Back

光、音響、空間 緩やかな時間の生起する
ライヴ・サウンド・インスタレーション
蓮沼執太 “unpeople -初演-”
草月プラザ イサムノグチ石庭『天国』回遊型 レポート

17 May 2024 | By Minoru Hatanaka

『天国』と名付けられたその石庭は、東京・青山の草月会館にある、彫刻家イサムノグチによる花と石と水の広場である。それは、ガラス張りの建物のエントランスから直結する、1階から2階の吹き抜けとなっている《草月プラザ》の天井の高い空間に設置された、4つの階層からなる小高い丘のような庭だ。これまでにも、草月流いけばなの展示空間としてだけではなく、展覧会やコンサートといった催しが行なわれてきた場所でもある。近年で関連するところでは、2017年12月の坂本龍一キュレーションによる「Glenn Gould Gathering」での、坂本のサウンド・インスタレーションが行なわれたのを記憶している人もいるだろう。

その、石庭『天国』を舞台に、2024年3月20日、春分の日に、蓮沼執太によるライヴ・サウンド・インスタレーション《unpeople -初演-》が開催された。公演名にあるとおり、昨年(2023年)にリリースされた蓮沼のソロ・アルバム 『unpeople』のリリースを記念した公演で、今回の東京と、奈良と札幌でも、それぞれ会場ごとのシチュエーションに合わせた、セッティングの異なる公演が行なわれる。福岡ではインスタレーション・ヴァージョンが発表されるなど、蓮沼らしい柔軟なアイデアで趣向をこらしている。

1日限りの公演ということだが、東京では1日に3回、各回1時間ほどの公演があり、11時から、13時30分から、16時からの、およそ朝、昼、夕の時間帯を選んで予約する。外光が差す空間ゆえ、それぞれの時間帯による光のコンディションの違いが、石庭を異なる空間に変えることだろう。私が体験した時間帯(16時—17時)には、空が急に曇天となり、天窓より差し込んでいた太陽光が遮られ、突然の大雨となり、強い風が吹き、かと思えば天気雨になり、会場の前を通る国道246号線に夕日が反射する、といった天候の変化によって、会場内の自然光や環境音がドラマティックに変化したのも、自然による偶然の演出となった。

会場に着くと、すでにそこには音が流れており、公演が始まっているかのように錯覚する。観客は、石庭を歩き回る人や、そこここに座って開演を待っている人、談笑する人、などさまざまである。石庭のいろいろなポイントに置かれたスピーカーから音が流れ(15個ほどらしい)、石庭のサウンドスケープが形成されている。石庭内のせせらぎや水の湧く音が流れ、石庭という人工的な空間に作られた立体音響による有機的なサウンドスケープが、サウンド・インスタレーションとして蓮沼の演奏の基底をなす。会場の数箇所に楽器が配置された「演奏エリア」と呼ばれるコーナーがあり、蓮沼は会場を移動しながら演奏を行なう。観客は会場にいる蓮沼を間近に見ることができるが、観客は蓮沼の存在を、いるようでいない、ように意識しているようだし、蓮沼自身もそれは同様だったのではないかと思える。そんないい具合の距離感を持った関係性が心地よい。そこには、インスタレーションの展示と演奏との区別を明確にせずに、観客の意識の向け方などを、観客が蓮沼に余計に集中することのないよう、より自由に振る舞ってほしいという意図があるのだろう。

蓮沼は、会場をひとり歩きながら(回遊しながら)、「演奏エリア」で演奏をしては、また歩き出し、といった挙動を繰り返す。それは即興的に行なわれ、各回それぞれがまったく異なる内容となっていたようだが、キーボードの弾き語りで歌声を披露したり、即興的なキーボード・ソロを弾いたり、ピアニカを弾きながら会場を移動したり、ターンテーブルやモノコード(1本弦)の自作楽器のようなものを演奏したり、モジュラー・シンセを繰ってアブストラクトな演奏をしたり、レーザー・ポインターを使って空間にドローイングをしたり、蓮沼の音楽に対する自由なアプローチが盛り込まれている。演奏が始まれば、必然、観客もその場所に集まりはするが、座り続ける人もいるし、空間の響きに耳を傾けている人もいる。時間的な制約もあるので、ある程度コントロールされた時間配分でもあるだろうが、空間のアンビエンスと演奏と、観客の意識の置き所の変化など、それぞれが連関し合ってスポンティニアスに生起するような、緩やかな時間が流れていたのは印象的だった。

それは、あらためて、音楽的な状態とはどのようなことを言うのだろうか、というような問いを投げかけられるものでもあったかもしれない。石庭『天国』で、この日起こったいろいろな出来事が、音楽だけに完結しないものであったことも記しておくべきだろう。佐藤円による照明効果、清水花による映像、山野辺喜子による香り、ハラサオリによる蓮沼へのインストラクション、それらがさりげなく関わり合いながら、石庭の空間に音楽的な状態を作りだす。蓮沼によって公演の終了が告げられても、空間にはインスタレーションの音が残り、観客が退出するまで、その環境は響き続けていただろう。そして、入場時に手渡された香りを持ち帰ることによって、また、後日配布されるライヴ音源からも、それぞれの体験は、残響あるいは残像のように、観客各自によって想起されることだろう。(畠中実)



Photo by Takehiro Goto






Text By Minoru Hatanaka

蓮沼執太

『unpeople』

LABEL : Universal Music
RELEASE DATE : 2023.10.6

購入はこちら
蓮沼執太公式サイト


関連記事
【REVIEW】
蓮沼執太
『unpeople』
http://turntokyo.com/reviews/unpeople-shuta-hasunuma/

MMM

FUJI​|​|​|​|​|​||​|​|​|​|​TA

1 2 3 70