《The Notable Artist of 2022》
#4
yunè pinku
そこに存在するための内省的なレイヴ・ミュージック
ロンドン在住でマレーシアとアイルランドのミックスルーツを持つティーン、yunè pinku。ジョイ・オービソンがレジデントを務めるラジオ番組でのゲストミックスや、Logic1000「What You Like」のメロディー制作とボーカルでの参加をきっかけに2021年の夏頃からその名が広まりつつあるDJ/プロデューサーである。
昨年11月にリリースされたファースト・シングル「Laylo」は一言で表すと内省的なレイヴ・ミュージック。これは本楽曲が追加されている、90年代レイヴ・ミュージックのリバイバルを捉えるためのSpotifyプレイリスト「planet rave」の印象でもある。「planet rave」は、18歳から24歳のSpotifyユーザーの間で急成長しているプレイリストで、ピンクパンサレスやpiri、Neggy Gemmy、Nia Archivesをはじめとしてアーティストの8割を女性が占めており、強弱の違いはあれどハイパーポップの流れを汲んだサウンドが多いのも特徴だ。
このリバイバルはY2Kムーヴメントと密接に関係している。90年代から2000年前半の視覚的な美学やスタイルが2010年代半ばから後半にインターネット上で関心を集めたことが土台となり、2020年からファッションを筆頭に起きたY2KカルチャーのリバイバルがY2Kムーヴメントである。これにはパンデミックによる閉塞感が、未来的な雰囲気をまとうY2Kカルチャーの波及に拍車をかけた側面もあるだろう。またそのストレス発散の願望や、Y2Kファッションとレイヴ・ファッションの共通点が多いことも90年代レイヴ・ミュージックのカムバックを手伝っていると考えられる。しかし実際に何の心配もなくレイブを行うことはいまだ困難であるし、この先世界がよりよくなっていくと確信することはもっと困難であり、そうした状況が内省的な「planet rave」のムードを作りだしていると推測される。
「Laylo」もこのような背景を持つプレイリストのうちの1曲なのだが、シンセ・サウンドとベースラインが同じリズムで度数を保ちながら動くことで生み出される、厚みはあるがすっきりとした音像と、程よく力の抜けたボーカルの組み合わせは、その中で際立って聴こえる。そしてシンセ・サウンドには、ハイパーポップのタッチを残り香程度にまとわせることでストイックになりすぎないようバランスを取っているのも秀逸だ。テーマに関しては「内向的で不安な性格の人が、タフな自分を演出するための曲です。自分がそこにいなければ、忘れ去られてしまうという考え方もあります。」(筆者拙訳)とインタビューで答えている。これは、閉塞感やストレスを発散する気力も体力もなく疲弊していたとしても現状を打開するにはどうにか活動をするほかないといった、レイヴの元の意味である「無理矢理盛り上がる」に近いことが必要とも言える現状を拾い上げたようなテーマになっていて、意図の有無にかかわらずサウンド面と合わせて社会のムードを掬い取るセンスを感じずにはいられない。
また彼女は、先述の通りジョイ・オービソン、Logic1000、そしてThe Blessed Madonnaにフックアップされ、パーティーではBADBADNOTGOODとの共作シングルをリリースしたSkiifallと共演し現在注目を集めるジャズとエレクトロニック・ミュージックやヒップホップがクロスオーバーする流れの近くにもいる。「Laylo」のプロデューサーとミキサーはKelly Lee Owens「Inner Song」でエンジニアを務めたOli Baystonであるし、レフトフィールドなエレクトロニック・ミュージックを作り続けるupsammyとも交流がある。一部を切り取ってみても彼女が音楽的に豊かな環境にいることは間違いない。先日EP『Bluff』のリリースが発表され、陶酔的な先行シングル「Affection」もリリースされた。『Bluff』というタイトルや「Laylo」のテーマからもわかるように、彼女は他人と関係を築く際に生じる困難からインスピレーションを得ているよう。EPはもちろん、yunè pinkuの持ち前のセンスと現在の環境がどう影響し合い、どんなスタイルを今後確立していくのか非常に楽しみだ。(佐藤遥)