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BEST TRACKS OF THE MONTH – May, 2019

black midi - 「Talking Heads」

9月に来日も決まっているロンドン出身の注目の4人組バンド、ブラック・ミディ。この曲は6月にリリースされるデビュー・アルバムからの先行シングルだ。編成こそはオーソドックスなギター・ロック・バンドではあるが、マスロックやエクスペリメンタルと形容され、この曲もほかの曲同様、一般的に想起されるようなギター・ロックとは異なる。ジャズのフィーリングを持つ、乾いた音のドラムと、スウィングしているベースライン。ゲーム音楽のような音を鳴らすギターは、ローファイで同じフレーズを繰り返し、ラップ調のボーカルも勢いよく駆けていくが、リズム隊が作り出しているスウィングの波にうまく乗っている。ロックにジャズを取り入れているのではなく、ジャズを基にロックをしているのではないだろうか、とも取れる。

ブリット・スクール出身で、様々な音楽を聞いてきた彼ら。まさにアルバムでは、「ブラック・ミディ」という元々の言葉の意味通りの様々な音が流れてくるような楽曲が並ぶのだろうか。(杢谷栄里)

FKA twigs -「Cellophane」

纏っていたものを脱ぎ捨て軽くなったその身で飛び立とうとする、奇抜さや不思議さに包まれていた彼女だからこそ、その軽やかでピュアなサウンドに驚いた。ピアノと歌を主役に置くシンプルなサウンドはserpentwithfeet「bless ur heart」を思い起こさせたが(奇しくもアンドリュー・トーマス・ホワンが両曲のMVを監督していることも知り)二人の間に絆のようなものが存在する気がしてしまう。MVではポールダンスを行う彼女が天を目指した後、地下深くまで墜落する様子が描かれるが、映像がサウンドと同期するように創り込まれていていて見事だ。旋律は、前半から中盤にかけて1オクターブ上がり、中盤から後半にかけて1オクターブ下がる、その高低がMVのストーリーとマッチすることで楽曲への感情移入が増していく。先日公開された本楽曲のライブ映像では、ヴィヴィアン・ウエストウッドを纏う彼女の姿が印象的だったが、創作を探求する過程で変化を厭わない意志はウエストウッドのパンクと重なるようでもある。(加藤孔紀)

L’Épée – 「Dreams」

女優とサイケデリック・ロック・バンドのコラボといえば、1967年のヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコがあるが、このバンドも編成は同様。フランスを代表する女優・エマニュエル・セニエ(夫は映画監督ロマン・ポランスキー)、アメリカのサイケデリック・ロックの重要バンド、The Brian Jonestown Massacreの中心人物、Anton NewcombeとフランスのThe Limiñanasによる、新しいバンドの1stシングル。

音は60年代のサイケデリック・ロックそのもの。音使いや曲の展開は単調ではある。しかし、永遠に聞いていられる不思議な魔力がある。中性的かつ無機質なボーカルで歌われるフランス語の歌詞は呪文のように聞こえ、耳を捕らえて離さない。スパイスにはハード・ロックにも通じるファズを聞かせたメロディ・ギター。曲に引き込み、聞き手を現実世界から逃避させる。1967年のアメリカと、2019年のフランスとアメリカに共通しているのは、現政権に対する反発と厭世。そして、逃避性の高いものへの需要。まさに本作のコラボレーションと音は必然的に生み出されたものであるといえよう。(杢谷栄里)

Mavis Staples – 「Change」

まもなく80歳を迎えるという元ステイプルズ・シンガーのメイヴィス・ステイプルズから強烈な新曲が届いた。ベン・ハーパーの全面プロデュースによるニューアルバムから先行配信された「Change」は、トランプ大統領のもとで肥大化していく差別や排斥といった、今のアメリカのどす黒い空気感に対して、真正面から異を唱えようとするオーセンティックなR&Bナンバーだ。というと、何とも堅苦しい説教臭い曲に聞こえるかもしれないが、そんな杞憂は、彼女の円熟とか老成という言葉と一切無縁のエネルギッシュなヴォーカルが、あっけなく打ち消してくれる。 地鳴りのようなベースとドラムのリズム・セクションに、ディストーションの効いた乾いたギターリフは、曲のもつメッセージ性に負けない太いグルーヴを与えているだけでなく、フリーのようにムダを削ぎ落としたスマートさとスタイリッシュさが同居していて、単純にカッコいい。ギター、ベース、ドラムというシンプルな編成で組まれたサウンドは、メイヴィスの力強いヴォーカルを引き立てていると同時に、曲に一定の客観性を持たせる締まりを与えている。 「Got a change around here」と繰り返される歌詞の中では、「物事(の変化)はきっかけでしかない」と、一人ひとりが”Change”の当事者となってアクションすることを呼びかけているように聴こえる。アメリカ国内でも、大きな混乱と分断に見舞われ、これまでになくアメリカという国の理性が問われているように思えるが、こうしたカウンター音楽がしっかり届けられるところが、アメリカの懐の深さではないだろうか。メイヴィスの故郷であるシカゴでは、先日初の黒人女性市長であり、自ら同性愛者であることを公言しているローリ・ライトフィット氏が市長に就任した。そんなことも、この曲が今の時代と呼応する一曲だと言えるだろう。ビリー・ホリディもアレサ・フランクリンも既にいないが、今を生きるメイヴィスが、いまだ先頭にたって歌い続ける姿に、歌本来の持つ力を強く感じることができる。(キドウシンペイ)

Pnau – 「Solid Gold feat Kira Divine & Marques Toliver」

ダンス・ミュージックは語るものではない、踊るものだと言われたらそれまでだが、この曲は、私の夏のディスコ・バンガーになるだろう。

プナウとは、エンパイア・オブ・ザ・サンとしても活躍しているニック・リトルモア、ピーター・メイズ、そしてサム・リトルモアによるオーストラリアを代表するダンス・アクトだ。エルトン・ジョン初期楽曲を切り刻んだ公式リミックス・アルバム『グッド・モーニング・トゥ・ザ・ナイト』は、ここ日本でも彼らの名前を多くのポップリスナーに届けた。

そんな3人組の最新楽曲「Solid Gold」は、前作『Changa』でフィーチャーされたボーカリスト・振付師Kira DivineとフロリダのシンガーMarques Toliverと共にLAで共作された。タイトル「Solid Gold」は、太陽とも、未来ある原石とも、輝かしい思い出とも、様々にとれるが、楽曲のリズムと高揚感も相まって醸し出されるポジティヴ・バイブスは、あなたの足を一歩前に進めてくれるに違いない。(杉山慧)

Rosie Lowe – 「Birdsong」

ロンドンのR&B〜ソウル・シンガー、ロージー・ローが先月リリースしたセカンド・アルバム『YU』ではこのリード曲「Birdsong」が特に出色の出来だ。ライの新譜『Spirit』とも似たジャケットだが、作品を重ねるごとに肉感を増すライのサウンドとは真逆。体温を感じさせないヴォーカル、ミニマルなビートと所々にあらわれるクワイヤとのコントラストで構築されたコールド・ソウルだ。また、デジタルな処理をかけわずかにズラしたダブルのヴォーカルは喩えるならばホログラムのようで、ここまでくると「ロージー・ローって本当に実在するの?」とまで思わせるものがある。

ジェイムス・ブレイクの初期作の影響がいま、こうしたイギリスのソウル・シンガーにきちんと漏れなく受け継がれていることを実感させられる1曲ではあるのだが、なお興味深いのはこの曲を含むアルバムや、彼女のこれまでの作品が《Ninja Tune》所属のジ・インビジブルのギタリストであるデイヴ・オクムのプロデュースだということだ。デイヴは同じくロンドンの”ソウルの新星”ニルファー・ヤンヤのギターの先生でデビュー・アルバムにも1曲クレジットされている。彼女たち若手のソウル・シンガーにエレクトロニック・バンドのエッセンスが溶け込んでいるというのもまた、今のロンドンの一側面であるのかもしれない。(井草七海)

抱擁家族 – 「野行性」

サニーデイ・サービスとして3枚、ソロとしても映画のサウンドトラックを含めて3枚のアルバムをリリースするなど、もしかしてこの人はこのまま燃え尽きてしまおうとしているのではないかと本気で心配してしまうほどの勢いで2018年を駆け抜けた曽我部恵一。今年はサニーデイの新作レコーディングに専念するという話だったが、細野しんいち、MC.sirafu、平賀さち枝という三者三様の個性を持つミュージシャンを擁する新ユニット・抱擁家族を率いて突然の帰還。なんと曽我部はボーカルと共にドラムを担当している。オフィシャルにその音や姿を確認できるのは今のところこのライブ映像のみだが、決して技巧的とは言えないドラムとラップから伝わってくる、ジリジリと身を焦がすような初期衝動と、深い森に潜む獣のような凄みは尋常ではない。これがサニーデイとして次なる季節を迎えるためのイニシエーションなのか、あるいは新たな表現を生み出すパーマネントな共同体となるのかは全くわからないが、2019年も曽我部恵一から目を離せないことだけは間違いないだろう。(ドリーミー刑事)

Text By Dreamy DekaKei SugiyamaNami IgusaKoki KatoSinpei KidoEri Mokutani

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