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テレビアニメに奥行きをつくる挿入曲──『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』にみる巧みな音楽演出

11 August 2025 | By Z△IK△

テレビアニメは、物語やキャラクターの魅力を視覚と聴覚の両面から伝える表現媒体だ。特に、ライトノベルや漫画といった原作を持たないオリジナルアニメ作品では、演出や楽曲といった要素がすべて“オリジナル”として視聴者に届けられる。だからこそ、作品の印象を左右する表現には一層のこだわりが求められる。

その“オリジナル”の表現力を存分に発揮し、音楽と映像の融合で高い人気を博したのが、アニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下、『ジークアクス』)だ。今年1月からの劇場先行上映では興行収入33億円を記録し、4月からの地上波放送では従来のガンダムファンに加え、新規ファンをも巻き込み、毎週SNSでトレンド入りを果たした。

正直なところ、私はこれまでガンダムシリーズに特別な関心を持っていなかった。日本のアニメカルチャーを代表する長寿コンテンツという認識はあったものの、新規ファンにとって敷居が高いイメージや、ロボットに興味がなければ楽しめないのではと思っていた。しかし、『ジークアクス』はその先入観を見事に覆してくれた。ポップで鮮やかなキャラクターデザイン、過去作を知らなくても楽しめるストーリー、そして何より洗練された挿入曲の数々に惹かれ、気づけばすっかりハマってしまっていた。

今回は、『ジークアクス』を彩った挿入曲を振り返り、楽曲が作品の世界観に与えた影響を考える。


▼目次

1. あらすじ
2. 魅力的な挿入曲の数々
3. 各アーティストの独自のアプローチ
4. おわりに




あらすじ

楽曲について振り返る前に、『ジークアクス』の物語の概要を紹介する。本作は、宇宙に浮かぶ人工居住区・スペースコロニーで平穏な日常を送る女子高生マチュが、難民のニャアンや謎めいた少年シュウジとの出会いをきっかけに、熾烈な戦いの日々に身を投じていく物語だ。

本作のテーマのひとつに、主人公マチュの“自由への渇望”がある。裕福な家庭に生まれ、お嬢様学校に通う彼女は、一見何不自由ない生活を送っている。しかし、決められたレールの上を歩むような毎日に、どこか物足りなさを感じている。そんな彼女の日常は、モビルスーツGQuuuuuuXとの出会いによって一変する。戦いの中で、マチュは「キラキラ」と形容される自由で輝く世界を感じ取るようになっていく。様々な思惑が渦巻く戦いに巻き込まれながらも、彼女は最後に自由をつかむことができるのか。




魅力的な挿入曲の数々

『ジークアクス』の世界観を彩った挿入曲を、以下に紹介する。

NOMELON NOLEMON「ミッドナイト・リフレクション」
煌びやかなサウンドにドラムンベース系のビートが融合した、アップテンポでポップな楽曲。時折漂う浮遊感が緩急を生み、作品のモチーフである“キラキラ”感も満載。ポップカルチャーの前線で活躍するコンポーザー・ツミキの視点から“ジークアクスらしさ”を表現したこの曲は、第1話のマチュとニャアンの出会いのシーンで初登場。物語中盤では2人の関係性が大きく変化し、異なる文脈で使用され、楽曲を通じてキャラクターの距離感の移ろいを際立たせる印象的な演出となっていた。

星街すいせい「夜に咲く」
平成のJ-POPを彷彿とさせる懐かしさのあるメロディが特徴の楽曲。「ミッドナイト・リフレクション」が現代的なトレンド感を意識したサウンドだったため、『ジークアクス』の音楽は令和的なサウンド傾向なのかと思いきや、対照的なテイストに驚かされた。多様なジャンルを楽しめるのも『ジークアクス』の魅力の一つだ。

照井順政、岡地織花「夏の現在地 (I_047)」
透明感あるボーカルとローファイ風のアコースティック系サウンドが心地よく、気がつくと何時間も聴いてしまう。派手さはないが、じわじわと中毒性を生む一曲。トラックだけで聴いても、夏のまぶしい日差しを思い起こさせるような照井ならではの繊細な空気感が漂っている。特に印象的なのは、映像と連動した演出だ。曇ったヘッドホン越しの音からクリアな音へと移行するにつれ、非日常から日常への回帰を描く。セリフのないシーンで使用され、楽曲そのものが主役となることで、絶対に細部まで聴き入ってほしいという制作陣の強い自信が感じられる。約1分半の短いシーンながら、記憶に深く刻まれる演出だった。

照井順政「コロニーの彼女 (I_006A)」「水槽の街から (I_006_lyric)」
「コロニーの彼女」は予告編でも使用され、個人的にも『ジークアクス』を象徴する楽曲として印象に残っている。近未来的な雰囲気とノスタルジーを併せ持つ二面性のある楽曲だ。

一方、「水槽の街から」はボーカル入りのアレンジで、タイトルの“水槽”は閉じられた人工空間=スペースコロニーを象徴しており、作品の世界観を表現しているのではないか。

NOMELON NOLEMON「きえない」「HALO」
NOMELON NOLEMONの提供曲はポップなものが多かったが、「きえない」は切なさや孤独を強調した一曲。物語中盤、だんだんとすれ違っていくキャラクターたちの心情を描き出している。「HALO」はテクノポップ調のキュートなサウンドが印象的だが、本編では緊張感漂うシーンで使用され、楽曲と映像のコントラストが印象的だった。

照井順政、岡地織花「欲しいものすべて (T_001)」/照井順政、Shania Yan「Far Beyond the Stars」
「欲しいものすべて」は物語序盤の第4話のクライマックスで使用された。この回は復讐や執着といった重いテーマが描かれたが、楽曲は繊細で柔らかな響きだ。正直なところ、初見では曲や演出が壮大すぎる印象を受け、衝撃的なシーンではあったのだが、1話完結エピソードの回にしては盛り上がり過ぎではないかと思った。

しかし、最終話で流れた「Far Beyond the Stars」が流れたとき、その意味に気づかされた。「Far Beyond the Stars」は「欲しいものすべて」の英語詞バージョンで、インドネシア出身のShania Yanののびやかで澄んだ歌声とオーケストラの壮大な響きがマッチして、まさにクライマックスにふさわしい感動的な一曲だ。

この2曲は、メインキャラクターの一人であるシュウジの感情の変遷とリンクしている。「欲しいものすべて」ではシュウジが今まで願ってきたもの、そして「Far Beyond the Stars」では自分の心を縛っていたその“願い”から解放され、まっすぐに未来を見据える姿が描かれた。願望から解放への旅路──同じ曲を使うことで対比構造が生まれ、ストーリーを際立たせる。まさに音楽を通した伏線回収と言えるだろう。

この2曲の微妙なアレンジの違いも聴きどころだ。「欲しいものすべて」では柔らかさや温かみを感じる一方、「Far Beyond the Stars」では壮大でドラマチック感が強調されているように感じた。どちらも素敵なので、是非聴き比べてみてほしい。




各アーティストの独自のアプローチ

『ジークアクス』の楽曲制作に関わったアーティストたちは、それぞれ異なるアプローチで作品の魅力を引き出していた。中でも主要な4組のアーティストについて、その特徴や貢献を振り返る。

米津玄師
オープニング曲「Plazma」は、話題性の面で満点だったと思う。『メダリスト』のOP曲との両A面シングル発売でも注目され、様々なメディアで取り上げられた。キャッチーなメロディに物語とリンクする歌詞を重ねることで、本編を知らない人にも「どんな内容なんだろう?」と作品への興味を喚起するのが上手いと思った。

星街すいせい
エンディング曲「もうどうなってもいいや」を担当した星街は、最終話の放送時にYouTubeで同時視聴配信を行うなど、ホロライブ所属VTuberとしてのプロモーション力を発揮した。米津とは異なるリスナー層にアプローチすることで作品の人気を盤石なものにしたのではないか。

照井順政
マスロック・バンド=ハイスイノナサのメンバーとして20年以上活動を続け、近年では『呪術廻戦』などの劇伴でも注目を集め、アニメ分野でも存在感を放つ照井。『ジークアクス』では繊細で空気感のあるサウンドで作品の世界観に奥行きを与えた。

他のアーティストとは一線を画すアプローチで、作品をよりエモーショナルに深く記憶に残るものにした。特にキャラクターの内面やテーマ性を音楽で丁寧に描き出し、「Far Beyond the Stars」では、作中では描ききれなかった感情の機微を歌詞で表現した。本作の音楽的評価の高さは彼の功績によるところが大きいと思う。

NOMELON NOLEMON
ボカロP/シンガーソングライターのツミキと、歌手のみきまりあによるユニット。ポップでトレンド感ある楽曲は、作品を親しみやすさを付与した。等身大のキャラクターをありのまま表現することで、より人間らしいリアリティを感じられるようになった。




おわりに

『ジークアクス』放送終了後の余韻を楽しむことができたのは、間違いなく楽曲の力のおかげだ。Spotifyを開けばいつでも『ジークアクス』の曲がある。今年の夏のプレイリストの一番上には「夏の現在地」があるし、時間が経ってふと思い出したときに「水槽の街から」を聴いて、また本編を観返すのだろう。この余韻はそう簡単には消えそうにない。(Z△IK△)

Text By Z△IK△


『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』

原作 : 矢立肇、富野由悠季
監督 : 鶴巻和哉
脚本 : 榎戸洋司、庵野秀明
キャラクターデザイン : 竹
主題歌/挿入歌 : 米津玄師、星街すいせい、TM NETWORK
声の出演 : 黒沢ともよ、他
公式サイト : https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/

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