「不良は不良でも結構ヤンキー漫画みたいな。ワルぶってるけど無垢で」
オアシス『(What’s the Story)Morning Glory?』
新連載《個人的な感想》
今年ソロ・プロジェクト「想像力の血」として鮮烈なファースト・アルバム『物語を終わりにしよう』をリリース、ムーンライダーズやKID FRESINOのサポートでも知られるミュージシャン/プロデューサーの佐藤優介が、誰もがよく知る名盤をユルく語る連載をスタートさせます。その第一回目は、いよいよ再結成来日コンサートが始まるオアシスのセカンド・アルバム『(What’s the Story)Morning Glory?』。自ら「オアシスよりブラー」と認める佐藤が、今改めてこの大人気アルバム、そしてオアシス自体をどう聴くのか? その魅力に迫ります。(聞き手/岡村詩野)
──優介さんはオアシスの来日公演は見に行くんですか?
佐藤優介(以下、S):東京ドームですよね……武道館とかもそうだけど、音がモコモコすぎて、どんなに好きな人を見に行っても何ともいえない気持ちになって帰ってくるんで……(笑)。《O-nest》とかでやってほしいですね。半年くらい貸し切って(笑)。
──私は実はオアシスの来日公演はかなりの数を観ていて。最初は94年で《渋谷クラブクアトロ》だったんですけど……。
S:《クアトロ》だったら観たいな!(笑) デビュー直後くらいですか?
──そうです。ファースト・アルバムを出した後。ドラムも初代のトニー・マッキャロルがまだいた頃。もっというと、私はイギリスでアルバム・デビュー前のライヴも観てるんです。それでインタヴューをする機会があったんですが、ノエルとリアムどっちかに取材をすることができますよってことになって、一緒にイギリスに行った他のジャーナリストの方々と二手に分かれるんですけど、私以外の人はみんなノエルに取材したがったんです。
S:曲を作ってる方、実質リーダーだから、話は聞きやすいでしょうね。
──でも、私だけ「リアムがいいです」って即答して。だから、日本からやってきたジャーナリストでいちばん最初にリアムにインタヴューしたのは私ということになりました(笑)。
S:でもたしかに、詞も曲も書いてない純粋なヴォーカリストから話を聞くのって、結構難しそうですよね。
──リアムの場合は、ステージ上のパフォーマンスがそれまでのロック・シンガーっぽくないじゃないですか。後ろで手を組んで歌うスタイルで、笑いもしないし、ぶっきらぼうで、ちょっと素っ気無い感じで歌うような。衣装も、汚いワークパンツ履いて、だらっとしたシャツを着て。
S:いわゆるロック・シンガー的なイメージに逆らいたかったんですかね。
──そのあたりをインタヴューで聞きたくて、そのときはリアムを選んだんです。そしたらやっぱり、ロック・シンガーの従来のスタイルへの反発があるってことを言ってましたよ。
S:なるほど。オアシスって、もちろん知ってる曲はいっぱいあるんですけど、ちゃんとアルバムで聴いたのは今回が初めてで……。
──そうなんですか! で、いかがでしたか?
S:なんていうか、こんなうるさかったんだ! って(笑)。ギターも思ってたよりも歪んでるし、シンプルな曲でも3、4本は重ねてあるし。タイトル曲なんかシューゲイザーの一歩手前みたいな音で。でもよく見たら、10年くらい前に出てた方のリマスター盤を聴いてて。それで試しにオリジナルの方も聴いてみたら、断然そっちの方が好きでしたね。リマスターは圧迫感がありすぎて、元のちょっと余裕がある方がオアシスには合ってるんじゃないかなと思いました。
──2014年にリマスターされてデラックス・エディションが出てますね。最近、30周年記念デラックス・エディションもリリースされました。
S:リマスターって、どうしてもオリジナルよりちょっと派手にしなきゃっていうのがあると思うから……でもそのリマスタリングを誰がやってるかとかはあんまり知らないで、なんとなく後発だから音がよくなってるだろうと思って聴いちゃうんですよね。それってよくないんだなと思いました(笑)。
──リアルタイムで聴いたときも、ぐしゃっとした音の印象はありましたよ。
S:ライヴハウスみたいな音ですよね。
──そうですね。分離されていないダンゴのような音。でもそれが良かった。だから今も私はファースト・アルバム(『Definitely Maybe』)が一番好きなんです。優介さんは改めて聴いてどう感じました?
S:自然さとか、クリアな感じとは違う、今聴くとちょっと変な音ですよね。どの楽器も結構ピーキーに強調されてて、ミックスした人もノッてたんだろうなっていうのがわかります。
──《Creation》というレーベルからだったのも大きかったと思います。彼らの前にはライドやマイ・ブラディ・ヴァレンタインも出していたし、オーナーのアラン・マッギーがそういう音を好きだったというのもあったかもしれない。
S:そういう流れもあるんですね。
──もちろん世界的にそういう時代でもあった。アメリカではダイナソーJr.だったり、ニルヴァーナが人気で。
S:影響みたいなのもあったんですかね。とにかく歪ませるんだっていう。
──でも、オアシスが登場した頃は、そうしたギター・サウンド云々以上に、“ビートルズの再来”という文脈で人気になっていました。
S:このアルバムの中でも結構ビートルズの引用はありますけど、リアムのヴォーカルも、「Hello」なんか特に〈ジョン・レノンだ!〉って思いますよね(笑)。声も似てるけど、歌い方っていうんですかね、口の開き方の癖とか、“誇張しすぎたジョン・レノン”みたいな。好きなんだろうなっていうのが伝わってくる。
──今回とりあげるセカンド・アルバムの中で特に好きな曲はありましたか?
S:タイトル曲(「Morning Glory」)がいちばん好きかもしれないですね。オアシスって、もちろん好きなんだけど、ちょっと甘すぎるかなって思わなくもないというか。でもこの曲はそのへんのバランスが絶妙で。あと「Wonderwall」は……。
──「Don’t Look Back in Anger」と並ぶ人気曲です。
S:改めて聴くと、ちょっとヒップホップぽいですよね。ブーンバップのノリっていうか。コードもループだし。
──たしかに。
S:あとは、ドラムをロッド(細い棒を束ねたスティック)で叩いてる曲も結構多くて。全体的に分厚いサウンドなんだけど、その中にちょっと涼しい風が吹いてくるみたいな、そういうセンスが結構お洒落だなと思いました。
──ちなみに、初めて全英1位を獲得したシングルが「Some Might Say」で、ドラムは初代のトニー・マッキャロルなんですよね。そのあとバンドを離れてしまいますが。
S:トニーのドラム、いいですよね。下手だ下手だと言われるけど(笑)。オアシスってあんまりバンド・マジックがあるタイプじゃないけど、トニーがいた頃がもしかしたらいちばん、そういうマジックっていうか、バンドならではの何かがあったような感じがしますけどね。
S:あと、YouTubeで当時のインタビューを見てたら、スティングとかフィル・コリンズを名指しでボロカスに言ってて。そういうテクニック系の人たちに対するカウンターっていうか、自分たちはもっとクラシックなロックのスタイルを復権するんだっていう感じもあったのかなと思って。
──スティングとフィル・コリンズは80年代に大人気の英国人ミュージシャンだったから、いわゆるインディー・バンドからしたらカウンターでしかなかったと思います。80年代の世界的バブルの、MTV時代の象徴みたいな人たちだから、音楽性以前に存在としてありえないって感じだったのかもしれないですね。
S:なるほど。
──実際、テクニック的なところでいうと、オアシスはどうですか。
S:複雑なコードとか、難しいリフもないし、ギターソロも練習すれば誰でも弾けるくらいの感じで、それこそ楽器の入門とかにちょうどいいんじゃないかと思うけど、オアシスってコピーしても、あんまり様にならないんですよね。
──それはやっぱりヴォーカリストの“華”的な問題ですね。
S:歌が絶対的なバンドって、どうしてもそうなっちゃいますよね。特にオアシスって、曲を聴いてるというより、リアムのヴォーカルを聴いてるっていう感じがするから。音楽だけ抜き取ってみると、意外と童謡みたいな曲だったりするんですよね。すごく素朴で。そこにスタンダード的な魅力があるんだと思いますけど。
──この夏に今更日本のドラマの主題歌にもなった「Don’t Look Back in Anger」もコードだけ見ると本当にシンプルで。
S:合唱コンクールの曲みたい(笑)。でも、そういうシンプルなコードだけで、ストレートにいい曲を書くのって、実はいちばん難しいんですよ。テクニックで気を引く方がよっぽど楽ですから。そういう意味でも教材的っていうか。若い世代にとってのビートルズへの導線にもなってるし、実はすごく教科書的なことをやってるんですよね。
──時代が変わっても、なお、シンプルなもので人の心を打つ音楽が作れるんだっていうことを証明したと。
S:純粋なパワーでもって、テクニック的なものに打ち勝つ、みたいな。だから、70年代にパンクが出てきたときの感じとも似てるのかなと思ったんですけど。パンクもやっぱり3コードでガーっといく、テクニックがある方が恥ずかしいっていう……そういう、作り込まれたものへの反抗心的なアティチュードって、時代とともに繰り返すのかなと思って。揺り戻しというか。
──グランジ〜オルタナティヴ・ロックのムーヴメントに、ロックをストリートに復権させるっていう効果があったように、一つ前の世代に対してのカウンターは絶対にあると思います。オアシスが影響を受けていたビートルズだって、それまでほぼ分業制だった作詞・作曲・演奏を全部自分たちでやったわけでしょう?
S:ああ、その前はシンガーの時代ですもんね。
──ビートルズは、自分たちでレーベルまで作っちゃうってところまでいきました。今のバンドの活動の雛形になることをもうあらかたやっていたんですよね。時代の大きな転換点は、その前の時代に対するカウンターとして現れるんだと思います。オアシスもそうだった。
S:なるほど。特に80年代のポップスって、シンセが主流になって、ドラムも人間じゃなくリズムマシンになって。それに対してのマンパワー、それもテクニックっていうよりは、野蛮なパワーで向かっていくような気持ちもあったのかなって。
──オアシスにはキーボードのメンバーもいないし、シンセもほとんど使ってないですしね。
S:あくまでも生の勢いを信じてるっていうのは、聴いてて伝わりますよね。だからオアシスって、不良っぽいイメージがあるけど実はすごく真面目っていうか。そういう意味でいうと、よく比較されてたブラーの方が音楽的にはよっぽど不良だと思う(笑)。オアシスって、偉いからちゃんと感動させようとするじゃないですか。
──それは本人たちのモチベーションなのか、サービス精神なのか、どっちだと思いますか?
S:いや、多分ひたむきにやってると思います。戦略性みたいなのは全然感じない、本当に素直に、いい曲をつくろうと思ってやってる気がする。だからすごく真面目だなって。ブラーなんて、ずーっとふざけてるじゃないですか(笑)。
──ブラーにもジーンとするいい曲はありますよ(笑)。
S:ブラーの場合だと、たとえば「Beetlebum」とか綺麗でいい曲だけど、歌詞を読むともうヘロヘロで(笑)。そこがいいんですけど。「Charmless Man」なんかも、すごく好きなんだけど、聴いてる間ずっと馬鹿にされてるような気持ちになる(笑)。徹底して軽薄で、音楽で勇気づけようとか感動させようとか全然思ってない。そういうとこが好きなんですけど。
──軽薄……(笑)たしかにね。
S:オアシスは、不良は不良でも結構ヤンキー漫画みたいな(笑)、ワルぶってるけど無垢で……それってやっぱり王道なんですよね、主人公タイプというか。だから聴いてる側も、オアシスに物語を見つけやすいんだろうなと思います。
──なるほど。
S:それでいうとブラーは意地悪な不良なんで(笑)、音楽性もどんどん変わっていくんだけど、オアシスはほとんど変わらないでしょう。ずっと真っ直ぐで。
──ファンの期待にちゃんと応えようとする。
S:ストレートしか投げねえぞっていうか、変化球を投げてもしょうがないっていう自覚があるんだと思う。でもそういう真面目さ、ひたむきさが世界に打ち勝ったのかなっていう感じがしますね。マンネリといわれればマンネリだけど、別にマンネリって悪いことじゃないですからね。あくまでも自分たちの王道をやるんだっていう。
──覚悟を背負ってるというか、そこはわかってやっていると。
S:オアシスっていう看板を出してやってる以上、そのブランドを守らなきゃっていう、そういう責任感が強いんだと思います。いま再結成してツアーをやってるけど、イギリスでの前座がリチャード・アシュクロフトとキャストでしょう。
──ヴァーヴとラーズ、UKロックの先輩、同志たちですね。
S:そういう先輩たちへの恩義をちゃんと忘れないっていうところも含めて、すごく律儀ですよね。体育会系っていうか、ちょっと野球部みたいな実直さがあって。
──オアシスは実はすごく真面目なバンドという結論ですか(笑)。
S:だから、もし再結成して新曲が出るとするなら、やっぱり超ストレートに、新しいとか古いとか関係ない、純粋にとんでもなくいい曲をつくってほしいですよね。そしたらまた何か世界が変わるんじゃないかっていう、そういう期待を抱かせるだけの存在感がオアシスにはあると思います。
<了>
Text By Yusuke SatoShino Okamura
Photo By Stefan De Batselier
Oasis
『(What’s the Story)Morning Glory?』
RELEASE DATE : 1995.10.02(Original Release)
LABEL : Creation Records / Sony Music
購入は以下から(30周年記念デラックス・エディション【完全生産限定盤】)
ソニーミュージック公式オンラインサイト
