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混沌とした現代社会で、音楽を奏でる意味、そして音楽の持つ意味とは何か?
ヤニス・フィリッパケスが語る、新作に込める想い

23 October 2019 | By Hiroko Aizawa

《サマーソニック ’19》で5年ぶりの来日を果たし、来年3月にも再来日が決定しているフォールズ(来日情報については記事下部を参照)。3月にリリースされた『Everything Not Saved Will Be Lost Part1』の世界観を踏襲したステージを背に、往年の人気曲から、日本では初披露となるPart1の曲まで、力強く駆け抜けるような演奏でファンを魅了した。サマーソニック開催の直前には、本日発売となる『Everything Not Saved Will Be Lost Part2』からリード・シングルとして発表された「Black Bull」は、Part1の神妙な雰囲気とは打って変わり、これまでのフォールズの曲の中でも最もへヴィーな曲とも言えるアグレッシブな音に、一体Part2はどうなるのだろう?と混乱したリスナーも多いことだろう。

実際のところ、Part2は、破壊のイメージで終わったPart1へのアンサーとも言える作品になっている。そのアンサーとは何なのか?今回TURNでは、サマーソニック出演直後に、フロントマンであるヤニス・フィリッパケスにインタビュー取材を行い、Part2の曲の歌詞の内容や、この2部作の制作を通じて彼がどんなことを考えていたのか、Part2全体の意味するところを紐解くと共に、現代社会において音楽をやることの意味等についても話を聞いた。(取材・文/相澤宏子)

Interview with Yannis Philippakis

ーーフォールズのライブを久しぶりに観ましたが、とても素晴らしかったです。新作リリースのタイミングであっても、フェスでも単独公演でも、旧新作問わず、各作品から満遍なく曲を披露しますよね。バンドによっては、あの作品は今のスタンスや雰囲気と全く違うからもう演奏しない、ということはよくあることだと思います。フェスの場合、人気曲の寄せ集めのようなセットリストになり、ライブ全体としてはちぐはぐだったり、ということも少なからずありますよね。聴き手にそういう風に感じさせないのは、フォールズの音楽性が1stから現在に至るまで、地続きになっていて、いつ演奏しても色褪せない、一貫した色があるからだと思っています。

Yannis Philippakis(以下、Y):僕らの場合、古い曲を古いままにしておくのではなく、ライブで演奏することによって常に進化させ続けているんだ。どの曲も時間をかけて最新になっているというか。というのも、別にライブでアルバムをそのまま再現したいわけじゃないからね。敢えて今の自分たちに合っている曲を演奏しているというもあるので、そういった意味でも地続きになっているように感じるんだと思う。自分たちが演奏する曲は、肉体的に衝撃を与える曲なんだ。ライブで演奏する曲はエネルギーに満ちていないといけないし、初めて観る人であっても、瞬時に共感できるような曲になっていないといけないと思っているんだ。

ーーなるほど。確かにPart1の曲も、音源で聴くよりもかなりフィジカルでアグレッシブな印象を持ちました。では、アルバムの話に移りたいと思います。Part1はどちらかというと、全体的に終末観的な雰囲気で、ある種の虚無感みたいなものを感じました。アルバムの終わり方も、そういった雰囲気を残して終わっていったと思います。Part2ではクソ食らえとばかりの勢いがあるなと思いました。この展開は自然の流れだったのでしょうか?Part2ではヘビーな音にしようと決めていたのでしょうか?

Y:スタジオ入りした時には、地図を持たずにそのまま自然の状態でできるだけ多くの曲を作りたいと思っていて、同時に2枚分の曲を作ったんだ。完全にクリエイティブ的にも開放された状態で突入したい、ということもあって。だからこそプロデューサーも迎えなかった。かなり多くの曲を作ったから、中には、より神聖な曲だったり、よりヘヴィーな曲もあるんだけれども、どの曲たちも共通したDNAを持っているんだ。その中で徐々にPart1の方に歌詞ベースで出来た曲、神聖な雰囲気の曲が集まっていき、Part2の方には重厚さを重視した曲が集まっていった。各々のアルバムに個性が生まれてたきたのは、編集を始めた頃だね。そこでストーリー性が生まれてきて、Part1の終わりは炎や破壊のイメージで終わり、Part2はそれに対するアンサー、という形になっていったんだ。

ーーアンサーという意味に対しての質問です。2曲目「The Runner」という曲は、「もっと遠くに走り続けるんだ」という歌詞が繰り返されます。Part1で表現していた混沌とした世の中に対して立ち向かって行くような様子を想像しました。そういった意味を含んでいるのでしょうか?

Y:なるほどね、その解釈気に入ったよ(笑)

ーーありがとうございます(笑)では、引き続き歌詞についてお聞きします。3曲目の「Wash F[ff」という曲の歌詞ですが、メデジン・フェスティバル(コロンビアで行われるフラワー・フェスティバル)に言及していますよね。「オレンジのバラ」というフレーズがありますが、ジャケットにあるオレンジの花とも関わりがあるような気がしました。

Y:このアートワークを作るより前に歌詞は作ったんだけど、僕は実際にメデジンに行ったんだ。メデジンっていう場所は、日々の心配事から開放されるような場所のメタファーだね。歌詞はイギリスで作ったんだけど、自分の周りの暗い闇から開放されたいっていう気持ちがあったと思うんだ。ジャケットのアートワークは、敢えてそうしようと思ったわけじゃないんだけど、メキシコの「死者の日」から取っているんだよ。この花は正確にはバラじゃないんだけど、オレンジだから合うかなと思ってね。偶然ではあるんだけど、意図してないけど上手くフィットしている、っていうことはたまにあると思うんだけど、この2枚のアルバムを作っていて、それをすごく感じたんだ。意図していないのに流れが上手く合う、みたいなところがね。

"広い意味での役割として、音楽は人と人との間に曖昧なダイアローグを生み出す場所でもあるべきだと思っているんだ。"

ーーでは、後半の曲の流れについてお聞きします。7曲目の「Ikaria」以降、前半とは打って変わって非常に静かな時間が続きます。Ikariaはギリシャの「イカリア島」のことですよね?イカロスが落ちた場所、と言われてますが、「10,000 Ft.」の歌詞との深い繋がりを感じました。この曲と月が主役となった「Into The Surf」は詩的な内容だと思います。最後の「Neptune」は、今いる場所から離れていくような雰囲気があると感じました。この一連の曲の流れは、どういったことを示唆していますか?

Y:Part1からのイメージでは、終焉のイメージがあると思うんだ。イカロスは人類全体に対する比喩だね。出来ないことをやろうとした、人間としての限界を越えようとしたその愚かさがあったから落ちて死んでしまったわけで。そのイメージが、現代社会の抱えている不安を表しているんだ。それこそがPart1から「Ikaria」までの共通のテーマだと思っている。自分もギリシャ出身だし、この曲は重要な区切りになっているね。「Ikaria」以降の曲は人間の生命の終わりについてだったり、イカロスが海に落ちて死んだように、「10,000 Ft.」は落ちていくイメージを表現している。個人としても考えていたんだけど、人類全体が、死んだ後はどうなるんだろう?肉体的にも精神的にもどうなっていくんだろう?というのは、日頃考えていてね。Part1の終わりは壊滅的なところで終わっていて、それは社会の抱えている問題を表しているんだけども。「Ikaria」以降では、イカロスが空から落ちてきて、太陽で溶けてしまう、というある種人間の終焉を表している。太陽から落ちてしまったから、次に月のイメージが出てくる。月は未知の世界、暗くなっていくイメージがあるよね。太陽は活気がある、明るい人生のイメージだけど、一方で、月は知られていない、といったニュアンスを含んでいるんだ。

ーーということは、今は未知の世界、自分の知らない世界に惹かれている、という部分もあるんでしょうか?

Y:それもあるね。

ーーまさか起こらないだろうというマイナスなことが次々に起こったりする。その後が予測できない不安はありますよね。

Y:例えば?(笑)

ーーあなたの身近だと、例えばボリス・ジョンソンとか。

Y:ははは、当然それだよね(笑)トランプもそうだし、Brexitとかもね。自分の子供の頃とか、自分が育ってきた環境っていうのは、どこか安心感があった。というもの、ある程度予測のつく方向に物事が動いていたし、理性とか理論に基づいた世界だったからね。でも、今は理論が覆されていていて、何がどうなるかわからない世の中になってしまっているんだ。Part1とかPart2はそういう世の中に対するリアクションなのかなと思うよ。自分が育ったイギリスと今のイギリスは全然違う国になってるんだ。今生きている人たちは、みんな頭の上に大きなクエスチョンマークが乗っかってるような状態だっていうね。

ーーそれは、確かに日本でも同様のことが言えると思いますね。では、そういう時代に生きていて、音楽をやるということは、あなたにとってはどんな意味を持っていますか?

Y:その質問には2通りの答えがあると思っている。1つ目は個人的な話。自分の人生の役割としては、まず、クリエイティブであることが大事。現在の混沌とする世の中のフラストレーションを取り出して、そこから美しいものを作り上げて、アートにしていく。それがアーティストとして、クリエイターとしての自分の仕事だと思っている。ダークなものを、みんなが喜ぶような美しいものに昇華していくっていうね。もうひとつは、音楽としての広い意味での役割は、メッセージ性を持ち、多くの人たちを一つにする力だと思う。現代の生活においてストレスを抱えている人たちに、気持ちが休まる場所を与え、さらには、人と人との間に曖昧なダイアローグを生み出す場所でもあるべきだと思っているんだ。対話っていうのは、敢えて曖昧であるからこそ、衝撃に感じたりすることがあると思うんだよね。

■ソニーミュージックHP内 フォールズ オフィシャルサイト

Text By Hiroko Aizawa


FOALS JAPAN TOUR 2020

【名古屋】
2020年3月3日(火)@ 名古屋 CLUB QUATTRO
【大阪】
2020年3月4日(水)@大阪BIG CAT
【東京】
2020年3月5日(木)@新木場 Studio Coast

INFO:SMASH(03-3444-6751)
■SMASH 来日公演情報

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