FEATURES : 15 June 2018

Ry Cooder

Listen To Honeymoon Relationship Between Ry Cooder And Gospel

By Takuro Okada

FEATURES : 15 June 2018

Ry Cooder

Listen To Honeymoon Relationship Between Ry Cooder And Gospel

By Takuro Okada

ライ・クーダーとゴスペルの蜜月関係を聴く

〜ex森は生きているの岡田拓郎がゴスペル・カヴァー曲を徹底解説!

スタジオ録音作品としては6年ぶりのライ・クーダー最新作『ザ・プロディガル・サン』は、ゴスペル・カヴァーと3曲のオリジナルからなるアルバムとなっている。ここでは、ゴスペル・カヴァー曲に注目し解説。本作をより楽しむため、またライ・クーダーの音楽家としての魅力を再確認するのに役立てて頂ければ幸いだ。

日本ではゴスペルといえば、”黒人霊歌”とも言い換えられ、ブラック・ミュージックとしてのイメージが強いかもしれないが、ブルーグラスのレコードを収集していてふと気がつくと多くのゴスペル・ナンバーがレパートリーとして加えられているのに驚かされた事があった。また公民権運動の最中、ピート・シーガーが歌詞に手を加え歌い普及した「We Shall Overcome(勝利を我らに)」は、もとはゴスペルのナンバーである(これは余談であるが、2016年アメリカ合衆国大統領選挙の民主党候補者の一人であった政治家バーニー・サンダースは、バーモント州バーリントンの市長であった1987年に同曲を録音している)。また、1930~40年代を中心にハーモニーの可能性を広げたカール・ストーリーは“ブルーグラス・ゴスペルの父”とも言われる。本作で取り上げられたブラインド・アルフレッド・リードと、スタンレー・ブラザーズは、白人のブルーグラス奏者である。

本作の宣伝文句として掲げられた”ライ・クーダーとゴスペル”という見出しを見て、多くの音楽ファンがまず連想したのはブラインド・ウィリー・ジョンソンをではないだろうか。チャーリー・パットンやブラインド・レモン・ジェファーソンと並び、デルタ・ブルース第一世代にも数えられるブラインド・ウィリー。ライ・クーダーの今作『ザ・プロディガル・サン』でも、2曲が取り上げられている。演奏こそデルタ・ブルース・スタイルではあるが、宣教師でもある彼は、世俗的な所謂ブルース・ナンバーの吹き込みは一切無く、福音伝道師として宗教歌を語り継いだ、ゴスペル音楽界の先駆的存在として知られる。

1952年にハリー・スミスの編集した『Anthology Of American Folk Music Volume Two: Social Music』に収録され、50年代から70年代に掛けて、《フォークウェイズ》や《ヤズー》から編集盤がリリースされているが、コアな音楽ファンの中でも知る人ぞ知る程度の存在であった(はず)のブラインド・ウィリーの音楽が劇的に広まったのは、ライ・クーダーが劇伴音楽に携わったヴィム・ヴェンダース監督作『パリ、テキサス』(1989年)のメイン・タイトルで、ブラインド・ウィリーの代表曲「Dark Was the Night, Cold Was the Ground」が引用された事が大きいだろう。また、処女作『ライ・クーダー』(1970年)でも、温厚そうな彼のイメージとは裏腹に、ヒヤリと凍てついたタッチで同曲をカヴァーしている。

『ザ・プロディガル・サン』で取り上げられた、「Everybody Ought to Treat a Stranger Right」のオリジナルは、トレードマークであるむせび泣くようなスライド・ギターは影を潜め、主旋をなぞるようなシンプルなギター・バッキングに女性ヴォーカルも加わる、ブラインド・ウィリー作品の中ではアップテンポでブライトなタイプの楽曲で、ライによるヴァージョンもメロディーはほとんど原曲通りに、トレード・マークのサスティーンの短いビザールなスライド・ギターが軽快に響く。“Everybody ought to treat a stranger right, long ways from home”という暗示的なリフレインの厚みあるコーラス・ワークは非常にゴスペル的。

一方「Nobody’s Fault but Mine」は、『パリ、テキサス』のメイン・タイトルにも通じる、「Dark Was the Night, Cold Was the Ground」の持つフロートするドローンと空間的な間を生かしたエクスペリメンタルとも言えるアンビエント感を現代的に解釈したアレンジとなっている。ブルース・ラングホーンの『さすらいのカウボーイ(The Hired Hand)』(1971年/ピーター・フォンダ監督)のサントラや、ローレン・コナーズのフローティングした音響的ギターと、ブラインド・ウィリーの拍が歪んだような空間的なギター・スタイルは、どことなく親和性が高く、特に「Dark Was the Night, Cold Was the Ground」が、クロノス・クァルテットやマーク・リボーといった実験アメリカーナ系の面々に好んで取り上げられ、ローレン・コナーズとジョン・フェイのデュオでその精神性を受け継いだオマージュ「Dark Is the Night, Cold Is the Ground」という楽曲が録音されているなど、アンビエント/エクスペリメンタル感覚との相性の良さを確認出来る。

それでは、その他のカヴァー曲にも触れていきたい。アルバムの幕開けを飾るのは、ルー・ロウルズが在籍したゴスペル・グループ、ピルグリム・トラベラーズ「Straight Street」のカヴァー。ピルグリム・トラベラーズによるオリジナルは、1955年にサム・クックが率いたゴスペル・グループ、ソウル・スターラーズや、リトル・リチャードのリリースで知られるR&B系のレーベル《スペシャルティ・レコード》からリリースされている。ドゥーワップ調のハーモニーで彩られたゴスペルらしいゴスペルに仕上げられたオリジナルに対して、軽やかなマンドリンのストロークと、フロートするチェレスタ風のバッキング(逆再生によるエレクトリックな音響操作も見受けられる)による、現代的なアメリカーナ調のアレンジに置き換えられている。近年のビル・フリゼールやジュリアン・レイジ、ジョー・ヘンリーの感覚にも通じるサウンドで、胴鳴りの深い”やわらかたい”(柔らかくて固いスネアの音色!)スネアの音色は1つ近年のアメリカーナ作品の共通点としてトレンドと言えるかもしれない。

本作でライと共にプロデュースを務めたのが、1978年生まれのドラマーでライ・クーダーの息子であるヨアキム・クーダー。1993年以降のライ・クーダー・ワークにドラマーとして、ほぼレギュラーとして参加しているが、プロデューサーとしてクレジットされるのは、1995年にリリースされたサントラ仕事をまとめた『Music By Ry Cooder』以来で、父のスタジオ録音作品としては本作が初めてとなる。

前作『エレクション・スペシャル』(2012年)とのサウンド・メイクの違いとして、リヴァーヴ成分が幾分か増し、それを生かした空間的な間が多く生まれたのと、「Straight Street」のイントロや「Nobody’s Fault but Mine」のアブストラクトなエレクトロニクス、「The Prodigal Son」の間奏で聴かせるおおよそライ・クーダーらしからぬ(!)ノイジーなギター・ソロやコーラスなどで印象的なインディー・ロック的なポスト・プロダクションが随所に散りばめられている事が挙げられるが、この変化に関してはヨアキム・クーダーの手によるところが大きいと感じる。筆者自身、カリフォルニア三部作(『チャベス・ラヴィーン』(2005年)、『マイ・ネーム・イズ・バディ』(2007年)、『アイ・フラットヘッド』(2008年))に、前作もお気に入りでよく聴いていたが、本作がどうやらこれまでの作品と様相が違うぞ!と思わせられ引きつけられたのはこういった部分だった。

「You Must Unload」のオリジナル作者ブラインド・アルフレッド・リードは、筆者も本作で初めて名前を知ったので、簡単にバイオグラフィーを付け加えたい。1880年にヴァージニア州アパラチア山岳地方の貧農白人層の子供として生まれた。生まれつき盲目であった。幼い頃にフィドルの手ほどきを受け、当時の多くのブラインド・ミュージシャン同様、街角などで演奏をし生計を立てていた。初めての録音が1927年で、「You Must Unload」はこの時に吹き込まれたゴスペル・タッチのブルーグラス・ナンバー。1930年代半ばまでにRCAヴィクターを中心に10枚程のシングル盤を残し、以後56年までメソジスト教会の説教師として生きた。代表曲の「How Can A Poor Man Stand Such Times And Live?」は、ブルース・スプリングスティーンやマイケル・チャップマンもカヴァーしているが、「You Must Unload」がカヴァーされるのはおそらく世界初。ゆったりしたスローなビートに乗せて、おおらかに漂うヴォーカルがなんとも魅力的。中盤からアンサンブルを彩るフィドルはブラインド・アルフレッド・リードへのオマージュだろうか。

お次ぎは、ブラインド・ルーズベルト・グレイブス「I’ll Be Rested When The Roll Is Called」について。彼もまた一般的に知名度のあるミュージシャンではないので、簡単なバイオグラフィーを付け加えたい。1909年ミシシッピ州サマーランド生まれ。ブラインドの名の通り彼もまた生まれつき全盲だった。初録音は1929年で、1936年には最古のブルース・バンドと言われているミシシッピ・ジューク・バンドを結成している。2、30年代に録音されたと思われるオリジナルの「I’ll Be Rested When The Roll Is Called」は、押弦のフィンガー・ピッキングのフォーキーなギターに、シャカシャカとタンバリンがパーカッシヴな刻みを入れるトラックで、数あるオリジナル・デルタ・ブルースの音源の中でもイレギュラーな作品と言えるだろう。トロピカルな印象さえ覚えるブライトなメロディーに、合唱スタイルのヴォーカルは、オリジナル録音の時点で、いかにもライ・クーダー的。『ザ・プロディガル・サン』収録ヴァージョンは、リアルタイムではないがライ・クーダーをデビュー当初の作品からしっかり聴き込んでいる身としては、アルバム中で最もライ・クーダーらしいトラックにも感じる。オリジナル音源もぜひこのタイミングで一聴して頂けると嬉しい。

「Harbor of Love」は、50年代から60年代半ばにかけて活躍したブルーグラス兄弟デュオ、スタンレー・ブラザーズのカヴァー。もともと、ビル・モンロー・スタイルの演奏をしており、ビルとの親好もあった。ニュー・ポート・フォーク・フェスティヴァルなどに出演し人気を博すも、66年に兄カーターが亡くなり、その後は弟のラルフがバンドを引き継いだ。オリジナルは、追っかけコーラスが印象的なカントリー・ワルツであるが、ライ・クーダー・ヴァージョンでは、高音域を用いたオルガン・ドローンにカリンバのミニマル・パターンで幕開けする、ニューエイジ的とも言えるアンビエントなフローティング感のあるトラックに仕上がっている。アコースティック・ギターのリヴァーヴの効いた鈴鳴りに、中盤のヴォリューム・ペダルを使ったスライド・ギターが素晴らしい。これもまた、新たなライ・クーダーの魅力を感じさせる。

そしてアルバムを締めくくるウィリアム・リーヴァイ・ドーソンの「In His Care」もまた、ゴスペル・カヴァー。ウィリアム・リーヴァイ・ドーソンは、1899年アラバマ州アニストン生まれの、アフリカ系アメリカ人の作曲家。ホーナー芸術大学で学士位を得たその後も、シカゴ音楽大学、ついでアメリカ音楽院で学び、修士号を得るなど、同世代のアフリカ系アメリカ人音楽家の中でも高度な音楽教育を受けた珍しい音楽家と言えるだろう。室内楽、管弦楽、合唱曲など多分野の楽曲を残しており、ゴスペルやブルース、アフリカ音楽の要素を取り入れた代表作「Negro Folk Symphony」は、アメリカーナ~インディー・クラシカル以降の耳で、再度聴き直したい。「In His Care」は、ゴスペル・スタイル、アカペラの男女混声合唱曲。ライ・クーダー・ヴァージョンでは、ライ作品では恐らく初めてと思われるピッチ・シフター(またはレス・ポール的早回し録音か?)使いのギター・イントロに驚かされ、続くサックス・セクションもフィルターが掛かっていたりと、本作の中でも最もド派手な仕掛けがなされている。オルタナティヴなテクスチャーの中で、響くブーミーなスライド・ギターも、いつもとは異なる響きを有しているように感じる。

『ザ・プロディガル・サン』に収録されたカヴァー曲は、以上7曲となる。 ここで取り上げられた楽曲は、すべてクリスチャン音楽家のペンによるゴスペル・ミュージックである、という繋がりはあるものの、録音物としてのオリジナルの演奏者としての記名性を消してしまえば、ここで取り上げられた、楽曲はすべて黒人や白人といった作り手の人種が捉え難いものでもあると感じる。1950~60年代のフォーク・リヴァイヴァル期に多感な少年時代を過ごしたライ・クーダーにとって、ブルースとフォークは彼の音楽スタイルの基盤になっている事は間違いなく、ブルースやフォークの音楽家達が取り上げたゴスペルを人種的な隔たりを感じさせず自身の音楽としてアウトプット出来てしまうのもまた、彼の長いキャリアを改めて見つめ直せば何も不思議な事はない。

ブルース、カントリー、フォーク、といったアメリカン・トラッドを土台に、ハワイアン(個人的な話だが初めて買ったライ・クーダーのアルバムは1976年の『チキン・スキン・ミュージック』だった。このアルバムではハワイアン・ゴスペル「Kanaka Wai Wai」が「Always Lift Him Up / Kanaka Wai Wai」のインスト・パートで取り上げられている)からテックスメックス、キューバにはては沖縄音楽まで触手をのばし、脈々と続く音楽の歴史を、着々と変貌を遂げる時代の中で語り継ぐライ・クーダーの姿は、時に古き良き時代へのノスタルジア主義者と映してしまう事もあるかもしれない。いや、記録メディア、商品としての音楽が生まれる以前は当然のように行われていた事を、当然のように行っているだけかもしれない。そういった意味ではスター的な作家性は稀薄に映るかもしれないが、しかし、歴史文脈を受け継ぎながらも、また、コスプレになる事もなく、あくまでライ・クーダー印の作品としてアウトプットされているのには、彼の先人への敬意と、音楽への深い愛情を感じずにはいられない。そして、望郷的なノスタルジア主義者でない事は、彼が今という時代を鋭い視点で見つめる生粋のプロテスト・シンガーである事が証明をしている。

文/岡田拓郎

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Ry Cooder

The Prodigal Son

LABEL : Fantasy Records / Hostess
CAT.No : HSU-10202
RELEASE DATE : 2018.05.11
PRICE : ¥2,490 + TAX


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