【From My Bookshelf】
Vol.4
『ニッポン人のブルース受容史』
🔥の絵文字よりも熱い言葉の数々
「よぉBBOY! HIPHOPの話をしようぜ」。国内ヒップホップ・シーン屈指のラッパーのOMSBは、昨年リリースしたアルバム『ALONE』収録の「LASTBBOYOMSB」のフックでそうラップした。固有名詞を多く交えてヒップホップへの愛情を語った同曲には、同じ音楽を愛する人間なら誰しも胸を打たれるであろう熱い気持ちが詰まっている。
好きな音楽の話をするのは楽しい。時には楽しくないこともあるが、それでも楽しさの方が圧倒的だ。語り合えなくとも独り言としてSNSに投稿することも楽しいし、ブログのような場所で書くことも楽しい。音楽について言葉にすることは、聴くことやライブを見ることと並んで楽しいことの一つである。
『ニッポンのブルース受容史』は、そんな好きな音楽を語ることの楽しさが詰まった一冊だ。この本の主役は、タイトルが示す通りアーティストではなくリスナーである。熱心なリスナーが制作したミニコミやレコードの広告、そして『ザ・ブルース』や『ニューミュージック・マガジン(現ミュージック・マガジン)』といった音楽誌に掲載されたレヴューやライヴレポートなどをまとめ、日本でブルースがどのように定着・加熱していったのかを描いている。「ニ」で始まる三文字の差別用語など2023年に読むには眉をひそめる表現もしばしば登場するが、その時代感覚も含めて当時の空気がたっぷりと感じ取ることができる。
この本では1937年に発表された淡谷のり子の楽曲「別れのブルース」のような「ブルース」という言葉の早い使用例も紹介しているが、ブルースの本格的な浸透は1960年代から始まったことを指摘している。音楽誌から掲載された文章も、最古のものはその時期に書かれた原稿だ。ここで重要なのは、ブルースが1960年代の時点では「最先端の音楽」ではないということである。既に誕生から60年以上、ブルース初期のヒット曲であるマミー・スミスの「Crazy Blues」が録音された1920年から数えても50年近く(ヒップホップ史ほぼ丸ごと!)が経っている。ソウルやロックといったブルースから発展したジャンルも生まれた後なのだ。もちろんブームを後押しするようなヒットや新たな動きが生まれていたからこその熱の高まりだが、リイシューや編集盤などの話題も多く、後追いとしての性格も強いと言えるだろう。
しかし、ここに収められた文章が放つ熱量は凄まじい。とにかくブルースという音楽に魅せられ、その魅力をなんとかして伝えようという思いに満ちている。時には「B・B・キングはブルースとしては2流」というパンチのある論も飛び出し、それに対するアンサーとなる論も登場。その意見の相違も共に愛ゆえに生まれたものであり、文量的にもSNSでの「レスバ」とは一味違う感触がある。
そして読み進めていくと、その熱量が徐々に広まっていく様子が伝わってくる。1974年に開催された第一回ブルース・フェスティヴァルの関連記事や、1977年に亡くなったスリーピー・ジョン・エスティス遺族への寄付金の募集などからは、この頃には日本でブルースがしっかりと根付いたことが伺える。これらの瞬間は、間違いなく語りの熱気がもたらした成果と言えるだろう。
この本はブルースの本だが、音楽の語りについての本でもある。2023年を生きる私たちは、好きな音楽についてこの頃のブルースファンほど熱量のある語りができているだろうか? インターネット上で可視化されたものだけが語りの全てではないが、まだまだ🔥の絵文字よりも熱い言葉を重ねる余地は残されているように思う。ヒップホップを中心としたブログの運営者/ライターとして、あるいは一人のヒップホップ好きとして最後にもう一度OMSBの言葉を借りよう。よぉBBOY! HIPHOPの話をしようぜ。(アボかど)
Text By abocado
『ニッポン人のブルース受容史』
著者:日暮泰文+髙地明(編著)
寄稿者:吾妻光良、鈴木啓志、永井ホトケ隆、ほか
出版社:P-VINE / ele-king books
発売日:2023年3月29日
購入はこちら
書評リレー連載【From My Bookshelf】
過去記事(画像をクリックすると一覧ページに飛べます)
関連記事
【FEATURE】
わたしのこの一冊〜
大切なことはすべて音楽書が教えてくれた
http://turntokyo.com/features/the-best-book-of-mine/