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「日常にありふれたモノに命を吹き込むことが、
このアルバムで僕らが目指したことなんだ」
スクイッドに訊く、新作『O Monolith』の謎めいた不定形の魅力

16 June 2023 | By Shoya Takahashi

英ブライトン出身、現在はロンドンを拠点に活動する5人組ロック・バンド、スクイッドによる2年ぶりとなる新作『O Monolith』は、間違いなく今年もっとも期待されていたレコードの一つだろう。それもそのはず、デビュー作である『Bright Green Field』は、その複雑な楽曲構成かつエクストリームなサウンドにもかかわらず全英チャート4位と商業的に成功、そして批評的にも多くのクリティック・メディアにおいて高い評価を得ていた。先行曲でも、前作からテイストを変えつつも無数のアイディアが巧みに継ぎ合わされたその作曲は、新作への期待をさらに高めてくれた。


『O Monolith』は不思議なレコードだ。前作とくらべて電子楽器が圧倒的に前面にでていながら、身体的な有機性もある。ピーター・ガブリエルが所有するReal World Studiosはスクイッドにとって、都会の閉塞感から解放され、寒さや鳥や霜や焚き火とともに原始的なフィーリングを与える場だったよう。また『O Monolith』は不定形のレコードだ。ライヴの熱量をパッケージした前作にくらべて非常に構築的で冷たさのある作品でありながら、静寂から徐々にカオスへと向かっていく無尽蔵のエネルギーを持ち合わせている。それはミニマルなリフに始まり、徐々に音数を増やしながら統合を失っていく楽曲を聴きながら確かめていただきたい。また『O Monolith』は巨大なレコードだ。8曲というコンパクトさでありながら、同時に途方もないスケールの大きさを感じさせる。それは音の多さやビッグバンのように膨張する作曲にしてもそうだが、楽曲の節々に感じられる教会音楽的な荘厳さやSF的な壮大さは、本作をコンパクトながらも存在感あるものにしている。その佇まいは人里離れた遺跡にそびえ立つ巨石。あるいは流れる大河のようで、途切れることはないが掴むこともできない。『O Monolith』はわたしたちにその正体を思いめぐらす想像力を与えてくれる。

《TURN》では昨年の来日時にスクイッドへのインタヴューを行っていた。約1年ぶりとなる今回はLaurie Nankivell(Ba./Brass/Perc.)に、新作について話を聞いた。スクイッドのサウンドを特徴づけるコルネットや、クラウトロックの影響を感じさせる反復するベースはLaurieによるものだ。作曲やレコーディング、MVの内容も絡めながら、『O Monolith』という大いなる作品の魅力に近づいていこう。

「繰り返さないこと」── スクイッドの音楽が高い実験性と爆発的なエネルギーを共存させる理由

(取材・文/髙橋翔哉 翻訳/湯山恵子 Photo by Michelle Helena Janssen)

Interview with Laurie Nankivell

──前回は昨年の8月、SUMMER SONICで来日時にAnton(Gt.)とLouis(Gt.)の二人にインタヴューをさせていただきました。その際に興味深かったのは、「同じことは2度繰り返したくない」というバンドのアティチュードでした。まずセカンド・アルバムである本作『O Monolith』について、前作『Bright Green Field』からソングライティングの方法について変わった部分はあるのでしょうか?

Laurie Nankivell(以下、L):曲を書いていた時期が違うから、音楽性も変わったね。デビュー・アルバムは、3、4年間に書き溜めた楽曲をまとめた感じだったけど、今作は、もっと自由に取り組んだ。大半の楽曲は英国のロックダウン時期に書いた。よりリズムやメロディが複雑なものになり、もしかしたら若干ポップさも加わったかもしれない。

──先行曲である「Swing (In A Dream)」と「Undergrowth」を聴いてまず印象的だと思ったのは、エレクトロニクスの大々的な導入でした。冷たさのあるシンセのループやドラム・マシンからは、本作のミキシングを手がけたトータスのジョン・マッケンタイアによる、ステレオラブの『Dots and Loops』(1997年)やトータスの『TNT』(1998年)を連想しました。具体的にジョンのどのような仕事のどんなポイントから、彼への興味へとつながったのでしょうか?



L:タイトルは忘れちゃったけど、ジョンのことはトータスのアルバムがきっかけで興味を持つようになった。パーカッシヴな要素とエレクトロニックな要素がうまくミックスされていた点が魅力だった。とりわけ、ミュージシャンでもある彼ならどうミックスするのか興味があったね。ミックス・エンジニアって自分のリリース作品や自作曲のない人がほとんどだよね。当時ジョンはかなり実験的な活動もしていたし、音楽に深みがあるんだ。

──前回のインタヴューでもう一つ印象的だったのは、プロデューサーのダン・キャリーについてです。スクイッドのメンバー5人の関係性や、セッションから曲作りを始めるというスタイルに対して、ダンはスタジオの雰囲気を残すのに長けている、というお話を聞かせてくれました。その発言を裏付けるように、前作は演奏のダイナミズムやヴォーカルの息遣いまで刻印するような、とても爆発的な勢い溢れる作風でした。一方で今作は、静寂に始まりそこからだんだんと要素が混濁していきカオスになっていく楽曲が大半を占める印象です。「爆発」から「混濁」へと作風が変化した背景として、ダンとの作品づくりの手法に変化はあったのでしょうか?

L:作風の変化は意識して決めた訳じゃないんだ。バンドとして意識的に何かを決めることは通常ないからね。でも、新作でどういう方向に進みたいかは少し話し合ったね。このアルバムはロックダウン中とその後に楽曲を書いたんだけど、前作リリース直後にスタートした過酷なツアー(と曲作り)が同時進行だったから、クリエイティヴなことに専念する心の余裕を確保するのが大変だった。ヨーロッパとアメリカもツアーし、USツアーが終わるころにはみんなグッタリしていたよ。

──わたしは本作への第一印象を、前作に比べエレクトロニックに接近した手法で作られた構築的な作品だと捉えていました。しかしYouTubeで公開されている「Swing (In A Dream)」のライヴ映像を観ると、その印象に反して演奏は非常に有機的で、それでいて楽曲の再現度もきわめて高いですよね。本作に収録されている楽曲の大半は前作リリース直後からライヴで演奏していたとのことですが、アルバムのためにレコーディングする際に意識しているポイントはありますか?

L:前作と比べ、より自然なサウンドを目指したいと話した。ジョンがミックスしたことで、間違いなくそうなったね。僕ら5人の好む音楽的嗜好はかなり違う。前作のように音を何層にも重ねるのではなく、新作では呼吸できるような空間を保ちたかった。各メンバーの演奏はより複雑になっているけど、サウンドを重ね過ぎなかったから音に空間ができたと思う。

──少し前のインタヴューでOllie(Dr./Vo.)は、トーキング・ヘッズ『Remain in Light』(1980年)がパーカッションについての考え方を変えたと話していました。確かにライヴでもパーカッショニストのZands Dugganを迎えた6人編成で演奏するなど、パーカッションに対する意識の変化が音楽やライヴからも聴きとれます。またパーカッション以外にも、「Undergrowth」などで聴けるSEのようにエディットされたギター・ソロから、わたしは「Born Under Punches (The Heat Goes On)」も思い出しました。リズムや音作りも含めて『Remain in Light』は本作を制作する上で重要なリファレンスだったのでしょうか?

L:嬉しい褒め言葉だね。うん、あのアルバムは凄い作品だし、唯一無二のサウンド。パーカッションがアルバム中で重要ポイントとなる意味でも(僕らの新作は)独自のフレイヴァーが出ていると思うし、だからこそ、Zandsの参加が必要だった。Zandsは自分で楽器も作る人で、彼が使う楽器は実にユニーク。信じられないほど熟練したパーカッション奏者だね。どれだけ複雑な拍子記号の楽譜を渡しても、リハーサル終盤には演奏曲を自分のものにしているし、素晴らしいミュージシャン。東京でいいパーカッション奏者を探している人がいたら、是非Zandsに声をかけてね(笑)!

──そのほか、本作を作る上で参考にしたアルバムはありますか? 特に、曲作りにおいて影響を受けた作品や、また音作りや電子楽器の使い方で影響を受けた作品があれば教えてください。

L:ゴールドフラップのウィル・グレゴリーとポーティスヘッドのエイドリアン・アトリーが手がけた『Arcadia』(2018年)のサントラ盤は聴いていたね。フォーキーでインダストリアルな感じのクロスオーバー系で実験的なロックと電子音楽がいい具合に混ざり合っていておもしろいんだけど、特に「参考」にしたアルバムはないなあ……。もしかしたら、無意識のうちに頭の中で聴こえていたのかもしれないけど……。僕個人がこれまで影響を受けてきたアーティストは、アニマル・コレクティヴ、アーサー・ラッセル、ロバート・ワイアット、サン・ラー等。最近はラヴェルのような現代音楽とか、フォーク要素のあるクラシック音楽も聴いている。僕らを「ポストパンク系バンド」と分類したがる人もいるけど、そういったジャンルに囚われたくはないんだ。


──アルバム・タイトル『O Monolith』に関連して、「モノリス」といえばわたしはSF映画のイメージがあります。スタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』(1968年)はもちろん、ドゥニ・ヴィルヌーヴ『メッセージ』(2016年)の奇妙な飛行体もモノリスと言えると思います。また「Undergrowth」のイントロや間奏で挿入されるストリングス風味のシンセは、さながら映画のサントラのようだなと思いました。アルバムのテーマやコンセプトに、SFや映画的なイメージはあったのでしょうか?

L:それはないな……(笑)。僕は、映画よりも……文学に影響を受けているかな。自然の成り行きでこのタイトルになったんだ。Ollieはアニミズム(聖霊信仰)に興味を抱いていて、Timothy Mortonの本を読んだりしている。ウィルトシャーのような英国の田舎でレコーディングしたことも大きい。優勢となる宗教が存在しない現代の英国において、歴史を振り返ったり、どういう精神的な意味を持つのかを考えたよ。時折、現代の人たちは何か探し求めている気がして。かつてペイガニズムが内包していた何かを、人々が未来に求めているように感じる。

──アルバム・タイトルの「モノリス」については最近のインタヴューで、モノリスが何なのかはわからないけど、皆さんが住んでいる街から見える大きな煙突のようなものかもしれない、と言及されています。「Undergrowth」のオフィシャル・オーディオに付随する映像にもその煙突が登場しており、観ていて「これか!」と思いました。皆さんにとってあの煙突はどのようなものなのでしょうか?

L:あれはブリストル市内から見える、病院の煙突だと思う。昔僕が聞いたのは、あの煙突の上から金属を落として弾丸を作っているんじゃないかという話。(煙突のような)日常にありふれたモノに命を吹き込むことが、このアルバムで僕らが目指したことなんだ。

──アーティスト/ゲーム開発者/プログラマーのFrank Forceが製作したという、楽曲「Undergrowth」にまつわるブラウザ上で遊べるゲームは、わたしも実際にプレイしました(前の質問の「煙突」も登場しますよね)。ゲームは「Undergrowth」の楽曲展開とともにステージが進行していき、徐々に画面の要素が増えていき難易度も上がっていく様子が、だんだん音が増えてカオティックになる楽曲とシンクロしています。ゲームを作るという発想はどこから出てきたものなのでしょうか?

L:Frank Forceは以前《Warp》と仕事したことのあるゲーム開発者で、僕らは今回シングルを出すにあたり、これまでとは違うことをやりたかったんだ。何か遊べるものを作りたいなあと思って。

──ゲームのチャーミングなトレーラー映像では、皆さんがゲームをプレイしている様子が映っていますね。普段皆さんの中でゲームは話題や関心として共有されているのでしょうか?

L:Ollieはゲーマーだけど、他のメンバーはそうでもないかな(笑)。

──映像と音楽のシンクロといえば、「Swing (In A Dream)」のMVもまた同じくらいに衝撃的なものでした。映像では、体育館の床のラインや人物の規則的な運動が調和をとっていると思いきや、徐々に統合を失っていきカオスになっていきます。それらはまさにスクイッドの音楽の性質そのものだなと思いました。曲作りにおいて、視覚的なイメージは重要視されているのでしょうか?

L:うん、いいよね! 僕らはプロトマーターのビデオが大好きで、映像製作を担当したYoonha Parkと「Swing (In A Dream)」のビデオ製作で仕事できて興奮したよ! 映像にスプラッシュ・ペインティングのようなカオス性があって……。この曲にピッタリだと思う。

──最後にアルバムの構成についてです。前作が11曲55分というのに対し、今作は8曲42分と、ヴァイナル・レコード時代の60年代~70年代のアルバムを連想させます。実際に本作はヴァイナルでもリリースされ、2枚組だった前作とは異なりLP1枚に収められていますね。Arthur(Key./Str./Perc.)は「セカンド・アルバムは“簡潔”なものにしたかった」と話しているのを読みましたが、簡潔にしたかったのにはどういう背景があったのでしょうか? また、レコードへのこだわりはあるのでしょうか?

L:もちろん、大好き。ヴァイナルは主にDJするために持っているけど、レコードを物理的に手元に置くことで音楽を頭の中で整理できるから。iTunesで保管するより整理しやすいんだよね。意識的に決めた訳じゃないけど、1枚のレコードに収めることができて嬉しい(笑)。 10曲録音して、ベストなものだけを収録した。他の曲はもしかしたら今後出すかもしれないけど。

──どうもありがとうございました!

L:こちらこそありがとう! 日本は大好きだから、また行きたいなあ。実は12歳の頃にうちの父親と日本を旅したことがあるんだ。

<了>

Text By Shoya Takahashi


Squid

『O Monolith』

LABEL : Warp / Beatink
RELEASE DATE : 2023.6.9
ご購入はこちら
https://squiduk.bandcamp.com/album/o-monolith


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