BEST TRACKS OF THE MONTH : 06 May 2019

Various Artists

BEST TRACKS OF THE MONTH ~2019.04~

By Shino Okamura / Kei Sugiyama / Daichi Yamamoto / Koki Kato / Sinpei Kido / Eri Mokutani

BEST TRACKS OF THE MONTH – April, 2019

TURNライター陣による、2019年4月のベスト・トラック紹介!

Beck – 「Saw Lightning」

数年前からスタジオに入っていたというベックとファレル・ウィリアムス、二人が共作した新曲が突如リリース。そんな本楽曲を聴くとベックがあらゆる時代のサウンドを組み合わせ科学反応を起こすことに未だ貪欲だということが分かる。スライドギターとラップが「Loser」を想起させるが、重めのスネアと強調されたベースはリズミカルで低音にウエイトが置かれ、そのサウンドはベースミュージック的とも言える。早めに設定されたBPMと畳みかけるようなファレルのフロウも、ベック自身が90sに生み出したスライドギター×気だるいラップというサウンドをアップデートしている印象さえ受けるのだ。ベック自身、今のラップミュージックを最もモダンな音楽だと話すように現在に意識的だが、あえて同世代のファレルとコラボレーションしていることも面白い。ファレルもベック同様に前線で活躍しながらクラシックからモダンまで幅広い感覚を持っている、そんな二人の化学反応が今起きている。(加藤孔紀)

Clinic – 「Laughing Cavalier」

医療用マスクをつけて不穏なバンド・サウンドを鳴らすクリニックが6年ぶりに帰ってきた。リバプール出身、2000年にデビューした4人組。本作は、5月10日にドミノ・レコードからリリースされるアルバムの先行曲だ。

大衆の喧騒の中、鐘が鳴り、それを合図に曲が始まる。本作の特徴といえば、ありとあらゆる様々な笑い方の擬音語を歌詞にしたところにある。大口を開けた「HAHAHA」、口角を上げた「HIHIHI」や口をつぼめた「HOHOHO」というように。タイトルからも想像されるが、笑いの標本のような曲だ。このモチーフを不穏なバンド・サウンドで歌うことで、楽しいというプラスではなく、あきらめ、皮肉、批判、何かを小馬鹿にするようなマイナスの笑いとも思えてくる。この感情を生み出しているもの、おそらくは、今のイギリスの政治や社会であろうか、それに対する民衆の反応を風刺したのかもしれない。そんな社会を手術するために、クリニックは再び活動を始めようとしているようだ。(杢谷栄里)

Fitz and The Tantrums – 「123456」

本国アメリカではコーチェラ出演、ブルーノ・マーズ、デイブ・マシューズ・バンドなどのオープニングアクトを務めるなど人気の高い6人組のニュー・シングル。木琴を模した電子音を聞けば、わくわくする気持ちになれる。軽やかなリズムに、ヒップホップやソウルを取り入れたボーカル・スタイル、そして、極めつけに、世界中に向けて、「夢が実現することを願っている」という超ポジティブな歌詞。ここのヴァースではドラムは休止、じっくりとメッセージを聞かせる。世の中のどうでもいいことを軽く超えていって、夢が実現しそうな気になれる。敢えて前向きな感情をこめて歌うことで表現される反骨精神。それは、2010年のデビュー以来、一貫して持っている彼らの姿勢でもあり、バンド名にもある怒り(Tantrums)に対しての付き合い方の一つの提案であるようにも思える。

この5月下旬には、中国と韓国をツアーで回る。アメリカはもちろん、アジアもじわじわと圧巻しそうだ。(杢谷栄里)

Jeff Tweedy – 「Family Ghost」

今年の《レコード・ストア・デイ》で、5000枚限定で発売された、ウィルコのジェフ・トゥイーディーのソロ・アルバム『Warmer』から、オフィシャル・ビデオとして公開されたのがこの曲。アルバム自体は去年リリースされた『Warm』と同時期にレコーディングされたもので、その続編的内容になっている(現在入手困難)。

『Warm』同様、アコースティック基調のサウンドながらも、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのような残響音を響かせる幽玄的な仕上がりになっているのが面白い。オルタナ・カントリーの雄といわれたアンクル・テュペロから初期ウィルコにみられた、ポップでひねくれたメロディを曲のベースとし、土埃っぽいルーツ色強いサウンドでありがら、それでいて野暮ったさがないというか、どこか飄々として重たくないサウンドを思い起こさせる一曲だ。特に古くからのリスナーにとっては、歓迎したいジェフの側面のひとつではないだろうか。

2017年以降、比較的ハイピッチで新作を出し続けているジェフの今のモードが、この曲のタイトルさながらに家族や音楽を通し、自らのルーツを見つめ直して直感的に音楽を奏でたいという気分なのだろう。もともと革新的な側面と伝統的な側面を持ち、そのどちらも素晴らしいアーティストではあるが、ソロだからこそ聴ける、ルーツに比重を置いた、飾り気のないストレートなジェフの姿が垣間見ることができる。個人的には、ジェフのしゃがれた乾いた声は、アコースティック・サウンドとの組み合わせが一番ピッタリだと思うが、そんなシンガーとしての彼の魅力を存分に味わえる一曲だ。(キドウシンペイ)

Lil Nas X – 「Old Town Road」

アトランタの新人、Lil Nas Xの4週連続で全米1位をキープしているカントリー・ラップ曲(5月4日付時点)。この曲に合わせてカウボーイの格好をするミームがTik Tokで流行したことを追い風にヒットとなったが、いまではソランジュの『When I Get Home』とともに、ポップ・カルチャーにおけるブラック・カウボーイ(・ファッション)の流行(「YeeHaw Agenda」とも)の象徴にもなっている。「カントリー要素が十分でない」とBillboardがこの曲をカントリー・チャートから排除するなど曰く付きのヒット曲ともなっているが、そもそもジャンルやコミュニティを跨ぐ優れたポップ曲だ。

BPM136のゆったりとしたトラップのビートにフォーク・ソングのような牧歌的コーラスは聴き手を選ばず馴染みやすい。「家族は音楽キャリアを追求することに否定的。俺は俺の突き進みた道へ進んでいく」という自らのストーリーをカウボーイに重ねた歌のテーマも、誰もが自分に結び付けられるだろう。カントリー・ラップのジャンルを開拓したヤング・サグ、さらにはビリー・レイ・サイラスやキース・アーバンのようなカントリーの大物、ディプロまでがリミックスやカバーでこの曲をサポートした。この曲が「異端」ではなく、幅広く大衆的に受け入れられていることを裏付けるように。(山本大地)

Still Woozy – 「Lava」


マスロック・バンドFeed Me JackのギターだったSven Gamskyがバンドを辞め新たに始めたソロ・プロジェクトがStill Woozyだ。彼のサウンドの特徴の一つは「Vacation」(2017)が顕著なように、前バンド時代からの流れを汲むマスロック的アプローチ。本作でも、ギター、ベース、ドラムにその片鱗が伺われるが、ここでは少しルージーになっており、それがより一層のグルーヴを生み出している。それをコーティングするかのように被せられたシンセサイザーの味付けが、彼のサウンドに日常にあるおバカな親しみと非日常のトリップ感を付け加えている。それは、テーム・インパラとマック・デマルコなどを掛け合わせたかのようであり、ちょっぴり切ないメロディーとMVでの悲し気な表情は、トラヴィスのフラン・ヒーリーをも思わせる。

MVにも登場していることからもここでのシンセサイザーは1984年に量産されたRoland Juno106だろう。これはNYの新たなポップアイコンとして注目を集めるガス・ダパートンも多用しており、この一致は、いまのポップミュージックが楽器の中古市場という観点からも80年代のカルチャーとの繋がりが見えてくるようでとても興味深い。(杉山慧)

台風クラブ – 「火の玉ロック」

台風クラブから今こういう曲が届いたことにはとても大きな意味がある。曲調はフォーク・ロック・スタイル。『Girlfriend』〜『100% Fan』期のマシュー・スウィートやアレックス・チルトン/ビッグ・スターのようなメロディックだけど骨太さと荒けづりさのあるパワー・ポップ調と言ってもいいだろうか。なんにせよ、台風クラブのこれまでのレパートリーにはありそうでなかったタイプの曲だ。石塚のギターの音にロバート・クワインを思い出す人も少なくないだろう。

この曲のサウンド面、演奏面での詳細についてはソングライター/ヴォーカリスト/ギタリストの石塚淳に語ってもらったので、そのあたりは近日公開予定のインタビューを楽しみにしていたほしいが、もう一つのポイントになるのは歌詞だ。一昨年、初めてのアルバム『初期の台風クラブ』を発表してから……そう、去年いっぱいくらいまで、彼らは週末ともなれば全国あちこちのイベントに車に機材ごと飛び乗って参上する…というオン・ザ・ロードな生活を続けてきた。ライヴはどこに行っても(おそらく)大盛況でこの曲の7インチも売り切れに次ぐ売り切れ…と飛ぶ鳥を落とす勢いの彼らは、しかしながら、今なお山に囲まれ川に満たされた小さな町(京都)で生活を送っている。石塚はこの曲をライヴで披露する前に決まってこう話す。「終わってしまった大好きなバンドと、いつか終わるだろう僕たちのために」。具体的には石塚が大好きな京都のバンド「星の王子さまたち」の活動休止に際しての思いを一つのきっかけに作ったそうだが、今こんなに人気を博している自分たちだっていつかは解散してしまう、というある種の達観した、でもそれゆえに止められない「バンド」という主義でも主張でも仕事でも趣味でもない、あまりに眩しい日常への強烈な愛がここにある。そこに触れた時、私たちは思うのだ。今だからこそ描けるこの危ういロマンティシズムが、この台風クラブというバンドを輝かせているのだということに。そして、私たちが今必要としているのはこういうメランコリー紙一重の揺るぎない強さと脆さへの自覚ではないかということに。(岡村詩野)


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