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映画と漫画と音楽から届いた手紙、私たちが過去を物語る理由

13 September 2019 | By Koki Kato

2020年公開予定の映画『Days Of The Bagnold Summer』のサウンドトラックがベル・アンド・セバスチャンの新作だという。誰かの過去について描くことで完成した新作、というべきだろうか。どこか懐かしさがあって親しみのあるサウンド、ここで描かれる誰かの過去が自分の記憶に当てはまらなかったとしても、いつのまにか登場人物に感情移入してしまう。サウンドトラックというよりは、このアルバム自体が脚本の優れた映画のようでもある。

もともとベルセバの音楽には、そういう過去を丁寧に思い出すようなソング・ライティングを感じることがあった。まるで日記や手紙のような、あとで振り返って読むことができる、アナログだけれどあたたかみのある表現を行ってきたのが彼らだと思う。音楽の温度をどうやったら伝えることができるか、活動初期はインタビュー取材をあまり受けなかったとか、ライブは音が小さいとか、そういったことも音楽を伝えることには限りがあるという自覚があったからこそ、背伸びをせずに続けたミニマルな活動が、かえって彼らの魅力を増していくことになったはずだ。スチュアート・マードックは過去のインタビューで「バンドを長く続けていきたい」ということを強調していたが、続けるということはつまり自身の音楽を残していくということだ。日記や手紙は多くの人に共有することはできないが、捨ててしまわなり限り残すことができる表現手段。そして次にスチュアート本人が選んだ残すための表現手段は映画だったのだと思う。映画館にわざわざ赴き映画館という1つの場を共有しながら観賞するという体験は、アナログではあるものの私たちの記憶に深く刻まれることも多い。

『Days Of The Bagnold Summer』という映画は、ジョフ・ウィンターハートの同名グラフィック・ノベルが原作、反抗期真っ盛りの息子と母のある夏の休暇の物語だ。ジョフ自身、彼がティーンだったときの記憶を思い出しながら描いただろうし、監督を務めたサイモン・バード(英国アカデミー賞コメディ賞受賞ドラマ『The Inbetweeners(原題)』、映画『インビトゥウィーナーズ/思春期まっただ中(原題:The Inbetweeners Movie)』他)もそういった記憶を振り返ったことは想像に難くない。そんな監督が音楽をオファーしたのがベル・アンド・セバスチャンだったことが必然に思えた。ベルセバと映画の関わり、例えばトッド・ソロンズ監督の映画『ストーリーテリング』(2001年)ではサウンドトラックを制作、「Pizza, New York Catcher」が劇中で使用された『JUNO/ジュノ』(2007年)のサウントドラックがビルボードで1位を獲得、スチュアートが自身の同名アルバムを原作に監督と脚本を務めたミュージカル映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』(2014年)と、挙げればキリがないのだが、彼らの活動に大きく関わりのある映画を思い出しながら気付くのは、どの作品もティーンや学生の登場人物が描かれているということだ。映画とベルセバが関わるとき、そこには誰かが過去について振り返った青春の物語がある。

『Days Of The Bagnold Summer』の監督を務めたサイモン・バードは、もしかしたらそういった物語とベルセバの相性を好む1人かもしれない。今回アルバムに収録された「Get Me Away From Here I’m Dying」と「I Know Where The Summer Goes」はベルセバの過去の楽曲、「Safe Valve」はバンドが結成される前から歌われていた楽曲、いずれもサイモンによって選ばれたこれらの楽曲は再録音された。「Get Me Away From Here I’m Dying」と「I Know Where The Summer Goes」は《Jeepster》時代の曲だが、再録音された楽曲のアレンジはアコースティック・ギターのバッキングがエレキ・ギターになったり、タイトにリズムキープされながらも楽曲のゆったりとしたサウンドが維持されたりと、《Rough Trade》そして《Matador Records》に移籍してから磨きがかかった彼らのサウンドが時代を越えて《Jeepster》と繋がるアレンジとなっていた。このセルフ・カヴァーは、ただ懐かしいだけではない現代の視点や耳で親しむことのできるサウンドにもなっている。

再録音がある中でいくつか新曲もあるが、中でも「This Letter」はまさにこの映画のために書き下ろされた楽曲だろう。同時に、アイロニカルでチアフルなベルセバらしさも伝えている。アコースティック・ギターとスチュアートのボーカルがメインの弾き語りだが、寂しさと皮肉が含まれる歌詞が今の時代を映しながら、美しいメロディが私たちの苦しみを慰めてくれるようだ。

「10代に思い描いた夢は思い通りにならない/扉をノックしてまともな話に耳を傾けよう/ナイフもカミサリも置いて偽ることもやめて/ニュースを見て世界がクソだと感じるかもしれないけれど」。

まだ映画は公開されていない。けれどこの歌詞を読んで、もしかしたらこの映画は主人公と同世代のティーンはもちろん、10代という時代を過ごし終えた大人たち、つまりはあらゆる世代に向けた普遍的な作品になっているんじゃないかと想像をした。過去を変えることはできないけれど、過去を再解釈することで見つけた喜びを携え、今に向き合おうとする。再録音された楽曲や10代の気持ちを描いた新曲を一緒くたに収録したこのアルバムは、そんな考えに共鳴した、監督サイモン・バード、原作ジョフ・ウィンターハート、音楽ベル・アンド・セバスチャンが共著した手紙のようなものなんだとも思う。(加藤孔紀)


Photo by Marisa P Murdoch

Text By Koki Kato


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Belle And Sebastian

Days Of The Bagnold Summer

LABEL : Matador / Beat Records
RELEASE DATE : 2019.09.13

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