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歌も楽器も全てがコミュニケーションをとるためのボイス
『Mordechai』のクルアンビンらしさ

07 July 2020 | By Koki Kato

いくつものサウンドを折衷しながら自身の署名をはっきりと残す、そんなことをクルアンビンの作品から感じることが多い。タイ・ファンクをはじめ、遠い国々を連想させるそのバリエーションに驚かされる一方で、そこには必ずと言っていいほどクルアンビンらしさが記されている。

エキゾチシズムを吸収するバンドでありながら、2019年3月の来日公演ではア・トライブ・コールド・クエストのカバーをはじめとするヒップホップ・メドレーが飛び出したように、母国アメリカのポップ・ミュージックの背景を感じさせたり、近年では『Hasta El Cielo』(2019)で自らの曲をダブミックスし、ソウル・シンガーのリオン・ブリッジズを迎えて共作共演し故郷テキサスを描いたEP『Texas Sun』(2020)を発表したことからも、多くのサウンドを取り入れながら彼らなりの視点で折衷した音楽を届けてきたことが分かる。そんな風に様々なサウンドを取り入れてきた3人ではあるが、その個性的な楽器の演奏にこそクルアンビンの署名となる「らしさ」があることもはっきりしていて、このバンドを唯一の存在と印象付けてきた。

そんな彼らが発表した新作『Mordechai』は、1曲を除いてほとんどの楽曲に歌を取り入れたアルバムになっている。これまでもバック・コーラスのような位置づけで歌を入れた曲はいくつかあったが、アルバム全編に渡って歌を聴かせるのは初めてだ。インストの楽曲をメインに楽器演奏によってバンドのアイデンティティを印象付けてきた彼らが、アルバムの全編で歌詞を書き下ろし、歌声を響かせている。この歌への積極的な姿勢が新たな変化になるだろうかと予想していたのだが、蓋を開けてみると変化というより、クルアンビンらしさをさらに推し進めるアップデートとなっていたことに気付く。

歌と楽器演奏との距離をあえて近づけるような、声も楽器の一つであることを明言するような、歌声と楽器を等しく鳴らすための試みが『Mordechai』にはある。例えば、1曲目の「First Class」がロイ・エアーズの「Everybody Loves The Sunshine」を思わせるのだが、ロイ・エアーズが楽器と歌、それぞれのフレーズを等しく印象付けるようにこの名曲を仕上げたことにも似ていて、クルアンビンの今作もまた楽器と歌の間に線を引かず対等に鳴らすことで、クルアンビンらしさを守りながら、むしろそのアイデンティティは以前よりはっきりと記されることになったとも感じる。まるで目元まで前髪を伸ばしていたマーク・スピアーとローラ・リーのミステリアスなスタイルが、今までよりも親近感のある存在に感じられるような、クルアンビンという存在が近くに感じられる作品だと思えたのだ。

また、あらゆる国のサウンドのみならず歌詞に多言語で取り組んだこともそれを推し進めた理由の一つ。本作で日本語が聞こえてくる瞬間に筆者も、ふと親近感を覚えた。それは本作に登場する言語を母国語とする各国のリスナーとも共通の感覚であるはず。歌に加えて言語も折衷していく今回の創作が、彼らのアイデンティティとエキゾチシズムへの好奇心をより明確に記すことになった『Mordechai』について、ベースのローラ・リーとドラムのドナルド“DJ”ジョンソンに話を聞いた。(インタビュー・文/加藤孔紀 通訳/原口美保)

Interview with Larura Lee Ochoa & Donald “DJ” Johnson

――『Mordechai』では、全編に渡って歌が取り入れてられています。どういう風にアンサンブルの中に歌を取り入れていったのか。制作のプロセスを教えてください。

Donald “DJ” Johnson(以下D):これまでのレコードとあまり変わらなかったよ。全ての曲がドラムとベースからスタートして、音源を送り合い、そのあと会って考えていたものをいっきに皆で合わせて演奏した。

Laura Lee(以下L):そのあとキーボードやボーカルを考えてのせていったの。曲を再度見つめ直して、その曲がどのような意味を持った曲なのかを探って、そこに歌を取り込んでいった。それはこれまでと同じ。

――1曲目の「First Class」を聴いたとき、ロイ・エアーズの「Everybody Loves The Sunshine」に通じるものがあると思っていて、歌と楽器のどちらかが主張しすぎず、両者が対等に融け合うようなサウンドと感じました。歌と楽器の関係性をどんなものにしたいと考えていましたか?

D:「First Class」は正にロイ・エアーズのその曲に影響を受けている曲。バンド全員がファンでね。コードや曲の動きの要素を取り入れてみた。ボーカルに関しては、その曲にはいくつかオプションがあったんだけど、ポストプロダクションの段階で、もっと深い領域に入ってみたいと思ってボーカルが入ったものを選んだんだ。

L:私たちにとって、歌とは他の楽器と同じで何かを表現する術の一つなの。

――歌うという術は、何を表現しようとするものなのでしょうか?

L:ボーカルも楽器も、私たちは全てを”ボイス”と捉えているわ。歌も楽器も様々なものとコミュニケーションを取ることが出来る”声”だと思ってる。

――今作では、ほとんどの曲に歌がありましたが「Father Bird, Mother Bird」はインストの楽曲でした。

D:それぞれの曲が自然に出来上がり、その分、出来上がり方も違うんだ。「Father Bird, Mother Bird」は、作業の最終的な段階で、主張の強いメロディとギターが出来上がっていた。そこに更にボーカルやその他の要素を入れる必要性がなかったんだ。だから、それ以上何も加えずにそのままの状態で曲を仕上げることにしたんだよ。

――今作の歌詞について聞かせてください。英語に限らず、多言語で書かれています。それぞれの言語が持つ言葉の響きの違いは、あなた達の音楽にとってどういう意味を持つのでしょうか?言語が持つ響きの違い、その面白さに魅かれている印象も受けました。

L:私たちは世界中の音楽を聴くから、もちろんその言語も様々。だから、出来るだけ多くの言語を自分たちの音楽でも取り入れていきたいと思っているの。

D:響きの違いに関しては、各曲それぞれその曲によって適したサウンドがあって、それを選んでいる感じ。例えば「Pelota」。あの曲を英語で歌ったら、あの曲はあそこまでクールにはならないだろうね。あの言語だからこそ立ち上がってダンスしたくなるんだよ。

L:あと、様々な言語を使うことで、様々な人たちと色々なつながり方ができるんじゃないかと思う。より多くの国の人々に音楽を楽しんでもらえると思うの。音楽から自分が知っている言葉が聴こえて来る瞬間ってちょっと興奮するじゃない?海外にいて、自分の国の食べ物が出てきた時みたいに。自分にとって親しみのあるものが与えられる時のあの感覚。例えば日本の人たちが日本語で歌われる歌詞を聴くと、その曲をより楽しめる思うと思うの。だから、そのバラエティを私たちの音楽には持たせていきたい。

――ローラ・リーさんがハイキングに出たときの体験を元に書きとめられたものが、後に本作の歌詞になったと聞きました。そのときの体験がどんなものだったか、なぜその体験をノートにしたためようと思ったのか教えてください。

L:3年半のツアーですごく疲れている時で、ある家族と一緒にハイキングに出かけて、子供たちも一緒に公園でくつろいでいたの。それがどんな経験か言葉で表すのは難しいんだけど、数年も旅をして帰る家がないという経験をすると、それがものすごく特別なことに感じる。そのMordechaiファミリーのMordechaiとの出会いは、彼が、私が友人を必要としていると思ったらしく、私に手を差し伸べてくれて、そこから友人になったの。私にとっては、すごく意味のあることだった。私も世界に同じことがしたいと思って、タイトルを『Mordechai』にしたというわけ。その時の経験をノートに書いたのは、ただその時に感じたことを残しておきたかったから。歌詞として書き留めたわけじゃなかった。それを歌詞にしたのは、私だけじゃない。マークとDJと一緒にその体験にインスパイアされた歌詞を書いたの。

――「Dearest Alfred」や「So We Won’t Forget」では少なくなりつつある「手紙を書く」という行為について歌われています。手紙を書くこと、また文章を書くという創作をどんなものだと考えていますか?

D:俺が手紙を書くのは、誕生日カードや母の日、父の日のカードを書く時。それは自分が子供の時からやってきたことだし、メールやテキストがある現在、わざわざペンとインクを使って文字を書くということで、特別感が生まれると思うから。手書きの文字を読むということは、読む側を特別な瞬間に誘ってくれるよね。

L:私は祖父が書いた手紙を読むのが好きなの。すごくセンチメンタルな気持ちになるし、まるでタイムカプセルを開けたような感覚になる。手紙を書くという行為は、そのメッセージを書くのに時間を費やしているということ。それを読むということは、それだけ意味のある何かに触れているということ。書くということで、やっぱりその時の感情がそこに詰め込まれるわよね。感じるもの、閉じ込めるものの重みが増すと思う。

――「If There Is No Question」や「One to Remember」では命や記憶が永遠ではない、いずれは「消えてしまう」寂しさについて歌われていると感じました。消費のスピードが速い現在の寂しさともリンクするような。だから「Dearest Alfred」や「So We Won’t Forget」では、じっくりと意志を交換できる手紙について歌われているのかなとも。

L:ノスタルジアってハッピーな記憶だけど悲しい。その理由は、その瞬間が過ぎ去ってしまったものであるから。「If There Is No Question」や「One to Remember」で表現されているのはその寂しさなの。悲しいけど、それはネガティブな悲しみではないのよ。

――今作のサウンドについてお聞きします。軸となる歌、ギター、ベース、ドラム以外にもヴィヴラフォンやぺダルスティール、ボンゴやブラジルの楽器パンデイロなどのサウンドが聞こえてきました。多言語の歌詞と相まって前作以上に、様々な国のエキゾチシズムを感じるサウンドでした。

D:さっき話したように、俺たちは世界中の音楽を聴くから、その音楽全てに影響を受けている。自分たちの中に”創造力のタンク”があって、その影響はそこに蓄えられていって、音楽を作る時にそこからアイディアが飛び出してくるんだ。世界中の音楽を幾度と聴いていると、それらの違いよりも共通点の方が聴こえてくる。俺たちは、文化の違いというよりも、文化の共通点から刺激を受け、それを活かして曲を作っているんだよ。だから、各国の人々がそれぞれにクルアンビンのサウンドに親しみを感じることが出来る。トルコ人はクルアンビンのサウンドをトルコっぽいというし、南アメリカの人たちはラテンっぽいという。母国アメリカの人たちはロックンロールだという。異なる文化の音楽同士の中にある共通点を取り入れることで、より多くのひとがその音楽を楽しめるようになっているんじゃないかな。

――タイ・ファンクを取り入れることは元々、DJさんがディグしていたところから発想されたものですよね。異国の音楽を取り入れてオリジナルの楽曲をつくっていくことを、どんなものだと考えていますか?

L:特に意識する必要もないの。自分たちが聴く音楽の影響は自然と反省されてくるから。

D:そうそう。創造力のタンクの話と繋がるけど、俺たちは、ただそこから出て来るものを使って音楽を作っているだけなんだ。

L:意識しているのは、自分たち自身を感じられる音楽を作ること。自分たちを作り上げているのは一つのタイプの音楽ではないから、それらが混ざりあえば、自然とユニークなサウンドに仕上がるの。もしも出来上がったサウンドに自分たち自身が反映されていなければ、それは問題よ。自分たち自身を感じられることが、一番重要なことだと思う。

――世界各地のサウンドを感じる本作には、ツアーで各国を巡った体験が反映されているんでしょうか?ツアー中にインスピレーションを受けた体験があったら教えてください。

L:ツアーでは毎日刺激を受けているから、そのどの部分が反映されているかは自分たちにもわからない。選べないわ。

――では、日本ではどうですか?

D:クラブクアトロのライブは特別だった。

L:たしかに。あのすっごくオールドスクールな雰囲気がよかったのよね。最近って全てが最新であの昔ながらのエネルギーを作り出すのに時間がかかったり、難しかったりする。でもクラブクアトロは古き良きエナジーが既に漂っていた。まるで皆で宇宙船に乗っているような感覚だったの(笑)

――異国への関心がありながら、一方では、リオン・ブリッジズとEP『テキサス・サン』を共作したようにテキサスひいてはヒューストンへの愛着もEPからは感じました。

L:ヒューストンは様々な文化の坩堝。世界中の音楽に囲まれているし、様々な文化を目にし、触れることが出来る街。まさに私たちの音楽のような街といえるわね。

――EP『テキサス・サン』も本作同様に歌を取り入れたアルバムでしたが、今作とは歌の在り方が違う。今作と比べて、EPの創作はどういう体験でしたか?

D:あの作品へのアプローチは、自分たちのこれまでのアプローチとは違っていた。他のアーティストとコラボするのは初めてだったんだ。ギターが核となるサウンドという決まりがあったから、そこが大きな違いだった。それもあってプロセス自体が違っていたんだけど、結果うまくいったと思うし、何よりも作業を楽しめたのがよかったね。スペシャルな経験だった。ピンポイントで何をとは説明できないけど、初めての経験だったから、本当に多くを学んだんだ。

――最後に今作のミュージックビデオについて聞かせてください。「So We Won’t Forget」のミュージックビデオは日本の栃木で撮影されています。日本のこの場所で撮影された経緯を教えてください。それと、「Time(You and I)」にはスタンダップ・コメディアンのステファン・K・エイモスが出演していますよね。なぜ彼に出演をお願いしたんでしょうか。

L:ビデオを撮影してほしいと思っていた親友が、あの撮影の半年前に日本に越したところだったの。彼が日本に住んでいたから(「So We Won’t Forget」は)日本で撮影されることになったの。(「Time(You and I)」は)ビデオを手がけてくれた友人が、ステファンにオファーしてくれたの。自分たちは何もしてない(笑)彼が出演してくれて、私たち全員本当にハッピーだった。

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Live Photo by William Mercer (@tripmercer)

Text By Koki Kato

Interpretation By Miho Haraguchi


Khruangbin

Mordechai

LABEL : Dead Oceans / BIG NOTHING
RELEASE DATE : 2020.06.26

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