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明けない夜はない──ベッドルーム・ポップを越えて歩みはじめたイサヤー・ウッダという名の吟遊詩人

18 November 2021 | By kenji Komai

ほんとうに心待ちにしていた。2019年に“発見”されたファースト・カセットテープ以降、ノスタルジックな音像とグルーヴでじわりじわりと注目を高めてきた京都のイサヤー・ウッダが11月3日、東京での初ライヴを行った。対バンに井手健介というこの上ないラインナップで。その夜、一番手の井手健介によるなまめかしい「おてもやん」のフレーズが耳にこびりついたまま、DJとして出演した見汐麻衣がプレイするホーリー・ハイヴやボビー・オローザ、ジョナサン・リッチマンに体を揺らせていると、イサヤー・ウッダはふらりとステージに登場した。基本的にはバックトラックにギター、キーボードを曲ごとに持ち替えながら歌うスタイルなのだけれど、音源にあるインティメイトなプロダクションが、ライヴになるととても外に向けたエネルギーとなって放出されていて、なんとも心地よい。なによりイサヤー・ウッダ本人の発するポジティヴなヴァイブがオーディエンスに伝染し、フロアは踊りまくっている。そこには、彼がしばしば比較される坂本慎太郎が内装デザインを手掛けた《U.F.O. CLUB》の空間とのケミストリーも、コロナ禍による飲食店の営業時間短縮要請が解除されたばかりの東京の街自体に充満していた開放感も影響していたと思うけれど、それを差し引いても、素晴らしいパフォーマンスだった。

2021年11月3日《U.F.O. CLUB》でのライヴより



そんな願ってもないシチュエーションのなかでイサヤー・ウッダのパフォーマンスを堪能してみると、8月にリリースされた彼のサード・アルバム『DAWN』がまた違った聴こえ方をしてきた。UKベース/ガラージ系の英レーベル《WOTWOT》から2020年にアナログ・リリースされたデビュー作『Urban Brew』について、《Clash Magazine》は「悲観的なニュースに満ちた今の世界からの逃避であり解毒剤」であると評している。続く『Inner City Pop』では、カシオ・キーボードの響きを主軸にした路線を継承し、膝を抱えてヘッドフォンをしている姿をリリックで描いた「Celebration」やラー・バンド的オリエンタリズムを取り込んだハウシーな「Sexy healing beats」など、ベッドルーム・ポップの意匠を意図的に取り込みながらサウンドの幅を拡げた。先ごろ配布されたフリーペーパー(7インチ付き!)に掲載のインタビューによると、彼のトレードマークであるカセットテープMTRでのレコーディングにDAWの双方の要素を組み合わせていく手法を今後推し進めていきたいと語っているが、『DAWN』には確かにくぐもったローファイ感だけではない手触りと多様性がそこかしこに見てとれる。さらに、アクチュアルなテーマをより具体的にポップソングに昇華させる態度がこれまでにも増して明確に現れているのだ。

彼の姿勢はオープニングの「ES」から顕著で、“動物的本能”というタイトルとともに《Colemine》《Big Crown》といったインディペンデント・レーベルが掲げるヴィンテージ・ソウルのレイドバックした空気も想起されるアレンジの上で「君はとても美しい/肌をした僕の友よ/何色でもかまやしない」と分断された世界と寛容についてストレートに表現している。また「SUMMIT」では、フリーフォームなサックスと「I’ve Been To The Mountaintop」として知られるマーティン・ルーサー・キングの最後の演説がミックスされるが、これは #Blacklivesmatter に呼応しての引用であることは間違いない。意見の異なる人にどのように話しかけるか、憎しみにどう対応するか。誰もが生きやすい社会のために、他者の人間的価値を認めること、そうしたイサヤー・ウッダの意識は「SAY」でも明白だ。アレン・ギンズバーグの「吠える(Howl)」(正確には「吠える 脚注」)にインスパイアされたナンバーで、今年、サーストン・ムーア、ヨ・ラ・テンゴ、デヴェンドラ・バンハートのほか坂本慎太郎も参加した『ALLEN GINSBERG’S THE FALL OF AMERICA: A 50TH ANNIVERSARY MUSICAL TRIBUTE』に収録されていてもおかしくない。苦しみにあえぐ人々の叫びを、虚無的な反抗ではなく個人的経験として肯定したギンズバーグの言霊を、コロナ禍の状況を踏まえ換骨奪胎している。

『Screamadelica』期のボビー・ギレスピーがドラムンベースのトラックの上で歌っているような「HIGHER」、壊れたドラムマシーンが疾走する「SPACEDRIVE」など、様々なアイディアが交錯するけれど、彼のライヴ・パフォーマンスを目の当たりにしてもっとも強いリンクを感じたのは、テーム・インパラである。いささか飛躍しすぎかもしれないが、イサヤー・ウッダの音楽は、立場は違えどケヴィン・パーカーの生み出す寂寥とどこか近しいものを感じてしまう。ちなみにテーム・インパラは、スタジアム規模のライヴがコロナ禍により延期となった代わりにいわゆる《Tiny Desk》形式のセットを「Tame Impala Soundsystem」と名付け行っている。すべての楽曲を書き、演奏・ミキシング・プロデュースするパーカーにとっては自宅のスタジオでのジャム・セッションを生で再現する、ごく自然な手法だったのだろう。またパーカーは、2018年11月にカリフォルニアで発生した大規模な山火事により、制作の拠点としていたマリブの別荘と機材を失っている。音源が保存されたラップトップPCとヘフナーのベースだけを抱え逃げおおせた喪失感は想像に余りあるけれど、その経験が名盤『The Slow Rush』に繋がったことを考えると複雑な気持ちになる。

新しい音楽を生み出す原動力はどこにあるか、という根本的な問いに関して言えば、イサヤー・ウッダが2020年から21年にかけての世界的クアランタインの状況を、価値観を見定める機会として、創作のきっかけとしていたことは明白であろう。それは「明けない夜は目を覚まして/君の思い出探しにいくふり」(「STILLLIFE」)と歌っているように、『DAWN』という言葉のもつポジティブな情景に投影させている。アコースティック・ギター+リズムボックス+ラップのスタイルでじんわりと詩情がこみあげてくる「RIPPLE」、まどろみの心地よさと包容力を持つ「YOUMAKECRY」や、率直すぎるほどの「HOLDONME」など、メロウなラヴソング(と言っていいと思う)が、アルバムを貫く共感性をなおさら強調している。

正直なところ、リリース直後はこの作品が打ち出した音の質感にまつわる快楽性にのみ身を委ねてきたことは告白したい。突如発掘されたヴィンテージのデモテープのごとき、時空が歪んだサウンドデザインをどう受け止めるか、ずっと考えてきた。しかし、あらためて『DAWN』に向かい合ってみると、2021年の夏にこのアルバムが発表された必然と彼が投げかける問題意識、それを共有できた喜びがじんわりと体を満たしてきている。井出健介やHair Stylisticsなどのアーティストや映画作品のデザインを手掛ける倉茂透による極彩色を施したサイケデリックなアートワークと、そこに仁王立ちするイサヤー・ウッダ本人の姿を眺めながら聴いてほしい。サングラスにヒゲに長髪という怪しげなペルソナに煙に巻かれそうになるけれど、その溢れる笑顔が圧倒的な肯定感に基づくものだと気づくはずだ。(駒井憲嗣)

Photo by Tsuneglam Sam

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【REVIEW】
Isayahh Wuddha『urban brew』
http://turntokyo.com/reviews/urban-brew/

Text By kenji Komai


Isayahh Wuddha

DAWN

LABEL : MAQUIS RECORDS
RELEASE DATE : 2021.8.11


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