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「音楽家のみならず表現者たちの基地のような場所にしたい」
京都の新たな発信源《SUBMARINE》

13 September 2024 | By Dreamy Deka

日本のインディー・ミュージックにおいて、古来、京都という街が特別なアーティストを生み出し続ける特別な場所であるということは、音楽好きなら誰しもが認める事実だろう。主に2000年代前後以降は、くるりを筆頭に、中村佳穂、HALFBY、Homecomings、台風クラブ、本日休演やOhhki、SummerWhalesなど、ジャンルや世代を問わず、数多くの独特の視座を持つバンド/アーティストがこの街から生まれている。

東京ほど大きくない街の中に、モラトリアムな若者を引き寄せる大学という施設を数多く有し、その中から生まれたアーティストの原石を磨いていく伝統あるライヴ・ハウスがいくつも存在する。さらにその中で見出された輝きをフックアップし全国へと繋いでいく《α-station(FM京都)》のように音楽的感度の高いラジオ局や《ボロフェスタ》のように地域に根付いたフェスまでを備えている。こうした新しい音楽が生まれるエコシステムがあることが、京都が独自の視座を持ったアーティストを産み続ける大きな要因ではないだろうか。



《SUBMARINE》でのライヴの様子。弾き語りのアーティストが出演する日は椅子とテーブルが出てゆっくり観られる時も。

そしてそのエコシステムへ新たに加わったのが、京都市右京区西院にある《SUBMARINE》である。自らも渚のベートベンズ、メシアと人人という京都インディー・シーンの顔とも言えるバンドでそれぞれに活躍する江添恵介、北山敬将、そして佐々知史(EN ex.BLPRS)の3名が、2023年9月からバル兼ライヴ・ハウスの営業を開始。京都を中心に日本全国のエッジーなアーティストを積極的にブッキングし、オープンから約1年ですでにインディー・ミュージックの新たな発信地としての存在感を発揮している。共同代表の一人である江添は設立の動機についてこう語る。

「自分もそうでしたが、京都のミュージシャンは聴き手に向けて音楽をやるというよりは職人の様にひたすら芸を磨く事に没頭している人が多いように思います。そこから生まれるマニアックさ、ディープさ、繊細さが僕達の感じてる京都音楽なのだと思います。 そんな音楽家たちが無名のまま京都の土に埋もれてしまうのはもったいないし、おせっかいかも知れませんが全国、世界へ届けてみたいというのが目的です」

メシアと人人の“きっさん”こと北山も自らカウンターに入ってドリンクやフードを提供する。北山が作るタコスは絶品。

2024年8月にはレコード・レーベルとしての活動も開始。第一弾としてメシアと人人、KASHIKOI ULYSSESの7インチ・シングルを同時リリース。これにより、ライヴ・ハウス、バー、そしてレコーディング・スタジオとレコード・レーベル……つまり録音から実演、交流の場までを備えた、いわば音楽の複合拠点が完成したことになる。筆者も昨年足を運んだが、いかにも何か新しいことが生まれそうな雰囲気が濃厚な、秘密基地のような空間だったことが印象に残っている。

その設立にあたって3人がイメージしたのは、1990年代にビースティ・ボーイズが設立したレーベル《Grand Royal》だったという。ショーン・レノンやバッファロー・ドーター、ルシャス・ジャクソン、ベン・リーといった個性的なアーティストを輩出すると共に、出版やファッションなどを通じてカルチャー全般に広くコミットした、レコード・レーベルを超えた文化的アイコンだ。

「僕達の周りには本当に凄いミュージシャンが溢れていますが、その殆どが無名でどこにも属する事の出来ない音楽生活を送っています。 こんなに凄い音楽をやっているのにライブには知り合いのお客さんしか来ない、音源もほとんど知り合いしか聴いていない。そんな状況を目の当たりにして、もどかしさを感じていたんです。この状況をなんとかしたいと何度も何度も3人で話し合い、レコード・レーベルを立ち上げようという流れになりました。様々なカルチャーが一つの場所に集結し、音楽家のみならず表現者たちの基地のような場所にしたいという思いは当初からありましたね」

メシアと人人

決して京都のアーティストにだけ目を向けているわけではないということだが、記念すべき第一弾のリリースは、やはり京都を拠点に活躍するバンド。両作のミックス・エンジニアを務めた江添は彼らの魅力をどう見ているのか。

「メシアと人人は親しみやすさと激しさの間に揺れる繊細さに魅力を感じています。2人のスター性みたいなものを一からプロデュースしてパッケージングしたいと以前から考えていました。彼らは全国で年間100本程のライブを打ち、その多忙なスケジュールから生み出されるギリギリの音楽にも魅力を感じますが、彼らと腰を据えてゆっくり作品作りをしてみたかった」

ギターとヴォーカルの北山敬将とヴォーカルとドラムのナツコの二人組オルタナティヴ・バンドのメシアと人人。江添の言葉通り、その爆発的なパフォーマンスで毎晩のように全国各地のライヴ・ハウスを沸かせている。筆者も一目で心を鷲掴みされてしまったが、2年ぶりの新曲「Matte」「Sleep」は、彼らのもう一つの特徴である繊細なメロディとシンプルで滋味深い歌詞、そしてツー・ピースならではの空間の広さを活かしきった立体的なサウンドをしっかりと聴かせている点が印象的だ。

KASHIKOI ULYSSES

「KASHIKOI ULYSSESは京都市左京区の超ディープなエリアでメンバー・チェンジを繰り返しながらずっとやっているバンドで、その中心メンバーのosamu osanai(ヴォーカル、ギター)には人を惹きつけるカリスマ性やオーラがあり、リリックにもパワーがあると思います。初期の頃はディープすぎて近寄れない雰囲気があったけど、今の彼らにはポップさとオリジナリティが溢れていて衝撃を受けました。《SUBMARINE》でも最高のライヴをやってくれたので、これは《SUBMARINE RECORDS》からリリースせねば!と思いました」

KASHIKOI ULYSSESがリリースした「I’m just a music」「Ai wa Kodashini」は共に、音楽と生活、人生が重なり合って生きているミュージシャンにしか書けない、つぶやきのようにも決意表明のようにも聞こえる歌詞が、90年代オルタナの流れを汲むバンド・サウンドとキャッチーなメロディと一体になって熱を帯びていく様に心が動かされる。静と動のダイナミズム、繊細な感情の揺れ方が伝わってくるような仕上がりである。

今回リリースした2バンドのスタイルは大きく異なるものの、あえて共通点をあげるならば、ギター・サウンドの奥行きの深さや演奏者の姿が浮かんでくるようなライヴ感のあるリズム、そしてロック・バンドとして演奏することの喜びが伝わってくるところだろうか。まだシングルしかリリースされていない段階で言うのは気が早いかもしれないが、こうした手触りと高揚感こそがこのレーベルのシグネチャー、“《SUBMARINE》らしさ”となっていくような気もした。

「レーベルの方向性的にはジャンル分けできないオリジナリティを持ったアーティストをリリースしていきたいですね。今後のリリースはまだ未定ですが、ずっと探してます。ダイアモンドの原石を」

なお、この2組は8月にオーストラリアにて初の海外ツアーも敢行した。その準備を含めた模様はメンバー自身によるnoteをチェックしてほしい。

「オーストラリア・ツアーは二組とも始めての経験だし、自分にとってもまだまだ分からない事だらけ。でも分からないから行くのであって、自分達の音楽がどこまで通用するか確かめたいし、絶対成功させてみせるという意気込みです。楽しみに行くというよりは闘いに行くと言った方かもしれませんね。コノヤローって気持ちで挑みます! これが一歩目なんです。思いっきり踏み込みこんで足跡残したいですね」

DAWとストリーミング配信が一般化し、パソコンさえあれば一人で音楽制作から販売までできる昨今、実務的な面に限って言えば、レコード・レーベルの役割はかつてほど大きくないのかもしれない。しかし《SUBMARINE》の3人がイメージした《Grand Royal》はもちろんのこと、京都インディーの老舗《Second Royal》、東京・下北沢に根を張る《Rose Records》 、そして台風クラブも籍を置く《New Folk》などのカタログを見れば、所属アーティスト固有の音楽性を超えた「レーベルらしさ」というものが存在することもまた、誰もが感じているところだろう。人と人のリアルな関係が絶たれてしまったコロナ禍を経た今だからこそ、その得難さが再認識されている面もあるかもしれない。人と街の関係性が独自の音楽文化を育んできた京都という土地において、《SUBMARINE》という秘密基地に集うアーティストたちが、どのような化学反応を経て、フレッシュな作品を届けてくれるのか、大いに期待したい。
(取材・文/ドリーミー刑事)



Text By Dreamy Deka


メシアと人人

「Matte / Sleep」

LABEL : Submarine Records(7インチ・シングル)
RELEASE DATE : 2024.08.07
購入はこちら
Submarine Records Online Shop



KASHIKOI ULYSSES

「I’m just a music / Ai wa Kodashini」

LABEL : Submarine Records(7インチ・シングル)
RELEASE DATE : 2024.08.07
購入はこちら
Submarine Records Online Shop



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