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「一番心を捉えて離さないのがメロディ」
LAから声を発信するSSW、ヘイゼル・イングリッシュ

18 July 2025 | By Nana Yoshizawa

オーストラリア・シドニー出身で現在はロサンゼルスを拠点とするシンガー・ソングライターのヘイゼル・イングリッシュ。地元にいた頃は「海に行ってはしゃぐような明るいキャラじゃなかった」と振り返る彼女は、ほぼ直感でサンフランシスコに移り、流れに導かれるように活動をしてきた。その大きなきっかけが当時、彼女の働いていた書店で出会ったDay Waveことジャクソン・フィリップだ。

ヘイゼルのダブルEP『Just Give In / Never Going Home』(2017年)、新作『Real Life』(2025年)などでプロデュース/共同制作をする盟友は、Kenny Hoopla、Hana Vu、Launderらのプロデューサーとしても知られている。彼のギターを軸にした音作りは80年代のニュー・オーダーやザ・キュアーの影響を受けたシンセサイザーの響きと相まって、メランコリックな空間を生み出す。新作で2人の共作した「Jesse」、「All Dressed Up」はシンプルなコードや構成の成り立ちだけれども、耳に残るメロディが推進力をもっている。それに率直な歌詞は会話のように素朴な文体で、思わず自身を重ねてしまうだろう。そういえば、ジャクソンが2020年にガール・イン・レッドをフィーチュアした「Kate’s Not Here(Day Wave & Lawrence Rothman Remix)」では、歌詞のなかの別れに対してマリー・ウルヴェンの怒りに滲むような歌声を引き出していたのも印象的だった。こうしたフィリップの感情を引き出すソング・ライティングに、ヘイゼルの澄んだヴォーカルが組み合わさるサウンドは、どこかノスタルジックだ。郷愁に満ちている。

2025年6月に8年ぶりとなるツアーで来日したヘイゼル・イングリッシュに、ジャクソン・フィリップスとの出会い、『Real Life』の制作背景、SF作家のフィリップ・K・ディックや哲学書を愛読書とする彼女のインスピレーション源について話を訊いた。
(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/竹澤彩子 写真/中野道)

Interview with Hazel English


──クリエイティブ・ライティングを学ばれていたそうですが、楽曲制作は独学ですか?

Hazel English(以下、H):そうなの、ギターを始めたのは16歳のときにネットの動画を観ながら完全に独学で。最初は自分の好きな曲をカヴァーするところから、曲作りも独学で始めてるんだよね。

──ちなみにどんな曲をカヴァーしてましたか?

H:ザ・スミス、ザ・キュアー、クランベリーズとか、主に90年代のバンドの曲を中心に。あとはオアシスとか。

──めっちゃ90年代ですね。

H:そう、めっちゃ90年代(笑)。ギターを最初に手にしたのは学校の授業がきっかけで、そこから「あ、この先もこれ続けたいな」って。もともと学校のブラスバンドで別の楽器を担当してたけど、必ずしも曲作りに向いてる楽器じゃなくて……ちなみにギターを始める前は、ユーフォニアムっていう金管楽器をやってたんだよね。

──長年コラボレーションをしている、Day Waveことジャクソン・フィリップスとは2015年にカリフォルニア州オークランドの書店で出会ったそうですね。当初、彼と意気投合するきっかけになったアーティストや考えは何でしたか?

H:それがホントに偶然の出会いだったの。ちょうどジャクソンが彼の地元であるオークランドに戻ったばっかりの時期で、話の流れで「実は音楽をやってて……」ってところから、向こうも「え、そうなの?自分も音楽やってるよ?」っていう。まったくの偶然というか、そのときはお互いの趣味とか影響を受けた音楽とか一切話題にしたこともなくて。そこから自分で作った曲を何曲か送ったら「よかったら一緒に作らない?」って声をかけてもらったのがきっかけ。本当にたまたま、私たち2人のどちらもお互いこんなに気が合うだなんて、そのときはまるで想像もしてなくて。私からしたら、空から降ってきたラッキーな幸運みたいな感じよね。ただ、最初からお互いに心を開いてる状態だったから、一緒に音楽を作るときにもすごく自然で、いい感じのケミストリーが生まれていったのもあるし。

──そのケミストリーとは、具体的にどういった感じのものだったんでしょうか。

H:単純に言っちゃうと、元々ベースになる好みがすごく似てるから一緒にやってて楽なんだよね。多くを説明する必要がないし、基本的に同じ方向を向いてるから、後から大きな訂正を加える必要もない。ただ直感に従ってそのまま進んでいける。それにジャックってわりとサクサク作業を進めるタイプで、そのテンポ感も自分に合ってた。そうでなくてもお互い仲のいい友人同士でもあるしね。そういうところでもすごくやりやすい。性格的にも音楽的にも相性がいいから、それがそのまま音との関係性にも出てるよね。人と人のレベルで繋がってるっていう前提があるから、一緒に音を作ったらどうしたって濃くなるに決まってる。もう、本当に人間的にも音的にも響き合ったというか。ただもう偶然としか言えない出会いによって、お互いに共鳴し合ってる。趣味とか好みとか超えたところで普通に人間的にも繋がってたから、全てがすごく自然な流れで……もうほんとそうとしか表現の仕様がない。

──2人で最初に出来た曲が「Never Going Home」だと思いますが、最初の共作で得た発見はどんなことでしょう。

H:そう、あれが最初に2人で書いた曲で……そのあと何度かできた曲を聴き直してるうちに自分の中で「ああ、これかも」って。その前から自分だけで曲を書いてたものの、今一つ確信が持てなかった。ただ、あの曲を一緒に作ったとき「これは今までとは確実に次元が違うかも」っていう手応えを感じて、それをもっと追求してみたい!って思えた。しかも、そのプロセス自体に夢中になっちゃったもんだから、そのまま自然と一緒に曲を書き続けるようになって、そのまま今に至ってるみたいな。

──あなたは影響を受けたアーティストに、キャロル・キング、ママス&パパス、ジェファーソン・エアプレイン、ザ・ビートルズの『リボルバー』期などを挙げています。60年代~70年代初頭に大きく活躍したアーティストが多いですが、とくに参考にしたアーティストはいますか?

H:あっちこっちから影響を受けているけど、最終的に行き着くところでいうとサム・クックになるのかな。本当に時代を超越して深いレベルで共鳴し合えるっていう意味で。必ずしも音楽的に自分が作りたいスタイルではないにしろ、絶対的に心を揺さぶられる……メロディからしてもう一発でやられちゃうっていうか、メロディで掴まされる音楽に自分はどうも昔から惹かれてしまうらしくて。

──ちなみに最初に彼の音楽に出会ったのは?

H:良い質問、子供の頃からあちこちで耳にしてたはずなんだけど、本格的にハマりだしたのはここ10年ぐらいかなぁ。

──ではキャロル・キング等の影響に関しては?

H:それに関してはほんとに、タイムレスでクラシックだからの一言に尽きる。まさにサム・クックの話と同じで、要するにメロディだよね。上質なメロディに、かつ上質な歌詞っていう組み合わせが自分の中では最上級の至福の組み合わせ。自分がこれまで学んだソングライティングというか、曲作りでの経験則として、アコースティック・ギターで弾いて成立するなら、正真正銘にいい曲っていう前提があって。つまり、曲の屋台骨がしっかりしてることが大事。60年代や70年代の音楽って、まさにそこだけで勝負してたわけじゃない? ただもう曲の力だけですべてを納得させてしまうほどの圧倒的な表現力っていう……もちろん、プロダクションだとかその他の要素もすごく大事だとは思うけど、最終的に行き着く先はやっぱりソングライティングってところになっちゃう。

──あなたにとって60年代は、音楽だけでなくカルチャーや社会性などシンガー・ソングライターの在り方についても共感できるところが多いように感じます。このシンガー・ソングライターの在り方について、今どういうことを考えていますか。

H:ああ、なるほど。本当にそうだと思う……面白い! すごく考えさせられる…………今、少しだけ考える時間をもらってもいいかな? あまりにもディープすぎる質問だから、こちらも真摯に受けて答えたい。そうだな……曲を書くっていうのはやっぱり自分自身の経験について書くことでもあるし、つまり、どうしたって自分が生きている社会の状態やまわりで起きていることやそれに対する自分のリアクションがどうしたって曲の中に反映されてしまう。そういう意味では、今すごく興味深い時代に生きてるんじゃないかなあとも思うのね。ある意味、60年代と少し通じるような……例えば『Wake Up!』っていうアルバムを作ったときはマインドフルネスであること、今この瞬間に意識を向けて生きることの大切さを実感していたからで。今の時代って、それこそインターネットだのショッピングだの依存的なものに四六時中、意識を削がれている状態なわけで。その周りからのノイズに自分自身まで持っていかれてしまわないように。 もっと、自分が日々取っている行動の一つ一つに意識を向けて生きていくことの重要性を感じていたから。ただ無資本主義的な誘惑に無自覚のまま飲み込まれていくんじゃなくて。少なくとも、自分に意識を向けることがあの頃の自分の中での大きなテーマだったの。スマホ依存の状態から抜け出して、もっと「今ここ」に意識を向けて、自分のまわりで何が起きているのかを実感しなくちゃって。スマホの小さなスクリーンの中の自分だけの世界に閉じ篭りっぱなしになるんじゃなくてね。それで今言われて思ったのは、60年代もまた意識を変える必要性が訴えかけられてた時代だったんじゃないかなあって。それこそ、既存の概念やパターンを壊して、新たな意識に目覚めることによって社会にも変革をもたらそうという動きよね。もっと自分自身に意識を向けることで、自分の行動の一つ一つがいかに社会全体に影響力をもたらすのかについて自覚的になること……世の中で起きていることに目を向けて、自分から自発的にコミットして発信していこうという姿勢だよね。自分が音楽を通してやっているのも、結局はそういうことなんじゃないかなって。今自分のまわりの世の中で起きていることに反応して、それを自分なりの声として発信してる。

──インスピレーション源にSF作家のフィリップ・K・ディックを度々挙げています。また、この分野で彼を超える者はいないとも話していました。

H:そう(笑)。

──具体的にフィリップ・K・ディックの作風なのか、「非現実」を作り出す創造性なのか、どういったところに影響を受けているか聞かせてください。

H:今言ったすべてだよね、文体もすごくストレートだし。すごくわかりやすいし読みやすいのにグッと引き込まれる。それだけじゃなくて、作品の中で扱っているテーマ自体にすごく惹かれるし、SFの中に哲学的な要素をたくさん織り込んでいて、しかも人間の奥深くにある心理にも触れている。昔から問いを投げかけてくれるような作品が好きだから、例えば「現実とは?」「人間であることの意味とは?」「テクノロジーの進化の先に待ち構える未来とは?」みたいな根源的な問いを突きつけてくるみたいな……そう考えると、フィリップ・K・ディックってどれだけ時代を先取りしていたんだろう?って、ただひたすら感服でしかない(笑)。それがあるからこそ、今の時代にもものすごく通じているし、時代を超えて何度も映像化され続けてる理由なんじゃないかな。本当にすごく影響を受けた作家の一人。

──なかでも一番好きな作品を挙げるなら?

H:良い質問! そうだなあやっぱり『高い城の男』が好きかな。あの文章のスタイルがすごく好きで、文体もそうだし、散文的な要素がとても美しくて。『スキャナー・ダークリー』もすごくユーモアがあってエンターテイメントな作品だし。大好きな作品がいくつかある『アジャストメント(調整班)』はなかでも一番のお気に入りかもしれない。短編だけれども自分の中にものすごく大きなインパクトを残してる作品で、創作スタイル面でも大きな影響を受けてる。

──前作『Wake Up!』では、ギー・ドゥボール『スペクタクルの社会』や哲学からインスピレーションを得たとありました。今作『Real Life』の構想はどのように描いていましたか?

H:『Real Life』はもともとフル・アルバムを想定していなくて、ただ普通に曲を作り続けていたらいつの間にか形になったもので。ちょうどロックダウンが開けたばかりの頃に、ジャクソンと「そろそろ音楽作りを再開しようか」みたいなところから始まってて……その時点で最後に一緒に音楽を作ってから1年くらい経ってたの。それでまた曲作りを始めたんだけど、最初は特に何か計画していたわけじゃなくて。それでも次第に以前みたいなペースを取り戻していく中で、自然と曲ができていったんだよね。今回のアルバムはそういう意味でも、ある時期の空気を切り取った曲のコレクションみたいな感じになってるかもしれない。実際、2つに分けてリリースしたんだけど、最初のEP『Summer Nights』は高校生の頃の自分を振り返るような内容で、恋愛や夢や理想について楽観的な視点から描いてる。ちょうどコロナでどこにも行けずに家に引き籠ってた時期だったから自然と過去の思い出を振り返ったりして、ノスタルジックな感情に浸ってた時期だったんだろうね。

──『Real Life』というアルバム・タイトルは、シングル「It’s Not Real」と対になるような印象です。また「Hamilton」の歌詞は夢を題材にするなど、あなたの創作には「Real」「夢」というキーワードが重要なのではと思いました。実際に「Real」や「夢」という言葉に当てはめているコンセプトやイメージがあれば教えてください。

H:またまた面白い視点、自分でもまるで意識してなかったけど……ただ、そこもまた最初の方のフィリップ・K・ディックに影響を受けているっていう話に帰結するのかも。彼の本って、「現実とは何か?」「何がリアルで、リアルであるということの本質とは何か?」っていう問いを繰り返し投げかけてくる。私自身、しょっちゅうそういうことについて考えていることもあって。みんな自分は普通に現実世界の中を生きてるつもりだけど、自分が今生きている現実は果たして本当の現実なんだろうか?って。少なくとも私に関しては、気がついたら空想に耽ってたり、実際はそうでもないのに、そこに自分の幻想を重ね合わせてしまうことがしょっちゅうで。たしかに私たちの一人一人が現実に生きているつもりでも、それはあくまで自分のフィルターを通した現実なわけで……ちょっとバラ色のフィルターがかかってるみたいな、自分の中にある理想やファンタジーの部分も確実に入り混じってると思う。ただ、そのファンタジーの部分が自分の心の支えになることだってあるわけじゃない? とくに苦しい時期にいるときには、たとえ夢やおとぎ話だとしても、それが人生を乗り越える力になったりもする。そういう安全な心の避難所みたいな場所を自分の中に持ってることがすごく大事なんじゃないかなあ……なんてね。

──ジャクソン・フィリップスは自身のプロジェクトで、カセットのMTRを録音に用いていたと思います。今回のレコーディングで何かこだわった機材や録音方法はありましたか?

H:その辺りに関して特にこだわりがあるわけじゃないんだけど、2人で一緒に作るときはアナログ機材をよく使ってる。ジャクソンがJunoとかその辺のアナログ・シンセを大量に保有してるんで。あのどこか懐かしいような、リアルな音の質感も好きだったし。とはいえ、特定の機材やレコーディング方法にこだわりがあるわけじゃなくて、その辺りは完全にオープンなの。いろんなやり方を試すのが好き。その日の自分の気分と、誰とどのスタジオで作業してるかにもよっても変わってくるだろうしね。まあ、アナログがあったら、アナログのほうを選びがちではあるけど。

──アナログのどんなところに魅力を感じますか?

H:不完全な部分も丸ごと捉えられるところ。デジタルみたいに完全無欠の状態ではないところにかえって人間的な魅力を感じるんだよね。あるいは、その部屋の中の微妙な空気感まで捉えられているような気がして。すべてが一点の曇りもないクリアなサウンドってあんまり好みじゃないかも。むしろ穴だらけのローファイ・サウンドの方が、人間らしくて親近感を抱ける。

──初期の頃からあなたの楽曲は軽やかな音作りで、ウェストコースト・ロックのような爽快さを含んでいると思いました。今回『Real Life』の音作りで、意識した音質やサウンドパレットはどのようなことでしょう。

H:ああ、それも良い質問。ただ、どうなんだろうなあ……今言われて、この先もっとサウンドとかテクスチャーを念頭に置いて曲を作ってみるのもいいのかも、とも思った。そこから新たに開けてくるものが確実にあるような気がするし……ただ、これまでの自分の曲作りについて振り返って言えるのは、その曲を一番ベストな状態で出してあげることで、その曲にふさわしいものを確実にきちんと提供してあげること。それこそ、最高の形に仕上げるために、アレンジから何まですべてがその曲をベストな形に引き出すために仕えてるように。だから、曲ごとに目指してるサウンドが違ってるし、最初から明確なアイデアを持ってるわけじゃないことも多くて。いろいろ試していく中で「あ、この曲には幻想的でスペーシーなギターを必要としてるかも」とか「もっとパーカッシヴな要素を求めてるよね」とか、トライ&エラーを繰り返していくうちに徐々に見えてくるもので。あるいは、「よし、これだ!」って明確なヴィジョンを持って臨んだものの、まったく別の着地点に辿り着いてるってこともしょっちゅう。だから、そのへんは常にオープンでフレキシブルでありたい。むしろこの曲が一体どんな音の景色の中に自分を連れていってくれるんだろう?っていう気持ちで乗っかってる部分もあるかもしれない。

──「Hamilton」ではエレクトロニックなリズムやスポークン・ワードなど新しい試みがありました。これらのアプローチを取り入れたのもそういうところから?

H:うん、ホントにそんな感じ。ほんとにその場の思いつきで色々試したくなっちゃって、完全に遊びや出来心から。「今日はちょっと、いつもとは違うことをやっちゃおうかなー?」みたいな(笑)。「Hamilton」のそれなんて、タナからボタ餅的な最たる例みたいなもの(笑)。

──何かそのきっかけとかあるんですか?

H:あれに関しては完全に無意識というか、エクササイズみたいな軽いノリで、自分の意識の流れを追っていきながらストーリーを紡いでいったみたいな感じで、自分もその流れに乗ったっていう。新しいことに挑戦しようっていう気持ちでね。

──ラーズの「There She Goes」のカヴァーは最高でした。あなたのヴォーカルは伸びやかで切ない特有のスタイルをもっていると思うのですが、自身のヴォーカル・スタイルでどんなことを意識していますか?

H:ああ、なんて素敵な質問! とはいえ、自分の声について意識したことないっていうのが正直なところ(笑)。ただ、とりあえずいつも自然体で、等身大の自分の声で歌うようにはしてるかな。誰かの歌い方を真似ようとしたこともないし、それどころか自分の歌い方についてすら意識したことがないくらい。ただ普通に素で歌ってるだけなんだよね。そもそも人の声って年齢と共に成長して変化していくものでもあるわけじゃない? 私も最初の頃はもっと熱くて激しい歌い方をしてた思うけど、最近は若干落ち着きが出て、どこかフワフワした夢のような感触を帯びてきたような……とはいえ、結局どれも自分自身であることには変わりないんだけどね。とりあえず、自分から自然に出てくる声のまま歌ってる。自分以外の誰かものすごく偉大な歌い手を目指しているわけでもないし、ただ私は私として自分の歌をうたっていきたい。

──先ほど常にメロディから書くということをおっしゃっていたと思うのですが、メロディから作るのはどういう理由から?

H:やっぱり、一番心を捉えて離さないのがメロディだと思うから。自分の頭にこびりついて離れない曲ってたいていメロディに強烈に惹かれてるからだし、それって自分が常に目指してるところでもある。メロディを通して誰かの頭の中に忍び込んで、思わず口ずさみたくなる気分にさせたらこっちのもの!みたいな。しかも、その作戦を練ること自体が楽しい……このメロディとフックを使ってどうやって頭にこびりついて離れないものにしようかな?とか、歌ってて気持ちいいメロディってどんな感じだろう?とか。私自身、絶対的に歌が好きだから。聴いた瞬間思わず一緒に歌いたくなっちゃうような曲……リアクションからしてそんなの絶対に好きに決まってるよね、みたいな。自分も曲を通じて聴いている人の中にそういう感覚を呼び起こすことができたら素敵だなって。その瞬間、私の作った曲が確実にその人にとって特別な意味を持つものに変わるわけでしょ? たとえそこまでいかなくても、とりあえずその曲が鳴ってる短い間だけでも、束の間の幸福をもたらすことは可能だと思うから。私自身、大好きな曲に合わせて歌ってるときの高揚感って何ものにも勝る喜びだし……歌詞の意味なんてわからなくても全然かまわないの。たとえ自分の知らない外国語で歌われてたとしても、そんなのものともしないで自分の中にガンガンに響いてくるのがメロディ。まさに世界共通の言語だよね。言語や国境の壁なんてまるで存在しないみたいにいとも簡単に乗り越えてしまうのがメロディだと思う。

──ちなみに、10代の頃からヴィンテージを集めていると聞きました。私はヴィンテージに時代を乗り越えてきた強さや不思議な縁を感じるのですが、あなたにとって古いものの魅力は何でしょう?

H:ああ、もう。ほんとそう、すごくよくわかる。私がヴィンテージに惹かれるのは、やっぱりそこに宿ってる歴史やストーリーの部分なんだよね。その一つ一つが唯一無二だから。私のコレクションもどれもこの世に一つだけしかないアイテムだし、これだけ時代を経ても残ってきてるってことは、この先何十年経ってもずっと残り続けるんだろうなあっていうのを予感させてくれる……決して流行に左右されることない強さというか。自分の出会ったアイテムがそれまでどこを旅してきたのか想像するのもすごく好きで。「これまでどんな国を旅してきたの?どんな景色を見て、どんな冒険をしてきたの?」って親近感を抱かずにはいられない。あと、私の元に来る前に何人が持ち主がいたわけで、そのアイテムを通じていつかの時代に確かに存在していたはずの自分の知らない誰かと繋がってるような気持ちにもなれるところも好きだし、それがバトンタッチみたいに受け継がれていくところに特別な繋がりを感じるというか。あとは、単純にデザイン的にも好きなんだよね。さらにヴィンテージの服を活用することはサステイナブルの実践に繋がるしね。色んな意味で好きなんだよね。

──ありがとうございました!

H:(日本語で)アリガトウ! こちらこそ! ディープで考えさせられる質問ばかりで感激しちゃった。

<了>

Text By Nana Yoshizawa

Photo By Michi Nakano

Interpretation By Ayako Takezawa


Hazel English

『Real Life』

LABEL : P-VINE
RELEASE DATE : 2025.05.21
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