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「即興」を「設計」する?!
聴き手の頭の中それぞれに現象する音楽〜
SjQの最新作『Torus』を今こそ振り返る

21 October 2021 | By Kota Takenaka

SjQが11年ぶりの音源作品『Torus』を昨年12月にリリースして早くも1年近くになろうとしている。2009年の前作『Animacy』以降、映像作家のKezzardrixとのプロジェクト「SjQ++」での活動や、映像作家・美術家の林勇気とのコラボレーションなど、サウンドアート方面での活動が活発化。「SjQ++」ではアルスエレクトロニカで準グランプリを獲得するなどの評価を得たが、SjQ単体としての活動はここ数年、沈黙を保っていた。それだけに、かねてより噂されていた新作が、どのジャンルにも落とし込むことができない、SjQの思想そのものといえる新たな音楽が創造されていたことに心を躍らせた人も少なくなかったはずだ。しかも、これまでにgoatや空間現代などをリリースしてきた《HEADZ》が新たに立ち上げた、京都/関西を拠点とする新たなレーベル《Leftbrain》の第一弾作だったのだから。

そもそもSjQは、world’s end girlfriendやno.9のリリースで知られる《cubic music》から2003年に『meme?』でデビュー、2009年には《HEADZ》よりセカンド・アルバム『Animacy』を発表するなど作品の数は決して多くないがキャリアは長い。そこで、これをきっかけにSjQの音楽に触れるリスナーのために、改めてその最新作『Torus』のリリースまでの歩みをメンバーである、Yuta Uozumi、Isao Nakagaito、Shuhei Otaniの3人に語ってもらった。ぜひじっくりと読んでいただきたい。

また、そんなSjQ、リリース後すぐにコロナ禍に突入したため、ライヴなどのパフォーマンスが行えない状況が続いていたが、まもなく10月22日には、京都の《外》からオンライン・レコ発イベントが開催される。
(インタビュー/竹中コウタ)

Interview with SjQ

──遂にリリースされましたね。これまでにも何度か作品が発表されるという話がありましたが、11年かかってしまったのは?

Yuta Uozumi(以下、U):この間、3回くらい作り直し……リセットしているんです。なかでもインパクトが大きかったのが、ドラムとトロンボーンという、アンサンブルの中核を担っていた2人がSjQを抜けた。他でも活動しているアクティビティの高いメンバーが抜けて、しかもアルバムの曲を半分以上作り終えている状態だったので、ダメージというか「どうしよう?」という感じになった。これは結構厳しいかなと思っていたのですが、抜けたあとに、少し間をあけて、残ったメンバー全員で集まったんです。その時に、わりとOtaniとNakagaito、マネージャー/プランナーのasariの3人ともむしろ向きで。「いや、3人でできることを考えましょう」と。

──なるほど。

U:そこで話していく中で「SjQがやってきたことのユニークさとはなにか?」ということを皆で考えたんです。これまでの演奏の中で、SjQの演奏がうまく廻っているときに、意識的に音楽を展開しようとしなくても、ずっと聴いていられる状態が訪れる瞬間っていうのが何度かあって。そこに絞りこんで、3人で突き詰めたらいんじゃないか、という話になって。で、録った、という。

──この作品の中で3人なってからの曲は……

U:「motsure」「hotsure」「shisen」「“・”」 、あともう一つ「yubi」って曲ですね。

──なるほど。5人の曲ももちろん良いですが、今伺った3人になってからの曲がこのアルバムの核になっていると思うんです。SjQのグルーヴにおける緊張感の密度がまた更に一層高まったように感じます。3人だからこそ逆にできることが、非常に面白い形で表出していると思いました。

U:SjQって、3つ4つ選んだフレーズの元になる音列と、演奏者のやり取りのルールを組み合わせた「シード」って僕らが呼んでいるものを使って演奏をしていくんですけど、それに基づいて演奏していくということは、5人でやっていた演奏を3人でやろうとすると、ルールを使ったやり取りのなかで生まれてくる音楽なので、基本的に無理なんです。それだと、5人での演奏を3人で無理やり再現することだけに終始してしまう。それはそもそもSjQの動的に作曲するというか、即興と作曲…設計を融合するということと違ってきてしまいます。ひたすら再現するための音楽になってしまって、単に3人になったことがネガティヴで終わります。なので改めて3人でできることを目指してやった。やってみたら、メリットもあって、構造がシンプルになるから、演奏がうまくいっていないときに、なにがうまくいっていないかがわかりやすい。5人のときは音をやり取りしていく上での進展に関係ない音を出してる人がいたりするんですが、3人の場合は全員の音が次の誰かの音に絡み合っていないと、音楽が廻っていかない。だからより難しくはなったのですが、よりSjQ的な音楽を抽出したものになっている。その結果、新しい4曲は一日で録音したんですけど、この一日で一気にアルバムの新しい骨格ができた。

Shuhei Otani(以下、O):3人になってからは演奏に必死ですね。5人だとなんとなくで成立してしまうけど、3人だと、ごまかしがきかない。

U:5人のときはコマ(補助輪)付き自転車で、3人はコマ無し自転車やね(笑)。もしくは、5人は将棋で3人はチェスやね。将棋は取った駒をもう一回使える。チェスの場合は取られたら終わりなので、どんどんタイトになっていくんです。最後、駒が3対2とかになって、そういう感じです。3人でやってると常に、やり取りがダイレクトに反映される。確実に誰かの音が誰かの次の音に繋がっていくので。SjQ全体で一つの楽器になるというか。

──なるほど。もう一つの要因として、ドラマーの離脱も大きいと思うんです。

U:今回ドラマーが抜けて以降の曲のドラムは、全部、僕のプログラムしたソフトウエア「gismo」が演奏しています。このソフトは、人工の生態系というか微生物を模したプログラムで、その中のやり取りで起こる出来事でサウンドを奏でるっていうソフトなんですけど、それを使ってドラムをそいつらに鳴らさせるっていうのをやったんです。そしたらそれがうまいことはまった。だから3人ですごいシンプルになったのと、ドラムを「gismo」が演奏するようになったこと、ですかね。

──「gismo」についてもう少しお話を聞かせてください。既存のシーケンスをバックトラックとして流すわけではなく、その場で「gismo」によってドラムが演奏されている。SjQの音楽は、演奏者間の音のやり取りによって、進展していくわけですよね?そうなったときに、「gismo」との演奏の関係性はどのような感じなんでしょう。「gismo」ともその場でセッションしているわけですよね。

U:僕はわりとシステムの挙動を見てしまっているから。Otaniくん、Nakagaitoくんはどう?

O:他のメンバーと違って、身体の動きとか目線とかはないので、そこだけは耳をつかって、音に反応していく感じですね。ここで鳴るかなとか予測もしてるんですけど。

──予測できるものなんですか?

Isao Nakagaito(以下、N):できないですね(笑)

──それが今回の面白いグルーヴにつながっているのかなと思ったんです。人間だとわかるけど、「gismo」だと、もっと不確定な要素が生まれているのかな、という気がしたのですが。

U:でも、今回、「gismo」にドラマー役をやらせるために少し改造して、エージェントが奏でる音がどこで鳴らされるかというのを確率的に変化するようにしたんです。だからある程度は鳴りやすいところとそうじゃないところというのは作れるようになっている。予測は完全には無理なんですけど、大体この辺に鳴るんじゃないかな、みたいなのは少し予測しやすくはなってるはず。スネアの位置とかは大分読みやすくなってるはず。そんなことなかったかな(笑)? Otaniくん、Nakagaitoくん的には。

O:多少あるとは思います。もちろん予測して鳴らないときもありますし。予測と一瞬ずれて鳴ったりとか。その駆け引きはありました。

U:偶有性ですよね……。予測できるんだけど、ずれていくっていう感じ。それは元々人間のドラマーがや ってたことでもあるんですけど。

──アサダワタルさん(SjQ 前ドラマー)はそれを生身でやってたってことですよね。

U:やっていた。でも大本は、元々彼のドラムも「gismo」の影響を受けていて、「gismo」のああいう予測不能なビートっていうのを目指して、身体を機械化するみたいなことを彼はやっていた。そういう意味で唯一無二のドラマーだったんです。SjQの音楽に身体がカスタマイズされている。サイボーグみたいな。逆にそれをやってくれていたから、今度「gismo」でそのドラムを逆再現するというのがやりやすかったんですよ。

──さきほど演奏者の身体性がSjQにカスタムされているというお話がありましたが、今回、NakagaitoさんのギターとOtaniさんのベースでもそれをすごく思ったんですよ。今回、生演奏という触れ込みですが、これは本当に人間がやっているのか?と思ったり。ギターとベースはどんなふうにこの演奏を実現しているのか、解説をお願いします。

N:SjQのルールで、音を重ねないために、できる限り短くして演奏するっていうのがあって、それを意識しているのが一つ。あと、 3人になったことによって、各パートの音が全部重要になってきて……なんて表現すればいいかな、他の演奏者との掛け合いで、相手をしっかり見て、その動作とか目線とかを。コミュニケーションをとるように演奏していますね。ライヴを観ていただいてる方はわかると思うんですけど、僕らは結構身体を動かして演奏していて、 「モーション」って僕らは呼んでるんですけど、オーバーな動きをしていて、それが相手への合図にもなっているし、逆に自分の演奏の制約にもつながっていて、つまりオーバーな動きって演奏の視点で考えたら演奏しづらかったりするわけです 。でもそれが音を細かくすることにうまく作用していたりもします。

O:僕はUozumiさんがやってるソロ・ユニットで「sonir」っていうのがあるんですけど、それの10年以上前の音源があって、ベースの入り方がすごい独特なんですよ。それも「gismo」で作られてるんですけど、人間では普通は演奏しないようなタイミングで。僕はそれはかなり参考にしていますね、未だに。ベースって定常的に弾いてしまうと、鳴ってる音全体のなかで、いわゆる音楽的なパターンを作ってしまいがちで。SjQにおいては、ベースとドラムはそれを避けたほうがいいという認識があり、そういう、人間的じゃないようなパターンを出すっていうのは一つ頭にあって、もう一つはアプローチ自体が、複雑というか、通常じゃないことをやっているので、最終的に、リスナーの耳に届くものとしては、どこでベースが鳴ったら気持ちいいかというのも考えながらやっています。人間的でないパターンを出しつつも、ここでベースが鳴っていたら気持ちいかなとか。特にキックとの絡みとか。そういうところを意識しながらですね。あとは、Nakagaitoくんの激しい動きに引き込まれながら僕も演奏に没頭していく感じですね(笑)。

U:補足すると、中垣内くんの言ってた「モーション」は、大げさな動きを演奏につけることなんですけど、ちょっと操り人形というかマリオネットみたいなカクカクした動きをするんです。傍から見ると引くような動き(笑)。大きな動きをするので、次が予測しやすくなる、視線の端っこにいても、把握できる。フィードバックの量が増えるんです。なので、そのためにやるというのが最初だったんですけど、だんだんそれを極端にやるようになってきて、それはライヴでお客さんにわかりやすくっていうこともあったですけど、一方で、カクカクした動きを最大化することで起こる不可能性みたいなことが重要で、要するに普通に演奏できへん、みたいな。

──演奏への負荷をかけるということですよね。

U:そう。SjQは音をリレーみたいに廻していくんですけど、焦ると人間ってつらつらとずっと弾いちゃう。カクカク動くと、動きが激しいから音を一個しか出せない、みたいな。そういうのが逆に作用してて。あの動きは逆に演奏しづらくしている拘束具的な意味がある。

──なるほど、今更の質問で恐縮なのですが、そもそも、音を短く…とか、音を演奏者間で廻していく、みたいな、SjQの独自の音楽性はどうやってできたのでしょう?

U:一番の大きな影響は、京都に《アンデパンダン》というイベント・スペース(カフェ)があって、今はイベントはやっていないみたいなんですけど、そこに、いろんな海外の即興やノイズのアーティストが出演していて、そこで割と前座として呼ばれていた時期がありました。それは色んな音が聴けて楽しかったんですけど、わりとああいう即興演奏って、混沌とかカオスになって、最後爆音になって終わるみたいなパターンがあります。それは演奏家が意図的にやってるところもあれば、それは構造上起こってしまうことでもあると思うんです。音をだんだん重ねていくと、展開を作るために次にさらにでかい音を出すみたいな繰り返しで、音のインフレーションがどんどん起こっていって、最後音の洪水で終わる、みたいな。僕らが同じことをやっても、面白くないし、即興の違う感じを作れないかなと思ったときに、音をすごく短くして、各演奏者が出す音を無限まで短くすると、理屈上は音が重ならない。そうするとパルスみたいに、演者が出したリズム構造が前に出てくるので、そこの妙味をわかりやすく体験してもらえる、ってのがあって。音をできるだけ短くしましょう、というのをやってたんです。そしたら今度そこの微妙なヨレ感が出てくるのと、なんとなく音楽に聴こえてくる瞬間があって。それは即興としても、非音楽が音楽に聴こえてくる瞬間ってエキサイティングなところだと思うので、これは面白い演奏形態になるな、というのがあって、それが最初。あとは、元々この技法をやりだしたきっかけは「gismo」で、「gismo」を使ってパフォーマンスをやりだした当初、だたのノイズ発生器になりがちでした。さっき述べたことと全く同じ理由で。「gismo」でリズムを鳴らそうとしたら、やっぱり音と音が重ならないようするために、それぞれの音をものすごく短くするんです。ただのノイズ発生器じゃなくて、ビートを作らせるとなったときに、出てきたアイデアが音を極短にして、あとはエージェントの数を減らすっていう。 今度逆にそれを人間がやるときにフィードバック……リバース・エンジニアリングして。で、今言ってたような流れにつながってくる。

──なるほど。

U:最初に、なんで新譜がこんなに時間かかったのかって質問があったじゃないですか、この方法論をつかって、ちょっとヒップホップっぽい音楽をやろうとか、ちょっとテクノっぽい音楽をやろうとか、既存の音楽に寄せようとしていたんですが、うまくいかない時期がありました。あるとき…… 3人になったときが一番でかかったんですけど、それを完全にあきらめたんです。3人になって「SjQだけができることをやろう」ってなったときに、音楽と音楽じゃないもののギリギリのラインみたいなところのグルーヴとか構造、メロディっていうものを純粋にやってみようと振り切ってみた。そういう意味ではサウンド・アート的な考えで作られていて、既存の音楽に寄せてとかをしていない。

──それは腑に落ちました。例えば前作の『Animacy』だったらIDMとかヒップホップのビートミュージックとしても聴けると思うんです。でも今作はそういったジャンルに短絡的に回収されない。特に3人になってからの曲は。「これどのジャンルのコーナーに置いてもらう音楽なんだろう?」と。いい意味で。それがそういうところから逃れようとしていたというのを聞いて腑に落ちました。ヒップホップやテクノによせることで、いわゆるかっこいいものはできると思うんです。でもチャレンジとして今回とても面白い、形容できない、これまでにないものになっているな、と。「SjQ」という音楽になっている、と思います。
最後に、種明かしではないですが、SjQの音楽はルールベースで作れてるということなんですが、その音楽の背後にどんなルールが走っているのかというのは、聴いている側からしたら謎な部分があって、そのルールの部分を少し具体的に聞いてもいいですか?

U:でも比較的シンプルで、さっきも言ったように、音を可能な限り短くする。あと、「キャッチボール」って呼んでるんですけど、誰かが音を出したら、次に誰かが音を出すまで出さない。その誰かっていうのはその時々の目線で合わせる。例えば、僕がピアノをポーンと弾いたら大谷くんを見る、そうするとOtaniくんがボンっと弾く。目線と動きでわかっているから、あえてすぐ音を出さずに焦らすみたいなこともやる。そこのやり取りの中で徐々にグルーヴみたいなものが立ち上がってくる。あとは「アンチループ」という、そのなかでなんとかループ音楽を作ろうとする。理想はTR-808 のエイトビートみたいな。でも当然そのやり方ではそんなものは出ないんです。それぞれがメトロノームを共有していないので。普通ならBPMという絶対時間があって、その中で、どうやってずらすか、のせていくかと考える。それはいわゆる変拍子ですよね。しかしSjQは変拍子ですらない。ただひたすらキャッチボールを繰り返しているだけ、なので。そのなかでなんとなく僕らのなかでアブストラクトな時間が共有されていく。基本はそれ、あとは曲ごとに音列が決まっていて。この音とこの音、みたいな、いわゆる楽譜的なルールがあって、僕らの場合は「ビーコン」って呼んでるんですけど、全部の音の重心になるような音があって、それは大体多くの場合キックとスネアとピアノのコード、もしくはギターのコード。だったんですけど、ドラムが抜けたので、大体ピアノかギターのコード、と、あとはウッドベースがバチンとはじくとか。それで大体重心ができるので、離散的に散ってる時間構造の中で、一個重たい沈み込むところがある。そこで相対的に他のビートの位置が感じられてくる。ルールとしてはそういう感じ。ポイントは「gismo」の場合も僕らの場合もそうなんですが、あんまり音楽をやろうとしていない。拍節を作って、とか、旋律を作って、とか、ってあんまり思っていないんです。なので、みんなが聴こえて感じているSjQの音楽って、聴いている人それぞれが勝手に頭の中で、聴いているんです。僕は現象する音楽って呼んでるんですけど、各リスナーの頭の中に勝手に現象している。SjQのライブで実際に踊ってる人とかリズムとってる人って、人によって取り方が全然違うんですよ。演奏してる僕らもわからない時がある。そういうそれぞれの頭に現象していくような音楽が理想ですね。

 

Text By Kota Takenaka


《SjQ『Torus』Online Performance》
Date
10/22(金)23:00〜
STREAMING URL
https://www.youtube.com/
MORE INFORMATION
http://sjq.jp/contents/

SjQ

Torus

LABEL : Leftbrain
RELEASE DATE : 2020.12.9


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