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《フジロック・フェスティバル ’19》ライヴ&フォト・レポート

23回目を迎えた《フジロック・フェスティバル’19》。7月27日は台風6号の影響で一部プログラムに変更が生じたものの、26日の前夜祭から延べ4日間で130,000人(主催者発表)が来場して今年も大盛況のうちに幕を閉じた。そこで『TURN』では4人のライター陣が今年のベスト・アクトをピックアップ。フォト・ライブラリーとあわせてお楽しみいただきたい。なお、来年は東京五輪と重なることから8月21日、22日、23日に開催されることが既に発表になっている。(編集部)

Janelle Monae photo by 笹村祐介(トップ写真も)

ファンク・パーティを通した、自分を祝福するという体験

「闘い続けなければならない。女性、LGBTQ、障害を持つ人、労働者階級、ブラック、ブラウン(ヒスパニックを指すことが多い)、移民たちのために」ジャネール・モネイのライブは作品同様、明確で一貫したメッセージを持っている。ただ、その闘い方は「乱用される権力に対して」”ファック”を突き付けるのではなく、ただただ自分を愛し、自分のやり方でクレイジーにパーティするという、シンプルでいて喜びに溢れたものなのだ。

まず何度も衣装を着替え、ラップにギター、バック・ダンサーたちと結束されたキレキレのダンスに…と、とにかくエンタメ度が高い。ファンク、ロック、ヒップホップが有機的に混じったバンド演奏は、次の出演者目当てに前方を陣取っていた人さえも思わず、自然と我に返ったように踊らせていた。ハイライトはMVと同じくヴァジャイナ・パンツで登場した「Pynk」。ここではムードを変え、一単語一単語を観衆に語りかけるように優しく歌う。コーラスで解放されるように「Yeah! Some like that」と歌えば、男性である私でさえ自分のことに置き換えて、普段ネガティヴに捉えがちな”自分の体にある他人との違い”も、この日ばかりは祝福出来たように思えたのだ。他人が奇妙と言おうが、自分のものでしかない体で、自分らしく快楽にふける。コンシャスでポリティカルとも思われがちな彼女の作品の本質が、ファンク・パーティを通してダイレクトに共有されていた。(山本大地)

Vince Staple photo by Masanori Naruse

The Paradise Bangkok Molam International Band photo by 笹村祐介

Khruangbin photo by 笹村祐介

バンドものへの再評価とアジアの音楽への興味

アジア出身のギター・ロック+αの編成の出演者が今年は特に印象に残った。タイのザ・パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンドや台湾のサンセット・ローラーコースター(落日飛車)……というように。そんな中、特に印象に残ったのは、サイケ・ガレージと中東の民俗音楽をミックスさせた、イスラエルのウーゾ・バズーカである。

中東のエキゾチックなメロディやリフを乗せた、魔術的なライヴを繰り広げていた。ギター&ボーカルのウリ・ブラウネル・キンロトは、長髪に金色のヘアバンドを巻き、赤いワンピースという、どこかの宗教の教祖のような恰好。ムーラン・ルージュをイメージしたステージに不思議なほどはまっていた。ストレートなガレージ・ロックな「It’s a Sin」で観客を引き込み、一体化させたと思えば、「Space Camel」のような中東リフを使用した曲で異次元へトリップしてしまうような雰囲気になる。時にはベリー・ダンサーも登場して、フロアを盛り上げる。極めつけは、唯一の日本人メンバーのユリカ・ハナシマがボーカルを取る美空ひばりの「真赤な太陽」のカバー。より親しみのある曲にフロアの空気が安心感に包まれる。日本の歌謡曲からも影響を受けた彼らにとっては、必然的な選曲ではあるが、中東サイケ・ガレージと日本の歌謡曲がこんなにも相性がいいものだとは!これまで、リリースされている音源にも入っていなかったから、今回、初めて気づかされたことだ。

フジロックは、今、何が起こっているのか、を垣間見ることができる場だ。今年の場合は、バンドものへの再評価とアジア音楽への興味、それが顕在化したように思う。(杢谷えり)

The Cure photo by Taio Konishi

Mitsuki photo by 笹村祐介

Thom Yorke Tomorrow’s Modern Boxes photo by 笹村祐介

キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードとソウル・フラワー・ユニオンが苗場で指し示した、それぞれの現在地と約束の地

フジロック初日、昼間のホワイト・ステージながら、開演前に後方の椅子を畳むようアナウンスされるほど人が集まった。近年益々活況なオーストラリアのインディーシーンで重要なサイケデリックバンド、キング・ギザード&ザ・リザード・ウィザードの日本初ライヴだ。14枚ものアルバムの中からどんな選曲がされるのか?結果、冒頭3曲及びラスト2曲という10曲中半数が、発売前のメタル・アルバム『Infest The Rat`s Nest』からとなり、苗場をワールド・ツアーと冠するだけあって、現在進行形のバンドの姿を観ることができた。ツイン・ドラムを普段と違って横に並べたのは、日本のファンに向けての顔見せの意味もあったのかも。

そして、東日本大震災の年以来の出演となったソウルフラワー・ユニオン。挨拶がてらのフェス定番曲を並べたが、ラスト前に新体制での初アルバム『バタフライ・アフェクツ』(2018年)からの1曲「この地上を愛で埋めろ」を挟んだのは、中川敬からの「これで行くぞ!」というメッセージと受け取った。

来年は開催以来初となる8月下旬の開催だ。既に《サマーソニック》が2020年の未開催を発表しており、例年とは違う海外フェスとの絡みがラインナップやセットリストにどんな変化を及ぼすのか? いつも以上に妄想が止まらない。(渡邉誠)

Tycho photo by Taio Konishi

淀みなく、流れるようにオーディエンスを自在に操るティコという策士

覚束ない曇り空の下、夕方のホワイト・ステージにティコはよく似合っていた。初期の名曲「A Walk」で幕をあけるとすぐに、会場は何とも言えない陶酔感に包まれた。ティコ独特の浮遊するようなエレクトロニック・サウンドとビート、それに呼応するかのうようなバックの映像は、そこにいるオーディエンスを瞬時にティコの世界に引きずり込める力がある。立て続けに「L」、「Weather」と、淡々とした演奏ながらも、着実にフェスならではの高揚感がを生んでいた。そして、セイント・シナーが登場し、彼女がヴォーカルとしてフィーチュアされている最新作の曲が続く。彼女の透き通るような声やオーガニックな色気のある存在感は、ティコのサウンドに非常にマッチしており、心地良い時間が続いた。

彼女が一旦ステージを降り、「Awake」のイントロが始まると、これまでとは違う興奮、これぞフェス!という盛り上がりが会場を包んだ。エッジーなビートが特徴の「Horizen」、「Epoch」が続くと、そこは完全にティコの支配するダンス・フロアとなっていた。最後に再びセイント・シナーが登場し、「No Stress」でサラッと締めくくった。初めて観るティコは、想像以上に緩急あるライヴでオーディエンスを操る策士のようなバンドだと感じた。(相澤宏子)

The Lumineers photo by Tsuyoshi Ikegami

James Blake photo by 笹村祐介

Stella Donnelly photo by 笹村祐介

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Text By Makoto WatanabeDaichi YamamotoHiroko AizawaEri Mokutani

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