「過去を振り返りすぎないこと」──Hotline TNTに訊くバンド・アティチュードとクリエイティヴィティの源泉
Hotline TNTはバンドの創始者であり、ソングライターでもあるウィル・アンダーソン(Vo./ Gt.)を中心に、ラッキー・ハンター(Gt.)、ヘイレン・トゥラメル(Ba.)、マイク・ラルストン(Drs.)の四人からなるニューヨークを拠点に活動するバンドだ。
アグレッシヴで空間を埋め尽くすような轟音ギターと、ささくれ立ったパンキッシュなサウンド・テクスチャー、うだる様な暑さが和らいだ夏の日の夕焼けのようなロマンチックでスウィートなメロディー・ライン。そんなロック・バンドの理想ともいえる要素を携え、ジャック・ホワイト主宰《Thrid Man》よりリリースされたセカンド・アルバム『Cartwheel』(2023年)が多くのインディー・ロック、エモ、シューゲイザー・リスナーの耳に届き、彼らの知名度を一気に引き上げた。Wednesdayやfeeble little horse、They Are Gutting A Body Of Water、フリコといったバンドとともに、近年(このような表現は個人的には好まないが)“復権”が囁かれる現行オルタナティヴ・ロックを代表するバンドのひとつといえるだろう。
本インタヴューは、本年2月から3月にかけて開催されたHotline TNTのジャパン・ツアー時に、バンド・メンバー全員が参加して行われた。新作『Raspberry Moon』についてというより、彼らのバンド・アティチュードや、音楽的なクリエイティヴィティの源へ焦点をあてたこのインタヴューが、前作から2年ぶりに届けられる待望の新作を聴き、読み取るヒントになればよいと思う。
(インタヴュー・文/尾野泰幸 通訳/安江幸子 協力/吉澤奈々)
Interview with Hotline TNT(Will Anderson, Lucky Hunter, Haylen Trammel, Mike Ralston)
──ついに今日でジャパン・ツアー最終日になりましたね。京都、大阪、名古屋、東京とツアーを通じて西から東に移動してきた中で印象に残った経験などはありましたか?
Lucky Hunter(以下、L):東大寺の大仏が印象的で、とくにアメリカにはこんなに古い建物がないので人間の意志の力でこんな建物ができたんだ、ということに感動したなぁ。あと、昨晩の東京でのショーがこれまでバンドとして演奏した中でもハイライトになるようなショーだった。フロアのみんながとてもエネルギーに満ち溢れていたし、僕たちを歓迎してくれているようで、自分たちにとっても信じられないくらいの瞬間だった。
──ウィルに質問です。あたなは出身地であるウィスコンシン州チペワ・フォールズにて、ジャスティン・ヴァーノンとDeYarmond Edisonを結成していた、フィル・クックとブラッド・クック兄弟から音楽活動のインスピレーションを得たというエピソードをインタヴューで目にしました。あなたにとって彼らはどのような存在だったのですか?
Will Anderson(以下、W):彼らは自分の家のほんとうに近所に住んでいて、フィルは自分のピアノの先生だったし、ブラッドからもいろんな音楽を教わって、例えばエリオット・スミスを教えてくれたのも彼だったし、4トラックレコーダーを譲ってくれたのも彼だった。音楽を好きにさせてくれたのも彼らだったね。13歳とか14歳のころの話で。
──ブラッド・クックは、ワクサハッチーやハレイ・フォーザ・リフ・ラフ、ケヴィン・モービーとの仕事で知られています。どちらかといえば彼はフォーク・ミュージックにおける仕事を主としているように感じますが、それらの音楽とHotline TNTが現在鳴らしているような轟音ギターを主軸としたオルナタティヴ・ロックと結び付けるのは少し難しいかもしれません。あなたはどのようなきっかけで現在のHotline TNTの音像のベースとなるような音楽に出会ったのですか?
W:確かにそうだよね。今でこそブラッドとはまた仲良くなったんだけど、彼が高校時代ぐらい、ちょっとこう、仲違いじゃないけど、距離を置いていた時期があって、その時にブラッドとは全然真逆のパンクだったり、ヘヴィーなギター・ミュージックのような音楽に興味が向かっていた時期があって。それが自分たちがいまやっている音楽に繋がっているかな。
──あなたは大学進学のためバンクーバーに居住し、そこでインディー・ロック・バンドの活動を支援したり、あなたが以前結成していたWeedというバンドで音楽活動をしていたとのことですが、その音楽活動からHotline TNTはどのようにして結成されるに至ったのですか?
W:長い道のりで、みんな違うバンドで活動していて、何年かかけて互いにちょっとずつ知り合いになっていったんだよね。もっといえば、緩やかに繋がったDIYパンクやパンク・ハードコア系のバンドのコミュニティの一員だったというか。誰か、追加で話したいことある?
L:ウィル以外の、マイク、ヘイレン、そして自分の3人は約10年前、一緒にツアーを回っていた時に出会ったんだよね。その頃、ヘイレンと自分は同じバンドで演奏していて、マイクがやっていたバンドのツアーに一緒に参加したという。
Mike Ralston(以下、M):俺がまだ酒を飲める年齢ではない頃の話ね。
L:時間をかけて、強い絆を築いて来た感じかなあ。その後、マイクがニューヨークに移って、ウィルがバンドのドラマーを探していた時に彼と連絡を取り合って、そこからメンバーが辞めたり去ったりする中で、互いの繋がりを活かして順番にポジションを埋めていった感じだね。
──あなたたちはfeeble little horse、DISQ、Sheer Magといったバンドたちと一緒にライブを行ってきたと思いますが、日本でもそれらのバンドや、WednesdayやThey Are Gutting A Body Of WaterといったバンドとともにHotline TNTは紹介されることが多い印象です。それらのバンドとあなたたちに共通する精神性や音楽的特徴について思い浮かぶものがあればお聞きしたいです。
M:いま名前が挙がったバンドたちとは、確かにサウンドだったり、アティチュードで共通点はあると感じるかな。仲も良いしね。
L:マイクの言うとおりだね。そのバンドたちとは、もしかすると音の特性では共通点があったりなかったりするかもしれないけど、バンドの精神性や活動スタイルの面では共通点が多いよね。
──ここ数年、先ほど名前を挙げたようなギター・オリエンテッドなインディー・ロックが再び若い人たちを含めリスナーを増やしている感覚はここ日本に住んでいても感じます。そのなかであなたは以前別のインタヴューでアレックス・Gという存在が、あなたの音楽活動における大きな指針、モデルとなっているという話をしていたと思いますが具体的にどのような点がアレックス・Gの影響として挙げられるのでしょうか?
W:どのインタヴューで彼について触れたか、正確には覚えていないんだけど、アレックス・Gが、若い人たちにギター・ミュージックを再び広めるのに大きな役割を果たしたとは考えてるね。
L:アレックス・Gはまさにウィルが言ったように、ギター・ミュージックを若い世代に再注目させるような人物。彼は他のアーティストができなかった方法で彼らの注目を集め、他のバンドが同じことをするきっかけを作ったというか。自分たちも、まだそのバンドを見つけていない子供たちにも届くようなバンドになりたいと思ってる。彼らにとってのギター音楽への入り口になるように。
──あなたたちの音楽、作品の話について聞かせてください。何よりもまずそのアグレッシヴで空間を埋め尽くすような轟音ギターとロマンチックなメロディー・ラインがフィーチャーされることが多い印象ですが、私があなたたちの音楽を聴いて気になるのは、リリックを長く引き伸ばして歌うヴォーカル・スタイルがサウンドとマッチしている点です。シンガロングできるような歌としての強度が高いともいえるかもしれません。ヴォーカル・スタイルや、録音において意識している点はどのようなものになるのでしょうか?
W:楽曲を書く時に最大の目標としていることは、音楽が聴いた人の頭から離れないようにすること。そういう音楽こそ、自分が最も聴きたい音楽だから。それはバンドの指針となる光といってもよいかもしれないね。
L:覚えやすい曲っていうか、記憶に残るメロディーを作ることはすごい大事だと思う。さっき、質問にもあったような、シンガロングできるというのはオーディエンスと繋がったり、心の交流をするとてもよい手段だと思うから、メロディーを大事にしてる。
M:本当にメロディーはすごく大事。コードはこれまでの歴史の中でいろいろなバンドが使い尽くしちゃった感もあるし、テクスチャーの技巧も面白みはあるんだけれども、やっぱりメロディーは、自分たちが表現しやすいし心に残るっていうのもあって。
L:ギターのエネルギーが聴く人の心に響くのかもしれないけど、心に残るのはやっぱりメロディーだと思うので、すごく重視してるね。
W:自分はリード・ヴォーカルなんだけど、実はライヴでは4人全員が歌えるように4人分マイクを立ててるんだよね。自分たちはシューゲイズ・バンドと言われることも多いけど、実はシューゲイズのなかでも、いやシューゲイズというよりもすごくメロディーを重視しているバンドだっていうことは最後に付け加えておきたいかな。
──『Cartwhell』のオープナーである「Protocol」では輝くようなアコースティック・ギターがフィーチャーされ、一足先に聴かせていただいたニュー・アルバム『Raspberry Moon』に収録されていた「Lawnmower」もジャングリーなギター・ポップの香りがする楽曲であるように、Hotline TNTを構成する音楽的要素は、もちろん轟音ギターとロマンチックなメロディー・ラインにとどまらずもっと多様で広がりのあるものなのだという感覚をあなたたちの音楽を聴きながらずっと思っていました。そのうえで、Hotline TNTのサウンド・ディレクションにおいて最も大切にしていることは何かを聞きたいです。
L:ギターとメロディラインを超えて、自分はリズムが曲の本当に重要な要素の一つだと思うかな。自分たちはライヴ・パフォーマンスを核としている部分もあるし、そこでフロアのみんながダンスでも、クラウドサーフでもいいんだけど、感じるままに体を動かしてもらうには、リズムを曲にしっかり組み込むことが大切なんだと思う。これは本当に本当に重要な部分で、新しいアルバムでは生のドラムを意識的に組み込んだりして、マイクが大切な役割をしてくれたかな。
M:リズムは曲の雰囲気を完全に変えることもできると思うしね。例えば「Dance The Night Away」は、ワークショップのようにみんなで意見を出し合う場でデモを聞いた時、全く違う雰囲気の曲だったし。
W:そう。とても速い曲だった。
M:正直、そのバージョンではあまり曲を前に進める気になれなくて。でもジャム・セッションを始めて、リズムを変えてみたら、同じコードにも関わらず完全に新しい形になって、全く別の曲のように聴こえるようになったという経験もある。だから、普段はあまり考えないことだけど、瞬間瞬間の自然発生的なリズムの感覚も大切にしているかな。
──さらに、『Cartwhell』とニュー・アルバム『Raspberry Moon』においてサウンド・ディレクションで共通するように意識した部分とあえて異なるようにした部分があればそれぞれお聞きしたいです。
M:個人的にはドラムが前作『Cartwheel』ではプログラミングされていたから、本作ではより人間味のあるサウンドにしようという単純な話ではないのだけど、前作のプログラム、エレクトロニックなドラムの感覚を人力でどのように再現するかというところは意識したかな。
L:『Raspberry Moon』を制作していたスタジオでポイントになっていたのは、『Cartwheel』で実現したことをどれだけ強化して、ステップアップさせるかという意識が緩く共有されていたよね。
W:LAに住んでる僕の友人のドラマーが、『Cartwheel』を初めて聴いてくれた時に「これはすごくいい作品だけど、これに生のドラムを入れたら、最強というか、バンドとして次のステップに進めるぞ」って言ってくれたことがずっと頭の中に残ってて。それがまさに今回の作品で目指していたことだよね。
──ウィルは別のインタヴューでフェイヴァリット・ソングとしてチャーリーxcx「360」に言及したり、ピンクパンサレス、Caroline Polachekやロザリアのパフォーマンスについて感動した経験を語っていました。現在における最新系のメインストリーム・ポップ、エレクトロ・ポップはHotline TNTの音楽、サウンドにどのような影響を与えているのでしょうか?
W:例えば、誰かが自分たちのオリジナルではない曲のカヴァーを演奏するのを聴くと、ポップ・ソングやロック・ソングどんなジャンルであっても、カヴァーしたバンドのフィルターを通過して、曲を再構築したとしても結局は良い曲のDNAはそこに残っていると思うんだよね。いい曲には普遍性があるというか。
L:実際、現在の“ポップ”は最も興味深いことをやっている音楽ジャンルだと思うし。
M:ピンクパンサレスはトップアーティストだけど、自分の音楽を自分でプロデュースし、自分で作ってる。つまり、自分たちとやっていることは根本的に違いはなくて、彼女はたまたまその道に進んだ。フィルターの解釈が違うだけでね。
W:ポップ・アーティストのライブを見る時、彼らのパフォーマンスから多くの影響を受けることはある。自分たちのショーの全ての瞬間を、例えばロザリアのライブを見る時のように、観客を感動させるようなエンターテインメントにしたいと思うことはあるね。ロザリアのライブを見ると、ほぼ最初から最後まで、心の底から揺さぶられるような感覚になるし。
──「out of town」をリリースした際には、Super NES風のゲームやチップ・チューンを作っていたり、小さいころにゲームをしている姿の写真をInstagramにアップしていたりしていましたね。さらにあなたたちのHP(Ass N’ Up)はまるで90年代後半から00年代前半のインターネット黎明期のデザイン感をしていたり、最新作『Raspberry Moon』に収録されている「Transtion Rense」はヴェイパーウェイヴ的音像のシンセサイザーが印象的に用いられていたりと、あなたたちの音楽には“ノスタルジア”といったキーワードがあるのではないかと想像してしまいます。あなたたちの音楽にとって“ノスタルジア”はどのような意味を持ち、機能しているのでしょうか?
Haylen Trammel:自分たちはやっぱり90年代の音楽を聴いて育っていたので、その頃の音楽はフェイヴァリットだというのはあるかな。
L:でも、そういう昔の音楽は大好きで今の自分を作ってくれた音楽だけど、過去を振り返るっていうよりも、それを活かしてこれからどうするかというスタンスに今はフォーカスをしていたいって感じ。過去を振り返りすぎないことだね。
W:すごく興味深い視点。ヘイレンと私は音楽を超えてノスタルジーについてたくさん話してきたんだよね。ノスタルジアってのはパワフルなドラッグみたいなもので、古いヴィデオ・ゲームをやったり、古い映画を見たりするのは大好き。だけどラッキーが言ったように、ノスタルジーはアートの良い出発点になるかもしれないけど、後ろ向きにではなく未来にそれをどう持ち込んでいくかという部分にいま最も興味があるし、最も強力な作品が生まれる場所だとも思う。例えば、Sheer Magの最新作を考えてみると、彼らは特定の時代への参照が非常に強いバンドだけど、最新作の本当に良い点は、新しいことをたくさん試しているからだと思う。そういう仲間も周りにいることが、自分への刺激にもなっているかな。
<了>
【THE QUESTIONS✌️】Vol.31 Hotline TNTText By Yasuyuki Ono
Interpretation By Sachiko Yasue

Hotline TNT
『Raspberry Moon』
LABEL : Third Man Records
RELEASE DATE : 2025.06.20
購入 : TOWER RECORDS / hmv / Amazon / Apple Music