FEATURES : 19 February 2019

Phoebe Bridgers

A Gallant Singer-Songwriter Combining Dry & Wet, Slipping Through Stereotypes

By Nami Igusa

FEATURES : 19 February 2019

Phoebe Bridgers

A Gallant Singer-Songwriter Combining Dry & Wet, Slipping Through Stereotypes

By Nami Igusa

初来日公演直前! フィービー・ブリジャーズを聴く~ドライとウェットを兼ね備え、ステレオタイプをすり抜ける、凛々しきシンガー・ソングライター

ジュリアン・ベイカーは、盟友であるフィービー・ブリジャーズのことを“人間離れした才能”と呼んだ。彼女の音楽に一瞬で虜になった筆者ではあるが、果たしてどこが人間離れしているとまで言えるのかについては、しばらく疑問のままであった。だが、何度も彼女の言葉や歌声、紡ぎだすサウンドを身体に染み込ませていったある日、気づいたのである。彼女は、その内に秘めた自らの“ドライさ”と“ウェットさ”を、同時に1つの音楽に昇華できる、稀有な存在だということに。

LA出身の24歳=フィービー・ブリジャーズは11歳の頃からソング・ライティングを始め、時にファーマーズ・マーケットのような小さな場所でも演奏したり、時にガールズ・パンクバンドに参加したりと、比較的地道に気ままに活動していたところ、突如iPhoneのCMに抜擢されたという経歴を持つシンガー・ソングライター。以来着々と注目を集め、2017年に待望のファースト・アルバム『Stranger In The Alps』を米《Dead Oceans》からリリース。そのアコースティック・ギターやピアノを基軸にした寂寥感漂うメロディーと、彼女自身も心酔したというジョニ・ミッチェルをそのものズバリ思わせる、ウィスパー気味の透明感あふれる歌声は、何物にも代えがたいほど、あまりに美しい。

――と、ここまで書いてみたものの、正直に言おう。どうもしっくりこない。「フォーキーでメランコリックな、透明感のある歌声の女性SSW」というステレオタイプに押し込もうとすればするほど、彼女の魅力が手からこぼれ落ちていくような感覚に陥ってしまう。だが、だからこそ思うのである。そうやって、実は決してひとつの類型には囚われていないそのあり様自体が、彼女の本質的な価値なのではないか、と。

確かに彼女の楽曲は、メロディやコード、爪弾くギターの音色だけとってみれば、実にフォーキーだ。ファースト・アルバムの中でも特にシンプルな「Funeral」などは、ジョニ・ミッチェル、あるいはヴァシュティ・バニヤンの声がアメリカン・トラディショナルを弾き語るジョーン・バエズに乗り移ったかのよう。もしくは、その哀愁感にサンディ・デニーを思い浮かべてもいい。けれど、たゆたうような深いリヴァーブに彩られたサウンドは、フォークと位置付けるより、むしろドリーム・ポップ、とさえも言える。たとえば代表曲「Motion Sickness」では、軽やかにホップし前進するグルーヴにウィルコを想い“フォーク・ロック”の文字が浮かびながらも、ふいにブリッジに現れるフィービーの澄み渡るような多重コーラスに、思わずハッと息を飲むはずだ。他の楽曲をとってみても、ストリングスやピアノの伴奏、さりげなく差し込まれるシンセ・サウンドが、ポスト・クラシカル~アンビエントを強く思わせる。『Stranger In The Alps』収録の「You Missed My Heart」がサン・キル・ムーンとジ・アルバム・リーフのコラボ曲のカヴァーであることは、彼女がジャンルを自由に行き来できることを象徴していると言えるだろう。

そんな彼女の書くリリックは、パーソナルな悲哀やダークさが目を引く。恋の終わりの物悲しさを歌った曲も多いが、他方で、友人の死や家庭内暴力による自殺願望、シド・ヴィシャスと恋人ナンシー・スパンゲン(互いに壮絶な死を遂げている)をモチーフにした曲など、いくつかの曲には死の気配を忍ばせてさえいるのだ(カバー・アートに度々登場するシーツを頭からかぶったようなゴーストのイラストはまさに死の象徴だ)。

だが、彼女の歌そのものには、実はさほどウェットな印象を受けたことがない、というのが正直なところ。物悲しさは確かにある。が、フィービーはどちらかというと直情的に歌い上げるタイプではない。むしろ、悲哀を客観的なまでに淡々と歌うので、聴き終わった後には心地のよい清涼感さえ残るのだ。また、“透明感がある”と先に表現した彼女の声は一方でわずかにハスキーさも兼ね備えていて、その絶妙なバランスのせいか、ところどころ少年のようにも感じられる時がある。その瞬間、彼女のパーソナルな言葉は、フィービー・ブリジャーズという一個人からすっかり離れて私たちの元に届くのだ。悲しみに支配されることなく、それを清々しく手放していくようなカラリと澄んだ彼女の歌唱は、安直な“共感”の二文字の押し付けを毅然と突き返す、惚れ惚れとした凛々しさと気品に満ちている。シリアスな内容をも淡々と吐き出すように歌い、陳腐な共感を求めることのない決然としたその姿は、時折あのボブ・ディランにさえも重なって見えてくるのだ。

ソング・ライティングで言えばフォーキーな骨格と空間を意識したアレンジの両立、サウンドで言えばアコースティック・ギターのドライさとトレモロやリヴァーブを多用したウェットさの両立、歌で言えば悲しみに満ちたリリックと清涼感のある声や歌いっぷりの両立ーーこうしたいくつかのコントラストこそ、筆者が彼女にただならぬ魅力を感じてやまない理由だ。加えて、先日発表されたコナー・オバーストとのユニット=Better Oblivion Community Center(以下、BOCC)のアルバムでは一転、ストレートではつらつとした歌声を聴かせており、広がり続ける彼女のポテンシャルにも驚かされるばかり。極端に違う要素さえも同時に併せ持ち、特定の何かに自ら寄りかかることのない、しなやかな強さ。ジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスとのボーイ・ジーニアスやBOCCとしてのユニット活動が続いているフィービー・ブリジャーズだが、これから彼女がどんな人々とどんな音楽を作ろうとも、その凛々しい強さが揺らぐことは決してないはずだ。(井草七海)

Text By Nami Igusa


Phoebe Bridgers

初来日公演

2019年2月20日(水)東京・代官山UNIT
2019年2月21日(木)東京・代官山UNIT
Open 18:30 / Start 19:30

http://hostess.co.jp/news/2019/01/017979.html


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