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Dos Monosの没とbringlifeのnul、スーパー・フラットな時代感覚のヒップホップ 
『Revolver』ロング・インタヴュー

01 February 2024 | By Ryutaro Amano

2023年、アメリカのヒップホップが経済的に低調だったことはたびたび語られたが、アンダーグラウンドでは優れた作品がいつも以上に生まれていたことは、リスナーやクリティックの総意ではないかと思う。伏流、底流するものこそが、文化においては常に重要だ。他方、ここ日本はといえば、メジャー・レーベルと契約しているアーティストからインディペンデントで活躍している者まで、まさに百花繚乱といった景色が広がっていた。日本のヒップホップ・カルチャー、ラップ・ミュージックは、何度目かの最盛期を迎えているのではないだろうか。

と、大きなスコープで状況を捉えようとした言葉は、空疎にも響く。ともあれ、そんな年に、Dos Monosの没 a.k.a NGSとbringlifeのNaked Under Leatherは、「botsu vs nul」という名義で共作アルバム『Revolver』をリリースした。アメリカなどの国外、そして国内、どの文脈にも繋がりそうである一方で、あらゆるものから切断されて遊離した、何にも似ない独自性がある、かなり変わったヒップホップ・レコードだと思う。そこには、異形のオルタナティヴ・ヒップホップとしての先鋭性と実験があるのと同時に、軽快さ、自由さ、ラフさ、さらに見逃せないユーモアと遊び心があり、2人が語るように、「これが、これこそがヒップホップなんだ」と、聴き手の胸へストレートに投げこんでくる意志の貫徹も感じる。これは、新時代の『Madvillainy』(2004年)か、『The Unseen』(2000年)か、あるいは……。

では、botsu vs nulが、『Revolver』がシェアするヒップホップの感覚、提示するアティテュードとは、いったい何なのだろうか? 今回のインタヴューで繰り返し語られたキーワードは、「フラット」や「並列」である。YouTubeの速度とストリームする音のフロウに浴し、毎時毎秒それらに反応してやまない音楽狂の2人が、現在のヒップホップに対する視点、それらと地続きにあるアルバムの背景をじっくりと語った。
(インタヴュー・写真/天野龍太郎)

Interview with botsu & nul

■ディスクガイド精神

──まず、2人のヒップホップ以外の音楽的な原体験について聞かせてください。インタヴューの前、没さんとはアニマル・コレクティヴの話で盛り上がりましたが。

没 a.k.a NGS(以下、b):どこから話せばいいんだろう? 小3の時、授業で(ビートルズの)「Ob-La-Di, Ob-La-Da」を歌わされたんです。原曲を聴かせてもらったらそれがヤバすぎて、親に『青盤(1967-1970)』(1973年)を買ってもらってずっと聴いてました。『赤盤(1962-1966)』(1973年)は全然いいと思えなかったけど(笑)。

普通にORANGE RANGEとかを経由して、その次がオフスプリング。エクストレイルのCMで流れてて、「洋楽のロックってかっこいいかも」って思って聴きはじめて、パンクにいって、同時に銀杏BOYZとかも聴いて。先輩がミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)やROSSO、ブランキー(BLANKEY JET CITY)のコピーをやってたからそのへんとか、ゆら帝(ゆらゆら帝国)とかも聴いてましたね。

──楽器は演奏していました?

b:中1からドラムをやってました。あと小野島大の『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社、2005年)って本を買って、載ってるアルバムを全部聴いたりもしましたね。高1の時に同級生が《ピッチフォーク》を読みはじめて、そこからアニコレとかを知っていったんですね。

聴く音楽の幅が広がったきっかけはアニコレですね。インタヴューで自分たちの影響源をめっちゃ明かすし。パンダ・ベアの『Person Pitch』(2007年)のブックレットを開けたら、影響を受けたアーティスト名が羅列してあるとか。そういうのを片っ端から全部聴いていきました。なので、ディスクガイド的な精神があった最後の世代かもしれないですね。ヒップホップを聴くようになったのも、パンダ・ベアが9thワンダーやJ・ディラから影響を受けたって言ってたからで。それまでラップってめっちゃダサいと思ってました(笑)。

──nulさんは?

Naked Under Leather(以下、n):僕はコールドプレイが原体験ですね。中1でiPodのCMソングだった「Viva La Vida」を聴いて。それまで音楽には別に興味なかったんですよね。あとは没さんと一緒かな。

b:それは端折りすぎ(笑)。パッション・ピットとか好きだったんでしょ? 俺よりニューウェイヴ/ポストパンク寄りというか、ダンス系が好きだよね。

n:そうですね。没さんみたいにディスクガイドとかいろんな雑誌とかも読んで……。中古の『STUDIO VOICE』とかを読んで、ポストパンクとかクラウトロックとかもっとディープなやつにも出会って。

──ゼロ年代のインディ・ロックはそのあたりがルーツでしたからね。

n:フランツ・フェルディナンドがめっちゃ好きで、彼らが影響を受けたギャング・オブ・フォーから入って、ポップ・グループとかめちゃくちゃ好きでしたね。「自分でもできる」って思えたから。演奏の仕方がわかる音楽を好きになるんです。

それからタイラー(・ザ・クリエイター)の「Yonkers」(2011年)が流行って、《ピッチフォーク》みたいなインディ系のメディアもヒップホップを取り上げるようになって聴くようになったり。ヒップホップも「これは自分でもできる」ってポストパンク的な感覚で聴きはじめたし、たぶん今でもそう。

LiveMixtapesとかDatpiffが当時はあったから、リル・Bだったりカレンシーだったりリル・ウェインだったりの大量のミックステープとか、キャムロンの昔のやつも一緒くたにして聴き漁ってましたね。中毒に近かったかも。無料で聴けるのがとにかく大きかった。

Tyler The Creator – Yonkers

b:俺もほぼ同じルート(笑)。

n:アイラヴマコーネン(iLoveMakonnen)もリル・ヨッティも最初の作品はミックステープでしたよね。懐かしい……。

──楽器はやっていたんですか?

n:高3の時、コピバンでベースとヴォーカルをやりましたけど、全然弾けなかったですね。あと吹奏楽部でオーボエを吹いてました。

b:そうなの!?

n:中高6年間やってたんですけど、楽譜の読み方がまったくわからなかったから、バレないように小さい音で吹いて(笑)。高3の時、引退前ってことでソロを吹かされたんだけど、吹けないから結果としてフリー・ジャズみたいな演奏になってました。

b:すごいな(笑)。

■2010年代のオンライン・アンダーグラウンドから2020年代に受け継がれたもの

──フリー・ダウンロードのミックステープ・カルチャーが盛り上がったのが2010年前後でしたね。

b:わけわかんないやつも大量に落としてましたね。キープ・クール・フールみたいなブログで誰かが褒めてたら、とりあえず落として聴いて。

──Hi-Hi-WhoopeeのようなTumblrで発信するブログも多かったですね。

n:当時はモラトリアムだったから、クラウド・ラップっぽい音楽が生活と合ってたんですよね。聴いてるとめっちゃ気持ちいいのが多くて。

──ミックステープ・カルチャーってもはや忘れ去られかけていて、しかもアンダーグラウンドなものはどんどん消えて聴けなくなっていっています。ただあの頃の感覚は、今に引き継がれている部分もありますよね。

n:最近だったら、それこそRXKネフュー(RXK Nephew)*なんかはああいうカルチャーの子どもって感じがする。

*米ロチェスターのラッパー。大量の曲やアルバム/ミックステープのリリースで知られ、2020年、9分超の大曲「American Tterroristt」で注目を集めた。新型コロナワクチンや大統領選挙に関する陰謀論をラップすることでも知られている。

RXKNephew” American TTerroristProd By BossUP”9 Min Of Hell “

──当時の話は2人でよくするんですか?

b:意外としないね。

n:D/P/I*の話はよくするけど。

*米ロサンゼルスのプロデューサー、アレックス・グレイ(Alex Gray)。グリッチ/エクスペリメンタル系の作品を多数リリースしていた。2016年に活動終了を宣言したが、2020年に復活、2023年7月に最終作『Maldita Vida』をリリースした。

b:それはまたちがう話じゃん(笑)。

──でもD/P/Iが注目されたのも同時期ですよね。『Revolver』を聴いて、D/P/Iを思い出しました。

b:まあ、未だに影響を受けてますね(笑)。

n:D/P/Iの来日公演(2015年)をそこ(恵比寿《KATA》)でやってたんですけど、2人とも行ってたってあとで気づいたんですよね。

b:いろんな人が来てたっぽいね。noripiさん*とか。Dirty Dirtさん**の実物を初めて見たのもその時でした。

*DJ。ピアノ男とのユニット、RYOKO2000でも活動している。
**ブロガー/カセットテープDJ。

──批評家のアダム・ハーパーが論じていた2010年代前半のオンライン・アンダーグラウンドのムードを『Revolver』に感じたんです。

b:そうしようと思ったわけじゃないんですけどね。そういう音楽ばっか聴いてたからしょうがないかもしれないけど、10年経ってまたその感じが出てくるのが不思議です。

ただ今のラップを聴いてると、あの頃の感覚が当たり前になった感じもしてて。だから、俺らもやれるんじゃないかって思ったんです。10年前は変わったやつがエクスペリメンタルなことをやってたけど、今はいわゆるフッド出身のラッパーなんかがそういうことを当たり前にしてる。それで、このアルバムを堂々と出せるなって。

botsu(没 a.k.a NGS)

■ノイズからヒップホップ・ビートへ

──ちなみに、2人がトラックをつくりはじめたのは?

b:俺はやってたバンドが解散した高2か高3ですね。「これだったら一人でできるじゃん」と思って。

n:僕は20歳頃かな。パソコンが手に入ったから始めました。それまでDTMの存在すら知らなかったんですけど、友だちがAbleton Liveを教えてくれて。最初につくってたのはビートじゃなくてノイズでしたね。

b:俺も最初はノイズ。ノイズだったらすぐできると思って。

n:でも言葉を乗せる方が好きなので、ビートをつくるようになって。

──どういうビートをつくっていたんですか?

n:いや~~~~~……。

b:(笑)。

n:……かなり不思議な音楽でした。自分でも、今やろうと思ってもできない音楽ですね。Maxでプログラミングして一発録りでやってたんです。

──Maxだったんですか!?

n:そうです。

b:《Wasabi》*から出してた頃の話?

*《Wasabi Tapes》。Hi-Hi-Whoopeeの主宰者、現Kenjiが運営していたレーベル。nulはNaked_Under_Leather名義で『we​/​fla​/​Quid』を2016年にリリースした。

n:その前っすね。即興とビートのミックスみたいな感じで、似てる音楽があんまないかも。強いて言うならオウテカとかのIDMになるのかな……。別にそんないいものじゃないんですけど、なんか味があったな。

──没さんのソフトウェアは?

b:最初はAbletonを試したんですけどしっくりこなくて、SP-404でビートをつくってた人たちに憧れて、一発録りでつくってましたね。かなりローファイな質感のやつでした。ビートがよれてるんじゃなくて全体がよれてるというか(笑)。

──参考にしていたアーティストは?

b:ジェイムズ・マシュー(James Matthew)*とかアーロンマクスウェル(aaronmaxwell)**とか、あのへんっすね。ロサンゼルスに留学した時、ジェイムズ・マシューに会いに行ってビートのつくり方を教えてもらったんですけど、Audacityでカットアップしてたのが理解できなくて、俺はカットアップも全部一発録りしてましたね。

*米ロサンゼルスのプロデューサー。
**米ロサンゼルスのプロデューサー。ジェイムズ・マシューとはファミリー・イヴェント(Family Event)というデュオで活動していたほか、《エル・セラーノ(El Sereno)》というレーベルの運営もしている。

──ラップを始めたのは?

n:たぶん19〜20歳とかでしたね。自分がいるクルー、bringlifeの10,10,10に日本語ラップを教わって。それまで自分でラップするって発想はなかったんですけど「できるな」と思って。

b:俺はインスト至上主義者だったんですけど、Dos Monosの荘子itが「ラップしてみよう」って言ってきたからですね。それまで自分がつくったビートではラップしてませんでした。

nul(Naked Under Leather)

■「俺が2人いる」

──では、2人が繋がったのは?

b:Dos Monosのアルバム(『Dos City』、2019年)を出した頃、MCビル風さんが「nulのCQ CREW(bringlifeの改名前)とDos Monosが絡んだら面白いんじゃないか」ってツイートをしてて、それを見てDMしました。荘子itがそのへんを掘ってたから、その前に10,10,10の「夜を所有」とかは聴いてたんですけど。


10,10,10 – 夜を所有(PV)

──当時から仲よくしていたんですか?

b:仲いいのかな? 今もよくわかってないですね、正直(笑)。

n:仲はいいっしょ(笑)。

b:もちろん仲はいいんだけど、時間とか空間とかのコミュニティを共有してないし、点と点で会って共鳴してる感じで。

n:つるんではいないですね。でも《K/A/T/O MASSACRE》*で会ったりとか。

*幡ヶ谷《Forestlimit》で毎週水曜日に開催されているパーティ。主催は古着屋《NOVO!》の加藤。

b:それもその場所で会うだけじゃん? 昼飯を一緒に食うとか、そういうのは一切してないから。

n:たしかに。したいですね。

b:この関係性も好きなんだよね。

──バンドだったら一緒に過ごす時間が長くならざるをえないけど、ラッパーでありプロデューサーでもある2人だと関係性が付かず離れずな感じになると。

b:今回の名義も「botsu vs nul」だし、くっつく気がない(笑)。

n:でも、こんなストレスがない共同作業は初めてだった。

b:「はいはいはい」みたいな感じで進んでったね。

──何も言わずに阿吽の呼吸だったんですね。お互いがやっていることに口出しはしないんですか?

b:あんま出さないっすね。遊んでる感じだからね。

n:出そうってそもそも思わない。「俺が2人いる」みたいな。

b:ははは! そうかも。ラップ・スタイルとセンスがちがうけど俺より面白い俺がいる、みたいな感じ(笑)。

■スーパー・フラットな時代感覚のヒップホップ

──ところでnulさんの今日のファッション、すごいですね。Uber EatsのTシャツって(笑)。

b:上着も「WELCOME TO ACID HOUSE」だし(笑)。

──ジャケットはK-BOMBさんのですよね。

n:《BLACK SMOKER》、大好きなんです。

──ヒップホップ的な原体験は?

n:さっき言ったように入りはミックステープ全盛期だったんですけど、日本語ラップで言えばやっぱTHINK TANKとMSCですね。その2組もbringlifeの10,10,10に教えてもらいました。言葉もサウンドもオリジナルだし、同じ国にいるのに自分が知らないものがこんなにあったんだって嬉しくて。大麻が違法だと思ってたのに、THINK TANKのファースト『BLACK SMOKER』(2002年)のジャケを見て「これ、大丈夫なのか?」みたいな。なんかほんとに『ストレンジャー・シングス』の「裏の世界」に入った、みたいな感じだった。没さんは日本語ラップ、あんま好きじゃないですよね。

b:そう。熱心な日本語ラップリスナーだったこと、一回もなくて。

──たしかに没さんのラップにもビートにも、日本語ラップ的な文脈はないですよね。2人が共感しているものの一つは、2010年代末に現れたマイク(MIKE)、彼が所属していたクルーのスラムズ([sLUms])、マイクのレーベルである《10k》など、あの周辺だと思うんです。

What U Say U Are

b:マイクはティサコリアン(TisaKorean)*とかも自分のイベントに呼んだりしてて、ヒップホップやラップを大きく捉えてる感覚に共感できるんですよ。もちろんダスティな音像が好きだから、そこにも共感してるけど。

*米ヒューストン生まれ、ミズーリ・シティ出身のラッパー/プロデューサー。2018年の「Dip」がヴァイラル・ヒットした。

tisakorean – RANDO (official video) mumuflee

n:マイクを聴いた時は嬉しかったですね。基本的に俺は「これ、自分でもできるんだ!」っていうポストパンク精神で音楽を聴いてるので、ネイヴィ・ブルー(Navy Blue)もマック・ホーミー(Mach Hommy)やウェストサイド・ガン(Westside Gunn)なんかの《グリゼルダ(Griselda)》周辺も好きで。

b:俺の中ではウエストサイド・ガンとマイクは全然ちがうんだよね。アルケミスト(The Alchemist)のビートもちがう。グリゼルダやアルケミストは90年代ヒップホップのマナーや記憶が強く残ってるっていうか。それはそれでいいんだけど、そこまで共鳴しない。

n:「nulと没のラップメルマガ」ってDiscordチャンネルがあって……。

b:そこに自分たちが好きな曲をぽんぽん投げて、一言コメントをつけて共有してるんです。

n:そこで俺らがシンパってる──シンパシーを感じてるのは……(笑)。

b:言い直した(笑)。

n:ICYTWAT*とかリアルヤングフィル(RealYungPhil)**とかイーヴィルジアーニ(EvilGiane)***とか、色々あるんですよね。

*米シカゴのラッパー/プロデューサー。ディヴァイン・カウンシル(Divine Council)というコレクティヴで活動していたが、2017年に脱退。プレイボーイ・カーティやエイサップ・アントらのプロデューサーとしても知られる。
**米ハートフォードのラッパー。
***米ブルックリンのプロデューサー。コレクティヴ、サーフ・ギャング(Surf Gang)の設立者。ベイビー・キーム&ケンドリック・ラマーが2023年にリリースした「The Hillbillies」を制作したことでも知られる。

ICYTWAT – 808SIDDHI (Official Video)
RealYungPhil – One of One Ft 1600J (Official Video)
454 – GANGSTER PARTY PROD EVILGIANE AND EERA #SURFGANG

b:ICTWATとネフューとマイクとは感覚を共有してるけど、タイプは全然ちがう3人だよね。

n:でも、同じヒップホップとして聴いてるんです。ブーンバップ/トラップみたいな聴き分けをしてないんですよ。

b:「ヤバいラップ」、「ヤバいヒップホップ」って感じだよね。サウンドと関係なくフラットに聴いてるし、彼らもヒップホップをそう聴いてるんだろうなって。

n:それこそ、こないだ来日してたアニジア・キム(Anysia Kym)*はマイク主宰の《10k》から作品を出してるけど、音楽性はドラムンベースだけどやっぱ少し変でライブでは弾き語りもしてたし。10kから出してるラッパーにはミシガンっぽいサウンドの人もいて、彼らもそのへんのフラットさが一緒なんですよね。

*米ブルックリンのプロデューサー。2023年11月1日の《K/A/T/O MASSACRE》へbotsu vs nulとともに出演した。

u Know w/ anysia kym


b:そこにシンパってるんですよね。音楽的な境目なくラップ/ヒップホップとしてヤバければいい、みたいな。

──2人が共感してそうなアーティストというと、JPEGMAFIAはどうですか?

b:あ~……。

n:そんなに聴いていないですね。俺としては「こんなんできないしな」って思っちゃう(笑)。

b:めっちゃ好きだけど、ラップというより尖ってるロックとして聴いてる感じかも。音楽をやりすぎちゃってるっていうか(笑)。

n:なんか、よすぎる感じがしますね。

b:JPEGMAFIAはちょうど分水嶺かなって感じがします。俺のソロだとロック寄りになるんですけど、nulとはラップで対等にやってるから。俺は「音でかましてやろう」みたいな感じがあるし。nulはもっとフローティンな感じが好きでしょ?

──RXKネフューの名前が何度か挙がっていますが、彼は扱いが難しいんですよね。陰謀論をラップする人なので、面白がっていいのかという……。

b:陰謀論をよしとするわけじゃないけど、ラップにおける思考のふざけ方とか言葉の盛り方とかは通じるところもあると思ってて。まあ、でも一番影響を受けてるのはあの活動スタンス、リリースのペースですね。

──今年(2023年)だけで何曲、何作出したのか、もはやわからないですよね。

b:毎日YouTubeに曲を上げて、年間400曲とか上げてるんじゃないですか。しかも、普通のラッパーだったらやらないようなビートも当たり前に使う。リル・Bチルドレンなんだけど、リル・Bにはオルタナティヴな感覚があるのが、ネフューは天然でやっちゃってる感じ。ネフューだけじゃなくて、そういう感覚のラッパーは増えてますね。

──ネフューにはRxパピ(Rx Papi)という相棒がいますよね。

b:パピも最高。ガッド(Gud)とやってたやつ(『Foreign Exchange』、2021年)は最高でしたね。

Still In Da Hood

■アルバムじゃないと、この感覚を残せない

──話を戻しますが、2人が音楽を一緒につくりはじめたのはYouTubeにある「白骨」が最初でしょうか? アップロードされたのは2020年2月29日です。

没 x nul – 白骨 (prod. botsu x nul)

b:その前から2曲ぐらいつくってましたね。

n:でも、当時はまだ遊びでつくってただけですね。

b:nulの家に遊びに行って、その日のうちにビートをつくってラップもつけて、その場でジャケも選んで、YouTubeに上げて、みたいな。

n:そういうのを4回ぐらいやって、同じことをやってても発展性がないから、ここまでできるんだったらアルバムをつくろうと。で、Dropboxのフォルダとスプレッドシートを用意して、実務的なとこから始めて、やる気を出していったと思います。

b:遊びでつくってた時より『Revolver』をつくってた時の方が、2人のラップに対する感覚が一番近かったかもしれないですね。3年前はネフューやマイクも今みたいな感じじゃなかったし、時代とともに変化して、「ヒップホップの感覚がここまでフラットになるんだったらこういう作品を出せるかも、出してもいいかも」って思ったのはあるかも。

──実際に制作を始めたのはいつですか?

b:2月か3月かな? そろそろまとまった作品をつくれるかもって思って、ビートをお互いにつくって。その時点でnulのビートはほぼできてた。俺はあとでめっちゃ変えましたけど。

n:俺はつくるのに時間かけると、もう無理になっちゃうんで。

b:あと俺の方が、アルバム厨感があるかも(笑)。

n:いや、俺も相当あると思います。

b:失礼しました。つまりアルバムを意識して、最後の調整とかはしたってことっすね。

──最近のヒップホップ、ラップ・ミュージックって、アルバムを出す必然性や必要性はどんどんなくなっていますからね。

b:ほんとですよね。俺もラップはほぼ単曲でしか聴いてないし、なんならヴィデオ(MV)しか見てない。

n:俺はアルバムで聴いちゃうんだよな。

──だからこそアルバムにこだわって制作することは重要だと思います。

b:アルバムのサイズじゃないと、この感覚を残せないというか。

n:アルバムじゃないと伝わらないっていう側面は、まだまだありますよね。

b:「全部並列にあるんだよ」って感覚はアルバムじゃないと出せない。

n:あと気合いの表れ。「10曲集めたぞ」っていう(笑)。

──ちなみに8月23日にリリースした「天」というシングルは収録されていませんが、これは?

Naked Under Leather x 没 aka NGS – 天

b:あの曲は去年(2022年)つくったんですよね。あれも「白骨」と同じ遊びのノリでつくった曲で、ちゃんと配信できるかなってテストで出しただけです(笑)。「天」がアルバムに入ってたら、もうちょっとビート寄りに変わってたかも。

■ラッパーってヤバい

──では、アルバムの収録曲について具体的に聞かせてください。1曲目の「summer」はnulさんがプロデュース。ブーンバップっぽいサンプルづかいのビートですね。

n:「summer」は最後につくったんです。「1曲目っぽいのが欲しい」となって、そうなるとサンプル一発かな、みたいな。一番わかりやすい曲かな。

botsu vs nul – summer (OFFICIAL VIDEO)

──2人がトラックをほぼ半々でプロデュースしてますよね。これは?

b & n:自然にっすね。

b:ビートはお互いつくるっしょって。nulの方がいっぱい送ってくるから1曲だけ多くなっただけですね。

──「summer」を含めて、2人のリリックには生々しいヒップホップっぽさが全体的にありますよね。生活実感が出ているというか。没さんの「酒に消えたはした金」というラインが好きです。

b:ベタなことを言おうと思ってベタなことを言ってますね(笑)。もちろんよくあることなので、そう書いてるんですけど(笑)。

──あとnulさんの「みて見ぬふりの国」、「やり方教えてくれよ丁寧な暮らし」も好きですね。思っていることを率直にラップしていると感じます。

n:ストレートに歌詞を書くモードみたいなものが、このアルバムの時は結構あったんです。歴史の中に自分が生きているんだなと、ちょうど思ったタイミングだったというか。自分が何を大事にしたいのか、何を思ったのか……そういうのを自分用のメモとして残しておこう、という意図もありました。

──没さんのリリックでは、「でもやらないでしょ普通/言葉書くのは普通じゃない/いかれてる俺たちは/ラッパーという危うい立場/blankey jet cityよりタチ悪いし/アベフトシより弦切れる」とネーム・ドロップしながらラッパーとバンドマンを対比しているのが面白いですね。

b:ラッパーって普通にヤバくないですか(笑)? 人前に出てラップするって意味わかんないなって、改めて思って(笑)。

──リリックのテーマは2人の間で決めるんですか?

b:一切ないですね。どっちかが先に書いてたらそっちに寄せるとかもないし、ヴァイブスを感じとって書く、ぐらいっすね。Dos Monosだと荘子itがテーマを出してきて、それに対して書くことはあるんですけど、この2人の間にはない。ノー・ストレス、ノー・プレッシャー。

──サンプル・スニッチになるので記事には書きませんが、「summer」のネタは何なのでしょうか?

b:イントロは◯◯のインタヴューですね。アシッドやマリファナについて聞かれて、「俺の責任じゃないっしょ」みたいなことを答えてる(笑)。

n:別に深い意味はないです(笑)。ネタはYouTubeで探します。この曲は3トラックぐらいでつくってますね。

b:えっ、3トラックも重ねてるの? 同じ曲の中からちがう帯域のところを出して重ねてるとか?

n:そうそう。《サンレコ(Sound & Recording Magazine)》っぽい話になっちゃうけど(笑)。

──2曲目の「mariah carey」のプロデュースは没さんです。

b:このビートは前から温めてたっていうか、アルバム用につくったビートじゃないんですけど、ずっとやりたいと思ってました。自分一人だと持て余してたら、ICTWATが同じネタのビートをインスタでチラ見せしてたんです。「これが出る前に出さなきゃ!」と思って、アルバムに急遽ぶちこみました(笑)。

n:間に合わなかったよ。先に出てましたよ。

b:えっ!? 嘘!? ……この曲は、アルバムのムード・チェンジにもなるかなと思って。評判がいい曲だけど、俺の中ではインタールードみたいな感じ。

n:その感覚はやっぱ独特ですよね。没さんの曲では、一番オーソドックスなヒップホップ感がある曲なので。

b:アルバム単位で考えると「summer」のあと、「これだけじゃないんだ」ってちゃんとヒントする役割を果たす曲だなって思って持ってきたのもあるんですよ。

──3曲目の「shhh」も没さんがプロデュースです。

b:これはラップでエンヤみたいなことやろうと思って。ラップなんだけど声が広がって音像を埋めてる、みたいなのをやりたかったんです。nulもディレイやリヴァーブがかかってるヴォーカル・テイクを返してきてくれました。ラップとして聴かせようと思ってないかも。

n:シューゲイザーっぽい感じもしますね。

b:かつ、ストレートにアガる曲かな。

──レイヴっぽさがあるのと同時に、ハイパーポップやdigicoreと繋がる感じもあります。

b:ネタがそういう感じなだけで、ネタを切ってドラムを足すっていうオーソドックスなブーンバップ的な使い方をしてるんですけどね。サンプルはそんなに加工してなくて、普通にチョップしてるだけなんです。

■雑食性の音楽中毒者たち

──次の4曲目「onzon」はnulさんがプロデュース。

b:nulらしい曲だね。

n:ビートは個人的に一番好きかも。

──ビートはマシーナリーなのですが、エレクトリック・ピアノとウッド・ベースのサンプルとの対比が面白いですね。

n:DTMっぽい音にどうしてもなりがちなので、アナログ感のある音といいバランスにできたなって思います。

b:サンプルと関係なくドラム・マシーンが走ってる感じがいいよね。

──ところで没さんのフロウや発声は、YouTubeでどんどん新曲をアップするようになったここ2、3年の間にどんどん変化していきましたよね。

b:そうですね。曲づくりをかなり意識してるのかも。最近、ヴァース/コーラスみたいな感じってないじゃないですか。ネフューの曲はずっとヴァースみたいだし、ティサコリアンの曲はヴァースとコーラスの区別が曖昧だし、その感じに影響を受けてるかもしれないですね。曲に合うようにやってるだけなので、「summer」ではヴァースを実直に蹴ってますけど、別の曲では別のやり方をしてる。ソウルジャ・ボーイじゃないけど、やっぱ曲が大事なんですよね。

──ここまでに名前が挙げられたラッパーから影響を受けて、曲ごとにフロウや発声の実験をしていると感じます。

b:それはありますね。「Revolver」ってアルバム・タイトルをつけたのもその意識の反映で、エイサップ・ロッキーの『TESTING』と同じようにテスティングをカジュアルにやろうと思って。

──逆にnulさんのラップには、日本語ラップの実直な系譜を感じますね。

n:さっき言ったように、思ったことをラップするっていうモードだったからかもしれません。言っても『Revlover』のビートは他の人がチョイスしないビートだろうし、オルタナティヴだろうっていう自覚はあるから、ラップでちゃんとヒップホップであることを知ってもらいたかったんです。

──次の「naitemoiiyo」はnulさん作で、今の話とは反対に、ラップのフロウはふにゃふにゃした変わったものですよね。

n:たしかに……。自分が何を考えて作ってたのか、よくわかんなくなってきました。普通にビートを立たせようとしてたところもあるのかも。ただ、あんまラップに時間をかけたくはなかったんですよね。ビートを作るにしてもそうなんですけど。このアルバムの制作においてはそういうものじゃない気がしたし、その方が2人のエッセンスの共通項とちがい……コラボアルバムの醍醐味みたいなものがちゃんと伝わる予感がありました。

このビートに関しては、低音を出さないようにして、あえて小品っぽくしてます。サンクラ(SoundCloud)とかYouTubeとかに時々ある変な音楽、みたいなのをインタールード的に入れたくて。テンポが速い曲をつくったことがなかったので、試しに遊びでつくった曲でもありますね。

b:リリックを同時に書いたんだよね。基本的にオンラインで別々に作ってたんですけど、1日だけ集まって2、3曲一緒に書いたものがあって、そのうちの1曲です。ビートもファストだし、リリックを書いたのもかなりファスト。1時間以内で録りも全部終わった。

──それぞれ分担してつくっていると、リリックもしっかり考えちゃいますか?

b:考えて書いたやつは大体よくないので(笑)。録音のテイクは重ねてもいいと思うけど、リリックに関しては考えすぎないのが一番いいね。

n:俺は日常的に書きためてるリリックがあるので、それを当てはめてる感じですね。

b:nulは4つぐらい同じリリックをちがう曲にのせててヤバかった(笑)。しかも自分で気づいてなかった(笑)。

n:同じリリックの曲が4曲ある前代未聞のアルバムになっちゃうので、さすがに修正しました(笑)。

──nulさんは次の「all x」で「音楽に関してはジャンキーかもな」と、「stardust dragon」で「音楽中毒なった」と、同じことを何度かラップしていますよね。単純にアルバムやnulさんのリリックのテーマとして受け取っていました。

n:無意識ではあったかもしれないですね。音楽をかなり楽しんでるアルバムではあると思うし。俺、ほんと音楽を聴くことぐらいしかしてないので、テーマ的にはあるかもしれないです。

b:俺も同じ。

n:っていうか没さんぐらい音楽が好きな人、俺の周りにいないですよ。

b:詳しい人は周りにいっぱいいるし、俺はそんなふうにはなれないけどね。

n:まあ、そうか。いや、没さんぐらい好きな人はたしかにいるかもしれないんですけど、音楽の聴き方が雑食というか。自分もそういう聴き方な気がするのですごいわかるんですけど、あんま同じような感じの人はいなかったんですよね。ショッピング・モール感というか。子どもがスコップで掬って食べる、チョコが出る機械みたいな感じ。あと、サーティワンのアイス。

b:アイスのショーケースね。

n:子どもの目線ぐらいの高さにカラフルな色のアイスが並んで見えてる、みたいな。そんな感覚が、俺ら2人にはあるかもしれないですね。カートゥーンっぽいサイケ感にも近いかもしれない。自分としては、Datpiffでテンション上がってミクステをダウンロードしまくってた頃の感覚もそういう感じなんですよね。

b:たしかに、アルバムも足りてない色を置いていく、みたいな感じでつくってたね。

■これが日本のスタンダードになったら、いい国になる

──7曲目が没さんの「stardust dragon」。中二病的なすごい曲名ですね(笑)。

b:遊戯王カードの名前なんですよ。

──なるほど。ラッパーっぽいですね。

b:遊戯王カードのモチーフって、最近のラップのリリックによく出てきますからね。そういうののパロディです。サンプルは〇〇の「〇〇」って曲の音しか使ってないんですけど。

──えっ!? 元ネタからはまったく想像できません(笑)。グリッチっぽいですよね。

b:「〇〇」の音をむりやり使おうとしたら、グリッチにせざるをえなくて(笑)。

n:この曲、好きですね。

b:フローティンな感じだからでしょ?

n:音楽を聴いてれば大体フローティン。

b:そうですか(笑)。

──ヴォーカルにはオートチューンがかなりかかっていますね。『Revolver』は声の処理や変調も独特ですが、2人はどういうふうにしているんですか?

n:ピッチを2つぐらいあげた曲が何曲かあるんですけど、この曲は一番ハマってますね。没さんにピッチを直した方がいいって言われた曲があるんです。その中で唯一残ったピッチが高いバージョンですね。

b:この曲の俺のヴァースは、実はマイクを意識してて。フロウは全然ちがうけど。意外な曲にあえて外したラップを入れてみよう、みたいな意識はあったかもしれないです。

──8曲目の「seaside memory」もヴォーカルの処理がかなり独特ですね。レイジ感もあります。

b:ビートを送りあってた最初の段階でこの曲が来て、「これがあればアルバムもいける」って思った曲です。

botsu vs nul – seaside memory (OFFICIAL VIDEO)

──アトモスフェリックで抽象的、隙間の多いビートですよね。

n:どこまでアトモスフェリックにできるか、かつ今のビートっぽくできるかって実験でつくりましたね。

b:でもキックにはめっちゃ手打ち感があって、グリッドに全然乗ってない。その手触りを含めて完璧なバランスだった。

n:曲構造を含めて、めっちゃ今っぽいと思うんですよ。今っぽさを一番意識してつくったビートがこれっていうのは狂ってるんですけど(笑)。

b:自分で言うんだ(笑)。

──この曲がアルバム制作の決め手になったというのは意外ですが、話を聞いていると2人はやはりプロデューサー視点で作品を捉えていますね。

b:逆に自分でつくってないnulのビートの方がラップを軽く、楽しくできるかも。

n:こんなビート、タイプ・ビートで売ってないし。

──9曲目の「nazoloop 69」はprod. by nul。大ネタを使っていて、「〇〇」ですよね。

b & n:最後はそうですね。

b:でも、その前は全然ちがう。

──途中で急展開しますね。

n:後半は、没さんがYouTubeを再生したり止めたりしてるだけなんです。

b:一切エディットしてなくて、YouTubeで曲を再生してピッチを変えたり再生位置を変えたりしただけですね。

n:俺のビートも一発録りの即興で、ひとつのループにエフェクトをかけて、それをダブみたいにどんどん変えてってます。ラップもスタジオで、2人で即興で録った感じです。

b:1分か2分でリリックを書いたらブースに入って録って、と交互にやりました。だからヴァースの長さも変だし、最後の方も変。これはアツい曲ですね。アルバムの中でもこれができてよかったなって。

n:これが日本のスタンダードになったら、いい国になると思うんですよ。

b:はははは! 「これが一番ヒップホップだろ」って思ってたから、ヒップホップを意識させる大ネタとして「〇〇」を最後にぶっこんだんですよ。

──そのサンプルネタがどんどん引き延ばされていく部分がすごいですね。

b:YouTubeの引き延ばし、大好きなんですよ。YouTubeで再生速度を遅くした時って、Abletonで延ばした時とはまったくちがう延び方をするんです。音のザラつき方もちがう。これ、SP-1200みたいに時代の音の一つになると思う。

n:たしかにキモい音ですよね。

──リリックも面白いですね。「一番が金だと思っているやつに/思い出のマーニー」。

n:普通に意味わかんない(笑)。

b:最初、「一番が金だと思っているやつに」の部分しかなかったんですよ。それで俺が「思い出のマーニー」って言ったんだっけ?

n:大喜利っすね(笑)。

b:そう(笑)! ダジャレ。

──ダダイズムっぽいおかしみがあるというか。

n:意外とリリックで一番好きなのはこれかも。

b:俺も。予想してないものが出てくると、やっぱ面白い。

n:やっぱ即興で書いた方が調子いいんだよな。嘘つかないし。

──身体的な反応として反射的に出てくる言葉の方が面白い?

n:面白いというか、自分でも納得できるというか……。なるべくそこに近づけたいってのは、ずっと思ってますね。

b:だから、常日頃からめちゃめちゃ音楽を聴いて鍛えないとだめなんですよ。身一つで出た時が、一番いいのが理想。アルバムの中で、それが最もできてる曲かも。

──そして10曲目の「final cut」は没さん作。これはイントロが〇〇のサンプルですね。

b:最後に足しました。ヴァイブスが同じだと思って。

──ギターのペラペラした音が印象的で、ローファイなインディ・ロックやベッドルーム・ポップっぽい、アルバムの中で最も変わった曲ですね。

b:オチみたいな感じっすね。ドラムだけ打ち込みで、ギターは自分で弾いてます。

■デカビタのようなラップ

──「seaside memory」以降の流れがかなり自由で、2人の本領発揮感がありますね。

b:後半まで聴いてほしいんですよね。なので、「final cut」はMVもつくったんです。アルバムの最後の方の曲ってあんまSpotifyとかでは聴かれないんですけど、流れを聴いてほしいんです。

botsu vs nul – final cut (OFFICIAL VIDEO)

n:でも聴く人がみんな、好きな曲がバラバラで嬉しいですね。雑食性ってこういうことなのかな? 『Revolver』と近いアルバム、思い出したアルバムってあります?

──マッドヴィランの『Madvillainy』が、まず思い浮かびました。

b:それは「summer」の印象のせいもあると思いますね。そこは狙ってもいて、入っていきやすい1曲目の感覚のまま他の曲もフラットに聴いてほしい気持ちはある。

──『Revolver』はストリート感が希薄で、室内感が漂っているのも特徴ですよね。

n:それは悪いことじゃないんですけど、最近は音楽を使ってもっとコミュニケーションをしたいって意識も芽生えてきてるんですよね。

b:俺は一人で頑張ってる人に聴いてほしいって思いがあります。聴く人が、元気が出るようにリリックを書いてるので。

n:デカビタだ。

──(笑)。

b:俺はティサコリアンとかを聴いてるとまじで元気が出るんですよね。なので俺みたいなやつに聴いてもらって、元気を出してほしいです。

──『Revolver』では、2人ともリリックで嘘をついていない感じがするんです。言葉が身体から出ている感じというか。

b:毎回、カッスカスになるまで絞り出してます(笑)。日本語ラップの語法も書き方も一切わからないので、そうじゃないと出てこない。

──それと、ジャケットのイラストを雨霧うみさんに頼んだ経緯を教えてもらえますか?

n:僕がXでたまたま見つけて、めっちゃ好きになった方なんです。僕らより一回り以上下の世代の方ですが、箱庭感というか、一昔前のインターネット・ミュージック的なコラージュ感の最新バージョンみたいな感じが僕らの音楽にも合うんじゃないかなって思って。

b:風通しのよさがあるというか、俺らとフィーリングが近いなと思います。他にないオリジナルなジャケットができましたね。

botsu vs nul『Revolver』アルバム・ジャケット

──ところで、2人の共作は続けていくのでしょうか?

b:全然続けていきます。

n:もう来月ぐらいにEPとかつくりたいですけどね。

b:自分のソロ・アルバムの作業もそろそろ終わるし。

n:僕も、bringlifeの次の作品を出そうとしてます。

■ヒップホップ版アニマル・コレクティヴ

──わかりました。2時間近いインタヴューでbotsu vs nulと『Revolver』の謎がかなり解き明かされたと思います。

b:アニコレの話をもっとしたかったな(笑)。

──『Feels』(2005年)以前の『Sung Tongs』(2004年)や、さらに前の初期のラフさと自由さが、2人の音楽にはあるかもしれませんね。

b:まとまってるけど自由、みたいな感じですよね。アニコレ、通ってる?

n:めちゃくちゃ好きっすよ。

b:アニコレの音楽って大雑把な編集感覚とか独特の狭さとかがあると思うんだけど、開かれてもいるし、やっぱ曲づくりの天才なんですよね。留学してた時、エイヴィ・テアとジオロジストのDJイベントに行って、一度会ったことがあるんですよ。イベントは倉庫みたいな場所でカジュアルにやってて、オーディエンスはウィードを吸って床に寝っ転がってて、みたいな。それでエイヴィ・テアに会って、「あなたたちと同じようなことを俺はヒップホップでやります!」って言ったんです。そしたら「は?」って顔をされて、「よくわかんないけど、とにかくありがとう(笑)」みたいな感じで返されて(笑)。うまく伝えられなかったのはトラウマだし、当時は俺のヒップホップ観がまだ狭かったから恥ずかしいんですけど、その時に言ったことが今できたかも、って感覚があるんです。

n:エイヴィ・テアに音源を送った方がいいっすね。

b:たしかに。DMしてみる?

──めちゃくちゃいいエピソードですね。

n:自分は今、コミュニティを作っていきたいんですよね。「気が合うんじゃないか」と思うビートメイカーやラッパーがいたら連絡してほしい。マイクとかもスラムズみたいなコレクティヴがありましたよね。

──スラムズは共同生活をしていましたからね。

b:もうなくなっちゃったっぽいけどね。

n:ああいうコミュニティはいいですよね。単純に自分の作業がビートづくりからミックスとかラップとかリリースとかまで色々あるので、下手すると疲れちゃうんですよね。遊びっぽさが抜けてきちゃう。俺と似たような、一緒に遊びたい人を探してます。

b:今、PICNIC YOUとbringlifeと俺でEPをつくってて、そういうライクマインディドな人たちと集まってポッセをやる、みたいな感覚はあってもいいよね。ただ、俺はそんなにコミュニティに対する意識はないかな。逆に、もうちょっと軽くやっていきたい。

n:俺は分担したいな。

──今回はミキシングなどもすべて2人でやっているんですか?

b:自分のビートの曲は自分でやってます。

n:自分もです。並行して他のプロジェクトを色々やってると、大変になっちゃうんですよ。

b:たしかに。このアルバムの作業は超楽しかったけどね。

n:そうっすね。楽しかったし、まだいけますね。あとはペイが欲しいっす。

b:うん。CDもつくったし。なので、このアルバムにフィールした人はDMください! DM、大好きなので(笑)。

<了>



botsu(没 a.k.a NGS)
・X
https://x.com/botsu_ngs?s=20
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nul(Naked Under Leather)
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Text By Ryutaro Amano


botsu vs nul

『Revolver』

Steaming :
https://distrokid.com/hyperfollow/nakedunderleatherbotsuakangs/revolver
Bandcamp :
https://botsu-aka-ngs.bandcamp.com/album/revolver
RELEASE DATE : 2023.9.23
CD: ¥2,300 /
ライヴ会場、Bandcamp、円盤(https://enbanhanto.base.shop/)などで販売中


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