FEATURES : 28 June 2017

Slowdive

Slowdive, Philosophy of melody and sound that continues to diffuse

By Nami Igusa

FEATURES : 28 June 2017

Slowdive

Slowdive, Philosophy of melody and sound that continues to diffuse

By Nami Igusa

スロウダイヴ、拡散し続ける、メロディと音響の哲学

再結成モノのジンクスなどどこ吹く風ー新作『スロウダイヴ』

 確かに、初めはシューゲイザーのパイオニアの一つとして手に取った記憶はある。しかし何を隠そう、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『ラヴレス』、そしてこのスロウダイヴの『ジャスト・フォー・ア・デイ』と“同い年”の筆者だ、当時彼らがどれほど真新しかったのか、正直実感が伴わないというのも本音だ。耽美で退廃的であること。フィードバック・ノイズ。スロウダイヴはその総本山だ。しかし今やこの“シューゲイザー”という概念は、手法の一つとして、食傷気味なほど数多のアーティストに模倣され尽くしているにも感じる。

 考えてもみてほしい。フィードバック・ノイズを使う部分こそあれ、スロウダイヴには“歪み”の印象は少ないはずだ。であるならば、まさに今、スロウダイヴをこの“シューゲイザー”というこの恣意的なカテゴライズに閉じ込めて聴くのは勿体ない。今、彼らの蒔いた種は、おそらく彼らの思ってもみなかったようなところで花開いている。そう、彼らが今も愛され続け、今年、22年ぶりにリリースされた新作ですら新鮮に聴かれるのは、とにもかくにも、彼らの紡ぎ出すグッド・メロディの普遍性にある。
 たとえば彼らの評価を確固たるものにしたセカンドの『スーヴラク』(1993年)の「Alison」に、抱きしめたくなるほど心惹かれてならないのは、歌メロが王道を貫いているからだ。また歌モノではないサードの『ピグマリオン』(1995年)でさえ各曲のミニマルなフレーズが頭に残るのは、単に繰り返されるからという以上に、一つ一つのメロディ自体に決して小難しさがないからだ。
 そして20年以上前のこれら諸作の、驚くほど立体的な音像。特に『ピグマリオン』では、深い残響と素朴なアコースティック・ギターという異なる質感を共存させるなど、多くのトラックを重ねながらもそれぞれの音が混濁しない処理に、空間の深い奥行きを強く感じる。そして、だからこそだ、メロディがはっきりと浮かび上がってくる。歌メロこそポップであれ、ザラついたギター・サウンドでシャワーのように聴く者を“埋め尽くす”、同世代のマイブラ、ライドらに対し、その名の通り水底からぼうっと光さす水面を見上げるようなスロウダイヴの音像はそれらとは趣旨が異なり、あくまでメロディを引き立てるためにあるようさえ、感じてならない。
 彼らにとって音作りは目的ではない。手段だ。だからどんなにミニマルになろうと独りよがりに陥らない。そして今、その哲学は、轟音と退廃の要素だけをそのままトレースしたようなフォロワーたちの外に拡散し、そこにこそ息づいることに気づく。ジュリア・ホルターから新人のウェイズ・ブラッドといったSSWたちの、空間を強く意識した余白のある音作りで引き立てたメロディアスな歌。さらに言えば、フォークのメロディを根幹に据え、多層的な音処理でサイケデリックに仕立てるグリズリー・ベアなどは、その逆転の発想を体現しているようにも思える。また国内では、レイヤーされたシンセの奥行きとつい口ずさみたくなる美メロにこだわりを見せるD.A.N.に、スロウダイヴの哲学が色濃く継承されている。そして筆者はまた、そんな「メロディのための音響」にこだわりを見せるアーティストに惹かれてやまない。

 スロウダイヴの新作『スロウダイヴ』。“当時新鮮だった手法が陳腐になってしまったがゆえに当時を超えられない”再結成モノのジンクスなどどこ吹く風、今作がこの2017年においてもなお瑞々しく聴こえるのは、昨今活躍する前述のようなアーティストたちが、筆者のようなリスナーにスロウダイヴの普遍性を提示し続けてきたからだろう。だからこそ、その恩恵にあずかった今作は、気負いのない風通しの良さ、無邪気さ、そしてそれゆえの明るさに溢れている。
 過去作で追究された奥行きや深さ以上に今作に特徴的なのは、空間いっぱいにダイナミックに発散していくように感じられる音響処理の、やわらかな開放感だ。でありながら、明瞭にど真ん中を突き抜けて、天高く昇っていくメロディアスな歌。その空間表現の追究とメロディの確たる力こそ、まさに今作が紛れもなくスロウダイヴであることを実感させてくれる。他方、同時代への共鳴が見られるところもまた本作の瑞々しさの一端を担っている。M7「ゴー・ゲット・イット」は、鏡写しのように対をなすこれまた端的な歌のメロディラインで、「I wanna see it / I wanna feel it」と男女ヴォーカルが掛け合うあたり、自身もスロウダイヴの影響を受けたであろうザ・エックス・エックスの『アイ・シー・ユー』(2017年)(ジャケットは鏡だ)にも相通じている。途中に現れるカウベルやタムなどの打楽器の録音の生々しさにドキリとする、明らかにスロウダイヴにとって新境地の音響であるこの曲は、“あなたを見ている”=“あなたを理解する”ことが歌われた『アイ・シー・ユー』を彷彿とさせるからか、彼らが神秘のヴェールを脱ぎ捨てオープンに生身の人間に触れようと試みた新たな一歩のようにも感じられる。

 耽美かもしれない。が、決して退廃的ではない。彼らのメロディとサウンドは光に向かっている。だからスロウダイヴは、本当は誰しもにオープンで、キャッチーなのだ。彼らには、“シューゲイザー”という手法の枠組みも、“レジェンド”などという生ける化石の別名のような冠も、全く必要ない。(文:井草七海)

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Text By Nami Igusa


SLOWDIVE

SLOWDIVE

LABEL : Dead Oceans / Hostess
CAT.No : HSE-6410
RELEASE DATE : 2017.05.05

■Hostess Entertainment HP内 作品情報
http://hostess.co.jp/releases/2017/05/HSE-6410.html

■Hostess Entertainment HP内 アーティスト情報
http://hostess.co.jp/artists/slowdive/

FUJIROCK FESTIVAL ’17

07.30 Sun RED MARQUEE

http://www.fujirockfestival.com/


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