INTERVIEWS : 19 July 2017

RAC

To The Field Of Pop Music As Extraordinary Songwriter

By Tetsuya Sakamoto

INTERVIEWS : 19 July 2017

RAC

To The Field Of Pop Music As Extraordinary Songwriter

By Tetsuya Sakamoto

もはやRACはただのリミキサーではない
今、非凡なソングライターとしてポップ音楽へのフィールドへ

沖縄で開催された《Corona Sunsets Festival》への出演で来日したRACへインタヴューを敢行

RAC(アール・エー・シー/Remix Artist Collectiveの略)。ポルトガル出身で現在はアメリカはイリノイ州ポートランドを拠点に活動しているプロデューサー/ソングライター、アンドレ・アンホスによるソロ・プロジェクトだ。リミキサーとしてニュー・オーダーやラナ・デル・レイなど200曲以上のリミックスを手がけ、ボブ・モージズの「Tearing Me Up」のリミックスで2016年のグラミー賞最優秀リミックス・レコーディング賞を受賞したことも記憶に新しいだろう。その意味では彼は原曲を解体し、新しい音を加えたり、様々なアレンジを施して再構築するリミックス・ワークという分野において秀でたプロデューサーであるといえるのかもしれない。だが、オリジナル・アルバムとしては『ストレンジャーズ』に続く2枚目となる『エゴ』で彼は、自身が得意とするダンスフロアにフォーカスした曲ではなく、普遍的なポップ・ソングを書くことを選んだ。ポップ・ソングは他者、社会に対して開かれたものであるがゆえに、今までダンス・ミュージックに特化したリミックスを作ってきた彼にとってそれはある種の試練だったといえるだろう。だが、彼は抜群のメロディ・センスとリミックス・ワークで培った繊細なサウンド・プロダクションで瑞々しいポップ・ソングを書き上げた。そんな珠玉のポップ・ソングを見事にアルバムとして纏めた彼は、プロデューサー/リミキサーというよりも、非凡なソングライターであるように思える。そんな彼の礎はいったいどこにあるのだろうか。沖縄で開催された《Corona Sunsets Festival》への出演で来日した彼に話を訊いた。(取材/文:坂本哲哉)

Interview With André Allen Anjos

ーー唐突ですが、夏は好きですか?

RAC(以下R):ポルトガルでは3ヶ月夏休みがあるんだ。だからその前の最終週はみんな本当にワクワクしてるんだよ(笑)。みんないろいろ計画していて、その思い出がとても強くて夏になるとそれを思い出すよ。

ーーというのもこの最新作『エゴ』が初夏の清々しさや夏の終わりの哀愁を感じさせるアルバムであるようにも思ったからなんです。

R:確かにそうかもしれないね。実はそんなに意識的ではないんだけど、自然にそれが表現されたんだと思うし、それが自分のポップ・ミュージックが好きなことと繋がっているかもしれない。それとポートランドの天気がいつも曇っていて、冬なんか特に悲しい感じの天気になるんだ。それに対するリアクションで夏を思い起こさせるアルバムになったのかもしれないね。

ーー実際に、今作はとてもポップで親しみやすくワクワクするようなアルバムになっていると思います。実際にポップ・ミュージックとしての目線を視野に入れていたのでしょうか?

R:ああ、前回のアルバムから次のステップに進んだアルバムのように感じているね。『ストレンンジャーズ』もすごく誇りに思っているし、好きなアルバムではある。けれど、『ストレンンジャーズ』はいわば模索のアルバムだったんだ。それで今回のアルバムに関しては、前作と今作の間で自分が誰なのか、自分は一体何が好きなのかという根本を探求して、それがだんだんとわかっていく過程の中で作ったアルバムだから、音楽的な知識も増えているし、自分がどういうアーティストなのかということもわかってきた。だから、何をメッセージとして込めたいのか、自分の音楽を通してどういうコミュニケーションをとりたいのかを把握して作ったアルバムで、すごくパーソナルな作品になっている。今作ではたくさんのアーティストとコラボレーションしたんだけど、それにもかかわらず、自分らしさが良くでているんじゃないかと思うよ。

ーーその自分らしさというものがポップ・ミュージックたらしめているのかもしれないですね。具体的には、本作のどこにその自分らしさ=ポップたる手応えが表れていると思いますか?

R:歌詞は自分で書くことはないから、それが決してパーソナルなものの表れではないんだ。ただ、音楽はユニバーサルな言語というか、みんなが理解出来る感情の言語のように思うから、その音楽で自分自身の感情を表現しているのが今作だと思うんだ。音楽では言葉とはまた違う方法で、より深いものを表現できるものだと思っているから、前作から今作までの間に良いことや悪いことも経験したけれど、それを通じて自分が何を感じたのかということの全てを、コラボレーションしたアーティストたちと上手くコミュニケーションをとって表現することができていると思う。だから作品を聴いているときに、歌っているのはコラボレーションしたアーティストだけれど、自分の感情が表現できている曲が多いんじゃないかと思っているよ。

ーーええ、その結果、あなたはリミキサーとしての活動が注目されていますが、今作ではソングライターとしての成長を伺わせるアルバムにもなっていると感じます。ダンスフロアで機能するような曲も多くありますが、それだけではなく、割とベタにリスナーの心に寄り添うような曲が少なからずあります。こうやって様々なフィーリングを持った曲を作る上で、最も大切にしていることは何ですか?

R:それは全て自分のバックグラウンドから来ているものだと思うよ。もちろん自分が今やっている音楽は、エレクトロニック・ミュージックでありダンス・ミュージックであるけれども、もともとはバンドをやっていて、そこでたくさん演奏をしてたくさん曲を書いていたから、僕にとって曲を書くということは極めて自然なことなんだ。最初のアルバムのときも、DJの経験もあったけれども、ギターを中心にして曲を書くことがとても自然なことだった。だから意識はしていないけれど、君の言うように、聴く人の心に寄り添うような曲も書けるようになったんじゃないかと思うよ。

ーーだとすると、今でも曲を書くときはギターを中心に書いているんですか? それともビートを作るところから始めているんですか?

R:両方だね。そのときで自分が一番フィットしていると感じるもので作り始めるんだけど、最近はギターが多いと思う。というのも13歳のころからギターを弾いているから、ギターから作ることはすごく心地が良いんだ。ビートから作ることもあるんだけれど、アイディアがたくさん頭の中にあってそれを形にしないといけないときには、ギターがやりやすいというのはあるかもしれないね。メロディはギターを使って弾くことによって、うまく頭の中から外に出すことが出来るんだ。でも飛行機とかに乗っているときはギターを弾けないから、プログラミングでやってみて同じように出来ることもあるけどね。

ーーそもそもどういうきっかけでギターを始めたんですか?

R:自分がどうやって音楽に惹かれていったかというのははっきりと覚えてないんだ。僕の父はポルトガル人で、母がアメリカ人なんだけれど、音楽というのは良い意味でどちらにも属さない言葉というか自分を表現出来る言語だったというのはもしかしたらあるのかもしれないな。だから今改めて考えると、そういう意味で音楽に惹かれていって、音楽で自分を表現することが自然なことになっていったんだと思うよ。それでギターを始めたときにニルヴァーナにすごく興味を持って聴いていたんだけれど、格好良く聴こえるんだけどすごくシンプルだったりして、「カム・アズ・ユー・アー」をはじめて弾けたときに何というか繋がりを感じたんだ。それでギターにハマっていったんだよね。

ーー例えば「Heavy」という曲はタイトルからは想像できないほど、穏やかなアコースティック・ギターから始まりますよね。大袈裟かもしれませんが、この曲はサイモン&ガーファンクルを大胆にアレンジして、モダンなポップスに仕上げているように思えました。それと同時に、この曲はあなたの子供の頃の原風景を描いているようにも思えたんです。

R:実は母がサイモン&ガーファンクルをずっと聴いていて、ポール・サイモンは僕の好きなギタリストの一人なんだよ。だからそう言ってもらえて嬉しいね。この曲でコラボレーションしたカール・クリングは大学のときのルームメイトで今でも親友なんだけど、セントルイスで一緒にこの曲を書いたんだ。セントルイスではフォーク・ミュージックが盛んだから、それに影響された部分もあると思う。歌詞はアメリカ大統領選挙のあとに書かれたものだから、そのときのアンハッピーな気持ちを表しているんだ。それがタイトルの「Heavy」に繋がっているんだよ。

ーーそういったギターが中心の曲がありつつも、今作のビートのリズム・プロダクションは非常に興味深いものが多くありました。特に「Be」は一聴するととてもシンプルで洗練されたポップ・ミュージックですが、よく聴くと、ヴォーカルがリズムになったり、パーカッションがリズムになったり、キックドラムがリズムになったり、とても複雑な構造になっていることに気付かされます。この曲はどのようなアイディアから生まれたのでしょう?

R:この曲は個人的にこのアルバムの中でも気に入っている曲なんだ。この曲がシングルとしてカットできないなということはわかっていたから、いろんなことを試そうと思ったんだよ。一言でいうならミニマリズムのエクササイズという感じだね。ギターやベースを思わぬところに挟んでみたり、さっきいってくれたように様々なパートがリズムを刻んでいたり、先が読めない曲になっていると思うんだ。この曲はこのアルバムでは長い曲の一つなんだけど、時間をかけて曲が展開していくのを楽しめる曲になっていると思う。それ以外にもいろんなアイディアを試したんだよ。炭酸水のシュワシュワっていう音を録音して使ったりね(笑)。

"実験的な曲を作るのはすごく好きなんだけど、人と繋がりを感じられる曲を作るっていうのは僕にとってそれ以上に重要なんだ。"

ーーミニマリズムと言えば、スティーヴ・ライヒの作法は好きですか?

R:すごく好きだね。「18人の音楽家のための音楽」のコンポジションがすごく気に入っているんだ。

ーーあなた自身もそういう曲を作る可能性はありますか?

R:そういう実験的な曲を作るのはすごく好きなんだけど、人と繋がりを感じられる曲を作ることが僕にとってそれ以上に重要なんだ。その中で奇妙なものを取り入れたりすることが自分にとって大事なことでもあるんだよね。例えば今バレエのために曲をいくつか作っているんだけど、そういったものに挑戦していくことも大切なことだと思っているよ。

ーーなるほど。そういったある意味個人的でエクスペリメンタルな試みを大切にしつつも、あなたの曲からは人と積極的にコミュニケートしていこうとする意志を感じ取ることができます。あなたが様々なアーティストとコラボレーションするのもその意志の一つの表れであるようにも思えますが、自分以外のアーティストと共作しようと考えるとき、相手をどのようなポイントで選ぶのでしょうか?

R:積極的に他のアーティストと交わっていって、その化学反応を楽しんでいるところはあると思う。けど、ほとんどのコラボレーションが親友とか音楽活動を通して出会った友達となんだ。彼らとは音楽とか関係なく、一緒に出かけて飲んだり、遊んだりしているし、彼らと一緒にやればツアーも出来るし、それが楽しいっていうのもある。あと自分が歌うことに対して、あまり興味がないってのもあるし、一曲一曲違うリードシンガーがいるってことはすごくクールなことだと思うんだよ。曲ごとに違うシンガーと一緒に曲を作るってことはとても挑戦的なことなんだ。例えば、「The Beautiful Game」を一緒に作ったセント・ルシアとかだと、彼もポートランドにいて、一緒にハイキングに行ったりしてたんだけど、たまたま休日にスタジオに招いてくれたことがあったんだ。そこで一緒にやってみたら、すごく良いものが自然に出来あがったんだ。そうやって計画をせずに、自然に良いものが出来あがるって感じが好きなんだよね。コラボレーションする側のアーティストにとっても、自分たちが普段やっていることとは違う経験が出来ると思うし、お互いにそういう中での化学反応を楽しんでやれているんじゃないかと思うし、これからも楽しめればなと思っているよ。

ーー今作はそういったコラボレーションでの化学反応を楽しみながら、あなたのポップ・センスが存分に発揮されたアルバムだと思いました。そこからは、エレクトロニック・ミュージックとかクラブ・ミュージックというものを過剰に意識し過ぎることのない、洗練されたポップ・ミュージックの表現者としてのRACという姿が見えてきます。そういう意味であなたが今向き合っている音楽、とりわけポップ・ミュージックの魅力はどこにあると考えていますか?

R:自分にとってはジャンルとしてポップ・ミュージックを作ろうというよりは、その構成やルールというものを取り入れようとしているんだ。それを必ずしも全部使わなければならないということではなくて、自分が良いと思うものを選んで曲を作っているんだよ。音楽って作ろうと思えば、いろんなアイディアからそれを音楽という形にすることは出来ると思うけど、そこでリミットがあることで、よりクリエイティヴになれると思うんだ。そういうリミットがある中で自分がやりたいことを形にするのが面白いんだよ。例えば、ベタなポップ・ミュージックを作ったとして、それで成功することはもちろんできるかもしれない。だけどそれで成功したからといって強烈なインパクトを残せるかといったら、そうではないと思うんだ。ポップ・ミュージックってパワフルだし、人の世界観を変えることもできてしまうから、そういう力を持ったものを作りたいって思うよ。そのために自分がいろんな音楽を聴いていて、思わず反応してしまうような変わった要素、そして、みんなが驚きを感じられるような要素を取り入れたりしているんだ。ヴァースがあって、次にブリッジ、そしてコーラスという構成は、あくまでポップ・ソングを書くために取り入れて、そこに自分がやりたいことを詰め込んで曲を作っているんだよ。

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Text By Tetsuya Sakamoto

Photo By Ryu Maeda


RAC

EGO

LABEL : Counter Records / Beat Records
CAT.No : COUNTCD108
RELEASE DATE : 2017.7.14
PRICE : ¥2,200 + TAX

■RAC OFFICIAL SITE
http://rac.fm/

■RビートインクHP内 RACオフィシャル情報
http://www.beatink.com/Labels/Counter/RAC/BRC-550/


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