「僕らのパフォーマンスは結構エモーショナルだと思うんだよね」
キアスモス(Kiasmos)10年振りの新作『II』と変わらない思い
今年観たライヴで最も夢幻的。こう断言したくなるほど、10月に《LIQUIDROOM》で行われたキアスモス(Kiasmos)の来日公演の流れは美しかった。アイスランド・レイキャヴィクを拠点とする、オーラヴル・アルナルズとヤヌス・ラスムセンによるエレクトロニック・ユニットがライヴ・セットで来日するのは今回が初。即ソールドアウトとなった公演は、ビートの切り替わりからフィルターの細かい変化まで明瞭に聴こえることに驚いた。この緻密さは、どのサウンド・パターンに耳を澄ましても誰もが自由に踊れるように設計されているようだった。
2014年のファースト・アルバム『Kiasmos』がグリッチやダブの深いエコーを潜るミニマルテクノだったのに対し、10年振りのセカンド・アルバム『II』は大いに解放的だ。バリ島の伝統楽器ガムランや熱帯雨林の雨の音などフィールド・レコーディングを新たに導入したことで音色は多彩になった。加えて、オーラヴルが監督するストリングス・カルテットとオーケストラの両方を取り入れることで、ポスト・クラシカルの複合的な響きを拡張する。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロといった柔らかいアトモスフィアのなかに流れる旋律は、物悲しくもあり切ない思いを呼び覚ます。
彼ら自身インタヴュー中に何度も繰り返していたように、「エモーショナル」なサウンドが彼らの核になっているのだろう。そして、オーラヴルが10代の頃に出会ったという坂本龍一からの影響をも垣間見えるようだ。このインタヴュー自体は今なお記憶に新しい単独公演の直前に行われたが、キアスモスの2人はリラックスした様子で話してくれた。
(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/染谷和美 写真/Ryo Mitamura)
Interview with Kiasmos(Ólafur Arnalds、Janus Rasmussen)
──2人がダンス・ミュージックを作り始めた頃「当時はアイスランドのクラブ・シーンに夢中だった」とありました。具体的にどのようなビートやジャンル傾向の音楽だったのでしょうか。
Ólafur Arnalds(以下、O):当時はBloodGroupにヤヌスがいて、僕が音響をやっていたんでそれで知り合ったんだけれど、お互いテクノがすごく好きだったんだ。2009年頃に「テクノやりたいね」って話をして一緒に始めたけれど、結局のところ、自分たちのなかにある音しか作れなかった。テクノにはならずにこういう音になったね。
──なるほど。ちなみに2人はポップ・ミュージックも好きだそうですが、具体的に語ったり分析したアーティストはいますか?
O:いっぱいあるけど、ジャスティン・ティンバーレイクとかティンバランド系のプロダクションかな。2009年当時は、ザ・ネプチューンズ、ファレル・ウィリアムスとかも。でも、新しいのは常に聴いているよ。プロデューサーとしては新しいのをちゃんと聴いておかないとって思ってるから。
──BloodGroupのSpotifyプレイリストには坂本慎太郎など日本のポップ・ミュージックも入っていました。日本のポップ・ミュージックは、ほかにどういうのを聴かれますか?
Janus Rasmussen(以下、J):初音ミクは好きだよ(2人で歌い出す)。あとYMO。僕が坂本龍一を知ったのはオーラヴルより後だったから、10年くらい前から聴くようになった。レイキャヴィクの《Sónar Festival》で坂本龍一に会って、最高にいい人だった。大ファンになってね、それでちゃんと聴かなきゃって思ったんだ。
Photo by Ryo Mitamura──新作のテーマやコンセプトについて、考えていたことを教えてください。
O:もうほとんど何にも考えてなかった。一緒に音楽を作るのは7年振りくらいだったから、まずはとりあえず何かやってみようって感じで。オープンに構えて好奇心に任せて作ってたんだ。特にどういう風にとはなかったね。
J:最初はいろいろやってみたけど、しっくりこなくて。だから、アルバムにするかどうかもわからなかった。だけど、いつもそうなんだけど、やっているうちに時間切れってなってくると急にグルーヴィングしはじめるんだ。そこからかな、これいけるねって。いつも僕らは最後のほうになって急展開をみせるんだよ。
──制作を行なったバリ島での楽器ガムランは、どのような効果を求めてサウンドに取り入れたのでしょうか?
O:ある意味、幸運なアクシデントというか。たまたま古い楽器を売っているお店を見つけて、買ってみて試しに音を出してみたんだけど、はたして自分たちの音楽に合うかどうかは分かっていなかった。いろいろやっているうちに面白いけど、エスニック・ミュージックを作りたいわけじゃないしね。だから、そこのラインは難しかった。かなり実験は繰り返しているよ。
Photo by Ryo Mitamura──そういったガムランに加えて、フィールド・レコーディングを取り入れたのも新しい試みでした。
J:そう、初めてフィールド・レコーディングも取り入れたけど、そもそもアルバムを作ろうと思って曲作りを始めていなかったから。曲を書いていくなかで、もちろんテクノロジー的なものを探ったりもした。それと同時に、新しく楽しいことをやってみたかったんだ。
そのなかでフィールド・レコーディングの音に行き着いたんだけど、それも使っていいのか微妙でメイビー・リストに載せておいた。やっぱり鳥の声とか自然に入って来ちゃうこともあるから、良い形で使えるか、ほかに思いつかなかったからこれをやったのか、その辺の境目に僕らはいたんで。良い形になったから採用したけどね。だけど、フィールド・レコーディングって一回やるとなかなか抜け出せないし、入り込んだら取り外すのが難しいものだから。
──バリ島のスタジオとアイスランドのスタジオで、それぞれ機材など特化した面はありますか?
O:バリはあまり何もない感じのスタジオで、ラップトップにシンセ一台とか。ていうわけで、ガムランに走ったのかもしれない(笑)。アイスランドにそれぞれがスタジオを持ってるからね。そっちはシンセがありすぎ、オプションがありすぎなんだ。ミニマルとはとても言えないね(笑)。
──「Flown」のMVは飛行していくシーンなどイカロスのような描写に感じました。先ほどは何も考えず作ったとのことですが、視覚的なイメージから楽曲のインスピレーションを受けることは?
O:視覚的イメージが先ってこともあるよ。僕の場合は、映画音楽も作っているから。以前に、坂本龍一がスコアを手がけた映画『レヴェナント』を観て、感じたことを書いた曲が前のアルバムに入っている。
Photo by Ryo Mitamura──過去のインタヴューに「“ダンスフロアで泣かせる”というアイディアをよく話す」とありました。今ライヴに対する考えは変わってきていますか。
J:実際に泣いてるのを見たかって言うと……どうかなぁ。
O:いやいや、俺は見たよ(笑)。
J:泣いてるだけじゃなくて一緒にハッピーに踊っていてほしいかな、嬉しくて泣いてるというか。でも、そういうメッセージが来ることはある。僕らのパフォーマンスは結構エモーショナルだと思うんだよね。だから、お客さんが感じていることは、時々ステージに返ってくることがあって、自分たちもそういう気持ちになることもある。かなり気持ちの動くパフォーマンスではある気がしているよ。
──エモーショナルを大事にしているのは、2人の実体験から来ているのでしょうか。
O:若いときに限らず今もそうだよ。やっぱり人間って、経験を積んでくるとちょっとやそっとじゃ心が動かないときもあるじゃないか? だけど、それでも音楽を聴いたときにエモーショナルな気持ちになれるのはすごく大事なことだと思う。
J:やっぱり若いときのスピリットはすごく大事だと思ってる。それにファンの想いって言うのかな、わざわざ音楽を聴きに行きたいって思うようなショウを作る気持ちはキープしたい。
<了>
Text By Nana Yoshizawa
Photo By Ryo Mitamura
Interpretation By Kazumi Someya
Kiasmos
『II』
LABEL : Erased Tapes
RELEASE DATE : 2024.7.5
購入はこちら
Tower Records
/
HMV
/
Amazon
/
Apple Music