「私のネガティヴな部分、不安に思う部分を手放そうとした」
ギター・ロックのコートニー・バーネットここに帰還!!
新作『Creature of Habit』が伝える“脱皮”
ギター・ロックのコートニー・バーネットが帰ってきた! そう思わず拍手喝采したくなるニュー・アルバムの到着である。タイトルは『Creature of Habit』。ジョン・コングルトンをプロデューサーに迎え、“ビッグな”ギター・ロック・サウンドへ帰還しつつも、新たなラウンドに入ったことを告げるかのようにさらに大きく飛躍した力作だ。
コートニー・バーネットは2010年代以降に羽ばたいたロック・アイコンの一人だが、オーストラリアのメルボルンの音楽シーンを牽引してきたことは特に重要な事実だ。これまでにリリースしたオリジナル・スタジオ・アルバムは3作品。そのいずれもが地元オーストラリアのアルバム・チャートでトップ5以内を獲得していて、その地元からの厚い信頼を背負いイギリスやアメリカでもヒットを記録している。飾り気のない素朴な雰囲気と発言、さまざまな苦悩と向き合った末の繊細さを内包しつつも人懐こく大らかな楽曲、そして何よりエレキ・ギターを指でピッキングし、堂々とマイクに向かうダイナミックなパフォーマンスは、ストレートなロックンロールの復権の象徴たるものであってきたと言っていい。
しかしながら、2021年の『Things Take Time, Take Time』では、もちろんギター・ロック・アルバムながら激しいスタイルからは一呼吸置くような作品へとややシフトし、2023年にリリースされた『End Of The Day』(ドキュメンタリー映画『Anonymous Club』のスコアの一部として制作)に至ってはドローン〜アンビエント音楽に近接したインストゥルメンタル作品だった。あのパッション溢れるコートニーはもう過去のものとなってしまったのか……そう感じていたのは筆者だけではないだろう。
だが、心配無用だ。コートニーはやっぱりエナジェティックなパフォーマンスが似合う。ニュー・アルバムではグラミー賞受賞プロデューサーのジョン・コングルトン(セイント・ヴィンセント、シャロン・ヴァン・エッテン、エンジェル・オルセン他)と組み、エッジーな音作りに取り組んだ。激しく狂おしくもカジュアルでポップで、今ここにいる全ての人とつながろうとするような大らかささえある歌は、変化や進化がテーマという今作の最終的な着地点になっているようにも聞こえる。ワクサハッチーことケイティ・クラッチフィールドが参加した「Site Unseen」も胸熱で、変わらずコートニーのシスターフッドが感じられる1曲になっていると言っていい。現在38歳。LAとメルボルンを行き来するそんなコートニー・バーネットの最新インタヴューをお届けしよう。6月には来日ツアーも決定している。
(インタヴュー・文/岡村詩野 通訳/松田京子)
Interview with Courtney Barnett
──あなたは2020年ごろからLA周辺での活動が増えていましたし、今回のニュー・アルバムもカリフォルニアのスタジオで作業している、というように話していました。今、あなたはメルボルンを離れ、完全にLAに移り住んだのでしょうか。作業しているスタジオなども今のLAにあるのですか。
Courtney Barnett(以下C):今作の制作はジョシュア・ツリーにあるスタジオとLAのスタジオで行ったの。2021年だったか……2022年ごろからかな、LAとジョシュア・ツリー周辺に住んでいて、現在もこっちに住んでいる。でも、自分にとってのホームはやっぱりメルボルン。だからどちらが拠点かははっきとり言いきれないけれど、ここ数年はカリフォルニアに住んでいるの。
──現在のLAは音楽的にも文化的にも最も刺激的な町と言ってもいい状況です。世界中から多くのミュージシャンが移り住んできていて、あなたとも交流のあるケイト・ル・ボンもウェールズから移住してきてきました。LA周辺があなたの活動や音楽性に合っていると思えるのはどういうところですか。
C:ちなみにケイト・ル・ボンは大好き! やっぱり長年、こちらに来ることも多く、ライヴやプロモーション活動の多くもLA周辺が多かったから徐々にこちらにいる時間が増えていったのよね。そして10年前だったかな、ジョシュア・ツリーを初めて訪れてその場にほれ込み、「いつかここに住んでみたい」って思うようになった。で確かコロナ禍だったかコロナの直前だったかにまたLAを訪れていて、こちらでの滞在期間を増やそうと決心した矢先にコロナが始まり、そしてメルボルンに帰国することになって何もかもが止まってしまい……。なのでLAに戻っと時にここで過ごしたらどうなるかなと思い、こちらに住み始めたの。おっしゃる通り、LAは多様で、いろんなことが起きている。音楽シーンも活発で。いろんなことが起きて、いろんなタイプの人間が住んでいるからここが大好き。LAとカリフォルニア的なアメリカは知っていたけれど、ジョシュア・ツリーに行って初めてアメリカの豊かな自然に触れ、ハイキングや国立公園の散策を楽しむようになった。子供のころに思い描いていたアメリカは大都会のイメージだったので全く違う側面を発見することができて嬉しかった。
──とはいえ、メルボルンはあなたの生まれ故郷であり、あなたがこの地のシーンの盛り上げに大きく貢献してきました。あなたが活動を開始してから、メルボルンの音楽シーンはどのように変化したといえますか。
C:ここ数年はあまりメルボルンで過ごしていないからあまり詳しくないのよね。ここ10年はツアーに出っぱなしでそれ以外の時間はメルボルンで過ごしていたけれど…私のシーンは進化して変化し続けている。例えば数年前に閉鎖した《Milk! Records》という私のレーベルは12年も続いていたの。良質な音楽がたくさん生まれていたシーンに関われて本当に楽しかった。でも人は離れていくものだし、バンドも解散する。そういうことはどうしても起きてしまう。でもあの場には常に良質な音楽があった。クリエイティブな刺激を与えてくれる場所だったのよね。
──ええ、近年のあなたのトピックで重要なことはまさしくその《Milk! Records》が2023年に閉鎖されたことでしょう。10年以上に渡る活動を振り返って、どのような役割を果たしたと思いますか。
C:うん、すごく悲しい出来事だった。その悲しみはいまだに残っている。でも何事でもそうであるように、感謝の気持ちでいっぱいだし、思い出を振り返るのもなんかいい。《Milk!》で過ごした時間には感謝しかないけれど、ある時点で自然と区切りがついたのだと思う。数年にわたり続けるべきか閉鎖するべきかに悩んだし、非常にエモーショナルな決断だった。あの経験をどのように言語化するべきか、未だに探っている状態。でも、まあ、終わらせる時が来たということで、うん、だから感謝の気持ちでいっぱい。あのレーベルは多くの素敵な思い出と素晴らしい音楽を生み出し、レーベル周りのコミュニティも素晴らしかった。かかわれて本当に楽しかった。
──その《Milk! Records》の最後のアルバムは2023年の『End Of The Day』でした。ドキュメンタリー映画『Anonymous Club』のスコアの一部として制作された17曲のシームレスな即興曲からなる作品で、これを聴いた時は本当に驚かされました。瞑想的なアンビエント音楽でありドローン・ミュージックであり……確かにオリジナル・アルバムとしては前作にあたる『Things Take Time, Take Time』(2021年)でもギターを弾く頻度が減っていて、そのぶん、鍵盤やシンセサイザーを多く弾いていました。コンピュータで生成したサウンドにも興味があるというようにも話していました。もちろん『End Of The Day』はあくまで映画ありきのサントラ、スコア音楽という位置付けでしたが、そうした特殊な作品じゃなかったとしても、あの時期のあなたはいわゆるギター・ロック・サウンドから少し距離を置こうとしていたのでしょうか。
C:ああいう作業は時間がかかるのよね。コロナ禍に曲作りを行い、その中でアルバムの形が整った。先日、ちょうどこの時のことを振り返っていたのよね。曲作りをしていたころは小さいアパートに住んでいたから全体的に静かでこじんまりしたサウンドになっていた。おずおずというか、あまり大きな音にならないような曲作りを心掛けていた。曲をギターで作っていたけれどスタジオ入りしたら結局ピアノやキーボードで演奏して。そもそもラウドでアグレッシブなアルバムではないと自分で思っていて。どちらかといえば柔らかくて心地よいアルバムとして捉えていた。まあ、だからビッグ・ギター・サウンドからなんとなく離れていったのかもしれない。そしてこのアルバムはまた別物。壮大な砂漠で書いたの。音の制限がない環境で。つまり前作とは正反対の状況。とはいえ、『End Of The Day』は本当に楽しかった。いつもとは違う形で実験するのはすごくいい。いつもは歌詞にすごく集中してしまうけれどそこから少し離れて違うサウンドやほかの音楽スタイルを研究してあのように実験できたのがすごく楽しかった。そして前のアルバム制作や歌詞に没頭していて、それ以前はツアー三昧の生活だったからもしかしたらあの時点では言いたいことをすべて言い尽くしていたのかもしれない。話したり歌ったりすることから一旦離れるのもよかったのかもしれないわね。
──はい、『End Of The Day』で驚かされ、この路線が次の新作にも影響を与えるのかと思っていたら、先行曲「Stay In Your Lane」を聴いてまたしても驚きました。あなた本来の持ち味であるエッジーなギター・ロックが戻ってきていて、しかもプロデューサーはジョン・コングルトンです。こうした原点的なギター・ロック路線に回帰するにあたって、ジョンにプロデュースを依頼したのでしょうか? それともジョンとの作業が最初に念頭にあったことからこうした路線に戻ったのでしょうか。
C:そうね、『End Of The Day』はドキュメンタリーのために書き下ろしの作品で、楽曲の雰囲気についての要望は監督から事前に聞いていた。こういう曲作りはすごくおもしろかった。今後もこういう形での制作をもっと取り入れたい。とはいえ、今までの制作スタイルを完全に変えたりすることはないと思う。両スタイルを並行してやっていくんじゃないかな。いやでもこのアルバムの制作を始めたときは複数のプロデューサーがいたから少し混乱したのよね。ジョンがいて、ステラ(・モズガワ/ウォーペイント)とも仕事して、そしてロンドンに拠点を置いているマルタ・サローニとも手を組んだ。前半はジョシュア・ツリーでマルタと作業をして……完成していない曲もあったので数か月、いや半年ほど待ち時間があったかな。その後はLAでステラとジョン・コングルトンと私で残りの曲の制作に挑んだ。ジョンがアルバム全体のミックスを行い、新しくできた曲をいくつかプロデュースしてくれた。だけどプロデューサーが複数いて、共同プロデューサーもいて関わっていた人が多かったからこの話はややこしくて説明しづらい。でも皆素晴らしかった。あなたの質問に戻るとそれぞれが今まで手掛けた作品を聴いていて、そういう理由から一緒に仕事をしたいと思ったの。ジョンはアルバムのミックスも手掛けてくれて。彼が手掛けた他の作品のサウンドをすごく気に入ってたし、彼の全体のアプローチが好きだったの。
──ワクサハッチーのケイティ・クラッチフィールドが収録曲の「Site Unseen」で共演しています。彼女との出会いについて教えてください。
C:確か2018年、私のアルバム「Tell Me How You Really Feel」のツアーを回っていた時にケイティがソロで前座を務めてくれたんじゃないかな。それ以前にも会っていたはずだけどツアーだったり同じフェスに参加していたことを通して友達になったのかな。彼女と彼女の音楽が大好きだし曲作りも素晴らしい。素晴らしいアーティストだと思う。そう、だから長年同じ世界にいて、つまり同じライヴやフェスに参加していたし共通の友達も多くて、あの曲に参加してもらえたことが本当に嬉しいの。
──今作は歌詞がまたいつにもまして興味深く、まず、なんといってもジャケットにもあしらわれ、収録されている「Mantis」という曲名、歌詞にも登場するカマキリがとても象徴的です。カマキリは、獲物を捕らえる前に何時間も、あるいは何日も完璧な静止状態で待ち続けることで知られていて、そこから辛抱強く機会を待つことや、静かな熟考の象徴とみなされています。一方で、交尾後にメスがオスを食べることもあるというのも有名で、そこからファム・ファタールや女性の圧倒的な力の象徴として、時にはやや否定的な意味合いで使われることもあります。なぜあなたは今作でそんなカマキリをジャケットにまであしらっているのでしょうか。
C:まずはカマキリという存在や、その象徴的な意味にはいろんな解釈があるということがすごく素敵だと思う。ジョシュア・ツリーに滞在して曲作りで苦労し、迷走している気分になり、自分が何をやっているのか、どこに向かっているのかもわからなくなっていたの。そんなしんどかった時、ある日キッチンに行ったらドア枠に逆さにとまっているカマキリを目にしたの。なんとも説明しがたいんだけど、自分にとってはとても美しい、すごく重要な瞬間だと感じたの。タイミングよく現れて、なんだか私に何かを伝えようとしていたみたいだった。私に何かを示しているかのように。なんだかとっても不思議な瞬間だったからカマキリについて少し調べてみたの。カマキリについていろんな解釈があるけど、まず最初に目についたのはあなたが言ったように、忍耐についてだったり、あと個人的にすごく刺さったのはカマキリは自分が正しい道をたどっているという暗示だという説。「それだ!」って思って自分はその説を信じようって決めたの。で、そのカマキリにちょっと話しかけてみたり、写真を撮ったり。すごく大切な何かを感じたの。曲の歌詞にもカマキリについて触れたし。そして一年ぐらい経ってからアートワークを手掛けはじめたとき、やっぱりあの(カマキリと出会った瞬間は)私にとってまだ大切に思っていたし、アルバムの中でもあの曲が中心的な存在になっていたのよね。だからあの瞬間に感じたことをアートワークで表現することが自分にとって納得感があったの。
──「Stay In Your Lane」など多くの曲で、不安や焦りと向き合っている様子が歌詞で描かれていますが、「Mostly Patient」では、まさしくカマキリのように「じっと狙いを定めている君/太陽の光を探し求めている鳥のように」といった記述もあります。安らぎや落ち着きを求めているのに、なかなか見つからない(「One Thing At A Time」)思いも綴られています。今のあなたにとってこうした歌詞にこめられた「不安」「焦り」は何に起因するものなのでしょうか。
C:まさにそれが肝なんだけど……多分ね(笑)。それを解明しようとすること自体が音楽を作り、曲を作る理由なんだと思う。常に答えを探ろうとしているから。だからある意味、同じ曲を繰り返し書き綴っているようなものなの。何度でも角度を変えて違う方法で書き続けている。それが何なのか、理解しようとする内なる葛藤でどう乗り越えたらよいのか。あるいは乗り越えられなくてもそれとどうやって共存して理解して折り合いをつけるか。でもね、まだその答えは出ていないの。
──まるで古い殻を脱ぎ捨てようとしているようにも読めます。昨2025年はファースト・アルバムからちょうど10年の節目でしたが、「古い殻」というのはあなたにとってどういうものなのでしょうか。カマキリは成長する過程で5回も6回も何度も脱皮をします。それに準えるなら、今のあなたは何度目の脱皮に入っていると言えますか。
C:アルバムは全体的に変化や進化がテーマになっていて、中でも私のネガティヴな部分、不安に思う部分をある程度手放そうとしているんじゃないかな。脱皮というのは……うまく説明できないけれど…でも多分それは抱え続けている昔からの自分のネガティヴなイメージだったり、自分に言い続けているネガティヴな感情だったり、「そんなことは無理」という頭の隅にこびりついて離れない想い、そういうことから脱皮しようとしているんだと思う。
このアルバムは2023年の冒頭から書き始めたのでリリースされる頃にはほぼ3年。不思議なサイクルだと思う。各アルバムが大体3~5年の周期になってる。毎回少し違うけれどそれぞれがある一定期間の記録という風にとらえている。そしてその時を振り返るたびに思うことは「あの時の自分は人生のどの時点にいたんだろ? 誰と付き合っていて、日々の生活でどういうことに直面していたんだろ?」。その時に作ったアルバムは人生の区切りを示す目印みたいなもの。その当時、自分に起きていたこと全てをアルバムに詰め込んでいるのよ。思い出や感情がたくさん詰まっている概要みたいなもの。一定期間の記録。そして今、アルバムが発売される直前は正直かなり怖い。皆に聴いてもらうために世界に向けて発表する前は無防備で恐怖を感じる瞬間。でも曲を書くという大変な作業はもう終わってるから。私にとって曲を書く作業は相当ハードだったりする。あのプロセスを全部やらなきゃというのが負担だったりする。でもこのアルバムの仕上がりにすごく満足している。このアルバムが大好き。だから今は次の脱皮に向けて心の準備ができている感じ。それが例えばこの瞬間を手放す心の準備ができているのか、それともリスナーの期待からの解放だったり、それが何であろうととにかくそれらの想いを手放してパフォーマンスに向かえばカタルシスのように心地よくなれると思う。
──一部の文化(特にアフリカの一部)では、カマキリは神や預言者と関連付けられており、神秘的あるいは精神的な意味合いを持つこともあります。預言者的な目線でいくと、これからのコートニー・バーネットはどのようなミュージシャン、表現者になっていくと思いますか。
C:その質問にはまだ答えられないかな。私はミュージシャン、そしてアーティストとして常に進化や変化をして、学び続けたい。世界や、自分、そして周囲の人に対する好奇心が私の原動力になっているんだと思う。曲作りの原動力は「理解したい」という想いなんじゃないかな。だからそれを続けて、もっともっと学びも深めて新しいことに挑戦して実験も続け、変化し続けたい。変化するということは学びであり、順応している証拠だからそれは良いこと。とにかくこれからもずっと好奇心旺盛なアーティストであり続けたいのよ。
<了>
Text By Shino Okamura
Interpretation By Kyoko Matsuda
Courtney Barnett
『Creature of Habit』
LABEL : Mom+Pop/Fiction/Universal Music Japan
RELEASE DATE : 2026.3.27
購入・配信はこちら : https://virginmusic.lnk.to/CourtneyBarnettCoH
コートニー・バーネット来日ツアー
2026年6月16日(火)名古屋 クラブクアトロ
開場:18:00 開演:19:00
2026年6月17日(水)東京 Spotify O-EAST
開場:18:00 開演:19:00
2026年6月18日(木)大阪 Billboard Live OSAKA
開場:18:00 開演:19:00
詳細はSMASH
