FEATURES : 24 July 2018

Vampire Weekend

Original Album Guide To Read In A View From 2018

By Daichi Yamamoto / Yuta Sakauchi / Nami Igusa / Yasuyuki Ono

FEATURES : 24 July 2018

Vampire Weekend

Original Album Guide To Read In A View From 2018

By Daichi Yamamoto / Yuta Sakauchi / Nami Igusa / Yasuyuki Ono

フジロックで5年ぶりの来日!「北米のインディ・バンド」から「ポップ・シーンのど真ん中」へと進化するまで ー 2018年の視点で読み解くオリジナル・アルバム・ガイド

ヴァンパイア・ウィークエンドは現在の音楽シーンの中で最も重要なロック・バンドの一組だ。現在でもインディ・ロックのアンセムとして愛されている「A-Punk」を携えたアルバム『Vampire Weekend』がスマッシュ・ヒットし、デビュー当時から世界的にファンを獲得。次作『Contra』、そして現時点での最新作『Modern Vampire of The City』はは全米1位を獲得、後者に至ってはグラミー賞のベスト・オルタナティブ・アルバムを受賞するなどその実績はインディ・ロックの苦戦が続いた2010年代にあって申し分ない。

中でもフロントマンのエズラ・クーニグはビヨンセの『Lemonade』にソングライティングで参加(そして、惜しくも音源にはなっていないがカニエ・ウエストとも共にレコーディングしている)、Apple Musicではラジオ番組「Time Crisis with Ezra Koenig」を持ったり、更にはNetflixのアニメ番組「ネオヨキオ」を制作したりとサイド・プロジェクトの幅は、ポップ・カルチャー全般にまで行き渡っている。また、2016年までバンドに在籍したロスタム・バトマングリは、バンドのファースト、セカンド・アルバムで培ったソングライティング/プロデュース力をソランジュ、フランク・オーシャン、カーリー・レイ・ジェプセンといったメインストリームのアーティストとの共作活動へと生かしているし、こうした功績を挙げていくだけでも兎に角ヴァンパイア・ウィークエンドが一介の北米のインディ・バンドではなく、ポップ・ミュージック・シーン全般に渡って影響を与えていたこと、インディの枠に収まり切らないタフで柔軟な音楽的、文化的素養を身につけていたことが明らかになるだろう。

そうしたエクレクティックな嗜好は何よりバンド自身の作品に一番に表れている。アフリカン・ミュージックを咀嚼し、それをバロック音楽と組み合わせたスタイルこそがデビュー当初からの彼らのらしさであったが、その後もヒップホップ、エレクトロ、ゴスペル、チャンバー・ポップまで多様な音楽を取り入れてきた。今回はそんなヴァンパイア・ウィークエンドのディスコグラフィをTURNのライター陣に、2018年からの視点で改めて評してもらった。そこから浮かび上がるのは、音楽シーンの現在との極自然な繋がりであり、Vampire Weekendのキャリアを追うことは2010年代のポップ・ミュージックの歴史を振り返ることでもあるという事実であった。(山本大地)


『Vampire Weekend』
2008 / XL Recordings / Hostess

つい最近も、ふと立ち寄った定食屋で「A-Punk」がかかっていた。アルバムを出せばビルボード・チャートの1位を飾るようなビッグ・ネームとなった彼らならではだ。彼らはどうしてそれほど巨大なバンドとなり得たのか。本作のリリースされた当時は、彼ら以外にも、MGMT、ダーティー・プロジェクターズら、既存のロックの西洋的なリズムからの逸脱を試みたバンドがニューヨークのシーンに横並びで存在していたのも事実。もちろん時代を遡れば、デヴィッド・バーンという先駆者もいる。だが、同輩のバンドになくて、ヴァンパイア・ウィークエンドにあったのは何か。トーキング・ヘッズとの違いは何なのか。それはひとえに、心弾むような楽しげで明るいポップネスだろう。

本作はとにかく親しみやすい。リズム隊はいたって軽やかだし、ギターのトレブリーな音色もクリーンであたたかく、メロディーは超キャッチー。だからこそ、アフロビートや、「M79」などで聴けるクラシカルで流麗なストリングスさえもが、小難しさを伴わず、誰しもに受け入れやすいものにドレス・ダウンされて提示されている。そうした外向きの野心が彼ら“地元のヒーロー”をスターダムにのし上がらせたのだ。

アフロビートを取り入れたスタイルは、彼らがコロンビア大出身のプレッピーな若者だという偏見から、“白人エリートのコロニアリズム”と揶揄されもしたが、実際は違う。ユダヤ系のエズラ・クーニグをはじめ、イラン、イタリアなどをルーツに持つメンバー構成のこのバンドは、多様性を体現しているのだ。そういえば、久保田麻琴がスーパーオーガニズムを“ワールドミュージック”として挙げていた(*月刊ラティーナ 2018年6月号にて)が、多様な出自のメンバーが必ずしも西洋的なスタイルにとらわれず、ゆるく楽しげなムードを生み出している点では本作と通じるものがある。スーパーオーガニズムのオロノは影響源にヴァンパイア・ウィークエンドを挙げ、エズラも彼らがお気に入りだ。十年一昔とは言うが、本作が切り拓いた道は、今年一躍脚光を浴びることとなったニュー・カマーに続いていたのだ。(井草七海)

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『Contra』
2010 / XL Recordings / Hostess

リリースから10年近くの時を経た現在、この『Contra』を聴き何よりも新鮮に感じるのは、作中におけるビートの多彩さである。デビュー作『Vampire Weekend』でその片鱗を見せていたアフロ、スカ、ソカといった”ワールド・ミュージック”的ビートはそのままに、本作で顕在化したエレクトロニックなアプローチによって全編にわたって生ドラムとドラム・マシンのビートが並走し、絡み合う。その融合はややもすれば難解に収束してしまいそうでもあるが、他方で本作を成立させている何よりもカラフルでポップなメロディー・ラインが、作品に良い意味での大衆性を生んでいる。その実験・挑戦の野心と”カジュアル”なロック・バンドとしてのバランスが、ヴァンパイア・ウィークエンドの、そして本作の何よりもの魅力となっているのだ。

加えて、時に顔をもたげるビートのループやチョップは、ヒップホップの影響をはっきりと感じさせもする。そして、ヒップホップがポップ・ミュージックのメイン・ストリームとなり、ループがポップ・ソングの主軸となってきた時代を経た現在だからこそ、この作品は新鮮に耳に届くのだ。つまり、本作がリリースされた2010年という、ブルックリンを中心地としたバンド・サウンドが勢いを持っていた時代から、2018年というヒップホップ・R&Bがポップの主流となった現在に至るまで、本作はポップ・ミュージックとしての耐久性を決して失わず、私たちの前に凛とそびえたっているのである。

確かに、コンシャスなコンセプトに満ちたアルバムではある。しかし、それよりも、全編を通じ飄々と歌い上げるエズラ・クーニグのボーカルが象徴しているように、本作は難解な解釈に終始してしまうことをひらひらとかわしつつ、優れた大文字の「ポップ・アルバム」として成立している。リリース当時、全米1位を獲得したことが何よりもそれを証明しているのだ。(尾野泰幸)

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『Modern Vampires of the City』
2013 / XL Recordings / Hostess

バンドにとって脱皮の作品。北米の一介のインディ・ バンドという位置付けから、ステージを上昇させることになった、 現時点での最重要作だと言える。また、バンドとして初めて外部プ ロデューサー(アリエル・レヒトシェイド)を迎えた作品でもある 。プレイン・ホワイト・ティーズ、ザ・サイエンティスツなどのロック・バンドのプロデュースからキャリアをスタートし、この頃には、チャーリー・XCXやジャスティン・ビーバーといったメインストリームのポップ・アクトから、 アッシャーやスヌープ・ドッグといったアーバン系のアーティストまでを手掛けるようにな っていたアリエルは、 よりタフで恒久的なサウンドを欲していたバンドにとって、ぴったりの人選だったと言える。今この『Modern Vampires of the City』を聴き返しても驚かされるのは ヴィンテージ機材を使ってアナログ録音された、ドラムをはじめとする各々の楽器の鳴り。とかくリヴァーブが希薄で、生々しい、ゆえに誤魔化しもきかないサウンドは、5年の歳月を経ても全く古びていないどころか、むしろ、ブラック・ミュージック的な太さのある録り音がスタンダードとなっている、2010年代後半のポップ・ミュージックの“レベル”を、はっきりと見据えて、越えてきている印象さえある。

一方で、バディ・ホリーお得意の、同じフレーズを微妙に異なるイントネーションで何度も連呼する歌唱法を、オートチューンと組み合わせた「Diane Young」などは、学究肌のロック・ミュージシャンとしての側面と、生粋のポップ・フリークとしての側面−−まだ北米インディ・シーンに勢いのあった2000年代半ばから、彼らはザ・ドリームやロンリー・アイランド(!)の作品群のプロダクションと誰よりも真剣に向き合っていた−−の両方を活かした、鮮やかなアイデアの数々にも唸らされる。あるいは「Ya Hey」のヴォーカル処理や「Hudson」のビート・ プログラミングなど、生音とプログラミングの融合におけるロック・バンド側からのトライアルとしても、ここ10年で もっとも完成度の高い作品の一つ。その意味でもまた、現在のシーンを牽引するケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』や『DAMN.』、フランク・オーシャンの『Channel Orange』や『Blonde』と並べて聴くことに、何ら違和感の生じないロック・アルバムだ。このアルバムの後、 バンドのサウンド面のキーマンであるロスタム・ バトマングリはバンドを離脱(とは言え、引き続きVWのソングライティングやレコーディングには関わっている模様)。アリエルとも近しい関係を維持しながら、それこそフランク・ オーシャンやハイム、マギー・ ロジャーズなどの作品にプロデュース方面から関わっている。そういう意味では、ロスタム個人にとっても、本作はステージを変える重要作だった。(坂内優太)

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■Vampire Weekend OFFICIAL SITE
http://www.vampireweekend.com/


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