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Superorganismと
BROCKHAMPTONが体現する
ポップ・ミュージックにおける「二項対立」の無効化。
その4つの理由とは?

11 April 2018 | By Daichi Yamamoto

2010年代のポップ・ミュージックを総括するとしたら? 「いま」、つまり2010年代の音楽は最高にエキサイティングだと感じてきたが、その理由は一体何……?

これまでTURNで何度も取り上げてきたロンドンの8人組コレクティブ、スーパーオーガニズムが来日した際に、ソングライティングの柱であるエミリーとハリーにインタビューした。その時の対話は筆者のそんな問いへのヒントとなり、共感ともなったので、ここで一つだけ印象的な受け答えを抜粋しよう(取材記事は近日中に公開予定)。

――あなたたちの小さいときのどんな経験が今の「ポップ」への愛を作ったと思いますか?

エミリー:小さい時はメインストリーム・ポップのラジオを聴いてたよ。MTVでかかるポップみたいな。広い意味で「ポピュラー」な音楽をね。それで、成長してインターネットを通してあらゆるものにアクセス出来るようになってからは、全ての年代に素晴らしい音楽があることに気づくようになったね。

ハリー:僕もそれは大体同じだな。ただ僕の場合、小さい時は父がパンクに夢中で、彼の「コマーシャルな産物よりもアート」っていう強い信念にも影響されていたよ。だから自分の中にはいつも矛盾みたいな気持ちがあったんだ。だって、俺が好きだったアートっていうのはコマーシャルな産物でもあったから。例えばメインストリーム・ポップがかかるようなバーやクラブとかに行くと場違いな気持ちになる時もあった。このバンドの中にはそういう矛盾を抱えている人は他にもいるんじゃないかな。

実は筆者も、60年代のものを中心にロック好きな父の元に生まれ、一方ではヒット・チャートのチェックも欠かさず、そうしたメインストリームを騒がせるスケールの大きいポップ・アーティストにもまた夢中になってしまう、まさに「アート」と「コマーシャルな産物」の間の矛盾を抱えて育ってきた人間だ。こうした「二項対立」は、ポップ・ミュージックの長い歴史にはいつだって無数に存在してきた。メインストリームとインディ、ロックとヒップホップ/R&B、フォークとカントリー、かつてのディスコとヒップホップ、男性アーティストと女性アーティストといったジャンル区分のようなものから、西海岸と東海岸、欧米とアジア、欧米とアフリカ・中東といった第三世界など地理的なものまで、挙げていけばキリがない。しかし、2010年代においては、それらのいくつかは崩壊し、その矛盾を乗り越える作品が数多く生まれた。筆者自身、そんな折では、その2つの間の矛盾で心が揺れることもほぼなくなった。これこそが、「いま」のポップ・ミュージックが最高に面白く感じる理由なのではないか。そして、そんな「変化と革新」の10年が生んだ最後の収穫、それがスーパーオーガニズムであり、本稿のもう一組の主役、カリフォルニアの14人組のヒップホップ・コレクティブ、ブロックハンプトンなのではないか。先述のハリーの言葉はそんな確信を筆者に与え、また全く別々の場所から現れたインディ出自の2組が共通して持つものについて、ここで語る必要を強く感じさせた。

前置きが長くなってしまったが、まずは前述の「二項対立」とそれが崩壊した、ここ10年の「変化と革新」について、簡単になぞっておこう。

その起点となったのは2008年。つまりストリーム・プラットフォームの代表格、Spotifyがローンチされた年であり、アーティストの表現におけるあらゆる「制限」を解除し、その後のヒップホップ/R&Bミュージック、いや全てのポップ・ミュージックを永遠に変えてしまったカニエ・ウエストの『808’s & Heartbreak』が生まれた年である。これらの後に続いた出来事や現象についてはあなたもご存知の通りだろう。

YouTubeの普及、そしてSpotifyやApple Musicといったストリームの登場は古今東西の音楽へのアクセスを一気に容易にさせ、カリブ産のダンスホールや西アフリカ産のアフロビーツの流行、あるいはBTSがリードするK-Popやメディア兼レーベル、《88rising》がフックアップするアジアのアクトのアメリカへの進出など、欧米以外に出自を持つ音楽が注目を浴びるチャンスが増加するきっかけを多く与えた。

そして、母の死やフィアンセとの別れによる孤独や疎外感をラップではなくオートチューンを武器にした歌で綴った『808’s & Heartbreak』の後に続いたのは、ドレイクやザ・ウィークエンド、フランク・オーシャンら、メランコリーな世界観とアンビエント・サウンドを標榜する新世代の登場だ。彼らはヒップホップやR&Bというジャンルにおけるルールブックを破ると共に、インターネットで配布されるミックステープをきっかけに一夜にしてスターになることで、メジャーとインディの区分けという概念も無効化した。

さて、そんな新時代を総括するように、あらゆる不可能を可能にしているのが、スーパーオーガニズムであり、ブロックハンプトンだ。この2組にはそのメンタリティとそこから生まれるサウンドにおいて強く共通するものがあるり、それらは図らずしてこの10年の「変化と革新」を映してしまっている。ここからは、この2組の共通点と、それが意味するポップ・ミュージックにおける二項対立の無効化について、4つに分けて述べていこう。


SuperorganismとBROCKHAMPTONが体現する「二項対立」の無効化。その4つの理由

1) DIYな方法でメインストリーム・ポップにも挑む

この2組に共通するユニークさの第一は、そのDIYっぷりだ。ミュージック・ビデオなどビジュアル面も自分達でこなすことは両者にとって当たり前。強調すべきは、彼らにとってのDIYはかつてのパンクが育んだスピリットに素直に則った「粗々しいサウンドに手作り感の強いパッケージ」のようなものではなく、莫大な金が注ぎ込まれるメインストリームの産物とも同列に並べられるハイ・クオリティなものであることだ。

楽曲制作における分業制やセルフ・プロデュースへの拘りが象徴的なスーパーオーガニズムは何十人もの手によって作られるケイティ・ペリーやリアーナ、カニエ・ウエストの作品だって愛している。そして、音楽制作とは直接関係の無い、フォトグラファー、アート&クリエイティブ・ディレクター、更にウェブ・ディベロッパーまでメンバーに持つブロックハンプトンは、実際にマーチや自分たちをドキュメントしたテレビ番組(YouTubeの《VICE》のチャンネルで配信されているが日本では視聴不可)まで手がけてしまっているのだから、彼らが描くスケールは半端じゃない。

自分たちを「ボーイバンド」と名乗るブロックハンプトンの首領、ケヴィン・アブストラクトの印象的な発言を2つ挙げておこう。

「自分にとっての《キャッシュ・マネー》や《ロッカフェラ》が欲しかった。他にも自分自身のメディア・カンパニーも欲しかった。俺はいつも「最終的にはブロックハンプトンを《パラマウント》みたいにさせたい」って言ってたよ。」(《The Fader》でのインタビューから。このインタビューでは更に《デフ・ジャム》や《アップル》も自分たちの青写真として挙げている。)

「みんなが(ジャスティン・)ビーバーやロード、ワン・ダイレクションの話をするときには、自分の名前も一緒に出て欲しい」(《The Guardian》のインタビューから。)

メジャーとインディの壁なんて何のその。DIYで行われる彼らの現場には「コマーシャル」と「アート」の境界線も存在しない。アイドルやポップ・スターに対しての「アンチ」でもあったかつての「インディ」という価値観も、もはや彼らにとっては魅力的ではないだろう。筆者も少年期にヒーローのように感じた「マイケル・ジャクソンのパフォーマンスに乱入するジャーヴィス・コッカー」という画もいまや過去の遺産。自分たちの手だけで、メジャー・レーベルの横に並ぼうというその野心には脱帽だ(そして先日ブロックハンプトンはメジャー・レーベルである《RCA》と契約を果たした)。


2) テクノロジーの発展を誰よりも生かす

1)で述べたこの2組のDIYっぷりには、今の時代が用意したテクノロジーの発展が不可欠なのは間違いない。ここでは2組の結成から今の活動に至るまでにはあらゆる場面でインターネットが重要な役割を果たしていることを強調しておきたい。

メンバーの数人が以前所属していたバンド、The Eversonsで日本を訪れた時以来Facebookフレンドだったオロノを始め、イギリス、ニュージーランド、韓国、日本といくつものルーツが合わさり、いまではロンドンの一つの家でメンバー8人が共同生活をするスーパーオーガニズム 。最初に制作した「Something For Your M.I.N.D.」の、イギリスにいたメンバーから送られて来たトラックに、当時アメリカ・メイン州で暮らしていたオロノが歌を吹きこんで送り返して完成したというエピソードは最も象徴的だろう。一方でブロックハンプトンもまた、カニエ・ウエストのファン・フォーラムを通して(全米、更にアイルランドから)メンバーを増やし、現在は14人ものメンバーがカリフォルニアの一つの家で一緒に暮らしている。

インターネット、コンピューターに、自分がトライしたことのないジャンルや世界のローカルなサウンドにもアクセス出来る最新の機材の数々……。この2組はそうしたテクノロジーの発展を生かして、自分たちの活動の制約を無くしていこうとしているのだ。彼らは「今」アーティストであることの特別性を最大限に享受することで、例えインディであっても、自らの手で時代のセンセーションとなることが可能だということを次の世代に示している。


3) どのジャンルにも区分けできない、柔軟な音楽性

スーパーオーガニズムのその奇妙なサウンドについて筆者は「とても2017年にラジオから聴こえてくるものに思えない」と評した。そう思わせた第一は、社会情勢には反比例するかのような「楽しい」ムードであり、過剰なくらいピュアなキャッチーさ。そして、もう一つはロックからも、ヒップホップからも、ダンスミュージックからも影響を受けた「ポップ」という言葉以外ではジャンル区分が不可能なオリジナリティであった。

ヒップホップ・コレクティブであるブロックハンプトンも、そのサウンドはロックっぽい激しいベースラインやメロディアスなシンセがネプチューンズの影響を感じさせる、強烈にキャッチーなものだ。また、各楽曲で共通して扱われることの多い、アイデンティティや孤独、不安などといったテーマは、ヒップホップのクリシェを否定するかのようで、まさに『808’s & Heartbreak』以降である。そこにはヒップホップと呼ばれることも、ポップと呼ばれることも拒むかのような自由さが感じられる。無邪気にポップを愛し、変化にも柔軟なこと、それはまさにポップの最大の醍醐味だろう。

メジャーでもインディでもない。ロックでもヒップホップでもない。ジャンルの区分けを無効にするかのような彼らの試みは、まさにここ10年間のポップ・ミュージックが歩んで来た歴史の延長だろう。

ちなみに、ブロックハンプトンの楽曲は、Spotifyのスーパーオーガニズムのお気に入りに曲を集めたプレイリストでも、彼女たちのライブ前にかかるSEでも聴くことが出来る。これは、スーパーオーガニズム自身も何かしらブロックハンプトンに共感している部分があるということだろう。


4) 「コレクティブ」でありながら「個人」も大事にすること

日本、韓国、ニュージーランドと様々なルーツを持つメンバーがイギリスへと集まったスーパーオーガニズム 。「アジア」、「オセアニア」、「ヨーロッパ」というバラバラな価値観が合わさりながら成功するのには、メンバー間の相互理解が大前提にあるだろう。そんな「相互理解」というメンタリティの重要性はっブロックハンプトンではより明確だ。

「自分たちの音楽を聴いて何を感じて欲しいか」という《DAZED》のインタビュー中の質問では、「受け入れられること。不安になっても、傷つきやすくてもいいんだということ。そして間違いから学ぶこと。何であれ、成長し続けること」とアミーヤが答える一方で「ブラック・キッズのスーパーヒーローになりたい」になりたいと言うケヴィン、「利己的な理由で音楽を作ってると思う」というジョーバと、それぞれが全く別々の答えを返していた。白人も黒人もカラードも、異性愛者も同性愛者も、アメリカンもヨーロピアンも、対立するように見える別々なバックグラウンドを持つメンバーがいるからこそ、描いているビジョンもバラバラだ。彼らはブロックハンプトンというプラットフォームを通して、アーティストとして自分を磨き、自分を表現している。お互いの長所や欠点、時には「理解出来ない」と思えることからも学びながら、研磨している。 「コレクティブ」でありながら「個人」も大事にすること。世界のあらゆる場所で黒か白かの2つが対立し、「多様性」を尊重することが求められる現在にあって、彼らの姿は一つの答えであることは間違いないだろう。

最後に:先人達の革新へのリスペクト

先述の《DAZED》のインタビューの後半での、「ラップ・ミュージックは変化していると思う?」という質問に対するメンバーの答えにはこんなやり取りがあった。

マーリン:10年前ならリル・ヨッティがステージに出て来たら笑われていただろう。

ケヴィン:じゃあ、リル・ヨッティの存在を可能にした、彼より先に現れた人たちの話をしなくちゃ。

ロミル:カニエ・ウエストにリルBにオッド・フューチャーに…

アミーヤ:みんなが奇妙だった。

本項でこれまで述べて来た「変化と革新」の要因には、勿論この2組のユニークな結成のストーリーやDIYっぷりを可能にしてしまう、産業システムやテクノロジーの急速な変化もあるだろう。だが同時にその主役はアーティストたち自身による常識に囚われない新たな試みであり、臆することなく自分自身を表現して来た彼らの先達のアーティストにあったことも、彼らはよくわかっているのだ。

2010年代のポップ・ミュージックを総括するとしたら? 「いま」、つまり2010年代の音楽は最高にエキサイティングだと感じてきたが、その理由は、この2バンドの存在そのものに表出されているのかもしれない。(山本大地)

Text By Daichi Yamamoto

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