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タイラー・ザ・クリエイターがキュレートする音楽フェス
Camp Flog Gnaw Carnival 2023
2DAYS 現地レポート

08 December 2023 | By Keiko Tsukada

■フェスの歴史

タイラー・ザ・クリエイターが手掛ける音楽フェス《キャンプ・フログ・ノー・カーニヴァル》(以降、CFG)が、3年間のコロナ休止を経て、LAの《ドジャー・スタジアム》に帰ってきた! 2012年にLAの公園で始まったこのフェスは、会場を拡大しながら今年で9回目を迎え、今やLAを代表するフェスのひとつへと成長した。タイラーが敬愛する英雄(リル・ウェイン、ファレル・ウィリアムス、カニエ・ウェスト)から、アーティスト友達(エイサップ・ロッキー、ヴィンス・ステイプルズ、ドレイク)、才能溢れるニューアクトまで、彼が選び出すラインアップには定評があるため、チケット販売から数ヶ月後にラインアップが発表されるにも関わらず、毎年即完売するほどの人気ぶりだ。

今年送られてきたリストバンド、バッジ
ドジャー・スタジアムで初開催となった2018年には記念野球ボールが送られてきました

念のため、「フログ・ノー」のフェス名の所以にも触れておこう。タイラー率いるヒップホップ集団、オッド・フューチャー(現在は解散)の正式名称「Odd Future Wolf Gang Kill Them All」の「Wolf Gang」の頭文字を入れ替えて「Golf Wang」にして、その各単語をさかさまにしたのが「Flog Gnaw(フログ・ノー)」という、タイラーの言葉遊びから生まれたフェス名なのだ。

フェスの会場マップ

■会場の様子

大リーグ野球チーム、ロサンゼルス・ドジャースのホーム球場《ドジャー・スタジアム》の駐車場をフル活用したフェス会場には、真ん中に一番大きな「キャンプ・ステージ」、両サイドに中型の「フログ・ステージ」と「ノー・ステージ」が設置され、他にも遊園地の乗り物やゲーム、アーティストのマーチストア、地元レストランやバーのブース、ロッカーやマイボトル給水用の水道などが並び、2日間のフェスを快適に過ごせるサービスが揃っている。

巨大な「キャンプ・ステージ」

■ライヴ・レポート

毎回多彩なアーティストが登場してフェスを盛り上げくれるのだが、「どのステージに誰を観に行くか?」という嬉しい悩みを抱えながら、幸運にも観ることができたライヴをレポートしていこう。

1日目

お昼頃に会場に着いて最初に観れたのが、来日ライヴも果たしているネオソウル・シンガーのリヴ(Liv.e)で、MVも印象的な「Wild Animals」を観ることができた。独特なヴァイヴを放つ、LAで活動するアンダーグラウンド・ラッパーのマクソ(Maxo)、タイラーの『Call Me If You Get Lost』(2021年)でフィーチャーされているR&Bシンガー・ソングライター、ファナ・ヒューズ(Fana Hues)の妖麗バイブの後は、巨大なメインの「キャンプ・ステージ」でギターを弾いて登場したキュートなフィリピン系イギリス人のシンガー・ソングライター、ビーバドゥービーのステージを楽しんだ。

次に「フログ・ステージ」では、コーンロウヘアーに釘を指しまくり、アメフトのショルダーパッドにフェイスペイント、キラキラ光るマイクスタンドというパンキッシュなファッション、ポップで華やかなスタイルのラッパー&シンガー、ティーゾ・タッチダウン(Teezo Touchdown)がステージを盛り上げていた。彼はドレイクの新作『For All The Dogs』(2023年)収録の「Amen」という曲でフィーチャーされているのだそう。次のステージは、高音がよく通り、ソフトで可愛らしい声が特徴のR&Bシンガー、ラヴィン・ルネ(Ravyn Lenae)で、2017年リリースの「Sticky」という曲が印象的だった。

そして次にメインステージを飾るのは、CFG常連のカリ・ウチス様。タイラーのファンにとっては、彼の『Cherry Bomb』(2015年)で彼女をフィーチャーしたことで、彼女の人気が爆発した印象が強く、『Flower Boy』(2017年)収録「See You Again」は、ライヴでもファンが大合唱する人気のフィーチャー曲だ。彼女の妖艶なくねくねダンス、じっくり聴かせるセクシーな歌声に、オーディエンスはすっかり酔いしれていた。

続くメインステージで行われたカナダのインストバンド、バッドバッドノットグッドの3人の哀愁漂う味わい深いジャジーな演奏には、思わず引き込まれてしまう魅力があった。タイラーを始め多くのアーティストに愛され、この夜にメインステージを飾っているのも、納得がいく充実のパフォーマンスだった。

それにしてもアイス・スパイスの人気がすごかった! ニッキー・ミナージュと共演したリミックス版「Princess Diana」をパフォームする彼女のステージは、全参加者が集結しているようハンパない盛り上がりぶり。かたや、そんな中でもマイペースで遊園地の乗り物を楽しんでいるキッズがいるのも、おもしろかった。

そして! 初日で一番楽しみにしていたのがタイラーのショウ。期待感が爆上がりする中、廃棄物処理場と巨大トラクターを設置したステージで(古い物を壊して、新しい物を作り続けるスピリットを象徴していたのだろうか)、古い車の上に乗ったタイラーが登場した。パンデミックのせいでフェスが3年ぶりとなったこと、「チケットは売れるんだろうか?」という不安な思いをよそに即完売となったこと、ファンが楽しみにしてくれている喜びに触れながら、「心の底から、ありがとう」と、観客に向かって深々と頭を下げる姿には、思わずウルっときてしまった。歯に衣着せぬ物言いで知られるタイラーだけれど、実は彼はとても謙虚な人でもある。イベントのホストである自分をヘッドライナーにせず、再結成するザ・クリプスと、ケンドリックとベイビー・キームを自分の後に配置するところにも、彼の謙虚さと参加アーティストへのリスペクトが見て取れた。そしてこの日は新作の曲から過去アルバムの代表曲までたっぷり披露し、ファンも一緒に歌って飛び跳ねながら、最高に楽しい時間を提供してくれた。世界中にライヴ配信されるようになった便利な昨今だけれど、やはりアーティストのエネルギーやファンの熱狂ぶりを肌で感じられるライヴの魅力は、何ものにも代えがたいものがある。しかしタイラーは、どんなに成功を積み重ねても、ヒップホップ界からは長年「変わり者」扱いされ、一流の仲間入りが許されず、相当な屈折を体験してきたはずだ。それでも自分を信じて我が道を突き進み続けた結果、ここ数年でやっとメインストリームからも認められ始めた事実を、デビュー当時から彼の成長を見守ってきたファンとしては、非常に感慨深く、誇りに感じている。

そして! 個人的に非常に待ち遠しかったのが、ザ・クリプスの再結成ライヴだ。彼らのデビュー当時にインタヴューする機会があったのだが、弟のプッシャ・Tがソロで活躍する中、お兄ちゃんのノー・マリスの姿を目にすることがなくなっていたので、ずっと気になっていた。そんな中でヴァージニア・ビーチの悪名高い兄弟が揃ったライヴを体験できる喜びはひとしおで、それを他のファンと共有できるライヴはまた格別だった。最後にあのファレルの最高のイントロで始まる「Grindin’」で〆た40分のライヴを、心の底から堪能した。

そして急いでメインステージに走って行くと、ケンドリック・ラマーとベイビー・キームから成るザ・ヒルビリーズ(The Hillbillies)のライヴ会場は物凄い人混みで、「family ties」をパフォーム中。ケンドリックのお父さんのスキットも入れながら、ふたりのソロ曲を中心に交互にパフォーマンスする中で、心なしか、以前のケンドリックに比べて、いばらの冠を下ろしたような、いい意味でどこか肩の力が抜けてリラックスしている様子が感じ取れた。1時間にわたる彼らのパフォーマンスはヘッドライナーの貫禄満点で、最後にふたりの最新シングル「The Hillbillies」で締めて、最高に幸せな初日が終了した。

ザ・ヒルビリーズ x Marine Roseのマーチ売り場 オッド・フューチャーのマーチ売り場
「ランディーズ・ドーナツ」は、デビュー前に契約を交わそうとしたディディに対して、タイラーが「ランディーズ・ドーナツに会いに来い」と言ったことでも知られる、地元で有名なドーナツ屋 今回ゲットしたキャップ
タイラーが昔デザインした猫ちゃんロゴが復活 「ホーキンズ」の超巨大ハンバーガーとフライドポテト

2日目

夕方に会場に到着すると、元気いっぱいの19歳ラッパー、レッドヴェイル(redveil)のライヴからスタート。子供の頃にジ・インターネットとタイラーの「Palace/Curse」という曲を聴いて音楽に目覚めた過去があるため、このステージに立てる喜びを嬉しそうに語ってくれた。次に向かうは「フログ・ステージ」のドモ・ジェネシス。オッド・フューチャー出身の中でも、NYの正統派ラップに色濃く影響を受けたスタイルを持つ彼。今回、自閉症の弟が初めてフェスを観に来ているので、彼にとってとても特別な日なんだと嬉しそうに語る姿が印象的だった。

そして次は今大人気のUKシンガー、ピンクパンサレス。可愛らしいベイビー・フェイスとキュートな声をドラムンベースに乗せるという、意外な組み合わせがとても新鮮だった。今、アイス・スパイスと彼女がZ世代に大人気らしく、そんなふたりの大ヒット曲「Boy’s a liar Pt. 2」で締めて、会場を沸かせた。

次は、ソロでメインステージに立つのは今年が初めてとなるシド。優しく切ない女性的な声に、恋人にアグレッシブにアプローチする男性的とも言えるリリックに身を任せていると、歌を歌うことに性別は重要ではないような気がしてくる。シンガーとしてますます成熟していく彼女のステージを、今年も十二分に堪能した。

そしてCFG出演はおそらく2度目になるリル・ヨッティ。2日目も後半にさしかかるとさすがに疲れてきて、アイスクリームでエネルギーチャージをしながら、元気いっぱいの彼のステージを楽しんでいると、サプライズでオフセットが登場し、会場はさらに熱狂の渦に。

広大なフェス会場 広大なフェス会場に、待ち合わせ場所は必須! マイボトル給水用の水道

次は絶対に観たかったトロ・イ・モアが登場する、遥か彼方の「ノー・ステージ」へ。「今夜はみんなに楽しい時間を過ごして欲しいんだ!☆」と、爽やか且つキュートに語るトロ・イ・モアのパフォーマンス、センスのよさ、切なく甘酸っぱいインディー・ポップスから踊らずにはいられないダンス・ソングまで、すべてが極上で、純粋に音楽を楽しむ喜びをあらためて思い出させてくれた。時間差で始まっているアール・スウェットシャツのライヴも見たかったので、身を切られるような思いで途中でその場を離れつつも、幸せを嚙み締めながら、また遥か彼方の「フログ・ステージ」に向かってダッシュした。

「フログ・ステージ」

まだ聴けていなかったアルケミストとの新作『Voir Dire』が「最高!」と友達に聞いていたので、このステージもかなり楽しみにしていた。やっと会場に着くと、まったり煙たく詩的なアールのライムにファンが夢中になっていた。これだよ、これ! なぜ彼のラップにはこう、エモーショナルになるのだろうか。目の前にはパレスチナの旗を背負ってアールのライヴに熱狂する男性がいて、余計感極まってしまった。

UKのシンガー・ソングライター、レックス・オレンジ・カウンティは、早くからタイラーがその才能に惚れ込み、フェスに招待してきたことで注目を浴びたアーティストの代表格と言えるだろう。今年「キャンプ・ステージ」に登場した彼は、ほっこりキャラで幸せオーラを放ちながら、最高にいかしたパフォーマンスを披露してくれた。

そしてついに本日のヘッドライナー、SZAのステージだ。予定より10分近く遅れてSZAが登場すると、2日間の疲れなど一気にふっとんでしまった。真のクイーンに成長した彼女のステージは、正に圧巻。「海」をテーマにしたステージは豪華そのもので、何よりも口パクではなく、リアルに歌って踊る真剣勝負な姿には感動のしっぱなし。しかもヒット曲、名曲の多さにもあらためて驚かされ、誰もが一緒に歌いながら、彼女の魅力に酔いしれていた。しかし最後に「Good Days」を歌おうとしたところで、シンデレラのように会場の門限がやってきて、マイクの音源を切られてしまうというハプニングが! SZAは仕方なくわたしたちにマイクを向けながら、観客がこの曲を大合唱するという結末になってしまったが、新たなるクイーンSZAの魅力を存分に堪能し、夢のような2日間のフェスは終わりを遂げた。

射的ゲームで巨大な蜂のぬいぐるみをゲットしたカップル 射的ゲームで巨大なタイラー人形をゲットしたカップル 奮発してゲットしたロブスターサンドは少し控えめなサイズでした ロブスターサンドだけでは足りずピザもゲット!

■パレスチナに自由を

今回のフェスで、パフォーマンスに加えて個人的に非常に印象深かったのが、パレスチナの伝統的なスカーフ、クーフィーヤを身に付けていたアーティストやファンがいたことだ。これは今現在、イスラエル軍の爆撃により、ガザに住むパレスチナ人の死者が爆発的に増え続けている深刻な状況を反映して、パレスチナの人たちに心を向け、支援しようというメッセージが込められていたのだろう。中でも最後に死者の子供の名前と年齢をステージに映し出し、オーディエンスに声高々に現状を訴えかけたレッドヴェイルの行動は、既に多くのメディアでも報道されている。またリヴやアール・スウェットシャツもこのスカーフをかぶり、静かなる抗議を示していた。

音楽業界のしがらみか、政治的な意見表明を避けるアーティストが多い中、「政治的表現」を超えた「人間として命の尊厳」を訴えかけているところに、これらのアーティストの勇気と、同じ人間として親近感を感じた。多くのファンにメッセージを伝えられるアーティストたちが、その声と影響力を利用してそのような訴えをする姿勢には、リスペクトを捧げたい。

音楽を楽しめる自由と平和に感謝をこめて。(文・写真/塚田桂子)

「パレスチナを解放せよ」と手書きされたタンクトップを着る女性 パレスチナの国旗を背負ったパレスチナ人の男性 マーチ売り場でクーフィーヤを被るファン

Text By Keiko Tsukada


Camp Flog Gnaw Carnival公式サイト
https://www.campfloggnaw.com/


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