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!!!のニック・オファーが30周年を迎えた《WARP》主要アーティストを分析!!!

 
03 November 2019 | By Shino Okamura

つい先ごろ、ニュー・アルバム『Wallop』をひっさげたジャパン・ツアーを終了させた!!!。早いもので、気がつけばニック・オファー率いるこのニューヨーク拠点のダンス・グルーヴ・バンドももう《WARP》20年選手になっている。筆者が初めてニックに取材で会ったのはもう15年ほど前のことになるが、その時の会話は今も忘れるものではない。「音楽が猛烈なスピードで消費されていっている状況で、いかにして刺激的な音楽と出会い、いかにして丁寧にそれを咀嚼し、いかにして時間をかけてそれをオリジナルなものへと還元していくのか…それがこれからの僕らの命題だと思っている」と話してくれたニック。!!!の音楽が常に決して難解ではなくダイナミックなものである理由は、情報に対するそうした丹念なプロセスを経た上でカジュアルで誰もが楽しめるダンス・ミュージックであろうとしているからではないかと思う。

50代が見えてきたニック・オファーは、いまなお、そうした時代のスピード消費と格闘しつつ、しかしながら、ある種の消費文化という側面も持つダンス・ミュージック/ポップ・ミュージックの宿命に向き合っている。そのニックに新作に対する取材を敢行、加えて、《WARP》所属アーティストとして他の主要アーティストへコメントしてもらったのでお届けしよう。(インタビュー・文/岡村詩野        通訳/滑石蒼)

Interview with Nic Offer

――!!!が《WARP》から作品を出すようになって20年近くになります。そもそもここまで長く《WARP》に所属することになると当初思っていましたか? あなたにとって《WARP》はどういうレーベルだと言えますか?

Nic Offer(以下、N):こんなに長く在籍することになるとは思っていなかったよ。最初は自分がこれから何をするのか、20年どころか20日先のことさえ全く分からなかったからね。でも20年もの間《WARP》と一緒に仕事を続けてこられたというのは間違いなく俺たちにとってエキサイティングなことだし、エキサイティングだと思える仕事をやらせてもらえることに感謝しているよ。《WARP》は、レーベルたるものがどういうものかっていうお手本のようなレーベルだしね。常に最善を尽くすし、現状に満足せず、エレクトロ・ミュージックと一緒に成長してきたようなレーベルだ。そんなレーベルの一員でいられるのは最高だね。

――客観的に見ても《WARP》は長年にわたり、テクノ、ハウスなどのクラブ・ミュージック・シーンをリードしてきています。《WARP》に所属して活動する中で、レーベルからの影響を受けた部分があるとすれば、どういう部分になると感じていますか?

N:正直に言って、僕たちは最初、《WARP》からハウス・ミュージックを学んだからね。90年代の俺たちはもっとパンクよりで、ソニック・ユースとかジェームス・ブラウンを聴いていた。エレクトロはほとんど聴いてなかったよ。《WARP》に所属していなかったら、今のような音楽性は手に入れられていなかったと思う。例えばエイフェックス・ツインなんかにも確実に影響を受けてるな。インスピレーションをもらえるアーティストたちがたくさんいるレーベルだね。

――元来、ポピュラー音楽は社会性を孕んだものだと思いますし、時代と社会の変化に応じて表現される内容も変わってきていますが、あなたが!!!として活動開始してから約20年、アメリカ国内だけを見ても、ビル・クリントン→ジョージWブッシュ→バラク・オバマ→ドナルド・トランプと交代してきていて、政権が安定していないばかりか、国の政策も庶民には苦しいもので対外的にも褒められたものではないものばかりがまかり通っています。あなたが!!!を通してこの20年ほどの間にこの国(アメリカ)で表現していることが大きな意味を持っているとすれば、どういうところだと感じていますか?

N:今の社会情勢は間違いなく面白いものになっているよね。政治がこれまでになく身近で、俺たちにとって重要な存在になっている。過去にもこういうことがあったよね、ダンス・ミュージックというか、レイヴという文化が生まれたのもそもそも政治との関わりがあるし、当時もそうだったけれど、個人的に攻撃されているような気になるんだ。新聞を開けば、個人に対する攻撃が広がってるような感覚になる。今の政治に起こっていることを今すべて理解するのは難しい。ただ間違いなく、今の政治の状況は世界中の人たちのあり方を変えるものだろうね。そして、音楽のあり方を変えるものでもあると思っている。

――ニュー・アルバム『Wallop』は、制作過程の段階で、大変多くの人が絡んでいるそうですね。リベラルが求められる今の社会に置き換えられるような、多様な人が関与することの意味の大きさ、その必然を感じたりもしますが、あなた自身は今作で多くの人の手を借りたことの成果は、音のどういう側面に出ていると思っていますか?

N:昔のように、同じ家に住んで、キャンピングカーで一緒に旅をしてっていうことはできないけど、俺らはコミュニティ出身だからね。色んなアーティストたちと曲を作って、7、8人で一緒にステージで演奏するっていうのは、来た場所に帰ってきた感覚はある。俺たちは、もともとそういうやり方に馴染んでいるから。昔に戻った感覚というよりは、勝手を知っている環境で制作できたという感じかな。たくさんのアーティストたちと同時に仕事をするのに慣れているから。コミュニティや、人の集まりの一部になって、アイディアをシェアしたり、他の人から色んなことを教えてもらったりするのが好きなんだ。そもそも音楽を作る上で、そういう環境がうまく作用してくれるから。今回は彼らとずっと一緒に過ごしていたわけではなくて、ほとんどがメールでのアイディアのやり取りだったけどね。色々な人たちと一緒に仕事をすることによって、化学反応が生まれる瞬間というのがあるんだ。

――今作は今まで以上に、あらゆるダンス・ミュージックに手を伸ばすような、とても開かれていてヴァリエイション豊かでカラフルな内容になっています。特にアシッド・ハウスからトリップホップまで、90年代のダンス・ミュージックを改めて総まくりしたような作品ですが、今、90年代のダンス・ミュージックに着目して気づかされるのはどういうところでしょうか?

N:音楽を作るときに俺たちがいつも頭に置いているのは、「20年前の音楽と対話をする」ということなんだ。だから今回も90年代のエッセンスを取り入れているけど、それはノスタルジックな音作りをしたかったからではなくて、90年代の音楽に「着目した」からそうなったんだ。だから、今あの時代の音楽に触れて思うのは、単に、当時自分たちが発見した音楽を使ったという感覚。そもそも、新たに作品を作るということは、新しくて面白く感じられるコンテンポラリー・ミュージックを作るということ。アーティストはよく「原点回帰」という言葉を使ったりするけど、あれにはちょっとがっかりさせられるよね。あれって、過去に戻ったっていうことだからね。進化したという意味ではなくて。俺らはまだ、全然そんなことしないといけない段階じゃないよ(笑)。今の俺らがやることはすべて、前に進むということに関係のあることだけ。90年代の音楽を取り入れるということにしても、これまで使ったことのない要素を新しく試してみるということであって、過去に注目しているわけではないんだ。

――さて、今回のこの取材は《WARP》30周年の特集記事の一環でもあるので、ぜひあなたにこれまでの《WARP》のアーティストに対して一つ一つコメントをもらいたいと思っています。以下のアーティストに対して、忌憚のない意見、感想などをもらえますか? それぞれ。影響を受けた点、これから期待する点をおしえてください。

●Aphex Twin

N:エイフェックスに関しては、他の人たちが感じているのと同じ感覚を抱いていると思うんだけど、エクスペリメンタル界におけるビンテージな存在だよね。俺らがパンクをやっていた時代にエクスペリメンタルの流れが来たターニングポイントがあったけど、当時、彼の存在は避けて通れないものだった。彼のインスピレーションがあったおかげで、エレクトロの方面にも開眼できたというか。あそこまで大胆に、新しいことをした人ってそんなにいるものではないからね。

●Autechre

N:先輩の中でも、エキサイトさせてくれる存在。他の次元とか惑星から来たみたいな、あの雰囲気が好きだ。彼らの音楽を聴いている時、どこから来た人たちが作った曲なんだろう、どこか違うところの人たちが作った曲なんじゃないのかなって考えさせられるようなね。

●Squarepusher

N:スクエアプッシャーとは、俺というよりマリオ(・アンドレオーニ)がしばらく一緒に仕事をしていた。なんていうか、一緒に野球をやりたくなるような(笑)、良いアーティストだよ。感心させてくれる。間違いなく、常に新しいことに挑戦して、向上心を忘れないタイプのアーティストの1人だね。これからもすごく楽しみだよ。

●Battles

N:彼らとは、俺らとの共通点を感じる。ギターを弾きながらエクスペリメンタルな音楽をやっているバンドという意味でね。ただ、エクスペリメンタルの種類が俺らとは違うから、音楽的な方向性は違うけどね。バンドにはいつも新しいことをするタイプの人たちとそうでない人たちがいるけど、バトルスは間違いなく前者の代表格だよね。新作も楽しみ。

●Bibio

N:ビビオはアップデンポでポップなんだけど、それと同時に変だしユニークだから好き。これからも美しい音楽を作り続けてくれると思う。

●Hudson Mohawke

N:彼はエレクトロとヒップホップの融合をいとも簡単にやり遂げたよね。ラジオで流れてくるのを聴いて、興奮したのを覚えてる。俺たちはエレクトロとヒップホップに共通点があると考えていたから、彼がそれをやってくれて嬉しいし、これからもシーンを牽引する存在でいてほしいなと思うよ。

●Flying Lotus

N:エキサイティングな存在だよね。LAには彼のようなエキサイティングなアーティストが他にもいるのかもしれないけど、少なくとも俺の周りにいるどのアーティストとも違うね。ケンドリックとのコラボを聴いて、俺らは彼がメインストリームというか、それまでとは違う、大きな存在になったのを感じた。

●Grizzly Bear

N:グリズリー・ベアは大好きなんだ。それまでのロックバンドとは違う流れを作ったバンドだから。静かで、デリケートな音楽にとどまるんじゃなくて、ジャジーだし、他のバンドとは違う深みのようなものがあると思う。ロック界でもユニーク存在を築いてるよね。

●Yves Tumor

N:彼みたいにイカしたアーティストが出てきたのは久しぶりだよね。バウハウスとかファンカデリックと同じバイブスを感じる。良い意味で秩序がなくて、粗削りで、尖っている。俺が良いなと思うロックバンドが持ち合わせている要素を全て持っているんだ。危険な香りがする。ここ最近では一番興奮させてくれるアーティストだね。

●OPN

N:ここ10年ぐらいの間に出てきたアーティストの中では一番好きだ。最近出したアルバムも、唯一無二の構造で面白かった。窓から顔を出したら、そこにバリアが張られているみたいな感覚。分かるかな…。オウテカのそれと似ているんだけど、他のアーティストとは全く違う個性を持っている。音楽的な感性が人と違うんだ。感心するよ。彼の音楽は好きだね。

●Stereolab(《WARP》と《Duophonic》との共同名義再発)

N:90年代に一番心ひかれたバンドのひとつだよ。彼らのカバーバンドをやっていたし。俺ら自身がもともとジェームス・ブラウンに影響されてファンクをやっていたようなバンドだから、ステレオラブと共通するコンセプトを持つことが嬉しかった。だから、俺らはジェームス・ブラウンとステレオラブの音楽に同時期に触れて、彼らの音楽性をミックスしたりして、とても影響を受けていたよ。ロックバンド、特にパンク・バンドはできるだけ多くの音を使おうとするものだけど、彼らはたった3音でシンプルなのにインパクトのある音楽を作り出すような、そんなバンドだ。彼らが新しいアルバムを出すたびに、彼らの新しい「声明」はなんだろうって、聴くのが楽しみでね。

――なるほど興味深い見解、解釈をありがとうございました。ダンスというのは人類最初のコミュニケーションの手段の一つとも言われています。そして、今もなお、踊ることは言語や人種や性別を超えて繋がることができる重要なファクターと言えるのですが、一方でユース・カルチャーとしての機能が加速していて、あなたのように40代以上の世代とは残念ながら徐々に乖離している印象もあります。ダンス(・ミュージック)と世代を横断させるために、今あなたができることはどういうことだと思いますか。

N:面白い質問だね!世代を横断させるとか、乖離を埋めるとか、全く考えたことがなかったな!その違いが面白いものだと思っていたし、若いアーティストたちがやっているようなダンス・ミュージックを、俺たちがやれると思えないというか(笑)。彼らがやっている音楽はすごいから。でもエクスペリメンタルっていうのは新しいことに挑戦する音楽だから、それを俺たちが作って、キッズたちがそれに反応してくれたらエキサイティングだよね。昔からやっているのと同じような曲を作っても、年取ったリスナーたちしか反応してくれないから(笑)。そういう意味では、面白い音楽を作ってキッズたちとコミュニケーションをしようという意識はずっと持っているね。コミュニケーションしようとはしてきたけど乖離をどうにかしようとか、そういうことは全く考えたことがなかったから、これから考えたいな。まあ、世代間のギャップは確実に感じるよね。40代以上は20BPM、キッズたちは90BPMって感じで、リズムが全然違う。キッズたちのやっている音楽はリスペクトしているよ。俺たちの今回のアルバムは90年代のテイストも持っているって最初に話したけど、今のキッズたちの音楽が今後の音楽シーンにどんな影響を与えるのかも楽しみだよね。他の国は分からないけど、アメリカの子たちはトラップとかを聴いているから、俺らとは違う。この質問は、これから考えていきたいものだな。<了>

■Warp Records Official Site
https://warp.net/

■ビートインク内 Warp30周年特設サイト『WXAXRXP』
https://www.beatink.com/user_data/wxaxrxp.php

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Text By Shino Okamura


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Wallop

LABEL : WARP / Beatink
RELEASE DATE : 2019.08.30

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