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パーセルズ最新作『LOVED』
“オーストラリア×ディスコ”で聴き直す転換点

19 December 2025 | By Kei Sugiyama

パーセルズの10年とサウンドの変遷

本稿の主人公であるパーセルズ(Parcels)は、オーストラリア・バイロンベイ出身の5人組バンドだ。結成から半年でドイツ・ベルリンへと拠点を移したが、そのきっかけのひとつとなったのが、ザ・ホワイテスト・ボーイ・アライブ(The Whitest Boy Alive)のベルリンでのライブ映像を観たことだったと、彼らは過去のインタビューで語っている。現在は3人がベルリン、2人がシドニーを拠点にしており、結成から10年を迎えたバンドは、ひとつの転換点に立っているのかもしれない。

https://youtu.be/F7H0X3lMcus?si=EzEa9UCXrp2tB2Bz

※おそらく彼らが観たのはこの映像だと思われる。

フランスのレーベル《Kitsuné Musique》から声をかけられ、ダフト・パンクがプロデュースした「Overnight」が話題となったことで、彼らは一躍注目を集めることになった。この楽曲からも分かるように、パーセルズの楽曲は、70〜80年代から影響を受けたファンク/ディスコと、現代的なエレクトロニックミュージックとが相まった独特のサウンドだと評されてきた。特にこの曲は、ダフト・パンク「Get Lucky」によりポップシーンに再び迎え入れられたシックのナイル・ロジャースの系譜を感じさせるものだった。

彼らのデビュー・アルバム『Parcels』は、そうしたサウンドの延長線上として制作され、それこそダフト・パンク『Random Access Memories』のメローな瞬間だけを抽出したような作品だったのではないだろうか。コロナ禍で制作された前作『Day/Night』ではより内省的な作品となった。さらに彼らの特徴でもあるアルバムごとにリリースされてきたライブ盤では、ハウス/エレクトロ色が強くなり、サウンドはよりソリッドな質感へ研ぎ澄まされていった。

新作『LOVED』とディスコへの回帰

そして、4年ぶりのスタジオ作品となる本作『LOVED』では、「Yougotmefeeling」や「Leaveyourlove」をはじめとして、ナイル・ロジャースを彷彿とさせる風通しの良いギターのカッティングが随所に顔を出す。ディスコ回帰という意味でファースト『Parcels』と共通する部分も見られるが、本作はよりフィジカルに訴えかける作品となっている。制作にあたって彼らは、ケイティ・ペリーの「Teenage Dream」や「California Gurls」、プラスティック・オノ・バンド、トータスをリファレンスとして挙げているが、ここではその中でもケイティ・ペリーに焦点を当てる。それは、『LOVED』がファースト『Parcels』よりも垢抜けた印象を与える要因のひとつとしてだけでなく、「オーストラリア」と「ディスコ」という文脈を加えたときに、彼らがこうしたサウンドを志向したことが必然のようにも感じたからだ。

オーストラリアとディスコの関係については、本サイトのカイリー・ミノーグ『DISCO』評にも書いたが、ディスコを含む80年代リバイバルと呼ばれるムーブメントの大きな潮流が、オーストラリアのシーンから立ち上がってきたのではないかと、私は分析している。それだけでなく、もう少し遡ってみるとディスコの代名詞とも言えるビー・ジーズだって、オーストラリアでレコード・デビューのきっかけを掴んだグループだし、「Physical」のMVで80年代の空気感を戯画的にパッケージングしたオリビア・ニュートン=ジョンもオーストラリア出身だ。

そして、パーセルズは本作でケイティ・ペリーを参照点とした理由のひとつとして、「California Gurls」などに見られる、ポップ・イメージを戯画化するような感覚だと挙げていた。ケイティ・ペリーのMVは、オリビア・ニュートン=ジョンが80年代にやっていたことを、2010年代版にアップデートしたものとも捉えられる。「California Gurls」は、ギター・カッティングの響きはナイル・ロジャースを彷彿とさせるし、明らかにディスコ・リバイバル文脈の上にある楽曲といえる。こうしたことを踏まえると、彼らが意図的であったかは分からないが、この参照点は「オーストラリア」と「ディスコ音楽」の関係をより強固なものとして提示する役割を果たしているのではないだろうか。

「オーストラリア×ディスコ」で聴き直す必然

ここで簡単に、オーストラリアとディスコの関係について概観しようと思う。まずは70〜80年代のディスコ(ビー・ジーズ、オリビア・ニュートン=ジョン、カイリー・ミノーグ)。続いて、2000年代のレーベル《Modular Recordings》を中心としたディスコ・リバイバル(カット・コピー、Gerling、エンパイア・オブ・ザ・サン、プナウ、レディホーク、テーム・インパラ)。そして2010年代以降の《Future Classic》(フライト・ファシリティーズ、フルーム(Flume))。ざっくりとではあるが、こうして振り返ってみると、オーストラリアとディスコの関係が浮かび上がってくると思う。ひとつの国に絞ってディスコ音楽を辿れば、同じような概観はほかにも可能だろう。しかし、ここで私がポイントだと思うのは、先述のように、現在の音楽シーンへとつながる2000年代の80年代リバイバル(ディスコ・リバイバル)の“発端”がオーストラリアにあったのではないかという点だ。欧米圏とは少し違う文化圏のあり方が興味深い。

そんななか、『LOVED』からシングルカットされた本作の代表曲「Yougotmefeeling」には、プナウによるリミックス盤が存在する。プナウは、80年代のエルトン・ジョン楽曲だけで構成された公式リミックス作『Good Morning to the Night』をリリースするなど、2000年代以降の80年代リバイバルを牽引してきたユニットだ。パーセルズはこれまでベルリンを拠点としていたこともあり、彼らとオーストラリアとの接点はあまり傍目には見えていなかった。しかし、近年シドニーにも拠点を置くようになったことが影響しているかは分からないが、ここにきてオーストラリアのディスコ・リバイバルを牽引してきたプナウとのコラボレーションが実現したことは、彼らがこうした文化圏から影響を受けてきたことを示しているのではないだろうか。

ファースト・アルバム『Parcels』をリリースするよりも前に、ダフト・パンクとのコラボレーションを果たし、フェニックスのライブのオープニングアクトに抜擢されたことで知名度を上げてきた彼らは、これまでフレンチ・タッチの文脈で語られることが多かっただろう。実際、そのサウンドもどこかフランス的な洒脱さを纏っていた。しかし本作『LOVED』、特に「Yougotmefeeling」などで顕著な、フィジカルに訴えるディスコチューンは、「オーストラリアとディスコ」という文脈から捉えた方が理解しやすいのではないだろうか。

文化の結節点としてのパーセルズ

こうしたパーティー感を押し出した本作は、彼ら自身が語るように、前作『Day/Night』で見せたコロナ禍における内省的な部分からの反動でもある。本作には、作曲のためにメキシコのマズンテへ赴きサーフィンをしながら作られた楽曲も存在する。そしてアルバムの随所にはザ・ビーチ・ボーイズを思わせるコーラスワークも見られるし、「Sorry」などはそうしたコーラスを魅せつつ、哀愁が漂いビーチにおける夕日を思わせたりもする。

ディスコ・リバイバルが始まってから四半世紀が経過したことで、80年代リバイバルもさまざまな方向から再検証されるようになった。そんななかでパーセルズは、フレンチ・タッチとオーストラリアのディスコ・リバイバル、その両方の文脈の結節点とも捉えられる。さらに、しばしばザ・ビーチ・ボーイズを引き合いに出される彼らがケイティ・ペリーを参照点としたことで、60年代と2010年代、それぞれのカリフォルニアを舞台にした作品という点において、この2組が不意に地続きのものとして提示されている。

加えて、彼らが参照点として挙げていたトータスは、オーストラリアのクイーンズランドやカリフォルニアなどを舞台にしたサーフィンのドキュメンタリー映画『スプラウト』のサウンドトラックに「Salt The Skies」を提供しており、パーセルズのメンバーはこの映画をよく観ていたそうだ。こうしたエピソードを辿っていくと、私たちが日頃、無意識のうちに引いてしまっている境界線の向こう側で、実は多くの文化が静かに結びついていることに気づく。パーセルズの音楽は、そうした見えづらい文化同士の共通点を、思いがけない角度から照らし出してくれる結節点として、今後も機能していくのではないだろうか。

(文/杉山慧 写真/Drew Wheeler)


Photo By Drew Wheeler

Text By Kei Sugiyama


Amazon Music Presentsより「Overnight」「Sorry」スタジオ映像公開中!

スタジオパフォーマンス映像がYouTubeにて視聴可能。なお音源は、Amazon Music限定の2曲入り作品『Amazon Music Presents… Parcels』(「Sorry」「Overnight」収録)として配信されている。

Parcels

『LOVED』

LABEL : Because / VMG
RELEASE DATE : 2025.9.12
購入はこちら : UNIVERSAL MUSIC STORE

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