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米インディーズ界きっての “アウトローで反逆者” が描く
子供たちの過酷な境遇『スウィート・シング』

29 October 2021 | By kenji Komai

アレクサンダー・ロックウェルはキャリアのなかで一貫して「映画への愛」を描き続けてきた。『イン・ザ・スープ』(1992年)は、自分の作りたい作品のために奔走する駆け出しの映画作家アルドルフォ・ロロをスティーヴ・ブシェミが演じ、彼の憎めないキャラクターを一躍知らしめる大ヒットとなった。『ピート・スモールズは死んだ』(2010年 日本劇場未公開)は、ハリウッドを夢見るも借金に追われる脚本家が、かつて自分の脚本を譲った友人の映画監督の訃報をめぐる騒動に巻き込まれる物語で、ロックウェルはアルドルフォ・ロロ名義で共同脚本も担当している。そして、25年ぶりの日本劇場公開となる新作『スウィート・シング』においても、主人公の姉弟、15歳のビリーと11歳のニコの暮らしぶりを説明するオープニングのシークエンスにあえて「監督:アルドルフォ・ロロ」とクレジットを挿入する。つまり、アルドルフォ・ロロとはロックウェルの投影であり、自分がやりたいことがあるならどこまでも突き詰め、実行すべきだというシンプルだけれど、とても大切なメッセージの語り部であり続けているのだ。

ロックウェルは2013年、当時7歳と4歳だった実の娘ラナと息子ニコを起用し『Little Feet』を自主制作で完成させた。モノクロの16mmフィルムのタッチを活かしながら、ふたりの夢や妄想のシーンはカラーとなる映像美、アルコール依存症で育児放棄の父親から逃避しようと試みる設定は今作に踏襲されている。自身の父親もアルコール依存症だったロックウェルは、父親(ウィル・パットン)そして母親(ロックウェルの妻、カリン・パーソンズ)と彼女のボーイフレンドからの性的・肉体的暴力、言葉による暴力に遭遇する困難を容赦なく描く。ビリーはその苦痛から逃れるため、自分の名前の由来であるビリー・ホリデイを守護天使のように慕っている。

ビリーとニコが路上で出会い、ともに逃亡生活を計画する少年マリク役には、ニューヨークのスケートパークでスカウトされたジャバリ・ワトキンスが抜擢された。ワトキンスも実際に孤児で様々な家を転々としていた過去を持ち、施設に入れられ母親との別れを余儀なくされたと明かす子供時代のモノローグは、彼自身に起きた出来事なのだという。その告白のあと、ビリーがマリクを癒やすように歌うのがヴァン・モリソンのカヴァー『スウィート・シング』だ。「もう僕は 年老いたりしない/雨の庭を歩き 話し続けるんだ」。ロックウェルは脚本の執筆にあたりこの曲を聴き続けたそうだ。ビリーは芽生えつつ母性とともに、虐待される血の繋がった家族を捨て、マリクを実の兄弟のように、あるいは母のように慕い、ニコとふたりきりだった世界に迎え入れようとする。社会的弱者であることを余儀なくされている子供たちの視点で世界を見ること――言葉にすることはかんたんだけれど、ロックウェルは、それができる数少ない映画作家であると思う。

『スウィート・シング』もまたクラウドファンディングで製作資金が集められ、彼が教鞭をとるニューヨーク大学大学院ティッシュ芸術学部の大学院生とともに撮影を行っている。クロエ・ジャオも学んでいたこの学部の生徒との撮影についてロックウェルは次のように語っている。

「彼らには、映画がどうあるべきかという制約が一切なかった。ある時は巨匠のように、ある時は手持ちカメラで暴力的なシーンを撮影する。そうすることで、映画が独自の人生を歩み始めた。映画そのものが、どのように撮影すべきかを決め始めた」。

子供たちのこのうえない生命力を画面に焼き付け、カメラを持ち撮影することの喜びを体現した映画。3人は自分たちを鼓舞するように「アウトローで反逆者!」と叫ぶが、それはロックウェルのことでもある。

最後に、いつも魅力的な音楽についてもう少し。シガー・ロスは『ピート・スモールズは死んだ』(『Gobbledigook』)、『Little Feat』(『Sæglópur』)に続き『Untitled (“Samskeyti”)』を使用。またウォーペイントはサウンドトラックにこそ参加していないものの、T.Tことテレサ・ワイマンが『ピート・スモールズは死んだ』で本格的女優デビューを果たしていることから、『Little Feet』『スウィート・シング』両作品のクラウドファンディングに協力していることにも触れておきたい。そして――ノア・バームバック『マーゴット・ウェディング』しかり――カレン・ダルトンを使用している映画に駄作なし、というのが筆者の持論だ。(駒井憲嗣)

Text By kenji Komai


『スウィート・シング』

10.29(Fri.)ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開!

監督・脚本:アレクサンダー・ロックウェル
出演:ラナ・ロックウェル、ニコ・ロックウェル、ウィル・パットン、カリン・パーソンズ
配給:ムヴィオラ
©2019 BLACK HORSE PRODUCTIONS. ALL RIGHTS RESERVED

公式サイト

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