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チャンス・ザ・ラッパーとインディ・ロックの壁を破る男!?シカゴのニュー・カマー、Knox Fortuneって誰?

21 September 2017 | By Daichi Yamamoto

ここ3年ほど、チャンス・ザ・ラッパーやヴィック・メンサを中心としたクルー=セイブマネーとその周辺のシカゴのヒップホップ、R&Bシーンから多数の才能が産み出されていることはご存知の通り。昨年もチャンスの他にもノーネーム、ジャミラ・ウッズ、BJ・ザ・シカゴ・キッドといった面々がそれぞれ別々の持ち味を打ち出してデビュー・アルバムを発表した。だが、このシーンの特徴はその才能の数だけではなく、ゴスペルやシカゴ・ルーツのジューク、フットワーク、ハウスなどを果敢に取り入れるチャンス・ザ・ラッパーが象徴するように音楽性の幅広さにもある。例えば今年4月にそのチャンスの音楽的パートナーであり、2015年にDonnie Trumpet & The Social Experiment名義で『Surf』を発表したニコ・セガール(ドニー・トランペットから改名)が新たに組んだバンド、ジュジュが発表したアルバムはインストゥルメンタル・ジャズ。今もこのシーンの音楽性の幅は現在進行形で拡張されている。

そして本記事の主役であり今週デビュー・アルバム『Paradise』をリリースするKnox Fortuneもまたヒップホップ、R&Bの場に居ながらもその枠を飛び越えた作品を産み出すシカゴの新しい才能だ。

この春リリースされた彼のデビュー・シングル「Help Myself」は、ご存知アップル・ミュージック内のラジオ局《Beats 1》にてヘヴィ・ローテーションされたことで筆者の耳に入ってきたのだが、そのギターを軸にした音色、ファンキーなベース・ラインを聴いて、最初は新しいインディ・ロック・バンドの曲かと感じたものだが名前を見て驚き。あのチャンス・ザ・ラッパーの昨年のアルバム、『Coloring Book』に収録された、ケイトラナダのプロデュースによる、ハウス、ファンクそしてディスコが巧みにブレンドされたハッピー・チューン、「All Night」で客演していた男だったからだ。

このKnox Fortuneは元々、ヴィック・メンサ、KAMIとJoey Purpから成るLeather Courdoys、Stering Hayesといった<セイブマネー>のラッパーへトラックを提供していたプロデューサー。思い出してみれば例えばKAMIに提供していた「Scene Girl」には、どこかインディ・ロック好きな少年が作ったベッドルーム・ポップっぽさがあり、Joey Purpの「Girls @ feat. Chance The Rapper」の軽快なファンク・ビートはファレル・ウィリアムスがプロデュースしたかのようなキャッチーさがあり、とシカゴのラッパーの楽曲にしては異色なサウンドを聴かせていた。

彼はその後もソロ曲をいくつか公開。そのうち、「Torture」は哀愁漂うバラード調の曲で時折入ってくるトランペットが昨年のUSインディ最大の収穫、ホイットニーの『Light Upon The Lake』を思い出させるし、つい先日公開された「Lil Thing」はチルウェイブを思わせるヘイジーな音色が心地よいダウンテンポな一曲。

どの曲もリズムの刻み方にはヒップホップの色を残しつつも、ロウ・ファイなプロダクションやギター、ベース・ラインの鳴り方、そしてハイトーンなボーカルはむしろインディ・ロック的で、まるでベックが時折見せるヒップホップへのアプローチを、ヒップホップの側から行ったかのよう。Knox自身が自分の音楽を“ビースティ・ボーイズとビーチ・ボーイズのミックス”と表現するのは納得である。

9月22日にリリースされるデビュー・アルバム、『Paradise』にはJoey Purp 、ニコ・セガールといったセイブマネーの面々に加え、同郷のインディ・シーンからホイットニーのブラス奏者であるウィル・ミラー、ツイン・ピークスからキャデイン・レイク・ジェームス、コリン・クルーム・プレイヤーの2人が集結。このアルバムがチャンス・ザ・ラッパー周辺のヒップホップ、R&Bシーンと現行アメリカのインディ・シーンを繋げる新たな作品となること間違いなしだ。(山本大地)

■Knox Fortune Official Soundcloud
https://soundcloud.com/knoxfortune

■Knox Fortune Twitter
https://twitter.com/knoxfortune

Text By Daichi Yamamoto


Knox Fortune

Paradise

RELEASE DATE : 2017.09.22

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