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「みんな機材に注目しすぎている。音は私たちの想像力から生まれるものなんだ」
ビル・フリゼールの新作『Valentine』が描くギターが声になる瞬間

18 August 2020 | By Takuro Okada

ビル・フリゼールの音楽からは、ジャズのみならず、カントリー、ブルースといった伝統的なアメリカーナからラジオの時代のポップ・ミュージック、アフリカ音楽をはじめ各地のプリミティブな音楽の匂いまで感じさせる。音使いは非常にシンプルで、それは音楽が録音物として記録される前に、口伝で代々受け継がれた音楽をイメージする。即興的に紡がれる旋律はどれも鼻歌で口ずさみたくなるほど親しみやすい。複雑なハーモニーやスケールはほとんど用いず、時折エフェクティブなルーパーを用いるが、音色自体はまるでアンプを使わないアコースティック・ギターのようなタッチを感じさせる質感だ。それでいて彼の音楽がジャズの世界において懐古趣味的に映る事は無い。音楽におけるラディカルさは時に、複雑で内省的で難解な方向へ向かう事も多いが、彼の音楽からは常に開放的で親しみやすいメロディに溢れている。

ニュー・アルバム『Valentine』は、トーマス・モーガン(ベース)、ルディ・ロイストン(ドラムス)という、近年のビル・フリゼール作品ではお馴染みのリズム・セクションとのトリオ作品である。各地のツアーや様々なユニットで彼らと演奏しているから意外と思われるかもしれないが、このトリオでのスタジオ録音は今回が初めてとなる。ギター、ベース、ドラムスというオーセンティックなトリオ編成のリーダー作品もロン・カーターとポール・モチアン『Bill Frisell, Ron Carter, Paul Motian』以来約15年ぶり。同様のトリオ編成の主な作品としてはデイヴ・ホーランド、エルヴィン・ジョーンズ『Bill Frisell With Dave Holland And Elvin Jones』、トニーシェア or ヴィクター・クラウス、ケニーウォルセン『East / West』、『Further East / Further West』、カーミット・ドリスコル、ジョーイ・ヴァロン『Live』、そしてリーダー作ではないが、チャーリー・ヘイデン、ジンジャー・ベイカー『Falling Off The Roof』などが存在するので、よかったらこの機会に聴き直してみるのはいかがだろうか。

さて、ここからはアルバム『Valentine』に関するメール・インタビュー。主に今やビルの作品には欠かせない2人のメンバーとのアンサンブル、収録曲についての質問をした(機材に関する質問は、怒られてしまったが、彼の音楽に関する考え方が垣間みれる部分であるので、編集せずそのまま載せます…!)。
(インタビュー・文/岡田拓郎)

Interview with Bill Frisell

——『Valentine』は、過去にあなたの作品に収録されたことのある曲からスタンダード・ナンバー、初めて録音されたオリジナルまで様々な楽曲が収録されていますが、選曲するに当たってなにかテーマはありましたか?

Bill Frisell(以下、B):いや、スタジオに入る前に考えていたテーマやコンセプトは特になかったな。ルディ・ロイストン、トーマス・モーガン、私の3人は長い歴史を重ねていて、トリオとして、また他の組み合わせでも一緒に音楽を演奏してきた。トリオとして世界中(ベトナム、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、日本など)を旅してきたけど、今まで一度もアルバムを出したことがなかった。やっとこのグループのドキュメントをこうして完成させることができて興奮しているよ。私は彼らと一緒に演奏するのが大好きなんだ。スタジオに入った時、私は長めの曲を集めてそのリストを持ってきた。具体的な計画や順番は決めていなかった。最初は1曲……どの曲だったか忘れたけど……そこから始めて続けていったんだ。一つの曲が次の曲へとつながっていったよ。十分な素材が揃うまでね。そして最後に、意味のあるシークエンスを考えていく。うまくいけば、何かしらのストーリーを作ることができるだろうって感じでね。そういう意味でもプロデューサーのリー・タウンゼントにはいつも助けてもらっているんだ。

――では、あなたから見たそのトーマスとルディの魅力を教えてください。

B:ルディとトーマスはどちらも私にインスピレーションを与え、挑戦させてくれる。彼らは私がより良い演奏をするのをサポートしてくれているんだ。彼らはいつも、私自身が気づくより先に私が何を弾こうとしているのかを知っているように感じるね。彼らはいつも私を驚かせてくれるんだ。だから(彼らと一緒に作る)音楽はいつも新しい感じがする。つまり、彼らはよく聞いてくれるってことなんだと思う。それが一番大切なことなんだよ。お互いに耳を傾けることがね。

――この作品はトリオ編成なので、「Harmony」や「When You Wish Upon A Star」などの大人数でのアレンジされたアンサンブルの比重が多い作品と比べると、ジャズらしい即興性がかなり強調されているように感じます。即興演奏についてですが、即興演奏をしながら何を考えたり、想像したりしていますか? アンサンブルの中で意識的に何かを聴こうとすることはありますか?

B:私にとっては他のグループと何ら変わりはない。やっぱり「全ては聴くこと」なんだ。自分の注意が自分のことだけじゃなく、バンドの他のメンバーに完全に集中している時、最高の演奏ができると思う。グループのみんなが一緒に演奏しているとき、それは素晴らしい感覚なんだ。まるで空を飛ぶような。危険を冒してもいいし、失敗もできるし。誰も審査しないし、コンテストじゃない。互いに支え合うことなんだよ。

――「Baba Drame」は世界の異文化の弦楽器奏者が集う『The Intercontinents』など、過去のアルバムの中でもたびたび取り上げられていますね。今回はなぜこの曲をアルバムの冒頭に入れたのでしょうか?

B:レコーディングのためにやろうとも思っていなかったんだけど、この曲自体はライヴでよく演奏する曲なんだ。たしかセッション中のどこかの時点で私が弾き始めたと思うんだけど、そこに2人が自然と参加してきたんじゃなかったかな。そこで何かを考えたり、話したりすることはなかった。それは本当に起こったことなんだ。そしてアルバムの冒頭にはこれがいいだと感じたんだ。

――このようなモーダルでシンプルなコードで構成されたトラックを演奏する際に気をつけていることはありますか?

B:私にとってはメロディが一番大事なんだ。コードが1つだろうが1000個だろうが関係ない。私はメロディがいつも頭から離れないようにしている。メロディが自分の心の奥底にあれば、迷うことはない。チャンスがあって、遠くまで行って、探検して、冒険して、いつも帰り道を見つけることができるって感じでね。

――「Levees」はビル・モリソンのドキュメンタリー映画『The Great Flood』で使われていたと思います。1927年に起こったミシシッピ川の大洪水を扱ったこのドキュメンタリー映画と、あなたの音楽に対する考え方や姿勢との間に、何か関連性や繋がりはありますか?

B:あの映画のイメージにインスパイアされている。これに限らず、絵画、映画、写真、あるいは窓の外を見ているだけでインスパイアされるよ。いつも直接的な方法ではないかもしれないけどね。ビル・モリソンと一緒にあの映画の音楽を作ったのは素晴らしい体験だった。私たちは一緒に川を遡上したり下ったりして、1927年のあの大洪水の歴史を研究した。それらの経験はすべて私に影響を与え、私がこの曲を演奏する方法にも影響を与えているに違いないと確信しているよ。思い出は強く残っているしね。

――スタンダード・ナンバーの「A Flower Is a Lovely Thing」があなたのレコーディングでフィーチャーされたのは初めてだと思います。エラ・フィッツジェラルドやヴィンス・グァラルディもこの曲を取り上げていますが、お気に入りのヴァージョンがあれば教えてください。

B:ビリー・ストレイホーンの演奏でよく聴いているよ。もちろんエラ・フィッツジェラルドのヴァージョンも大好き。ビリー・ストレイホーンの音楽は並外れてすごい。チャールズ・ロイドとのツアー中に、ワシントンDCの国会図書館にあるビリー・ストレイトホーンのアーカイヴを見学する機会があったんだ。彼自身の手で書かれた楽譜を見ることができてとても感動したよ。

――このアルバムに収録された「What the World Needs Now is Love」の演奏にとても感動しました! ビーチ・ボーイズの「Surfer Girl」やデルフォニックスの「La-La(Means I Love You)」、ジョン・レノンのカヴァー・アルバムなど、これまでも多くのポップス・ナンバーを取り上げていますが、これらの楽曲には、あなたにとって共通点はありますか?

B:挙げられている曲はどれも私の人生の中でとても重要な部分を占めている曲ばかりなんだ。どの曲もラジオで初めて耳にした時の事を憶えているよ。これらの曲を演奏するのは素晴らしい気分だよ。いろんな思い出が蘇ってくると同時に、生きていることを感じるんだ。そしていまだに演奏するたびに何か新しい発見があるよ。これらの曲は私にとって決して古びることのないソングなんだ。

――アルバムを締めくくる「We Shall Overcome」は、1960年代のアメリカ公民権運動の象徴的な楽曲の一つだと思います。もしよろしければ、今の時代にこの曲を選んだ意図を教えてください。

B:ここ数年、ほとんどのライブでこの曲を演奏してきたよ。これもまた、覚えている限りずっと聴き続けている曲の一つだよ。いつもこの曲を演奏する理由があるんだ。この曲に関連性を持たせるために、世界では常に何かが起こっている。いつもね。毎日ね。

――また、こうした歌詞のある楽曲をインストゥルメンタルで演奏する時にどんな事をイメージしますか?

B:こういう曲を演奏するときは、頭の中で歌詞が聞こえてくるのが自然だと思うんだ。ギターが声になっている。歌を歌おうとしてしているんだ!

――今回のレコーディングではどんなギターやエフェクターを使いましたか?

B:みんな機材に注目しすぎているような気がするよ……。音は私たちの想像力から生まれるものなんだ。私たちの心は、これらのどの機械よりもはるかにパワフルなんだ。頭の中で音を聞くことができれば、それを引き出す方法を見つけることができるじゃないかな。

――キャリアの早い時期から『Naked City』や『Torture Garden(拷問の庭)』に参加するなど、ジョン・ゾーンとは親交がありましたね。昨年発表された『Nove Cantici Per Francesco D’Assisi』はとても素晴らしい作品だと思いました。もしよろしければ、この作品についてのコメントも伺ってもよろしいでしょうか?

B:ジョン・ゾーンとこれだけ長く音楽的な親好が続いているのは素晴らしいことだと思う。もう40年近くになるんじゃないかなあ。Nove Cantici Per Francesco D’Assisiはジュリアン・レイジとギャン・ライリーと私のプロジェクトなんだ。全員がアコースティック・ギターを弾いていてジョンが全ての曲を書いている。このグループで2枚のアルバムを作ったと思うよ。ジョンは本当にたくさんの曲を書いている。素晴らしい経験をさせてもらったよ!
<了>


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Bill Frisell

Valentine

LABEL : Blue Note / Universal Music
RELEASE DATE : 2020.08.14


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Text By Takuro Okada

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