なぜギターの音を歪ませる必要があるのか?
なぜノイズの中に繊細な旋律を潜り込ませる必要があるのか?
その根源的な問いに対する答えがここにある
京都・名古屋を拠点にしていた4ピース・バンドのshe saidが活動休止。そのヴォーカル、ギターのSAGOを中心とした新たなユニット・バンドのSAGOSAIDが始動した。
2019年6月に自主リリースしたファースト・カセット・シングル『Little Heaven』は、奔放なディストーション・ギターとキャッチーなメロディーが拮抗するキラーチューンぶりが話題となり、あっという間に全国各地のレコードショップから姿を消してしまった。
幸運にもそのテープを入手できた筆者もそのパンチ力にノックアウトされた一人。今年の夏に最もよく聴いた曲は間違いなく『Little Heaven』だった。そしてその興奮はこのTURNで7月の「BEST TRACKS OF THE MONTH」でも伝えたが、この12/5にセカンド・シングル『Spring Is Cold』のストリーミング配信が開始され、今後の活動にますます期待が高まっている。
古くはTレックスやラモーンズを源流に、マイブラ、ジーザス&メリーチェインといったUK勢、そしてSAGOSAIDもフェイバリットとして挙げるペイヴメント、ダイナソーJr.といった90年代のUSインディー〜オルタナバンドが進化させてきた「轟音ギター+美メロ」という黄金の組合せ。その甘美な魅力を継承するバンドは日本にも数多く存在するが、SAGOSAIDのサウンドにはその定型への愛情や憧れを超えたものがある気がしてならない。なぜギターの音を歪ませる必要があるのか、なぜノイズの中に繊細な旋律を潜り込ませる必要があるのかという根源的な問いに対する答えが、音の中に息づいているように感じるのだ。
その由来に迫るべく、活動を開始した経緯から楽曲に込めた思いまで、SAGO(ヴォーカル、ギター)、Shimmaboy(ギター)、木村伊織(ベース)、カイチ(ドラム/元she said)からなるメンバー全員に話を聞いた。(取材・文/ドリーミー刑事)
Interview with SAGOSAID
——SAGOSAIDのファースト・シングル『Little Heaven』はオルタナとかインディーとか、ジャンルやシーンを超えて深く刺さる訴求力があって、初めて聴いた時は本当に衝撃を受けました。そもそも佐合さん(SAGO)の名前を冠したSAGOSAIDとは、バンドなんでしょうか? それともソロユニットですか?
SAGO:she saidの活動を休止した後、私もバンドをやめたいのか音楽自体をやめたいのか、自分でもよくわからなくなる時期もあったんですけど、やっぱり一人になっても音楽は作り続けていたので、東京に行って自分の音楽をやろうと思って始めました。最初はソロ・ユニットにして、カネコアヤノさんみたいなスタイルで、バンドとソロの両方の形態でライブ活動をできればいいなって思ってたんですけど、思ったよりもメンバーががっつりやってくれるので、どんどんバンドっぽくなってる感じです。
——他のメンバーの皆さんはもともとお手伝いって感じで参加したんですか?それともバンドやるぞって感じで?
木村:もともと佐合さんの音楽がすごい好きで、新しいバンドやるなら一緒にやりたいってダメ元で声をかけてたんです。そしたら佐合さんが東京に出てくる時に手伝ってくれって言われて。すごい嬉しかったし、曲もいいので一生懸命やってます。
Shimmaboy:僕は佐合さんと大学が一緒だったんですけど、一緒に音を出したりしたことなかったから誘ってもらったのは意外でした。でも、佐合さんがつくる音楽ならもうばっちりでしょと思っていたし、実際曲も良くてちょっとお手伝いのつもりだったのがガッツリになっちゃいました。
——みんな佐合さんに声をかけられたのは意外だったけど嬉しいという感じだったんですね。
木村:そうです。で、実際やってみたら楽しいし、メンバーも信用できる感じだし、これはいいものを作れそうだなって思ってます。
——クールな関係のユニットかと思いきや、のっけから熱いバンド感がほとばしるお話です。
SAGO:いや嬉しい。東京に出て仕事するようになったらもうバンドなんてそんなにやれないと思ってたんですよ。でもこれだけいいメンバーが集まってこんなにガッツリやってくれるってことが最初から分かってたら、もっと別の名前にしたかもしれない(笑)。
——SAGOSAIDの曲の作り方は、佐合さんが作ったデモをみんなの生演奏で再現していく感じですか?
SAGO:パソコンでかなり作りこんだデモ音源を渡してます。それを聴いた上で、メンバーが演奏した各パートの録音データを送り返してもらって、私がそのデータを編集するというやりとりを繰り返してます。
カイチ:例えばドラムだったら、佐合さんが送ってくれたデータを聴きながら僕がスタジオで叩いたものを録音して、佐合さんがその中から気に入ったフレーズを切り貼りしてドラムパターンを完成していく感じです。
SAGO:で、最後はスタジオで一発録りです。
——今回のシングルのA面『Spring is cold』は佐合さんと男性メンバーの掛け合いがあったりしてバンドで演奏することが前提になっている印象です。
SAGO:まさにそうです。今年の春くらいにSAGOSAIDのメンバーがだいたい決まって、最初の予定とは違ってかなりバンドっぽい活動ができそうなことが分かった頃に書いたので、バンドとして演奏するということを強く意識しました。
——一瞬ポップなリフだなって思わせて、どんどんギターの音が外れていくイントロのギターがかっこいいんですけど、あれは佐合さんが考えたんですか?
SAGO:そうですね。でもあの音が外れていく感じって、理解してくれる人としてくれない人がいるんですけど、シンマ君(Shimmaboy)は感性が近いからか、それを理解してくれるし、完全に自分のフレーズにして弾いてくれるんです。
Shimmaboy:好きなものとか、音楽観とか感性が似てるっていうのはすごく感じてます。それが無ければ僕は一緒にできない。
——あのフレーズにはSAGOSAIDのカッコよさが凝縮されているように思います。すごくポップでグッとくるフレーズなのに、それを崩したり放り投げることを恐れないというか。
SAGO:私はなんていうか、外さないと飽きちゃうっていうか…癖かな。
——例えば初期ジーザス&メリーチェインとかヴァセリンズみたいな、あえて思いっきりラフな感じでやっちゃって、かつポップなカッコよさのあるバンドって日本にはあんまりいない気がします。
Shimmaboy:佐合さんのローファイ魂(笑)。
SAGO:たぶん崩さずにもつくれるんですよ、全然。でも恥ずかしくなってきちゃうんですよ、王道なんだけどこれ、って。
——そういう佐合さんの独特の感覚は、他のメンバーの皆さんは共有している?
カイチ:she saidの頃と比べても、佐合さんの曲に対するヴィジョンがより明確になった感じがしますね。デモをかなり作りこんでいるので、佐合さんの理想とするところがよくわかるようになっているというか。
——佐合さんとしては、自分の理想に近づいている手応えはありますか?SAGO:もうすごいあります。デモの制作過程で密にやりとりしてるので、生で合わせた時の感動がもうヤバいです。スケジュール的に毎週練習するとかは無理なんですけど、そういう中でも「これこれ!」ってなった時の感覚とか。
——ちなみに佐合さんにとって楽曲制作ってどういうものですか?
SAGO:これを言っちゃうと他のミュージシャンのインタビューと比べてちょっとまずいかもしれないけど…ストレス発散ですね。楽曲をつくらないと生きていくのが辛い。
——それはめちゃめちゃいい答えですね。
SAGO:ストレス発散とか言うと、もっと大事なものを込めろよって言われるかもしれないんですけど。本当に曲作ってる時だけは生きてるって感じがして、一番楽しいです。
——ストレス発散と言い切れるところがSAGOSAIDにしかないカッコよさを生んでるような気がします。
SAGO:でも他のアーティストとかのインタビュー読むとなんかすごいなって思います。自分はただイライラしてるだけだったりとかするんで。感情的な音楽だし、そういう音楽が苦手な人もいるだろうなって。
——確かにSAGOSAIDはストレートな感情も伝わるんですけど、それがすごくポップに聴こえるところが天性のセンスなんだと思います。
木村・Shimmaboy・カイチ:そう思います。
——ちなみに発散したいストレスの原因は仕事ですか?
SAGO:はい…。どうしても朝になると「鳥の声が聞きたい」とか思っちゃって会社に行きたくなくなる。
——鳥…?
SAGO:なんでみんな朝ちゃんと目を覚まして、ゆとりがない状態で出勤して、気が付いたら日が暮れてるみたいな生活ができるんだろ…っていう思っちゃう。そう思えば思うほど曲はどんどんできるからいいんですけど(笑)。
——いやリスナーとしてはありがたいですけど。
SAGO:こういう弱い感情を他人に吐露するってメジャーなことじゃないじゃないですか。でもこんなやべーやつもいるから、みんな会社休めという気持ちで書いてます。
——僕も長いことサラリーマンやってますけど、月曜日は今でも涙目です。
SAGO:ですよね。
——鳥の声を聞きたいと思ったことはないけど。
SAGO:今Sound cloudにあげている『Missing Bird』はそういう曲なんです。やっぱり東京には鳥いないなっていう…。
——そういう感覚は今回の曲の歌詞にも表れているような気がします。一般的には希望や温かさの象徴とされる「朝」や「春」という単語の意味を反転させるように使っていて。特に、『Spring is Cold』つまり「春は寒い」と端的に言い捨てる感じは反抗的であると同時に繊細な感じがして、シビれました。
SAGO:ありがとうございます。そうですね、春が来ても、朝が来ても、なんとなく悲しいしイライラする。もちろん楽しいときも多いんですけど、いつも相反する感情全部あるという感じです。
——あと「セブンイレブンのコーヒーで洗い流したい 汚れたスニーカーが鳴らす音」という表現も、街の喧騒とそこで生きている若者の姿を生々しく浮かび上がらせているようでハッとしました。佐合さん、作詞は好きですか?
SAGO:作詞はあんまり好きじゃないんですけど、いつも個人的なことを書きたいなと思ってて。でもだいたい自分の周りはみんなセブンのコーヒー飲んでスニーカー履いてるし、これは個人的なことというだけでもない(普遍的な)ことを書いたのかなと今思いました。
——ところで、これまでにテープを2本出しましたけど、リアクションはどうですか?
SAGO:いや本当にありがたいことにファーストシングルの『Littele Heaven』は思ったよりもすぐ売り切れて、ライブも誘われるようになったし、やっぱり音源を出すって重要なことなんだなって思いました。
——でもカセット・シングル一本でそこまでの手応えを感じられるっていうのは、『Little Heaven』という楽曲の持つ力だと思います。
SAGO:そういえば『Little Heaven』のデモをメンバーに送った時も反応が良くて、ああこの曲はいけるんだなって思いましたね。でも自分的にはああいう明るいポップなメロディの曲をやるのに慣れてなくて。演奏しているとちょっと恥ずかしい気持ちになるところあるんですよね。
——そうなんですか? 確かにライブでもさっと演奏してる印象でした。あんな名曲、普通のミュージシャンだったら思いっきりためてためて演奏する感じだと思うんですけど。
SAGO:自分としてはB面の『What to do』って方が自分らしい曲って感じがしてますね。
——今回の2曲はどうですか?
SAGO:B面の『Pastime』の方が自分的にはしっくりきて落ち着くんですけど、やっぱり少しshe saidの時とは違う面を見せたいというか、爆上げバンドサウンド聴かせてやるぜ!みたいな気持ちで『Spring is Cold』をA面にしました。
——she saidとの違いみたいなものは意識しますか。
SAGO:結構それはありますね。メンバーが決まってない時につくった曲はそうでもないんですけど、このメンバーになってからはやっぱりこのフレーズをこの人に弾いてもらいたい、という気持ちでメンバーに寄せてつくるようになっているので。
——4人で演奏する相乗効果が出るように?
SAGO:そう。まさにそういう感じです。
——佐合さんが「自分らしい」とおっしゃったB面の2曲はセンチメンタルな感情を強く感じさせるという共通点があると思います。こういう曲を自分らしいと思うのはなぜだと思いますか?
SAGO:寂しすぎてどうしたらいいかわからないとか、人と遊んでたら朝になってマジで時の流れがつらいとか、歌詞ですんなり書けてる感じが自分っぽいかなと思います。強くなりたいっていつも言ってるけど、本当は弱いままで許されたいという本音が曲に出てるなって思います。
——「本当は弱いままで許されたい」という感覚は常に自分をプロデュースしなきゃいけない強迫観念に覆われている今の時代においては、特に大切なメッセージのような気がします。ところで、今後の活動予定は?
SAGO:できるだけ早くアルバムのレコーディングをしたいなとは思ってます。でもその前にカセット・シングルも出したいです。シリーズというか、モノとしてあのテープが3本並んだらかわいいだろうなって思って。三部作にしたいなと。
カイチ:思った以上にライブに誘ってもらうことが多くなったこともあって、アルバムのレコーディング日程が取れないんです。
——あのテープはジャケットもカッコ良くて、プロダクトとして保有する喜びがありますよね。他に言い残したことはありますか?
Shimmaboy:やっぱり僕は佐合さんの曲はいろんな人に届いていくべきだし、絶対いろんな人の心に響く音楽だと思ってるんで。頑張ります、という気持ちです。
——めちゃめちゃいいこと言ってくれてます!
SAGO:メンバーがみんなバンド感持っててくれてびっくりした! 『シングストリート』(アイルランドを舞台にした青春バンド映画)とか観てると、「バンドの絆みたいな、いいところだけ切り取ってよぉ!」とか思うんですけど、なんかこのバンドも熱い奴そろったなみたいな(笑)。
カイチ:やっぱりシンマ君が入ることによってバンドが加速した感じがあるんです。
木村:それはあるね。
SAGO:私は男子メンバー3人が仲良くしてるの見るのが楽しいんですよ。『スタンドバイミー』を観てるみたいな感じで。少し前までは女だからってなめられないように!とか、そのためには音楽に詳しくないと!みたいにいつも気を張っていたんですけど。今は自然に音楽を楽しめるようになりました。
木村:僕とカイチ君の共通の特技は、インスタでこれから売れそうなモデルさんを発見するってことなんですよ。僕がこのモデルさんいいなと思ってフォローしようとすると、先にカイチ君がフォローしてて悔しいんですよね。そこは負けたくないんで。
——そうやってバンドの絆を深めているんですね。
SAGO:でも(元ソニック・ユースの)キム・ゴードンも、女の子の話をして盛り上がってる男性メンバーの真ん中に立って演奏するのがいいんだみたいなこと言ってた気がする。
木村:じゃあこれからも日々精進するわ。
SAGO:男・女だけじゃなくて、日本のバンドとかアメリカのバンドとか、見た目とか枠組みで判断して分類するようなことを、自分を含めてみんな無意識にやっていると思うんですけど、そういうものからもっと自由になりたい。でもそれを強く思いすぎると逆に自由じゃなくなるし、結局自分は自分にしかなれないし…という葛藤もあって。そういうこのバンドならではの人間味みたいなものを楽曲から感じてもらえればいいなと思ってます。<了>
Text By Dreamy Deka
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2019年7月/SAGOSAID「Little Heaven」
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