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第5回
現在の香港音楽シーンを読み解く5つのキーワード

25 November 2021 | By Shinichi Sugawara

一昨年くらいだったか、ツアーでアジア圏を廻っているときに「香港の音楽シーンは終わっている」と、誰かに聞いたことがあった。さまざまな規制、警察の監視、突然のライブハウス閉鎖……「香港でのライブはハードルが高い」とも聞いた。しかしコロナ以降、少なくとも自分のタイムライン上に流れてくる香港のミュージシャンはとても元気にみえる。活発で自由に動いているように感じる。それはあくまでも表面上の印象で、内実はスモールビジネスとして小さな経済圏で回っているだけなのかもしれない。いくつもの葛藤や努力のうえに成り立っているのかもしれない。しかし、アジアの混乱を極める政治情勢のみからそれらを空想するのではなく、ポジティヴに現在の香港音楽シーンを読み解く5つのキーワードを挙げてみた。

●SOGNO

《SOGNO》はミュージシャンのための複合コワーキング・スポット。リハーサルが可能なスタジオには、レコーディングのために必要なハイエンドな録音機器、配信用の機材が充実していて、メインとなる広いスペースではライブも行うことができる。単なる箱貸しとは異なる新しいライブハウスのていをなしており、ミュージシャンやアーティストはここの会員になることによって、共有スペースに自由に滞在し、意見交換やアイデアの共有をすることができる。コミュニティ・スペースとしての役割を担う場所にもなっており、たとえば新世代のプログレッシヴ・ジャム・バンド、Fds/4evaは、今年の6月に《SOGNO》をヴェニューとして使用し、仲間たちと共に2日間開催のライブイベントを催した。出演していたバンドの並びを見ると、香港のバンドが今、いかに豊潤なアイデアとクリエイティビティを持っているかが浮かび上がってくる。


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fds/4evaのインスタグラムより



●OC2S

2016年に設立された香港の独立系(「インディー」と訳すこともできるが、あえてそのままにする)音楽ブランド。ライヴ・コンサート、映画上映、展示会など、香港の文化産業の振興を目的とした事業を展開している。現在はメディアとして国内外のさまざまなアーティストも紹介しており、香港の若いオーディエンスは《OC2S》のインスタグラムから日々カルチャーの情報を得ている。


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《OC2S》のインスタグラムより



《OC2S》オフィシャル・オンライン・ショップ
https://shop.oc2s.co/



●Science Noodles

お湯を注がなくてもそのままポリポリと食べることができる、味わい深いビジュアルが人気の台湾の袋麺「化学麺」から名付けられた男女混合バンド。台湾旅行中にTinderをいじくっていた当時18歳の香港人啊悅は、台湾在住の晴子とマッチ。なぜかバンドを組むことに。欧米や日本、そして台湾のインディー・ミュージック好きが集まるこのパーティーは、香港の若者から見た台湾への旅情という視点が随所に感じられ、新鮮なアジアの印象を与えてくれる。

●Clave

これまでインターネット上で、ヴェイパーウェイヴ〜シティポップの流行・潮流を受けた「素直」な表現を続けてきたバンド。東京と台北を中心に、アジアを自由に往来する活躍を見せるイラストレーターの永岡裕介が、ここへきて彼らのファースト・アルバム『Say Goodbye To』のジャケットを担当したことは事件だし、これまでのベクトルとは違うアジアの線の繋がりを体現した。

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Claveのインスタグラムより



●Long Time No See

今年の9月に開催されたミニ・ショウケース・フェスティバル。香港の11組のアーティストが8時間にわたりライブを行った(《Long Time No See》)。興味深いのは、説明書きの文言に《「ヒップホップ」、「インディー」、「R&B」などのミュージシャンが出る》との記載がある点。香港のシーンではこういったジャンル分けが一般的なのか? ひらかわ氏による【2021年に再考する「R&Bの死」】がとても素晴らしかったが、香港、台湾では若くて才能あるミュージシャンは今みんなR&Bをやっている、あるいはその素振りを見せているという点に注目したい。現在までに至る音楽の歴史、時間軸が他の欧米諸国や日本とはまったく異なり、タイムマシンのように飛び越えながら発展・普及しているのがアジアの面白いところだ。

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《Long Time No See》の告知インスタグラムより



ようやく2回目のワクチン接種が昨日完了し、死にそうになりながらこの原稿を書いた。また1ヶ月後にお会いしましょう!(菅原慎一)
※トップ写真は香港のレコード・ショップ《White Noire Records》店内(撮影・菅原慎一)



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■菅原慎一 Official Site
https://shinichisugawara.com/

Text By Shinichi Sugawara


菅原慎一 連載【魅惑のアジアポップ通信】


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