最上級のサウンドで楽しめる空間
BEATINK Listening Space
デヴィッド・バーンの先行高音質試聴イベントに潜入!
ストリーミングが音楽のリスニング環境の主流になって久しい。そんな中で、揺り戻しのようにヴァイナル盤が流行したりもしている。人間に物質主義的な欲求がある限り、フィジカルの音楽ソフトへの需要は一定数あるかもしれない。ただ、ヴァイナルやCDがリスニング環境の主流に舞い戻ることはあり得ない。不可逆なことだと言ってもいい。しかし、プレスマシンや技術者を含め、それらの生産システムが終わってしまったら、取り戻すのは困難なのである。それは、1度目のヴァイナル文化の終焉が証明するところで、多くのプレス工場が閉鎖したことは、現行の新品ヴァイナルの価格が高騰している間接的な要因でもある。加えて、原材料費の高騰や、未曾有の円安、関税という現状もある。だからこそ、誠意あるリスナーには、出来る限りの購買行動でサポートをお願いしたい。ヴァイナルの音と物質としての素晴らしさについて、今さら語り直す気はないが、ヴァイナルしか買わなくなったというそこのあなたには、今一度CDの素晴らしさを思い出してほしい。軽くコンパクトで、盤をひっくり返す必要もなく、曲を飛ばすことができ、国内盤には豊かな解説があり、帯域的な優位性があり、高音質なデータとして取り込むことができ、ヴァイナルよりも安価だということを、改めて音楽ソフトのオプションとして一考いただきたい。それはレコードやCD文化の延命、何よりアーティストのサポートになる。
Beatink Listning Space店内。パネルなど“撮影スポット”も
そんな中で、売り手側も弛まぬ努力を見せてくれている。その代表的な存在が《Beatink》だ。これはお世辞でもなんでもなく、彼らがいなければ、日本における海外インディミュージックの土壌は、かなり厳しいものになっていただろう。彼らは、《4AD》や《Brainfeeder》、《Domino》、《Hyperdub》、《Matador》、《Ninja Tune》、《On-U Sound》、《Rough Trade》、《Tru Thoughts》、《Warp》、《XL Recordings》、《Young》など、数多くの海外名門レーベルと契約し、音楽ソフトの輸入・流通・販売を担っている。少数プレスのレア盤が日本に一定数入ってくるのも彼らのおかげだし、魅力的な特典が多いこともファンとしてはありがたい。他にも、所属アーティストの来日公演の企画・運営も手掛けている。国内盤には必ずライナーノーツが封入されているし、年末にはレコードストアでフリーのジンを配布するなど、文字メディアでのサービスが多いことも、物書き以前に音楽ファンとして信頼に足るところだ。
可処分所得やエンゲル係数など、景気の悪い経済用語が一般化してしまった昨今、大阪在住の音楽ファンとして、音楽カルチャーにおける“大阪飛ばし”の加速を実感している。だが、ライブ興行を含め、《Beatink》は決して大阪を見捨てずにサービスを展開し続けている。今年6月から、大阪メトロの心斎橋駅から上がって数分の場所で、期間限定で《Beatink Listening Space》を開催中。そこには、《Beatink》が取り扱うレーベルの作品がレコードラックいっぱいに取り揃えられている。最新作はもちろん、今ほどヴァイナルが高騰する前の旧作、特に《Hyperdub》や《Warp》の12インチが据え置き価格で販売されているのは狙い目だ。それに加え、レーベルやアーティストのレアなマーチャンダイズも販売されている。《Warp》がロンドンで開催したばかりのイベントのTシャツなど、明らかにそこにしかないものもあった。ちなみに、私はエイフェックス・ツインのスリップマットを購入。また、商品を購入しなくとも、ただ音を楽しむことも歓迎している。リスニングスペースの真ん中には黒い畳のベンチがあり、ゆったりと音楽を聴くことができる。試聴盤がある作品はヴァイナルでの試聴ができるし、無い場合でもデータ音源での試聴が可能で、気軽にリクエストしてほしいとのことだ。サウンドシステムもかなりハイエンドなもので、神奈川のオーディオブランド《BWV》のH-7(3WAYスピーカー)とS-5(サブウーファー)が設置されている。《BWV》のスピーカーは、梅田グラングリーン内にある《VS.》で開催中の「sakamotocommon OSAKA」でも使用されているなど、そのサウンドは折り紙付き。ぜひとも最上級のサウンドを体感してほしい。
《BWV》によるサウンドシステムが導入されている
近年、《Beatink》は新作のプロモーションに際して、映画館やレコードストア、作品によってはプラネタリウムなどを利用し、高音質先行試聴会を開催している。今回は、デヴィッド・バーンの最新作『Who Is The Sky?』の先行試聴会が《Beatink Listening Space》で開かれたので、先述の《BWV》のサウンドシステムを中心にレポートする。まず、H-7はオーセンティシティを突き詰めたような3WAYスピーカーだ。3WAYらしく、帯域ごとの棲み分けがはっきりとして分離が良く、抜けも良い。特に、高域を鳴らすホーンツイーターから放射される音の定位感には驚いた。10メートル四方ほどの空間に、室内楽団が実際にそこで演奏しているかの再現度であった。トライバルな太鼓や金物、ストリングス、エレクトロニクスが煌びやかに彩るこの作品との相性は抜群。一方、S-5(サブウーファー)の鳴りはずっしりと重く、しかしながら輪郭を潰さずに伝わってくる。それはダンスを促すキックの表現には理想的な音であったし、ダブルベースが使用された楽曲にもその特性は顕著であった。また、バーンと言えばティナ・ウェイマス然り、ピック弾きのエレキ・ベースがあってこそという印象もあるわけだが、「I Met The Buddha at a Downtown Party」などの楽曲で、クリス・ライトキャップが鳴らすピック弾きベースの中低域に跨ったサウンドは絶品で、最もこのサウンドシステムのポテンシャルを感じさせた。そんな中で埋もれることなく、ど真ん中でバーンにスポットが当たるようなデザインは、リスナーとしても理想的なものだったのではないだろうか。この日訪れていたリスナーは文字通り老若男女であったが、椅子に腰をかけた皆が上半身で違ったグルーヴを醸しながらも、不思議と心地良い空間を醸成しており、バーンのユニバーサル性を生で実感できたように思う。別日に訪れた日に聴いた、スクエアプッシャーやフローティング・ポインツのような、比較的音数の少ないダンスミュージックや、アンビエントに最適なサウンドシステムかと思っていたが、対照的にマキシマムな印象のデヴィッド・バーンの最新作も、最適な試聴環境として聴くことができる、オールマイティなサウンドシステムであった。
そんな《Beatink Listening Space》は9月28日まで営業している。大阪在住の方はもちろんだが、「sakamotocommon OSAKA」など、注目のイベントが目白押しな9月の間に来阪予定の方は、それに併せてぜひとも足を運んでいただきたい。最上級の音で、最高の音楽を楽しんでほしい。
(文/hiwatt 撮影/Katsumi Kawashima)
デヴィッド・バーンの試聴会の様子。暗がりで音に集中

Text By hiwatt
Beatink Listening Space
2025年9月28日まで開催中
〒542-0081 大阪府大阪市中央区南船場4-13-12 南船場OMビル 3F
詳細
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15278
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