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対談:川本真琴 × 山本精一
「いろいろな曲がたくさん聴ける雑誌のようなアルバムにしたかった」

17 September 2019 | By Shino Okamura

悪いけど私はデビューした時から川本真琴のファンだ。だからわかる。彼女は決して衝動だけのアーティストなんかじゃないってことが。

それに気づいたのは、もう今から20年くらい前、彼女の正式なライヴとしてはおそらく最初だった渋谷クアトロでのワンマンを観た時だ。ライヴ自体は楽しかった。その優れた言語感覚や生き生きとしたメロディ、パワフルなギター・カッティングなどはもとより、女の子特有の愛らしさや無邪気さに人気の目線が集中する理由もよくわかった。けれど一方で、この人は本当はもっと自分でのびのび気ままにやっていきたいのではないか、とも感じていた。その時のバック・メンバーは非常に達者なミュージシャンたちだったが、演奏は全く破綻のないもので、それゆえなのか、彼女自身はなんだかすごく窮屈そうに見えたのだ。窮屈、というのは、言い換えると退屈と捉えることもできる。つまりはそういうことなのだろう、と。

そして、その数年後に彼女は座組みを替えるかのように、自身のスタンスを解放させた。そこからの活動は奔放という言葉が似合うほど自由自在。植野隆司(テニスコーツ)、三沢洋紀(ラブクライ、真夜中ミュージックほか)、池上加奈恵(はこモーフほか)、澤部渡(スカート)という「ゴロニャンず」のメンバー、豊田道倫、三輪二郎、七尾旅人らクセモノたちとも交流を重ねていくようになった。だが、そうした奔放な活動は決して無計画に好き放題やったのではなく、すべて川本自身が慣れないながらも自分の判断で道を切り開いた結果なのではないか。だから、主に00年代以降の彼女の特にインディー作品は、完成度の高さだけで言うと正直マチマチだ。そこは安定してクオリティが高かった初期メジャー時代の作品とは対照的と言える。だが、一つ一つを自分でディレクションして制作したのだろうそれらの作品には、単なる衝動だけでは絶対になしえない確かな歓びがあった。失敗を恐れずに自分で決定し自分の手で作った作品なんだという手応えたる歓びが。

試行錯誤を繰り返しながらも着実に自分の足で歩みを進めてきたそんなここ20年ほどの川本真琴にとって、ニュー・アルバム『新しい友達』は明らかに一つの到達点だろう。全12曲、曲ごとにプロダクションは異なる。最初は植野隆司とともに訪れたニューヨークでのセッション。そこで3曲を完成させた川本は、帰国後、今度は国内のアーティストをそれぞれの曲に応じて座組みを考えたという。Jポップ的超絶キャッチーな曲もあれば、ブラジル音楽のような精錬な曲もある。結局、今作に参加しているミュージシャンは、植野隆司、豊田道倫、七尾旅人、峯田和伸、マヒトゥ・ザ・ピーポー、久下惠生、伊賀航、野村陽一郎、Jimanica…そしてMVに出演している曽我部恵一を含めても錚々たる顔ぶれだ。今回、アナログ・レコード、カセットテープ、7インチ・シングルなど様々なフォーマットでもリリースされるが、その内容は少しずつ異なるし、全フォーマットをおさえないと全曲を網羅することもできないくらい曲数自体多い。

今回はそんな最新型川本真琴ワークスの中からアルバム(CD)収録の「あの日に帰りたい」のアレンジやディレクション、もちろん演奏までもを担当した山本精一に取材の場に来てもらい川本と対談をしてもらった。京都で行われた“山本精一セッション”には今や山本や折坂悠太のバンドでも活躍するドラマーのsenoo rickey、シンセサイザーでMU-TON(数えきれない、ズズメンバほか)も参加。この曲はどうやって作業したのか、そもそも二人はいつから交流が? 話題は多岐に及んだ。貴重な両者のトーク、ぜひたっぷりとお楽しみいただきたい。(取材・文・撮影/岡村詩野)

Interview with Makoto Kawamoto, Seiichi Yamamoto

――山本精一さんに「あの日に帰りたい」を編曲含めてディレクションを任せたのはどういういきさつからだったのですか?

川本真琴:今年入ってからメールで山本さんにお願いをしたんです。この曲、アレンジがまだまったくまっさらな状態で。でも、曲自体は結構はっきりしていたので、全体のプロデュースをしつつアレンジしてもらえたらいいな、誰がいいかなって思って。で、思いついたのが山本さん。柴田聡子さんをプロデュースしてらっしゃったので、お願いできるかな?って。

――おつきあいは長いんですか?

山本精一:最近ですよね。俺、茶谷(※ドラマーの茶谷雅之。山本精一とはMOSTなど多くの現場で活動をともにしている)と一緒になることが多いんで。それで間接的に前から知っていたって感じですね。

川本:そう、茶谷さん、前に私のバンドで叩いてくれてたんで…。そういう縁もあって、前に名古屋にMOSTのライヴを観に行ったんです。で、そこで山本さんがギター弾いているのを観て、うわあっ!って。その時に少しだけ挨拶をして。

山本:MOSTが名古屋でライヴやるのってすごい珍しい。1回しかやってないんとちゃうかな。

川本:すごい気合い入ったライヴでしたよね。

山本:MOSTは気合いが入らないと崩壊するからね。

川本:MOST全体がすごいっていうか、気迫みたいなのが。

山本:必死なんですよ。やっぱりパンクなんでね、殺気がないとできない。何かに対して怒ってないとね。特にMOSTは初期衝動でやってるんでね。しかもメンバーみんな50歳過ぎてるというね。だからね、初期衝動を50歳過ぎて持続させるには気合いしかないんですよ。俺はそう思ってる。特にPhewはいつでも何かに対して怒ってる。

川本:なるほど~。でも、ヴォーカリストってそういう大変さ、ありますよね。今回、「新しい友達II」のMVに曽我部恵一さんに出てもらっているんですけど…。

山本:ああ、あのMV、なんで曽我部くんが走ってんの?(笑)

川本:いやもう走ってほしかったんですよ(笑)。曽我部さんて一般的には爽やかなイメージだけど、純粋なところがあるじゃないですか。

山本:爽やか?! 曽我部くん、もともと赤痢とか好きな人だったんですよ。

川本:そうそう、曽我部さん、ハードコア・パンクが好きだって聞きました。で、その曽我部さんもそうですけど、いろんな人に話を聞いていたら、峯田(和伸)さんは「恋愛がうまくいかなくなった時に曲ができる」とかって話をしていて。ああ、ヴォーカリストって大変なんだなあって思って。生活まで壊れる気合いみたいなのが必要なんだなって。

山本:川本さんもそうでしょ?

川本:私……私はそういう風になっちゃってるんですけど、本当は衝動的なところで音楽をやるよりは、もっと制作者としてやりたいなって思っているんですよね。

山本:ああ、そうなんだ。

川本:表現者としてはヴォーカリストって大変だなって思うんですけど、本当は落ち着いて家で音を作るような方にいたいなって思うんです。そっちの方が性に合っているんですよ。

山本:へえ……そのまま素直に感情を出してる人かなって思ってた。

川本:この仕事を始めて、自分の衝動的なところが自分にあるようになったんですよ。もともとは安定して家で曲を作るような人だったんですけど、外に出て活動すると衝動が出ちゃうようになって…。

山本:ライヴとかでお客さんが前にいたりするとね。

川本:なんなんですかね。人生、怖いですよね。

山本:他人にある程度聴かせるってなった時に、「あ、ちょっと違うな」っていうの、確かにあるかも。俺もPhewと一緒ですぐ怒りみたいなのが出ちゃう。よくないんですけど、お客さんがいたら攻撃的になる(笑)。ライヴには来てほしいし、もう来ているのに「帰れ!」って言ってみたりね。ほんとによくないですよこれ。昔から。イライラするんですよ。お客がいると。いてほしいのに。来てくれて嬉しいのに「帰れ!」って。「トイレ行くな!」って(笑)。

――それは、理想のお客さん像があるってことなんですか?

山本:いや、完全なわがままでしょ(笑)。

川本:私もワンマン・ライヴの前とかになると衝動的になりますね。あれ、なんなんですかね?

山本:人間って弱いな。自分で精神もコントロールできないもん。

川本:もうそれでいいかな?って最近は思いますけどね。曲を作ること自体は地味な作業じゃないですか。でも、ライヴだとお客さんが目の前にいてテンションが一気にあがる。その落差がね~。

山本:なるほどな。俺は1曲完成するのに、長いのだと1年とか2年とかかかる。ポコッとできるときもある。そっちの方が良かったりもする。

川本:ああ、そうですね。ありますよね、ずっととっておいた曲……あれ、まだ完成してないなあっていうのとか。

山本:そうそうそう。そういうのが結構たまってると、くっつけたりもして。

川本:ありますね!

山本:ストックが他の曲にポンとハマる時がある。

川本:あるある。

――川本さんが今回山本さんに編曲や演奏をお願いした「あの日に帰りたい」はどういう感じでできた曲なんですか?

山本:これね、ビックリしたんだけど、最初、鼻歌が送られてきて(笑)。鼻歌から曲を完成させていったのって初めてで。楽器も入ってない。

川本:アカペラみたいな感じだったんですよね。

山本:だからコードもよくわかんない。アレンジも何も、本当に鼻歌。そのあとやっとギターのコードが入ったデモが送られてきて、「ああ、三連(のリズム)」の曲か、というのがわかった。

川本:あんまり拍子の感覚がない感じでしたよね。

山本:ない。ただ、その後一度直接会って、イメージを聞かせてもらって。オールディーズっぽい感じというか、アメリカン・ロックの王道みたいな感じかな…って。

川本:そうそう。イギリス人だけどジョージ・ハリスンがボブ・ディランとかとやってたトラヴェリング・ウィルベリーズみたいな感じかなって。

山本:ギターが抜けのいい感じにはしたかったね。特にギター・ソロはものすごい何度もやった。30回近くやったんちゃうかな。わざとちょっとチューニングをズラしたりしてね。

川本:そうなんですね!

山本:実はチューニングをちょっとズラしてるんです、あれ。しかも、1回目のソロと2回目のソロ、ギターを換えてるんですよ。

川本:えー! どう変わっているんですか?

山本:まず機種が違う。1回目のソロはストラトで、2回目はハコもの…ギブソンのES-125。50年代のモデルですね。もう音も響きも全然違う。弾いてる日も違うし。1回目の間奏のところのソロは音が立っている。2回目はメロウな感じ。それで、それぞれ30回くらい弾いてる。

川本:知らなかった……それは何度も聴きたくなりますよ! ほら、山本さんの録音は京都だったので山本さんにお任せしていて。でも、こういう話を聞くとすごいなあって思いますね。

――山本さんは川本さんがデビューした頃…90年代の頃の作品は聴いていたんですか?

山本:まあ、自然と耳に入ってきたからね。俺らはフィールドが違うから交わることはなかったけど…。俺らにとってのメジャーって非常階段だから(笑)。ただ、俺はポップス好きですし、その時代に流行ってる音楽って好きなんですよ。

川本:昔からプロデュースやアレンジってされていたんですか?

山本:まあ、やってましたね。それも女性ばっかり。意外かもしれないけど、最初は篠原ともえさん。

川本:えー! それは驚き!

山本:ya-to-i(山本精一、ムーンライダーズの岡田徹、伊藤俊治によるユニット)名義でしたけど、4曲くらいやったかな。あれが最初だったと思う。俺、実はムーンライダーズ人脈。だからカーネーションの直枝(政広)くんとも昔からよくやってた。直枝くんのポップ・センスも大好きですよ。

"「川本さんは声がポップでね。何歌ってもオーヴァーグラウンドになる声っていうか」(山本精一)
「本当は落ち着いて家で音を作るような感じでいたい。そっちの方が性に合っているんです」(川本真琴)"

――確かに山本さんは女性アーティスト、女性ヴォーカリストとのつながりが多いですね。柴田聡子さんもそうだし空気公団もそうだし。川本さんも最初は岡村靖幸さんがプロデュースでしたね。

山本:そう、もっと昔だとアリスセイラーとか須山久美子さんとかね。やっぱり女性ヴォーカルが好きですしね。男のヴォーカルに惹かれることってあんまりない(笑)。あ、川本さんは最初、岡村靖幸さんがプロデュースやったんか。

川本:そうです。「愛の才能」。ただ、あの場合は、岡村さんの作品というか……曲も岡村さんだったし。今回は先に私が書いた曲があって、それを例えば山本さんなら山本さんに「こういう風にやってください」って渡してやってもらって…って感じだったから、今とは全然違いましたね。その次は「DNA」。あれもディレクターさんとアレンジャーさんがついていて、一緒にどういうものにしよう?ってイチから考えたんで、やっぱり今とはやり方が全然違いました。戦略を考えてやってましたからね。

山本:まあ、でも、ポップスってある程度はそれやらないとね。売れないとアカンしね。

川本:そうですよね。私も曲提供をする時は、歌い手さんのキャラを考えて曲を作ります。この人がこういう感じで歌ったらいいんじゃないかな~?って考えながら。私も女の子にしか曲提供したことないんですけど、どうやったらこの人は伸びるかな? もっと健康的にするにはどうしたらいいかな?ってことを考えたりしてますね。

山本:すごいね、プロデューサーやね。

川本:昔バンドをやってたんですけど、ピアノができる自分以外、楽器ができないコたちばっかりで。

山本:最高やね(笑)。

川本:その時にプロデュース感覚みたいなのができたのかな。

山本:リーダー的な感覚やね。

川本:ただ、山本さんはお店もやってて(難波《ベアーズ》)イベントも企画したりしてるじゃないですか。私、そういうことは本当にできないなあって思いますよ。

山本:しんどい。パワーいる。まあ、俺はもともとイベンターやしね。世にも珍しい、イベンターからアーティストになったタイプ(笑)。

川本:30代くらいまでは私もそうやって企画したりしていたんですけどね……今はもうしんどいな(笑)。だから、今回のアルバムのニューヨーク・レコーディングなんかも、もう全部植野さん(隆司。テニスコーツ)にお任せ。私は植野さんについてニューヨークに行っただけ。

山本:そもそもなんで植野くんだったの?

川本:(川本真琴 with)ゴロニャンずのメンバーっていうのもあるんですけど、他にも一緒にやることが多くて。

山本:まあ、確かに植野くんて不思議な安心感があるよね。危なっかしい感じもあるけど、度量のでっかいところもある。何が起こっても植野くんがいれば「まあ、いいか」みたいなね。

川本:実際、植野さんの音楽、柔らかくなりましたよね。それに、コード進行とかもオシャレだし。

山本:結構音楽理論とか知ってるしね。譜面も書くしね。

川本:努力家ですよね。昔、ジャズ・アレンジを頼んだら、難しいアレンジでしっかり仕上げてくれたこともあったんですよ。すごくたくさん音楽聴いてて引き出し多いですよね。だからニューヨークでも中古レコード屋さんばかり行ってましたよ植野さん。

山本:ニューヨークにはどのくらい行ってたの?

川本:2週間。2週間で3曲だから結構ゆったり作業できました。

山本:一緒に演奏したのはどういうミュージシャン?

川本:植野さんの知り合いのアメリカとブラジルのミュージシャンの方々です。みなさん本当にうまいんですよ。ジェレミー・ガスティンはジェシー・ハリスのバックでドラムを叩いている人で、ベンジャミン・レイザー・デイヴィスはカエターノ・ヴェローゾと一緒にやってるベーシストみたいです。

山本:うわ、それすごいな。うまいわけだ。

川本:ベンジャミンなんか、自分からフレーズとかをポンポンと提案してくれるんで、すごいなあって思いましたよ。私、基本はベースラインから曲を作ることが多いんで、余計にすごい!って。山本さんはどうやって曲を作っているんですか?

山本:やっぱり俺はギターで作るかな。リフみたいなのが発生するんで。ロック・ギターってリフなんですよ。ビートルズだってギターのリフが印象的じゃん。イントロとかね。俺の曲にはリフはないけどね(笑)。

――山本さんの曲は、全般的にリフもメロディもつながってる感じ。境目がない面白さがありますよ。

山本:ああ、そうやね。分かれてないね。聴くのはリフがハッキリした曲が好きなんだけどね。

川本:女性のミュージシャンをプロデュースする時は、曲も書くんですか?

山本:そういう時もありますよ。ああ、そういう時にはリフを使った曲を書いたりするかな。でも、今、全般的にリフで始まる曲とかってないよね。

川本:確かに。あの曲のリフいいよね! みたいなのって最近聞かないですね。最近はキーボードとかシンセがメインですよね。

――川本さんの「あの日に帰りたい」もいきなり歌から入りますね。

山本:実はギターのリフのイントロが最初あったんですよ。しかも最初、俺自身がドラムを担当していて。でも、俺やっぱりテクがないんでドラムがものすごい平坦になって。

川本:そのテイク、聴いた時、打ち込みかと思いました(笑)。

山本:いや、サンプリングしたんです。だからちょっとダイナミズムがないなと思って。で、それを解消するには(senoo)rickeyしかないなと思ってね。

――ただ、三連っていうのもあって、ちょっと80年代の沢田研二っぽいなと思いました。

山本:………実はちょっとエキゾティクス(80年代前半に沢田研二と活動を共にしていたバンド)を意識しました。エキゾティクスのギターがウルトラヴォックスみたいで最高なんですよね。ロックなんだけどニューウェイヴで最高。あの感じ、出したかったですね。

――しかも、アルバムの曲のほとんどのミックスを中村宗一郎さんが手がけてますが、この曲は山本さん自らミックスしているんですね。

山本:やっぱりあれは誰かにやってもらえないなって思って。めちゃくちゃ音が入ってるしね。ただ、マスタリングは中村(宗一郎)くん。あの曲、マスタリング前に中村くんとやりとりしてたんですよ。ただ一言「カッチョよくしてください」ってただそれだけ(笑)。中村くんからの返信は「はい」って(笑)。でもね、当たり前だけど、完成したものを聴くまでは他の人がやった曲は全然聴いてなくて。もし事前に聴いてたら、全然違うアレンジにしたかもしれないな。もっとコンテンポラリーにしたかもしれない。だって、俺がやった曲だけちょっと浮いてない?

川本:そんなことないですよ! 今回みんなバラバラなんです。どポップな「ホラーすぎる彼女です」みたいなのもあるし、マヒトさんがアコギを弾いた「へんないきもの」みたいなのもあるし……バラバラな面白さがあるアルバム…いろいろな曲が聴ける雑誌のようなアルバムにしたかったんです。

山本:なるほどね。まあ、でも、川本さんはもうヴォーカリストとして、俺らでは真似できない根っこの良さみたいなのがあるんでね。声がポップでね。何歌ってもオーヴァーグラウンドになる声っていうか。

川本:嬉しい。でも、私全然ヴォーカルなんてやってなかったんですよ。ピアノばっかりで。大学入ってからですよ、歌い始めたのって。

山本:すごく特徴のある声だけどね。すぐわかる。

川本:ほんとですか? でも歌は本当に難しい。そういえば山本さん、歌入れに3日くらいかけるって話してましたよね?

山本:うん。もっとかける時もある。

川本:歌入れに何日もかけるって話を聞いて、あ、そうなんだ、自分でプロデュースして作品を作っているんだから、自由に時間を使っていいんだなって気付かされて。それ以来、歌入れが楽しくなりましたよ。

山本:川本さんは歌がそもそもうまいんだから、そんな何度もやらなくてもいいじゃない? 俺なんかはそうはいかないもん。100回くらい歌う。ブースで歌入れして、「あ、うまいこといったな」って思っても、卓のところで聴いたら「まったく歌えてない!」。しまいには、卓の横、エンジニアの隣でヘッドホンなしで歌う。音が外れたらエンジニアが「あ、もいっかいやりましょう」ってジャッジしてくれるから。それくらい限りなくヘタ。ちりめんビブラートって言われてるし(笑)。

川本:山本さんの歌って、聴いている人との境目がないですよね。そこがすごくいいですよ。

――では、川本さん、山本さんがアレンジしてディレクションしたその「あの日に帰りたい」の歌入れはどうでしたか?

川本:歌いやすかったです! 5、6回くらいでいけたかな。

山本:なにー!(笑) 信じられへん!

――逆に歌入れが難しかったのは?

川本:「ロードムービー」ですね。弾き語りでは一番シンプルな曲と思っていたんですよ。目の前のお客さんに対しても素直に届けられるような感じの曲だったのに録音になったら全然違う。これは植野さんとニューヨークでレコーディングしたんですけど、やっぱりバンド・サウンドになると違うんですよね。

山本:あれはいい曲やね。(七尾)旅人もあの曲いいって言ってた。旅人が一緒に歌ってる曲(「君と仲良くなるためのメロディ」)もいいね。旅人が歌ってる感じがしないというか、いつもの旅人とはちょっと違う感じ。

川本:ああ、あの曲は旅人さんに「女の子になって歌ってください」って頼んだんです。女の子が女の子に歌ってる歌詞なんで。

山本:なるほどね~!

川本:豊田(道倫)さんと峯田(和伸)さんが参加してる「新しい友達II」とかはどうでした?

山本:最初、ヴォーカルが入ってないインスト・ヴァージョンしか聴いてなかったんですけど……歌が入っていい感じでした。豊田のギター、意外やったね。こんな感じのギター弾くんやって。豊田ってギターのイメージがあまりないからかな。でもあの曲すごく良かった。やっぱり川本さん、いいメロディ書くよね。もうそれも天性の才能というかね。よくあるようなメロディじゃなくて、独特のね、川本さんにしか書けないメロディを作れる。これはもう限られた人じゃないとできないことやね。しかも、掘ればどんどん出てくる……。それなのに、「このアルバムが最後のつもりで作りました」とかって言ってなかった?

川本:はい(笑)。それより今度、福井(川本の地元)で一緒にライヴやってくださいよ。福井公演、前からやりましょうって頼んでるのになかなか決まらなくて。

山本:福井ねえ……会場はどこでやるんですか?

川本:小学校とか(笑)。

山本:それは誰も見にこないって!(笑)

Text By Shino Okamura


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川本真琴

新しい友達

LABEL : MY BEST! / DISC UNION
RELEASE DATE : 2019.08.07

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