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【ビートルズの遺伝子を考える #3】
パワーポップは今どこに向かっているのか?

 
27 November 2019 | By Masao Nakagami

「パワーポップ」と一言で言っても色々な解釈がある。だいたいにおいては読んで字のごとく、パワーがあってポップ、ということでいいと思うんだけど、どんどん解釈が拡がって、ティーンエイジ・ファンクラブってパワーポップだよね、とか、オアシスもパワーポップだよね、という話も聞くと、まあそう言えないことはないけどね…としか言えないわけだが、僕自身パワーポップってどういう音楽?という定義に関する議論をしたり文章を何度か書いたりしてきて、ある程度自分の中ではこれだ、というものがあるし、それを長い間頑固に言い続けていたというのもありつつ、でも、言葉の意味は時代を追うとともに様々な解釈を得て変化してきているというのは事実なわけで……世の中は変化していくものだ。この文ではそんなパワーポップの変遷をざっと追えればと思う。日本のバンドについては別の機会があれば書くが、字数の関係で海外の流れに絞る。

ここに1枚のコンピがある。タイトルは『Power To The Pop』。日本で独自に編纂された2枚組オムニバス・アルバムだ。タイトルはパワーポップのようであるが、このコンピの編集テーマは「ビートルズの遺伝子」を継ぐもの、ということのようで、『Power To The People』のもじりなのかもしれない。僕自身のパワーポップ観からすると「?」なバンドも収録されているし、それこそオアシスも含まれちゃうんだ…とも思うが、あくまでもビートルズの遺伝子を持ったバンド、楽曲のコンピである、という意味では楽しめる内容である。これをきっかけにいろいろ掘り下げるのも楽しいとは思う。

そこで、このコンピレーション・アルバムをひとつのきっかけに、長年パワーポップを聴いてきた僕が考えるパワーポップについてここからは書いてみたい。

パワーポップの起源はビートルズというよりも「パワー」と「ポップ」の両方を体現していることを自称したザ・フーであると一般的に言われている。なので、直接的なルーツといえばザ・フーであり、その後の一部のグラム・ロックなどがパワーポップのルーツと言える。

しかしながら、僕が2000年前後よりスクラフスやフラッシュキューブスなどアメリカのオリジナル・パワーポップ・バンドが来日した際に色々話してみると、多くのバンドがビートルズからの影響について話す。特にポール・マッカートニー的なるものについて。なので、このコンピが示すような「ビートルズの遺伝子」というものがパワーポップのルーツの一つであるというのはあながち間違いではないなと考えるようになった。さらにビートルズの影響下ということであればアップルからリリースのあったバッドフィンガーこそがパワーポップ観点で言うなら直系というにふさわしい。要するに、甘酸っぱさとガッツを兼ね備えたポップなロックンロールこそがパワーポップだ。

パワーポップの源流としてはフーやスモール・フェイセズ、そしてビートルズなどが挙げられるだろう。バッドフィンガーと同時進行的にそのエッセンスがアメリカへ影響し、初期のパワーポップが生まれてくる。それは近年『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のサントラでも注目されたラズベリーズだったり、ビッグ・スター、ブルー・アッシュ、ドワイト・トゥイリー・バンドなどがそれにあたるが、ムーヴメントというよりは個々のバンドの音楽的立ち位置としてのパワーポップであると言える。

そのようなバンドたちの下地があり、パンク・ロックのあとの流れ、ポスト・パンク、ニュー・ウェイヴの一つの形として結実したパワーポップの人気が爆発するわけだ。USではナック、プリムソウルズ、20/20など、UKではレコーズ、ブラム・チャイコフスキー、ニック・ロウなどがその核をなしていた。ポップなテイストのあるパンクとパワーポップの境界は曖昧ではるが、それは聴く側の解釈によるだろう。これらは米ライノのDIYシリーズなどでまとめて聴くことができるので、音源へのリーチは比較的簡単なので、ここではカンサスにあった《Titan》レーベルを紹介したい。ここのレーベルのバンドたちは大きなヒットを飛ばすことができなかったが、今日振り返る形で聴くならば最高峰のパワーポップをリリースしていたレーベルである。数々の丁寧な再発仕事で知られるヌメロ・グループより編集盤が出ているのでぜひ聴いて欲しい。

※Numero Groupによる《Titan》レーベル編集盤『It’s All Pop』トレイラー動画


大きなムーヴメント、流行のあとは下火になるのが世の常であり、80年代中期から後期はスリー・オクロック等その流れを継ぐ個々のバンドの音楽性というところに戻っていくが、後年評価されたバンドとしてはカイル・ヴィンセントや、のちにガンズン・ローゼスに加わるギルビー・クラークを擁していたキャンディの存在が大きかった。

80年代終わりから90年代初頭になるとインディ・ロック/オルタナティヴの流れからパワーポップの要素を持つバンドが台頭してくる。ポウジーズ、ヴェルヴェット・クラッシュ、マシュー・スウィート、ジェリーフィッシュ等。イギリスではシルヴァー・サン、オーストラリアからはDM3などが注目されるが、ウィーザーの登場とチャート・インはシーンに大きなインパクトをもたらし、パワーポップを再びメインストリームに呼び戻した。その後に続くバンドは「ウィーザー以降」みたいな形容詞で語られることも多く、90年代から00年代までのパワーポップに大きな流れを作った。その流れにいたカーラズ・フラワーズというバンドは1枚のアルバムを出したあとに音楽性を変更しマルーン5として再出発し大成功を収める。つまりカーラズ・フラワーズはパワーポップと言えるがマルーン5は非パワーポップ、と思う。そんなのどうだっていいじゃないか、と言われればそのとおり。だけど、そこまで解釈を拡げてパワーポップという必要があるのか?という話である。そして僕としてはカーラズ・フラワーズの方が好みである。演る側としては成功した方がいいのだろうけど。

「ウィーザー以降」時代はその後長く続くのではあるが、多くのバンドはメジャーのシーンではなく、インディーでの活動になる。ここでもギター・ポップ、オルタナ、エモ、ポップ・パンクとさまざまなジャンルとの境界は曖昧であるが、70年代のパワーポップを指向しながらガレージ・パンクの流れで発生しているバンドとして2000年代初頭のエクスプローディング・ハーツの登場は、ひとつの大きな流れを作った。彼らの人気は絶大でメジャー・デビューも噂されたが、4人中3人が交通事故で亡くなるという悲劇があり、それは叶わなかった。唯一残したアルバムはカルト的存在となり、その影響下でザ・クライ!、ジェントルマン・ジェシーたちが活躍、人気を博してきた。またバーガー・レコードのカセットが人気となるなど、パワーポップ的なものがメインストリームとは別の形で拡まり、若いリスナーを獲得してきた。

その後、インディー・ロック的な流れとパンク的な流れ、それぞれが一定の層を保ちながら今日に繋がっている状況であるが、そいういった中でまた転機を生むバンドとしては2010年代に入って登場したリタラチャーが挙げられるだろう。リタラチャーは、そのキラキラとした音像からどちらかというとギターポップの要素が濃いという見方が多いが、パンクを下敷きにした疾走感のある演奏とメロディはパワーポップの進化形として見ることができる。インディー・ロック、ギターポップ、パワーポップ、パンクの交差するところに存在し、幅広い人気を得た。結果的にメインストリームに浮上することは無かったが、このバンドの持つ雰囲気がインディー、パンクの一つの形として拡がり、共感を得ているということはここ数年のシーンからは感じ取ることができるだろう。個人的にはリアル・エステートがナーヴスのカヴァー(「Paper Dolls」)をやっていたりするというのにもインディー・ロックにパワーポップの流れが根付いている現象だと思っている。

2010年代も終わろうとしている今、また画期的なバンドが現れるのか?新しいバンドを探すなら、例えばbandcampで”powerpop”ってタグで検索掛けてみたりすると新しいバンドに出会えることは多いので、レコードやCDというよりもそういう聴き方がメインになってくるのかな、となんとなく考えている。最後に手前味噌であるが、僕がリリースしたバンドを、中国、北京にもこういうバンドがいるというのを紹介して終わりにしたい。シノ・ハーツはオーストリアでディークラックスのメンバーもやっていたジョンが北京に戻りメンバーを集め直して活動しているバンド。ここでいうところのパンクの流れにあるバンドだとは思うが、中国やアジア圏にもいろいろ拡がりだしているのもネットのおかげであるから、みなさんもbandcampだったり、Youtubeの関連動画だったりでいろいろ掘っていくと面白いと思う。

さて、ここまで大まかにパワーポップの流れを追ってきたわけだけど、ビートルズの遺伝子は現在のパワーポップに息づいているのか?というと、悩んだ末に「ある」という回答になるだろう。今、バンドを始める若者たちがビートルズを聴いて始めた、というような直接的で判りやすい影響ではないにしろ、そのエッセンスは形を変えながら現代のバンドにも息づいている。(中上マサオ)

Text By Masao Nakagami


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