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「歴史だけじゃなくそこに隠されたストーリーや秘密に興味がある」
金延幸子やブリジット・セント・ジョンも魅了されるスティーヴ・ガン
音で物語を読み解く粋

01 September 2021 | By Shino Okamura

「すごく素敵なギタリストでソングライター。あんなギターを弾ける人、アメリカにも日本にもいないと思う」。2019年秋に“来日(凱旋)公演”を実現させた金延幸子に、ライヴ終了後少し話を聞いた際、彼女はスティーヴ・ガンのことをそう大絶賛した。筆者が観た金延幸子のライヴは弾き語りソロでの京都公演。なので、残念ながらその時サポートで帯同していたスティーヴ本人に会うことはできなかったが、金延はスティーヴに対し、同じくアメリカでは時折ライヴのサポートをしているジェームス・マクニュー(ヨ・ラ・テンゴ)同様、全幅の信頼を寄せていた。「だって、本当にスティーヴはすごい。なんでも自分のものにしているの」。日本出身ながら現在は西海岸に暮らす金延にとって、スティーヴ・ガンという存在は共に活動する理解者/仲間という以上に、音楽そのもの、歴史そのものを越境して共有できる相手なのではないか、と、その時ふと思った。

そして、その魅力を紐解くヒントこそが、ニュー・アルバム『Other You』にあると言っていい。これまでのスティーヴの作品はどれも秀作だが、今作は集大成……いや、もちろんまだまだ進化の過程にあるということを大前提にしつつも、今の時点で一つの到達点と思えるような素晴らしい1枚だ。

アメリカン・プリミティヴ系、サイケデリック、アンビエントやドローン、ジャズやAOR、前衛系まで……スティーヴ・ガンが内包する、いや自身の表現に引き寄せているギター・スタイルは本当に幅広い。ニュー・アルバム『Other You』にはついにクラシック・ギターの素養も加わった。だが、不思議なことに、彼の作品に触れているとそうした彼自身の高い技術力はさほど気にならない。と言い切ると嘘になるが、それよりも、その音の背後にある歴史上のドラマの方がよっぽどリアルに頭に浮かんでくる。例えば、ラ・モンテ・ヤングがガムランに影響を受け始めた瞬間はこんな感じだったのではないだろうか、ビル・フリゼールがアメリカーナに没入した時の音はこういうタッチだったかもしれない……などと。高校入学前にギターを弾き始めたという彼は、様々な音楽に隠された物語を読み解くことで、プレイ、マナーを体得していったのかもしれない。

にも関わらず、彼の作品は親しみやすい歌ものの楽曲でほぼ成立している。そして、ポップ・ミュージックとしてのフォルムに対する穏やかな愛着が常にある。そこがいい。ジュリアナ・バーウィック、メアリー・ラティモア、ジェフ・パーカー、ブリジット・セント・ジョンまでが参加、ロブ・シュナップ(エリオット・スミス、カート・ヴァイル他)が所有するLAのスタジオで制作されたスティーヴ・ガンのニュー・アルバム『Other You』。今年屈指の大傑作だということを断言する。
(インタビュー・文/岡村詩野 協力/ビートインク)

Interview with Steve Gunn

──2019年秋に金延幸子さんと来日した際、あなたは東京で久保田麻琴さんから借りたギターを使い、ソロ公演のステージにあがったそうですね。彼らとはいつごろ、どういうきっかけで知ったのでしょうか?

Steve Gunn(以下、S):Sachiko(金延幸子)に関しては、《WFMU》っていうニュージャージーにあるラジオ局があるんだけど、その局のラジオをある日車の中で聴いていたら彼女のインタビューが流れてきてね。彼女のアルバムのことは知っていたし、気に入っていたから、そのインタビューのアーカイヴのリンクを数人の友人に送ったんだ。そしたら、そのうちの一人が彼女と知り合いで、Sachikoと連絡をとってくれた。すると、なんと彼女が僕の音楽を気に入ってくれていると言うんだ。そこで彼が僕たちをつないでくれて、メールをし合った。で、彼女はカリフォルニアに住んでいるんだけど、ある日僕がカリフォルニアでライヴがあった時に、そこが彼女の家から近い場所だったから、彼女と会うことになってね。会って話をしたあと彼女をコンサートに招待もしたし、そこからもっと連絡をとるようになったんだ。3年くらい前のことかな。Makoto(久保田麻琴)に初めて会ったのは1年くらい前。Sachikoのコンサートがあって、そのうちの一つの会場がニューヨークのセントラル・パークだったんだけど、当時MakotoはSachikoの映像を製作していて、彼が東京からニューヨークに来ていたんだ。それで彼に出会った。彼は僕が長年ファンだったバンドのメンバーで、音楽の知識が本当にすごい。それで話があっという間に盛り上がって、すぐに仲良くなったんだ。色んなバンドや音楽のことについて語ったよ。彼との会話は本当に面白かった。そのあと僕が東京に行った時も一緒に時間を過ごして、僕のコンサートにも来てくれたというわけなんだ。

──2人の存在はアメリカ人のあなたからすれば、どのようなところが魅力で、どのような存在と言えますか?

S:Sachikoは素晴らしいスピリットを持っている。彼女は何に対しても受け入れる姿勢を持っていて、すごく優しい。本当に美しいソウルを持っていて、音楽の捉え方も素晴らしいし、ギターの弾き方もとてもオーガニックでスペシャルだと思う。Maokotoは、とにかく人としてすごくクール。活動期間が長いから、アメリカでも日本でも様々なことを経験していて、面白いストーリーを沢山持っている。彼とSachikoが仲の良い友人同士であることは本当に特別なことだと思うんだよね。僕が東京に行った時、Makotoは最高のおもてなしをしてくれた。素敵なレストランに連れて行ってくれたり、自分のギターを持ってきて一緒にギターを演奏したり、僕のコンサートのために使いたいギターを借りてきてくれたり。本当に助けになったし、いつもたくさんお世話になっている人なんだ。

──なるほど、どうりであなたの音楽からは、日本の情緒……それはワビサビという美学や儒教の教えを思わせる深い余情のあるギター・フレーズや音色を感じ取ることができるわけですね。実際に日本の文化や宗教などからの影響は具体的にどのような側面で受けていますか?

S:ああ、影響は確かに受けていると思う。僕は常に日本の文化に魅了されてきたし、子どもの頃に友達が日本に住んでいて、日本語を少し勉強したこともある。あとは、僕の価値観と似ている部分もあるんだよね。説明が難しいけど、僕は静かな人間で、人生の瞑想的な側面と簡潔さに大きな興味を持っているし、その点では日本の文化に影響を受けているんだと思う。

──あなたの音楽は歌モノであるにも関わらず決して言葉による過剰な押し付けはなく、説明的でもなく、むしろ行間で余韻で語るようなスタイルで、ジョン・フェイヒィ、ビル・フリーゼル、あるいはデーモン&ナオミらに喩えられることもあります。そこで気づくのは、こうしたアーティストたちは、今話したように日本の情緒を感じさせつつも、同時にアメリカの古き時代の原風景を伝えているということです。そして、そこには一定のダークサイドが感じられる……つまり、あなたの作品、ギター・プレイからはゴシック・アメリカンとも言える世界があるのではと感じています。

S:正しい意見だと思う。いくつかの作品、または曲の書き方に関して、僕は景観にインスピレーションを受けているからね。自分を取り囲む環境だったり、自分の周りにいる人たちだったり、その周りに存在しているストーリーだったり。あとは歴史からもインスパイアされる。その全てが良いものだとは限らない。明るい部分も暗い部分も両方からインスレピーションを受けるから、僕の音楽には、その二重性、双対性が映し出されていると思う。美しさと悲しさの両方が僕の周りには存在していて、それが音に出てくるんだ。今の時代になっても、この惑星にとって良くないことがたくさん起こり未だに存在している。このパンデミックが、皆が目を覚まして自分たちの足跡にもう少し意識を向けるいいきっかけになればいいんだけどね。

──あなた自身はそうしたアメリカの歴史的音楽文化の一端を支えている実感や自覚はどの程度あるのでしょうか?

S:僕自身は、それはあまり意識していない。なぜなら、自分がアメリカ人であることを誇りに思っていないから(笑)。自分では、自分の感覚はヨーロッパ人か日本人に近いんじゃないかと思ってるんだ(笑)。音楽のカテゴリーの中にアメリカーナがあるけど、僕は世界で最も国際的な都市、ニューヨークに長年住んでいる。僕は自分と取り巻く環境が音に反映されることをわかっているから、自らニューヨークに引っ越したんだ。様々な国の人々のそばで生活を送れているのは、本当にラッキーだと思っている。そのコミュニティとの経験が、自分にとってはすごく大切だから。アフリカン・アメリカンの歴史、ブルース、政治音楽にも興味はあるけれど、音楽の中には、文化の盗用で出来上がっているものもあると思うんだ(笑)。歴史を知らずに、誰かの音楽を使って音楽が作られていることもよくある。でも、僕は音楽自体の歴史だけでなく、そこに隠されたストーリーや秘密に興味があるんだ。

──では、アメリカのそうした原風景と日本の情緒性ある文化・風習との共通点、逆に差異はそれぞれどういうところにあると思うか、率直な意見を聞かせてください。

S:どうだろう……難しい質問だな。僕の音楽は、その両方を超えたものだと思う。特にこのアルバムでは、外界を投影していると感じるんだ。これはすごく難しい質問だけど、音楽というものには超越的な要素があるけれども、アメリカの原風景と日本のそういった文化にもその要素はあるかもしれないね。壮大という点は似ていると思う。

──2年前の『Stereogum』に掲載されたキム・ゴードン(ソニック・ユース)との対談インタビューがとても印象に残っています。キムがあなたのことを知ったのは、ソニック・ユースの前座にあなたを起用するきっかけとしてジム・オルークかサーストン・ムーアのどちらかに勧められたからだとも書いてありました。ジムとあなたのギター奏法に共通点があるのはわかっていたのですが、なるほど確かにあなたはニューヨーク在住で、ソニック・ユースと同じニューヨークの音楽の一端を彩っているという事実もあります。アメリカの田舎の原風景を感じさせる音楽でありつつも、大都会であるニューヨークで音楽家として活動しているというのも、私にはとても興味深いことです。

S:平均的なアメリカではなく、さまざまな国の文化に囲まれていることが僕にとっては重要なんだ。でも面白いことに、都会に住んでいるのに、僕の音楽はシティ・ミュージックではあまりない。それは、僕自身が都会も好きだけど自然も大好きだから。人生において、自然も僕にとっては大切なものなんだ。だから、都会から出られるときは出来るだけ離れようとしている。僕の音楽は自分を取り巻く環境から大きく影響を受けていると言ったけど、それに加え、自分の内側も映し出されている。僕の音楽には、安らぎや瞑想のようなものを呼び出す部分がって、それを心地よいと思ってくれている人もいるみたいなんだけど、その部分は、自然が好きな僕の一面が現れているんだと思う。特に今回のアルバムではたくさんスペースがあって、都市に閉じ込められない開放感が感じられるんじゃないかと思う。都会からの逃避が表現されているんじゃないかな。僕自身にそれが必要だったから。

──逃避はしたい。でも同時に、ニューヨークのような都会に住むこともあなたにとっては大事なんだと。

S:そう。ここ(ニューヨーク)には長いこと住んでいる。一生ここに住もうとは思わないけどね。いつかは田舎に住みたいと思っているんだ。でもここには、やはりミュージシャンのコミュニティがあるし、多様性がある。それも自分にとっては重要なんだ。長年住んでいると愛着も湧くしね。

──さて、ニュー・アルバム『Other You』についてですが、前作『The Unseen In Between』はベトナム戦争に駆り出されたあなたのお父さんのことを綴った曲など、かなりパーソナルな側面が出ていた印象でした。では、今回のアルバムはどのようなアイデアからスタートさせたものでしょうか? 最初に想定していたアルバムに向けてのヴィジョンをおしえてください。

S:前のレコードを作ったあとたくさんツアーをしたから、何か違うことをしたくなった。だから、昔からの友人のジャスティンと話したんだ。彼とは前にも一緒に音楽を作ったことがある。ジャスティンは、僕のことをよく理解していて、音楽について一緒に多くを学んだ友人なんだ。今回は、前に彼と作った作品と似た作り方でアルバムを作りたかった。それで彼と他にも友達も何人か呼んで、セッションをするようになったんだ。すごく落ち着いた雰囲気で、流れるようなセッションだった。音楽の流れに任せてセッションを培養していった感じ。だからすごく早くできたし、本当に自然だった。手を加えすぎたり、プロデュースしすぎることなく、本当にナチュラルな製作過程だったんだ。だから、このやり方でプロジェクトをやりたいと彼らに伝え、そこから本格的に話をはじめ、曲を作って彼に送り始めた。ジャスティンは僕自身や僕の能力をよく理解しているから、僕がたくさん歌いがちで、ボーカルを何度もレコーディングをしなおすことを知っていた。だから、それをやめて自分のボーカルにもっと自信をもっても大丈夫だとアドバイスをくれたんだ。それは僕の自然な声なんだから変えるなって。

──いつになく使用している楽器の種類も豊富ですね。

S:そう、今回は色々な楽器をフィーチャーした。ちょうどクラシック・ギターとピアノを学んで弾けるようになったところだったから、それが曲を構築するにあたって役に立ったし、曲がよりシンプルになった。そのおかげでもっと歌えたしね。ジャスティンが、曲作りにおいていかにシンプルさとメロディが大切かをおしえてくれたんだ。彼とは、アルバムというより”曲”についてたくさん語り合った。あと、自分たちが好きな音楽についても。僕はブラジリアン・ミュージックをたくさん好んで聴いている時期だったんだけど、その話をしながらそのサウンドを試したり、他の音楽の話をしながらそれを試したりもした。制作過程は、そんな感じですごくゆるかったんだよね。何かを証明しないと、というプレッシャーがなく、すごく心地が良い状態だった。それからLAにレコーディングに行ったんだ。そして、LAで一回目のセッションをしてから2回目のセッションまでに5ヶ月あったから、その5ヶ月でまたニューヨークで曲を書いた。2回目のセッションまでにはありすぎるくらいたくさんの曲ができていたよ。それは僕にとってはめずらしいことなんだよね(笑)。

──ニューヨークに暮らしている中で、コロナによる「足止め」はどの程度ありましたか?

S:もちろん影響はあった。してないといったら嘘になる(笑)。それは多くの人々にとって同じだよね。ただ、パンデミックの前にも曲はたくさん書いていたけど、ロックダウンの後も書き続けた。アパートにスタジオがあるから、デモもレコーディングし続けた。ある意味、集中できて僕にとってはよかったと思う。レコードをいつまでに仕上げなきゃというプレッシャーもなく、自由にたっぷり時間を使ってやりたい作業が出来たから。あと、旅から解放されたのもよかった。色々な場所を回っていると、本当に時間がなくなる。だから、安定という時間と経験が僕にとっては安らぎになったんだ。季節の変わり目なんかも楽しめて、定年退職した老人みたいだったよ(笑)。たくさん歩いたり、健康管理もできたし、それはよかったと思う。

──そもそも今回はなぜLAでレコーディングしようと思ったのでしょうか?

S:LAを選んだのは、ロブ・シュナップ(エリオット・スミス、カート・ヴァイル他)にプロデュースとエンジニアを頼みたかったから。彼は僕が好きなたくさんのレコードを手がけていて、僕の憧れの存在だから、このレコードを作る数年前からずっと話をしていたんだ。で、今回遂に一緒に共演することになった。レコードを作るから協力してくれないかと彼に僕が頼んだんだ。あと、ニューヨークとは違う場所に行きたくなったのも理由の一つ。なんとなくLAがよかったんだよね(笑)。だから、レコードのサウンドがカリフォルニアっぽいなとも思う(笑)。カリフォルニアの明るさというか、そんな感じのものを感じる気がするんだ。

──そのロブ・シュナップが所有するスタジオ《Mant Sounds Studios》ですが、内部を紹介した記事を見ると、古い機材が多く揃った素晴らしいスタジオであることが改めてわかります。実際にこちらを使用してみて、音響面の特徴などどのような発見がありましたか? ロブはあなたにどのようなアドバイスをしてくれたのでしょうか?

S:アドバイスはたくさんもらえたよ。彼は、自分自身であることを主にアドバイスしてくれたと思う。これはきみが作る君のアルバムなんだからって。ギターやピアノに自信がなくても、自分の作品なんだからそれでいいんだって。自信をくれたし、そのおかげで自然に自分の能力を上げることができた。できないことを無理にやろうとしないのもよかった。あと、ヴォーカルのコーチもしてくれたんだ。発音の仕方とか、顔を使えとか、口をもっと動かせとか、プロのテクニックをおしえてくれた。それから、彼には色々なハーモニーを作れる力がある。だから、ハーモニーを僕の音楽にも加えてくれたんだ。ハーモニーはあまりやったことがなかったから新鮮だったし、サウンドに新しい面をもたらしてくれたと思う。試していてすごく気持ちが良かった。スタジオに揃っていた機材は本当に最高だったね。その影響は確実にあると思う。素晴らしいギター、アンプ、アコギ、ピアノ、シンセ、全てがあったし、それを全て使えたのはすごくプラスになったと思う。

──LA録音ということもあり、さきほどおっしゃったように少し70年代の西海岸のジャズ~フュージョンやAORの影響も感じ取ることができますね。

S:ああ、さっき話した友人のジャスティンとお気に入りの音楽をトレードしていて、その中の一つに70年代のフュージョンがあり、たくさん聴いていたんだ。そのフュージョンの中には、ジャズやロックやワールド・ミュージックが色々混ざっていた。もしかしたらそれが関係しているのかもしれないね。2人ともレコード・コレクターだから常に音楽のリンクを送り合い、様々な音楽をいつも聴いているんだ。今は二人ともBandcampをチェックするようになったから、より幅広い分野の音楽を見つけられるようになったしね。もしかすると、その影響が自分の音楽に出てきているのかもしれない。今回のサウンドはこれまでよりもモダンだと思うしね。モダンなフィーリングが感じられると思う。

──ギター・スタイルもこれまでになく多様ですね。ギタリストとして今回新たにトライしたのは自身のどういった側面だったと感じていますか?

S:さっきも話したように、今回はクラシック・ギターをたくさん使ったんだ。初めての試みだよ。これまでは、あまりクラシック・ギターをマスターする時間がなかったんだよね。しばらくYouTubeをみたりして練習して、最近やっと自然に弾けるようになってね、だからクラシック・ギターで曲を作るようになった。それで曲の構成が変わったんだ。トーンが変わったし、もっとサウンドに広がりが出来たと思う。作りながら、僕自身もそれを楽しんでいた。屋上にクラシック・ギターを持っていって、ロックダウンの時によく弾いてたよ。楽器そのものにインスパイアされた感じ。楽器が自分を導いてくれたっていうか。時にはこれまでと同じギターをプレイする方が簡単で自然な時もあるけど、今回はクラシック・ギターがその心地よさから僕を脱出させてくれたんだ。ピアノもそう。ピアノを使ったことでハーモニーが強化された。曲をピアノにあわせていくことで構成とかヴォーカルのアレンジも変わったんだ。ギターで作っていたら思いつかないようなものがたくさん出てきてね。クラシック・ギターとピアノ。その2つはすごくいい効果をもたらしてくれて、作品をより開放的にしてくれたと思う。

──タイトルの『Other You』というのは非常に示唆的な表現でもありますが、このタイトルと今回の歌詞世界がもたらすヴィジョンは最終的にどのようなものとして結実したと考えますか? そしてそれは、「多様性」「個の時代」といったキーワードで一人一人の存在感を明確にしていくことが叫ばれる時代の中で、どういう意味を持っていると言えるでしょうか?

S:ロックダウンが自分が何を書きたいかを明確にしてくれたんだ。自分の記憶や感情の重荷を整理して、それを解放することができた。その全てが悪いものだったわけじゃない。アーティスト、そしてクリエイティヴな人間として、何年もの時間をかけて蓄積してきた自分の中にある乱雑に散らかっていたものをクリアにしていっただけなんだ。それを音楽的な方法で整えていった。音楽にそれを導かせて、外へと出していったといえばいいかな。前回のアルバムを制作していた時は、父親を亡くして辛い時期を乗り越えようとしている時だった。だから、特定のことをずっと頭の中で考えていて、それを歌にしたんだ。でも今回は、それとは異なり無意識だった。突然のひらめきのようなものを活かした感じだね。だから、ある意味殆どがポジティヴだと思う。

──今回のアルバムにはジュリアナ・バーウィック、メアリー・ラティモア、ブリジット・セント・ジョン、ジェフ・パーカー、ビル・マッケイ……といった多彩なゲストが参加しています。特にブリジット・セント・ジョンの参加には驚かされました。ブリジットはあなたも共演しているマイケル・チャップマンの作品にも参加するなど近い存在ではあったと思うのですが、どのような経緯で彼女がジョインすることになったのですか? 

S:僕が彼女の大ファンなんだ。彼女の音楽はすごく美しいし、素晴らしいシンガーだ。実際、すごくいい人だし、素晴らしいストーリーやキャリアを持っている。しかも彼女は今ニューヨークに住んでいてね。彼女とは、Sachikoみたいな感じで10年くらい前に知り合って友人になり、音楽で繋がっている。ショーでも何回か共演しているし、共通の友人もいるんだ。ブリジットにはとにかくいつか自分のレコードでプレイしてほしかったんだよ。声が素晴らしいからね。だから、オファーした時はちょっと緊張したよ(笑)。でも、快く承諾してくれた。その時、僕はLAにいて彼女はロンドンにいたから、彼女がロンドンにある共通の友人のスタジオでレコーディングして、それを電話で聞かせてくれて、すごく良かったからそのまま送ってもらったんだ。作業はリモートだったけど最高の出来だった。実はつい2週間前にニューヨークであの曲を彼女と演奏したんだ。素晴らしかったよ。

──ジェフ・パーカーの参加にも驚きました。彼には具体的にどのようなリクエストをしたのですか?

S:ジェフも僕が彼の大ファンなんだ。尊敬しているミュージシャンの一人で、彼なら僕とは違う面白い捉え方をしてくれるだろうと思った。サウンドに違うヴィジョンが欲しかったから、彼なら独自のスタイルを曲に入れてくれると思ってジェフに頼むことにした。曲がシンプルで他の要素が入る余地が十分にあったから、他のスタイルや雰囲気を加えたかったんだ。彼は面白いことができる人で、あらゆるものへの解釈が美しい。だから、彼を招くことができたのはすごくエキサイティングだった。彼とは12月にツアー予定しているんだ。楽しみだね。

──シンガーでもあるあなたにこんなことを伝えるのも失礼なのですが、私は今作の中で美しく幻想的なアンビエント調のインスト曲「Sugar Kiss」が大きなハイライトの一つだと感じています。即興とも思えるこの曲は最初からインストとして作ったのでしょうか? この曲の制作背景、ラストから2曲目に置いた理由、意図などをぜひおしえてください。

S:そう。この曲は始めからインストとして作った。ギターとシンセの部分を作りながら、ドイツのタンジェリン・ドリームのことを考えていたんだ。70年代に多くのサウンドトラックを手がけていたバンド。ロブがシンセをもっていたから、モダンなサウンドトラックっぽい曲を作ろうということになってね。あの作業は楽しかった。あれはアルバムの中でも終盤でレコーディングした曲の一つで、そのレコーディングにはハープのメアリー・ラティモアもいたよ。2、3時間の間で楽しく出来た曲なんだ。僕がギター、メアリーがハープ、ロブはシンセって具合にね。ループをハープで作って、その上に音を重ねていった。ラストから2曲目においたのは、あれはクローズの曲だと思ったから。アルバムの曲順の流れは、明確なものではないけど、ストーリーを語っているんだよ。一番最後に置きたくなかったのは、インストを最後にしてしまうと皆が聴かないと思ったから。あと、「Ever Feel That Way」を最後に持ってきたかったからなんだ。

──今回の作品は、いつになくカントリー、ジャズ、フォーク、ソウル、AOR、ミュージック・コンクレートのような即興、あるいはアンビエントまで本当に多層な音楽の要素がミルフィーユのように折り重なっていると感じます。こうした多層な作品を、スティーヴ・ガンというアーティストによって貫ぬかれているのは、どういった思想、哲学なのでしょうか?

S:僕にとっては、それが自分自身そのものなんだ。様々な音楽から自分自身が影響を受けているから。僕は聴くことによって音楽を学ぶ。耳を使って音楽を吸収するんだよ。カントリー、ジャズ、アフリカン・ギター、色々な音楽にハマる時期があって、その時期にその音楽を学ぶ。それが自分が作るものに幅広さを与えるんだと思う。自分の作品を、一つの限られたサウンドにしたくない。”スティーヴ・ガンの音楽はカウボーイ・アメリカン”みたいに思ってほしくないんだよね。自分の中の影響は一つじゃないから。自分自身が受けてきた影響を、僕というフィルターを通して表現したいんだ。

<了>

Text By Shino Okamura


Steve Gunn

Other You

LABEL : Matador /Beatink
RELEASE DATE : 2021.08.27


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