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「割り切れないことや不確かなことがあっても、
最後は“僕と一緒に行こう”」
リ・ファンデが語る真っすぐでロマンティックな新作『SHINKIROU』

08 December 2021 | By Dreamy Deka

奇妙礼太郎、真舘晴子(The Wisely Brothers)など多彩なゲストと共にソロ・デビュー・アルバム『HIRAMEKI』(2020年)を作り上げたリ・ファンデが、2021年12月8日にセカンドアルバム『SHINKIROU』をリリースした。SaToAのSachiko、Tomokoをはじめ小林直一(Mountain Mocha Kilimanjaro)、村上基(在日ファンク)といった鉄壁のバンドメンバーに、エマーソン北村、サモハンキンポーこと松下源(思い出野郎Aチーム)を加えた布陣で鳴らされるサウンドは、これまで彼が追求してきた、オーセンティックなソウル・ミュージックとコンテンポラリーなポップ・ミュージックの融合というリ・ファンデの音楽性の集大成と言ってもいい作品となっている。青いメロディーはより清々しく、情熱ほとばしるグルーヴはより濃厚に。各地のFM局でパワープレイされた代表曲「SHINING」を彷彿とさせるタイトルトラック「蜃気楼」から始まり、灯りが消えていく深夜の街を見守るような「RUN」で幕を閉じる全10曲。外へ外へと開かれたエネルギーは、聴き手の音楽的バック・グラウンド、暮らしている場所といった環境要因をものともせず、ひたすらまっすぐに、誰もが持つ感情と記憶に深く届いていく普遍性がある。

コロナ禍という、とりわけ彼のようにインディペンデントな環境で活動するアーティストにとっては、心が挫けても不思議ではないほど強い向かい風の中、かくもポジティブなエネルギーに満ちた作品を生み出すモチベーションとは何か。彼にとって音楽を作るということはどういう意味を持つのか。制作期間中に東京を離れ、今は海の近くの街に暮らすリ・ファンデに話を聞いた。
(インタビュー・文/ドリーミー刑事)

Interview with Lee Hwangdae

――前作『HIRAMEKI』は初のソロ・アルバム。しかも完全自主リリースという、制作からプロモーションまで自分でやり切るという、いわば一大プロジェクトだったわけですが、ご自身の手応えはどうでしたか?

Lee Hwangdae(以下、L):手応えっていうと大げさですけど、熱のようなものは伝わる人に伝わったと思っています。その熱が届いた人が、ラジオや記事で取り上げてくれたし、あのアルバムが好きですって言ってくれる人も多かった。僕があのアルバムの制作にあたって考えていたことが、世の中の空気にマッチしてきた部分もあったのかなと思っています

――“世の中にマッチしてきた部分”とは具体的にどのようなことですか?

L:上下の関係やそれぞれの役割を固定せずに、フラットな関係性の中で作品を作るということですね。ゲストで参加してくれた奇妙礼太郎さんや真舘晴子ちゃんやSaToAも含めたみんなが、ONKIO HOUSEというスタジオに集まって、アイデアを出し合いながら一斉につくるというやり方。そこに打算やビジネスみたいなものがなかったからこそ、リード・トラックの「SHINING」みたいなキラキラした曲が生まれたんじゃないかなと思っています。そうやって生まれた曲がラジオから流れるというところに、すごく今らしい、フラットな社会の雰囲気を感じました。

――自立した個人が集まって、一つの作品をつくるということですね

L:音楽だけじゃなくて社会全体の活動を見ても、どっちが上とか下みたいな階層的な関係はもう古いと思うし、そのやり方では僕は良い作品をつくれないと思ったんです。お金じゃなくて、同じ志を持った人たちが集まって作った作品だからこそ、伝わる力があるんじゃないかって。

――とはいえ音楽以外の仕事もしながら、ソロ・アーティストとしてアルバムとして発表するのって、ものすごく大変なことだと思うんですよ。わずか一年後に次作を出そうと思った原動力はどこにあったのでしょうか。

L:やっぱり作品を作るということには、何事にも代えがたい喜びがあるんですよね。楽しいんです。あとはやっぱり憧れですよね。ボブ・ディランであったりアレサ・フランクリンであったり、マーヴィン・ゲイ・・・。音楽以外にも色々な職業がありますけど、曲をつくって歌をうたうミュージシャンに対する変わらない憧れがある。そういう人達に自分も繋がっていたい。そしてやっぱり作品を出すといろいろな反応があるんです。前作を出した時も《JET SET RECORDS》さんから“7インチ出しませんか”と声をかけてもらったり。自分の作品という幹から、そうした枝葉が伸びていく感じはやっぱり楽しいですよね。

――そうして生まれた新作『SHINKIROU』はソウル・ミュージックをベースとしたポップスというリ・ファンデの音楽性の集大成という印象があります。“こういうアルバムをつくろう”というイメージはあったんでしょうか?

L:これまでで一番“こういう作品がつくりたい!”という思いが強かったですね。まっすぐで、さわやかで、鮮烈なもの。以前コーヒーの会社に勤めていたので、よくコーヒーを飲み比べていたんですけど、ケニアという豆を飲んだ時に、自分が勝負するならこういう音楽だなって思ったんですよ。飲み口が良くて香りが豊かで。だからアルバム全体として、まっすぐ前へ突き進むような。それでいて今作はとにかくロマンティックなものにしたかった。映画『グランブルー』のように。

――なるほど。

L:僕にとってのロマンチックって、不確実な状況でも“きっと大丈夫だよ”とか“僕を信じてついてこないか”という、ちょっとキザなことを言えることなんじゃないかと思っているんですよね。割り切れないことや不確かなことがあっても、最後は“僕と一緒に行こう”と言えること。それがこのアルバムで表現したかったイメージですね。

――基本的なバンド・メンバーは前作と同様ということもあり、サウンドの成熟感や完成度が高まっているように思います。

L:やっぱりこのメンバーで鳴らすべき音の方向性や道筋みたいなものが見えているので、みんなのびのびと演奏できたと思います。そこにゲストとしてほぼ全曲参加してくれたサモハンキンポーさんのパーカッションの音が加わって、さらにピチピチとした躍動感が生まれました。

――5曲目の「SMOKY」はリ・ファンデ流ソウル・ミュージックの総決算でもあるような曲だと思いますが、特にパーカッションが効いてるように思います。

L:サモハンキンポーさんは助っ人というよりは、音楽を一緒につくる仲間の一員という立場で参加してくれたと思います。アイデアもたくさん出してくれて。10曲目の「RUN」でリズムマシーンを使っているのはキンポーさんの提案です。「SMOKY」のプレイも素晴らしくて、ミックスの池田洋さんも思い切って音を前に出してくれたので、アルバムの中の音楽的な聴きどころになっているんじゃないかと思いますね。ぜひ静かな環境で大きな音で聴いてみてほしいですね。

――この曲はアルバムの核であり、中盤のクライマックスですよね。

L:フランス人の友達がいて、日本語がわからない彼にも伝わるグルーヴの曲を入れたいなと思っていたんですね。で、この曲は妙義山という群馬にある、竜が出てきそうな険しい山に行った帰りにできた。だからこの曲は言葉がなくても伝わる開かれたソウルのグルーヴと、日本昔ばなし的な世界観が融合している感じかもしれない(笑)。さらにそこにスタジオでみんながタバコを吸っている風景なんかも混ざったりして・・・。言葉では説明できない色々なシーンがアメリカン・ニュー・シネマのように入り込んでいますね。

――リさんの書く歌詞はきっと具体的な事象がモチーフになっているんだろうなと想像させつつも、それを分かりやすく固定されたメッセージにはしないという特徴がありますよね。だからこそ聴き手それぞれの感情をゆだねられるのかなと思うのですが。

L:例えばサッカーの試合を見てすごく感動したとしても、その感情はその試合だけが生んだものかどうかは分からないじゃないですか。そのちょっと前に友達とコミュニケーションがうまくいかなかったとか、何かを諦めてしまったりみたいな出来事があったりしたからこそ、その試合が感動的なものに映ったのかもしれない。人間の感情って、ある一つの出来事では語れない、複雑なグラデーションを持ったものだと思っているんです。だからただ一つのメッセージに集約されるということは基本的にないように思っています。

――確かに、私を含めて世界中の人がその日に起きたことをSNSで端的に記録していく時代ですけど、そこで単純化しきれない感情や出来事もあるはずなんですよね。リさんはそういう見過ごされてしまう感覚と誠実に向き合っているのかもしれない。

L:でも、そういう自分でもよくわからない感覚を曲にしようとするのですが、スタジオでバンド・メンバーと一緒に音楽として仕上げる時は、例えば明確なサビとか踊れるリズムとか、音楽の決めごとのようなものから逃げたくはないんです。やっぱりみんなが聴いてアガれるものを作りたい。だから言葉にならない感情を、最後はみんなで勇気を出して一つの音楽にしていく。そうすると最後の最後で“あ、俺はこの曲とこの歌詞でこういうことが伝えたかったんだ”と自分で気付く瞬間がある。それはバンドメンバーと一緒にやってるからこそ生まれる、魔法的なものだと思いますね。

――例えばアルバム・タイトルにもなっている「蜃気楼」という曲はどうでしょうか。フィジカルでは会えないけどオンライン越しでは会うことができる、コロナ禍以降の状況から感じたことを歌ったようにも思えたのですが。

L:これは個人的なことなんですけど、最近引っ越しで東京を離れたんです。その時に感じた不安や心配がベースにあると思います。その東京を離れる選択が間違いじゃなかったと思えるようにするために、楽曲に落とし込むという選択を無意識のうちにしたんじゃないかと思っています。なんというか、場所は変わるけど気持ちは繋がっているはず、という普遍的な感情を曲にしている気がしています。

――この曲はエマーソン北村さんのキーボードがすごく効いてますよね。9曲目の「パンフレット」もそうですが、イントロからすごくワクワクさせてくれるし、格調高い感じすらあります。

L:エマーソンさんはずっと好きなキーボード奏者だったので、一緒に音楽を作れる機会があれば最高だなって思っていました。エマーソンさんの体調の問題で一緒にスタジオには入れなかったんですけど、その分楽曲に対する思いをメールでしっかりお伝えすることができたし、それに対して自分では想像もできないようなフレーズで返してくれて・・・。大先輩にフラットな関係と言うと失礼になっちゃいますけど、この曲を作っている瞬間は同じ気持ちになれたような気がしました。

――エマーソン北村さんはキャリアも長くて音楽性の幅も広いのですが、どういう部分に期待したんですか?

L:具体的な音楽性というよりは、一度対バンした時に話をさせてもらった時に、エマーソンさんとならワクワクしながら、自由な気持ちで音楽を作れそうだし、自分の音楽に魔法のようなものをかけてくれるんじゃないかという予感がしたんです。実際その通りになりましたね。

――演奏面で言うと、ギターを中心にアイデアと変化のあるフレーズが多いような気がしましたね。「Dress」のちょっと遠くに連れていかれるような音像とか。

L:サウンド面で全体的に意識したのはディズニーランドのスペースマウンテンとかのイメージですね。ドリーミーでロマンチックな気分。とにかく80年代とか90年代の、今ほど技術は進化していないけど宇宙やSFへの憧れが強かった時代の手づくり感が愛しく感じられて。そういうイメージをバンド・メンバーに伝えて演奏してもらいました。

――確かに2曲目の「あやふや」のビートは未来的だけどちょっと懐かしい感じがします。

L:あれは『スターウォーズ エピソード6』でハン・ソロをルークが助けにいく場面で踊っているモンスターたちのかわいさにインスパイアを受けてますね。ポコポコ鳴ってるパーカッションの音とか。手づくり感のあるSFがいいんですよ。こういう雰囲気をハイムにも感じてよく聴いていましたね。あとは80年代のシンディ・ローパーとプリンスとか安全地帯とか・・・。この曲の中に「思い出してる」って歌詞が出てくるように、僕は85年生まれなんですけど、昔自分が見たもの、聞いたものや感じたことを見つめ直す時期なのかもしれないですね。その上で、自分たちが楽しく気分よく生きていくために必要なことは何なのか、必要な情報は何なのか。もっと言うと、その上で自分が新しいものを作る必要があるのかということを考えたり。

――東京を離れた新しい環境で暮らし始めたことで、刺激を受けることもありますか?

L:東京から遠い街で暮らすことで、音楽をつくる環境としては苦労することもあるだろうなとは思っています。でも僕が住んでいる場所は神域と呼ばれているらしいんですよ。大きな神社の近くにあって、海も近いし。今はこういう環境で本を読んだり音楽をたくさん聴いて研究したい。という気持ちです。いったん一人で本当に自分が何を作りたいのかを見つめ直したいですね。

――でもこの『SHINKIROU』というアルバムがいろんな人に届いて、その反響が次作への刺激になるかもしれませんね。

L:いや、もうそれは本当にまだ蜃気楼です(笑)。自分が歌うだけじゃなくて誰かに曲を書いたりもしたいですね。

――ちなみにミュージシャンってなんとなく、“この人は歌いたい人”、“メッセージを届けたい人”、“素敵なメロディーが書きたい人”というような優先順位があると思うのですが、表現者としてのリ・ファンデのモチベーションはどこにありますか?

L:最初はやっぱりシンガーになりたいっていう気持ちだったんですけど、それがめちゃくちゃ強いわけでもない。自分でも分からないですね・・・。でも昨日、家族とご飯を食べていて思い出したんですけど、僕は子どもの頃にずば抜けてハーモニカが上手かったんですよ。人の曲を聴いてパッと演奏するという能力が異常に高くて、クラスメイトよりもずっとたくさんの曲を吹いていたんです。今はその能力は消えてしまったかもしれないけど、本当に愛がこもっている音楽に触れると、友達と話した会話や記憶や世の中で起きていること繋がる瞬間があるんです。それを自分の音楽として形にしていきたい。それが一番大きな動機かもしれないですね。<了>


リ・ファンデ

SHINKIROU

LABEL : Lee Hwangdae
RELEASE DATE : 2021.12.08


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リ・ファンデ

HIRAMEKI

LABEL : Lee Hwangdae
RELEASE DATE : 2020.10.14


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Text By Dreamy Deka

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