FEATURES : 29 July 2019

Spoon

Aiming for coolness as a live band and careful studio work

By Shino Okamura / Nami Igusa

FEATURES : 29 July 2019

Spoon

Aiming for coolness as a live band and careful studio work

By Shino Okamura / Nami Igusa

ライヴ・バンドとしてのクールネスと丹念なスタジオ・ワークの両立を目指して
スプーン約20年の活動をまとめたベスト・アルバムからその欲張りな魅力を再検証

Spoonのアルバムが初めて全米ナショナル・チャートでトップ10に入ったのは2007年の『Ga Ga Ga Ga Ga』(10位)。それまでインディー・チャートでは大活躍していた彼らだったが、90年代前半にテキサスはオースティンで結成されてからその時点で既に10年以上が経過していた。そして『Transference』(2010年)、『They Want My Soul』(2014年)で全米4位を獲得。アメリカのインディーズには大きなヒットに恵まれないまま地道に活動を続けて存在感が高まっていくバンドが多いが、Spoonは時間をかけて商業的成功を手にすることができた、言わば遅咲きのバンドのひとつであることは誰の目にも明らかだ。

しかし、それはただただ時代が自分たちに追いついてくるのを待っていた結果ではない。1枚だけとはいえメジャーからも作品を出した経験のある彼らは、その後、今日のポジションを手にするまでにかなり自主的に改革を進めてきた。ライヴ・バンドとして文句なくクールで華やかな存在でいたい。でも、スタジオ作品には様々なアイデアも盛り込みたい。ポスト・パンクやニュー・ウェイヴの影響は受けたけれど、ソウルやファンクも大好き。ヒップホップだってやってみたいけど、ロックンロールが最高。そんな欲張りな目標を妥協せずに追求してきたことが彼らをここまでサヴァイヴさせてきたと言っていいだろう。ここではそんなSpoonのこれまでのキャリアをまとめたベスト・アルバム『Everything Hits At Once: The Best of Spoon』のリリースを機に、欲張りであることにフォーカスさせたがゆえに成功をおさめた彼らの魅力を、岡村詩野と井草七海による対談で再検証してみよう。

対談:岡村詩野 × 井草七海

岡村詩野(以下、岡村):いきなりですが、井草さんは今回のスプーンのベスト・アルバムの選曲に納得がいってないそうで(笑)。

井草七海(以下、井草):あ、いえいえ(笑)、確かに『Kill the Moonlight』(2002年)あたりからももっと入れて欲しかったなと。あとベスト・アルバムの最後に収録された新曲(「No Bullets Spent」)が、私の思うスプーン像とちょっと違ったので、肩透かしを食っただけで…。

岡村:その“私の思うスプーン像”とはどういうものなのでしょう?

井草:オーセンティックなロック・バンドというフォーマットは守りながらも、音響的な実験性に非常にこだわりがあるところです。特にそれこそ『Kill the Moonlight』以降あたりからはどの作品も、歯切れの良いサウンドを立体的に組み立てていったような仕上がりの音像になっているところがモダンだなと思っていて。前作『Hot Thoughts』(2017年)はその極致と言いますか。新曲はそれに比べると、比較的ストレートなロック・チューンでしたね。

岡村:『Hot Thoughts』は多数のメディアで年間ベストの上位に選出されるなど高く評価された作品です。ただ、思い起こせば、彼らってテキサス州オースティンのバンドなのにその土地特有の土着性というのが初期はほとんどなくて、かなりニュー・ウェイヴ色が強いバンドだなって印象でした。井草さんは、オーセンティックなロック・バンドというのはあくまでフォーマットであって、サウンド面ではあまりルーツ色強い側面がないとみていますか?

井草:そうですね、「フォーマット」としての部分は大きいと思うんですよね。あくまで、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードという古典的と言ってもいいオーセンティックなバンド編成を守りながら、録音物としてのサウンド面で冒険しているバンド、という存在だと思います。ただルーツ的なところでいうと、スプーンはかなりヨーロッパ、特にUK志向の強いバンドだというのは各所で本人たちも語ってきている通りですし、実際ニュー・ウェーブ〜ポスト・パンク色が強いのは確かなのですが、とはいえギターのドライなサウンドだったりなんかはテキサス・ブルーズっぽさを感じます。むしろ音楽性としてはUK志向なのに聴感は土着のロックン・ロール…というハイブリッド性が面白いなと感じますね。

岡村:そのあたりがわかりやすく顕在化してきたのは『Gimme Fiction』(2005年)あたりから。今回のベスト・アルバムに収録されている「I Turn My Camera On」と「I Summon You」はその『Gimme〜』から選ばれてますけど、今聴いても驚くほどドラムの音とかが乾いてる。とても南部感あるんですよね。もちろんこの作品からいきなりではなく徐々にそうなりつつあったのだけど、少なくともデビュー当時……最初に《マタドール》から出たファースト『Telephono』(1996年)や《エレクトラ》から出たセカンド『A Series Of Sneakes』(1998年)の頃はもっとあからさまにUK指向というかニュー・ウェイヴ指向だった。私はセカンドが出た後くらいにニューヨークで彼らのライヴを初めて観たんですけど、びっくりするくらい人が入っていなくて、しかも演奏自体、これからどうしたいんだろうな?って思えるような迷いが感じられたんです。ニューヨークで観たそのライヴの後にヴォーカルのブリット・ダニエルとメアドを交換して、その後少しやりとりをしていたのだけど、実際、その時の彼らは《エレクトラ》からもドロップしていて、次のレーベルを探している最中でした。「どのレーベルがいいかな?」なんて相談されて「《マージ》がいいんじゃない?」と返信したら「僕もそう思ってるんだ!」って。そしたら本当に次は《マージ》になった(笑)。でも、たぶん、そのあたりの、言わば模索期に彼らはテキサスというルーツに立ち返るような意識が働き始めたんじゃないかなと思うんですね。井草さんは、何が彼らを「音楽性としてはUK志向なのに聴感は土着のロックン・ロール」というハイブリッド性ある作風へと向かわせたんだと思いますか?

井草:アメリカ南部という地域性からは離れてしまいますが、2005年あたりで言うとやっぱり北米ではUSインディーが全体的に新しいフェーズに入っていた時期ですよね。ダーティー・プロジェクターズやグリズリー・ベアあたりが頭角を現してきた時期で…。ただ、これは私の勝手な想像なのですが、その中でも『Funeral』(2004年)を、それこそ《マージ》からリリースしたアーケード・ファイアーや、2005年にセルフタイトル・アルバムを出しているLCDサウンドシステムのような、音楽性は異なれどある種「踊れる」アーティストが北米のインディー・シーンで活躍し始めたことが、スプーンの目指す作風と合致したのかな、と。スプーンは初期の頃からずっと、ミニマルなリズムやグルーヴをアンサンブルの軸にしていますよね。それはニュー・ウェーブだったり、クラウト・ロックを意識したものだとは思うんですが、そういった彼らがもともと持っていたタイトなリズム志向を活かせる音楽が、北米圏から発生したことが追い風になったのかな、と。かつそこで、そのアメリカのバンドである彼ら自身の個性として、アメリカ南部的なサウンドに着目するに至ったのではないか…などと推察しました。

岡村:2000年代中盤はUSインディー・ロックが新たな勃興シーズンを迎えていた時期でもあったから、そういう波に乗れたというのもあるかもしれないですよね。もう一つのカギは……というより、スプーンのサウンド・プロダクション面を担っているのがドラムのジム・イーノだという点が重要かなと思うんです。ブリットは確かに優れたソングライターなんですけど、大学でエンジニアリングを学び、コンパック・コンピュータ・コーポレーションでハードウェア・デザインを担当していたというジムが音作りに積極的に関わるようになってきたのがやっぱり主に《マージ》移籍以降。実際に、彼が音作りの根幹を担うようになってからリズムの録音が全然違ってきてるんですよね。タイトでドライ。そこにアメリカ南部らしさを意識したホーン・アレンジなどが加わっていったのが「The Underdog」……つまり『Ga Ga Ga Ga Ga』(2007年)あたりでした。

井草:まさにそうですね。私もスプーンに関心を強く持つようになったのは、ジム・イーノの関わったハイ・ファイなサウンド・プロダクションが目立つようになった作品あたりからです。SXSWへの出演に際して《Wired》誌がジムにインタビューしている記事(https://wired.jp/special/2017/spoon/)が面白くて。本人は今、オースティンにスタジオを持っていますが、そうやって音楽だけでやっていくようになったのも『Ga Ga Ga Ga Ga』のレコーディング直前に、それまで勤めてた会社が潰れたから、という逸話もあって(笑)。ただ、そうやってオースティンにホーム・ベースとなるスタジオ《Public Hi-Fi》(http://www.public-hifi.com/)を持ったことが彼らのその後のキャリアと音楽性……土着のサウンドと練りに練られたサウンド・クリエイティヴの融合というところに大きく寄与しているのだと思います。

岡村:ブリットは割と情緒的なメロディありきの曲を書きますよね。今回のベストに入ってる新曲も旋律そのものはメランコリックです。そこに意匠を与えて曲として厚みが出てくる。ジムが「2000年代のテキサスにおけるソウル×ニュー・ウェイヴ」、「2010年代におけるポスト・ロック×ファンク」とでもいうようなテーマ設定をしていることが確実にバンドの曲を面白くしている。優れたソングライターと優れたエンジニアが一つの器の中にいることの醍醐味が、2000年代半ば以降、彼らのスタジオ作品には次第に現れるようになりましたよね。

井草:そうですね、本人たちはスタジオ・ワークが特に好きらしく、曲のメロディ作りはギターやピアノでやって、そこからサウンド・プロダクションで肉付けをしていっているという風にインタビューでは話されてました。闇雲に音をいじるところからではなく、まず先にメロディがあるというところが彼らの強みであり、最初に私が「オーセンティックなフォーマット」だと指摘したところにも通じるところですね。なので私は、彼らはあくまで“ロック・バンドでありながらその境界を拡張しているバンド”だと感じていて、そこにグッと来るんです。

岡村:そこが彼らの立ち位置をわかりにくくしちゃってるというか、そこがジレンマだと感じる人も多いと思うんですよ。損をしてる部分もなくはない。逆に言えばそのすごく伝わりにくいチャレンジが魅力的でもあるかなとは思いますね。井草さんは彼らのライヴを観たことがありますか?

井草:生では観たことがないんですよね。一昨年に来日していた時もタイミングが合わずで。ただネットに上がっているライブの映像を見ても、やっぱり決して変わったことをしている訳ではないのが印象的でした。

岡村:ライヴは割とオーソドックスなバンド然としていて、スタジオ作品の面白さと切り離して考えているのかな?という風に思えるんですよね。私もかなり前に彼らの地元のオースティンで観て以来なのですが、その時は地元でしかも深夜ということもあって、とにかく盛り上がっていて、普通にカッコいいバンドという印象でもあったんです。まさにオーセンティックなロック・バンドという在り方をライヴでは素直に出しているんですね。だから、ジムの手腕を生かしてスタジオワークではアレンジや音作りに、それもいかにもあからさまに…ではない玄人っぽいアイデアを反映させつつも、一方で「普通にカッコいいロック・バンド」であるためには? という側面も貫こうとしている。ある意味ですごく欲張りなバンドなのかもしれないですね。

井草:そもそもあの凝ったサウンド・プロダクションの楽曲をライブで再現するのがかなり難しいだろうとは思うので、ある程度はスタジオ・ワークとライブとは分けて考えてはいるんだろうとは思うんですが…。とはいえ、“どちらの魅せ方もできる”という点から、稀有な存在というか、ある意味で“孤高の存在”として認識されている部分ではあると思いますね。さっき岡村さんが指摘したような「伝わりにくいチャレンジ」というところとも通じるとは思うんですが。ちなみに、スタジオ・ワークという観点で、玄人向けっぽく聴こえすぎない「普通にカッコいい」という部分へのバランス感覚を保っている上では、外部プロデューサーの起用が大きいような気がしています。『Transference』(2010年)はセルフ・プロデュースですが、それ以外は比較的外部のプロデューサーを使っている作品も多いですよね。00年代のアルバムには全てマイク・マッカーシーが関わっているし、『Hot Thoughts』はデイヴ・フリッドマンのプロデュースでした。

岡村:そうそう、『Hot Thoughts』とその前作『They Want My Soul』(2014年)でデイヴ・フリッドマンを起用した時、ああ、なるほど彼らはマーキュリー・レヴの在り方をひとつ参考にしているのかなと思ったんですよ。デイヴ・フリッドマンはマーキュリー・レヴの一員ではあるんですけど、ライヴには基本的に登場しないレコーディング・メンバー。でも、マーキュリー・レヴにはグラスホッパーとジョナサン・ドナヒューというソングライターがいて、バランスがすごくとれている。作品はサイケデリックだったり幻想的だったり、でも、ライヴはそこにあまり固執しない。今のスプーンのお手本の一つはマーキュリー・レヴかもしれないと。

あと、『Ga Ga Ga Ga Ga』にはジョン・ブライオンが関わっていました。彼は当時、2005年にカニエ・ウエストの『Late Ragistration』を手がけて改めて注目されていたところだった。ジョン・ブライオンもライヴ感とスタジオ・ワークを両立させて考えるようなプロデューサーでありソングライターですよね。『Gimme Fiction』前後ではやはりソングライターでありソロでも作品を出しているジョン・ヴァンダースライスが制作で力を貸している。井草さんはそういう意味で、ここまで語ってきたような現在のスプーンの在り方のお手本にはどういうバンドがいると思いますか?

井草:すごく当たり前な答えなんですけど、やっぱりデヴィッド・ボウイとブライアン・イーノの関係は彼らにとっては外せないはずなんですよね。ブリット・ダニエルは確かボウイの『Lodger』(1979年)がフェイバリットだと語っていて。『They Want My Soul』(2014年)の「Inside Out」で琴が出てくるところとか、完全に『Heroes』(1977年)の後半、ブライアン・イーノ色の強い「Moss Garden」のオマージュっぽいですし。でもデヴィッド・ボウイはブライアン・イーノとの仕事も経験している一方で、キャリア全体を通じて見るとロック・ヒーローとしてのキャッチーさがちゃんとあるアーティストですし、そう思うとスプーンってなんかもう、バンド自体がボウイのキャリアそのものへリスペクトに溢れている気がします(笑)。ボウイが亡くなった後に出したアルバム『Hot Thoughts』でキャリアのピークを迎えたというのもそれを体現しているように思ったんですよね。

岡村:ボウイ/イーノの関係については、まさにマーキュリー・レヴで日本に来た時にデイヴ・フリッドマンがロール・モデルだと語っていたので、一つの系譜として考えることができますよね。ボウイとイーノのような表現者/ソングライターとサウンド・プロデューサー/制作者との一蓮托生な関係を、90年代に一つのバンドの中で成立させた例の一つがマーキュリー・レヴでしたから。では、逆にスプーンの活躍以降、USシーンから登場してきたバンドで、彼らの在り方を継承していそうなバンドは思い浮かびますか?

井草:そうですね…確かに10年代以降は特にバンドという形態がそもそも厳しくなっていくところもあって具体的な名前を挙げるとなると悩むのですが…ただ、アーティストとプロデューサーが一蓮托生で既存のジャンルの境界をサウンドの面から拡張していこうという野心を持ったロック / ポップのミュージシャンは10年代以降も多く出現していますよね。代表的なところでいうと、ヴァンパイア・ウィークエンドとアリエル・リヒトシェイドが『Modern Vampire of the City』(2013年)で、どこかのほほんとしていたインディー然としたこれまでの彼らのサウンドをエスタブリッシュされたものに昇華させたことは、スプーンのあり方とも符合するところがあると感じます。あとは、セイント・ヴィンセントやシャロン・ヴァン・エッテンとジョン・コングルトン。もちろん彼女たちはソロ・アーティストではあるんですが…。ただ、特に前者は『Love This Giant』(2012年)、『St. Vincent』(2014年)のあたりからかなりデヴィッド・ボウイを意識したギター・プレイや、ホーン・セクションから過度にデジタルに加工したサウンドまで呑み込み始めて、明らかに“インディー”の枠を拡張したという功績が大きい。そして、彼女の今のライブは、ほとんどクラフトワークみたいになってますし(笑)。

一方で、ロックではないのですが、アメリカ南部的な土着の音楽性とダイナミックな演奏を緻密に練られたハイ・ファイなミックスでモダナイズしたという点では、やはりアラバマ・シェイクスは外せないなと思っています。

岡村:私はフォクシジェンにおけるジョナサン・ラドーとサム・フランスの関係に近いものを感じます。音楽性は全く違うけれど、ここにきてまた売れっ子プロデューサーとして大活躍しているジョナサンに対し、サム・フランスは表現者としての華やかさがある。まあ、フォクシジェンは二人とも華やかだけど、役割分担がハッキリしているあたり、昔の分業システムの在り方を踏襲しているように思えるんですよ。それはジョナサンが絡んでいる同じく二人組のレモン・ツィッグスにも当てはまる。レモン・ツィッグスはかなり構築していく音作りに没入したユニットだけど、ライヴはライヴでゴージャスな良さがあるでしょう? でも、一方で職人的な音作りを突き詰めることもできる。それを一つのユニットの中で成立させているという意味では、フォクシジェンとレモン・ツィッグスは2010年代以降に頭角を現してきたポップ、ロックの一つの在り方を象徴する存在だと思うんです。で、それはジム・イーノとブリット・ダニエルのオリジナル・メンバー2人が共存する2000年代以降のスプーンにも重ならないことはない。あくまで構造としてですけど。もちろん、さらに、その根っこを探っていくとフォクシジェンやレモン・ツィッグスもまたボウイ/イーノのベルリン三部作あたりを起点とする……まあ、両者とももっとプログレ寄りではあるんだけど、なんにせよ音をスタジオでしっかり構成していくことと、ロック・ヒーローの持つ華やかさの両方を兼ね備えた存在に辿りつくんですよね。ということを考えていくと、スプーンって決して孤高とも言い切れないし、しっかり歴史の中で役割を果たし、時代を作る存在なんだなってことがわかるんですよ。

井草:そうですね! 確かにその2組のことも思い起こしました。今はヒップホップをはじめ、トラックと声さえあれば、サクッと世に音源を出せてしまう時代であり、なおかつそのスピード感がSNS時代に向いているという点ではバンドで音楽を作るのはなかなかタフですが、そんな中で、充実したスタジオ・ワークとロック・ヒーローとしての華やかさを兼ね備えた存在がコツコツとキャリアを重ねていくことで、歴史がきちんと紡がれていっていることを思わされます。今回のスプーンのベストに収録されている新曲は、直近の2作なんかに比べるとサウンド的には実験性やトリッキーさはあまりないですが(笑)、その“コツコツやって20余年”のキャリアの持つ重みや、研ぎ澄まされた迫力を感じられる楽曲にはなっています。他の収録曲は00年以降、特に中〜後期の曲が多め、かつ比較的ストレートな楽曲が多くなっていて、そんなベスト盤ゆえの潔さにも通じる楽曲になってます。

岡村:最初2枚からは1曲も選ばれていない、というところからも、やっぱり2000年代以降の活動が本意ってことが伝わってきます。さて、このベストでいったん区切りをつけたあと、これからのスプーンにはどういう活動を期待しますか? まさしく2000年代中盤から途中加入しバンドを支えてきたベースのロブ・ポープが脱退を表明し、否応なしに新たなアンサンブルや方向性が求められるタイミングになりましたが……。

井草:新たな外からの風を期待……ですかね。デイヴ・フリッドマンにプロデュースしてもらいたいというのは彼らの以前からの願望だったらしいので、それが奏功した今、どんなプロデューサーを立てるのかという選択はキモになってきそうですね。あと、やはり大きいのはそのベースの抜けた穴をどうするのか、あるいはしないのか…というところ。けれど、むしろそこから新しいサウンド・プロダクションのアイディアが生まれるのかも、とも期待しています。だいたいの場合は、あるパートが抜けるとサポートを入れて継続することが多いですが、例えばあえてベースのパートをシンセや、もっと違う楽器に置き換えてみるような楽曲も聴いてみたい。スプーンには、そういったピンチを遊び心に変えて、より自由な方向に舵を切ってもらいたいなと思っていますね。そういう意味だとさっき言った「オーセンティックなバンド編成」とは逆のことにはなってしまうのですが、20年近く培ってきたものが1番いい形で結実している今ならばそんなメタモルフォーゼも可能ではないかな、と思わされます。前作のラストがサックスのメインの曲(「Us」)だったというのも示唆的で。

岡村:私は一度はブライアン・イーノにプロデュースしてもらってほしいけど(笑)。でも、ピンチはチャンスの精神性で欠落部分を生かすスタイルを試すのも確かにありですね。あと、今はまたUSインディーの草の根的な繋がりが面白い時代になっているじゃないですか。スリーター・キニーのプロデュースをセイント・ヴィンセントが手がけるとか、ボン・イヴェールとザ・ナショナル周辺のネットワークの拡大とか。そういう意味ではテキサスの彼ら周辺のネットワークから何か次の突破口を見つけてほしい気もします。

井草:ブライアン・イーノのプロデュースは絶対聴いてみたいです! ブリット・ダニエルは今はLAに住んでいるようなんですが、出身のオースティン周りでいうと、それこそジム・イーノと《Public Hi-Fi》はオッカーヴィル・リバーやExplosions In The Skyなどのオースティンのバンドとも仕事をしていて、そこが物理的にもネットワークのハブになっている感じがします。またオースティンは《SXSW》の街でもあるので、《SXSW》にきたアーティストのライブも、“Spotify Session”というシリーズの一環としてそのスタジオでやっていました。そんな彼らの周辺の、より若いアーティストとのコラボレーションも見てみたいですね!

Spotify Sessionの様子


The Secret Life Of VIDEOTAPEMUSIC

Spoon

Everything Hits At Once: The Best of Spoon

LABEL : Matador / Beatink
RELEASE DATE : 2019.07.26

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