったのでしょうか。
Todd Rundgren(以下、T):80年代後半、日本経済は世界最強でした。外国の商品やサービスはとても手頃な値段になりました。以前は、アメリカやイギリスのレコード・プロデューサーを雇うことは、日本のマーケットだけにリリースされる可能性のあるレコーディングでは、経済的にあまり意味がありませんでした。ただ、私は円高を大いに利用し、定期的に日本ツアーを行っていました。そうすることで私の知名度が上がって、レーベルの重役や、外国人プロデューサーと仕事をしてみたいというアーティストの目に留まったのだと思います。
私の最初の日本人アーティストとのプロジェクトはLÄ-PPISCHでした。彼らのライヴを見たりデモを聴いたりして、日本とイギリスのスカの融合に惹かれたんです。彼らは、ニューヨーク・ドールズでの私の仕事がきっかけで興味を持ってくれたんじゃないかと思います。その時はニューヨーク州北部にある私のスタジオでレコードを作り、いくつかのクレイジーなエピソードを除いては、無傷でプロジェクトを乗り切りました。最大の難関は通訳でしたね。彼らは英語を話せず、私は日本語を話せませんでしたから(笑)。
──高野寛を手がけることになったきっかけをおしえてください。
T:そう、私の次のプロジェクトは高野寛との作業になりました。ところが、彼はこれ以上ないほど違っていたんです。今思えば、その縁はYMOの高橋幸宏さんを通じてつながったのかもしれないです。なぜなら私はYMOの大ファンで、彼らを応援していたし、高橋は私のソロ活動をよく知っていた。そういう繋がりもあって、高野とはうまく合うと思ったんじゃないかなと思います。
──高野寛の音楽の第一印象はどのようなものでしたか。
T:高野はとても若かったが、日本のポップスではまだそれほど一般的ではなかったシンガー・ソングライターとしてのスタイルをすでに確立していました。彼は自分が何をしたいのかよくわかっていたんです。ただ、まだスタジオでの経験が浅く、自分のパフォーマンスに集中できるようにレコーディングを管理してくれる人を必要としていました。
──あなたがプロデュースした高野寛のアルバムは『CUE』と『AWAKENING』です。どのように作業が進んだのですか。
T:『CUE』と『AWAKENING』の前に、まず日本でシングル曲とB面曲をレコーディングし、その後ニューヨーク北部でアルバムを完成させる流れでした。レコードを作るための計画と準備を示すものだったんだと思います。高野は才能あるギタリストでしたが、彼自身のバンドを持っていませんでした。そこで、すべての曲をプロジェクトが始まる前にMIDIでアレンジしました。ほとんどのトラッキングはプログラムされていたので、このプロセスで最も重要だったのはヴォーカル・パフォーマンスをキャプチャすることでした。高野が書いた日本語の歌詞はよく理解できなかったけれど、フレーズへのアプローチの仕方は何か(工夫が)できそうだと感じたんです。その上で通訳を通してコミュニケーションをとることができた。今思えば、彼はヴォーカルの表現にこだわっていたので、だからこそ私にプロデュースの依頼があったのかもしれないですね。
『CUE』は、タイトにアレンジされたポップ・ソングのコレクションで、いくつかの余談と楽器の間奏がありました。それ自体様々なスタイルがあり、それは高野が様々な種類の音楽に好奇心があり、オーディエンスが何を求めているかを単純に計算しようとしていないことを示していました。皮肉なことに、彼の直感は、外向きで現代的な日本文化が聴きたがっているもの、つまり日本語で歌う国際的な音楽を作るアーティストを象徴しているようだったのです。
一方、『AWAKENING』は高野のアイデアがいかに早く進化し、『CUE』の成功にいかに邪魔されていなかったかを示すものでした。このアルバムは、(『CUE』を)コピーしようとしたのではなく、彼の幅を広げようとしたのです。このアルバムは、よりコンセプトを表現し、異なる方法でサウンドとアレンジメントを探求しました。ムードの表現がより中心になり、(作業の)ペースはより慎重になりました。そして、その分、思考は少し深くなったと思います。
──覚えている制作当時のエピソードはありますか。
T:驚くようなエピソードはあまりないですね……。ただ、高野はいつも自分の音楽とその背後にあるプロセスに対してかなり真剣でした。彼とスタジオで過ごした時間はいつも生産的で、アイデアに満ちていたんです。そして、今振り返ってみると、私たちは参加してもらったアーティストのスナップショットをよく撮っていましたよ(笑)。
──35周年を迎えた今の高野寛にメッセージをいただけますか。
T:経験を積み、そして今、彼はモダンであり、ヴィンテージであり、未来的です。それは現在であり、過去であり、あるべき姿です。彼はまだ若く、好奇心旺盛です。その音楽の本質は色彩的であり、質感が豊かです。それは彼の潜在意識とつながりながらも、エモーショナルであり続けているということなのでしょう。まるで過去がなかったかのように、すべてが再び一から始まるかのようですね。
<了>
Text By
Shino Okamura 高野寛 『Modern Vintage Future』
LABEL : U/M/A/A inc. 高野寛 Official Site 高野寛 ライヴ情報 トッド・ラングレン 来日公演
RELEASE DATE : 2024.11.27
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1stステージ 開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ 開場19:30 開演20:30
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1stステージ 開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ 開場19:30 開演20:30
2025年3月3日(月) ビルボードライブ東京
1stステージ 開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ 開場19:30 開演20:30