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アズテック・カメラに捧げる僕の青春の風景

27 September 2021 | By Takafumi Ogihara

『君に捧げる青春の風景』がきっかけでした──。

岡村編集長からアズテック・カメラの英《Wea》(Warner Music)時代の音源を網羅した(全112曲収録の)9枚組CD『Backwards And Forwards: The Wea Recordings 1984-1995』の発売を記念して、ギター・ポップ/ネオ・アコースティックの超名盤として有名なファースト・アルバム『High Land, Hard Rain』(1983年4月に英インディー・レーベル《Rough Trade》よりリリース。当時の日本盤の帯にはタイトルよりも大きな文字の『君に捧げる青春の風景』というキャッチ・コピーがありました)以外のアズテック・カメラの良さを伝える文章を書いて欲しいというお題を頂いた。

と言っても、自分が田舎の高校1年生の時(リアルタイムの1983年)、発売日を待って日本盤のLPを購入して以来、今だに『High Land, Hard Rain』(奇しくも、その数年後にその日本盤をリリースしていた徳間ジャパンに入社することになるのですが)を(年に何回も)思い出したように聴き返す身としては、このアルバム以上の思入れのない他の作品をどう紹介すれば良いのか、本当に悩んでしまいました。

NHK-BSプレミアムでは2018年2月より毎晩のように《MUST BE UK TV》という70年代から80年代(特に80年代)のイギリスの音楽番組の映像をセレクトして放送しており、一ヶ月に一回のペースで同じ番組をリピートして観ることができるのですが、初回放送時に、ザ・スミス、ロイド・コール&ザ・コモーションズ、プリファブ・スプラウト、ポーグス、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ他と一緒に、アズテック・カメラのシングル「Oblivious」リリース(1983年1月)直後、『High Land, Hard Rain』リリース前のライヴが放映される回があって(映像は《The Tube》の1983年2月4日放送分)、当時19歳のフロントマン、ロディ・フレイムのナイーヴかつナルシスティックな風貌と初々しくも確かな演奏ににグッときます。「Down The Dip」「Oblivious」「The Boy Wonders」の3曲を披露していて、その回は何度観ても観たくなる回となっています(恐らく、今後も月一ペースで観られるはず)。やはりこの時代の輝きに勝るものはないと思ってしまったのも事実。

身も蓋もない書き方になってしまいましたが、改めて1984年9月に発表された《Wea》移籍第一弾となったセカンド・アルバム『Knife』以降の作品に触れていこうと思います。

私の記憶では、邦題の「思い出サニービート」が忘れられない「Oblivious」が(アルバム・リリースの半年後の1983年10月に)《Wea》から再発され、もう《Rough Trade》から移籍するの? と思ったのが正直なところでした(クレジットは《Rough Trade》からのライセンスになっていましたが)。この時期、同じ曲をジャケを変えたり、カップリングを変えたりして、何度も再リリースして、何とかヒットさせるというようなプロモーションがイギリスでは多く(「Oblivious」のオリジナル・リリース時はUKチャートで47位でしたが、再発時は18位)、プリファブ・スプラウトの「When Love Breaks Down」もそんな感じで、最初のリリース時(1984年)よりも、アルバム・リリース後(1985年)の再発盤の方がチャート・アクションが良かったです(「Oblivious」のジャケットは帽子を被ったそばかすの少女の写真が印象的な初回リリース盤の方が好みでした。当時、自分が住んでいる田舎では輸入盤を手に入れることが出来ず、こちらも徳間ジャパン盤の12”を購入しました)。

Disc Oneにあたる『Knife』のプロデューサーが、(ボブ・ディランの1983年のアルバム『Infidels』の共同プロデュースを務めたばかりの)ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーと聞いて、まだ80年代を代表する大ヒット・アルバム『Brothers In Arms』をリリース前ということもあり、アズテック・カメラが渋く、長尺な曲ばかりになるのでは? と心配しましたが、1984年8月にリリースされたファースト・シングル「All I Need Is Everything」を聴いてその危惧は杞憂に終わりました。「Oblivious」を更にファンカラティーナ色を強めたとも言える(実際に12”シングル収録のリミックス・ヴァージョンは「LATIN MIX」のステッカーが貼ってありました。夏休みに電車で1時間ほど掛けて、名古屋までこの12”を買いに行った覚えがあります。このヴァージョンはDisc Oneのボーナス・トラックとして10曲目に収録)この曲は、多少メジャーっぽい音の鳴りになったものの、マーク・ノップラー的な渋さはあまり感じさせませんでした。確かに全8曲入りでアルバム・タイトル曲の「Knife」は9分を超える大曲でしたが、決してファンを裏切るようなプログレな曲ではなく、美しいスロー・バラードで、このたゆたうようなアトモスフィアこそマーク・ノップラーとの邂逅であり、最大の成果な気がしました。

「All I Need Is Everything」のカップリング(B面曲)でヴァン・ヘイレンの元気のない(無気力な)カヴァーとして当時かなり話題となった「Jump」も無印のショート(7”)ヴァージョンと“Loaded Version”と名付けられたロング・ヴァージョン(後半のディストーションの効いたギターが印象的)の両方ともボーナス・トラックとして収録されています。

セカンド・シングルとなったアルバムの1曲目「Still On Fire」の12”シングルは、4曲のライヴ・ヴァージョンが収録され、彼らのライヴ音源を初めて聴いた私には感動ものでした。特にスコットランドのインディー・レーベル《Postcard》時代の(1981年8月リリースのセカンド・シングルだった)名曲「Mattress Of Wire」の弾き語りには泣けました。このライヴ音源は今回のコンピ盤と同じタイトルで6曲入りEPとして1985年にリリースされ(1998年にはCD化もされ)た『Backwards And Forwards』(邦題は『過去・未来』)に3曲が収録されました(このEPでは「Still On Fire」の7インチのカップリングでもあった「Walk Out To Winter」のロンドンは《The Dominion Theatre》(1984年10月16日)でのライヴ音源の収録が見送られましたが、2012年の《Edsel》からリリースされた『Knife』のDeluxe Casebound Editionで初CD化されました。その代わり「The Birth Of The True」の同日同会場でのライヴ音源が収録されています)。『Backwards And Forwards』の米《Sire》盤では5曲入りの10”でリリースされた同作には収録されなかった「The Boy Wonders」のライヴ音源と同じグラスゴーでのライヴ音源が、同曲を含めて7曲収録されている(6曲は1985年に米《Sire》で制作されたプロモ盤LP『The Warner Bros. Music Show』シリーズのデペッシュ・モードとのカップリングのライヴ盤に収録されている「at Barrowlands Ballroom, Glasgow, by Radio Clyde’s Mobile Two, on 6th October, 1984」のライヴ音源で、今回が初CD化)のが1つ目のこのボックスセットの売りだったりします(Disc Twoは「IN CONCERT, 1984」と題され、1984年という括りで、既発音源も含め、グラスゴー《Barrowlands Ballroom》での7曲とロンドン《The Dominion Theatre》での5曲のライヴ音源がまとまって収録されています)。

ほぼロディ・フレイムのソロ・プロジェクトとなって、1987年11月に発表されたサード・アルバム『Love』(Disc Three に全曲収録)は本当にびっくりする内容で、当時(1986年に)大ヒットした女性R&Bシンガー、アニタ・ベイカーの『Rapture』にインスパイアされて制作されたと当時の記事で読んだ気がしましたが、(エヴリシング・バット・ザ・ガールの1990年作『The Language of Life』に先駆け)トミー・リピューマ、ラス・タイトルマン(ラス・ティテルマン)といった大物プロデューサー、スティーリー・ダンやドナルド・フェイゲン『Nightfly』他多くの名盤にアレンジャー、キーボーディストで参加している他、マイケル・フランクスやダイアナ・ロスのプロデュースも手掛けたロブ・マウンジー(Rob Mounsey)、トミー・リピューマをサポートしたザ・システムのデイヴィッド・フランク(David Frank)他、複数の米国プロデューサーを迎え(ロディ自身のプロデュース曲もあり)、マーカス・ミラー(b)、スティーヴ・ガッド(ds)、ウィル・リー(b)、スティーヴ・ジョーダン(ds)他、ジャンルを超えて数々の名盤に参加してきた凄腕ミュージシャンを起用し、UKラヴァーズ・ロックの女王と呼ばれたキャロル・トンプソンもヴォーカルでフィーチャーした、80年代後半のメイン・ストリームなサウンドと言える煌びやかなシンセ、プログラミングされたビートと生ドラムのミックスが多用されています。とはいえ、このアルバムも1曲目で先行シングルとなった「Deep & Wide & Tall」のメロディは如何にもなアズテック・カメラ節で(音質や音色、コーラスは全く別物でしたが)、一安心しました(しかし、チャート・アクション的には惨敗の全英79位で、翌1988年の再発でも55位でした)。メロウな2枚目のカット・シングル「How Men Are」と4枚目のシングルとなった「Working In A Goldmine」はブルー・アイド・ソウルなスロー・バラードで、アニタ・ベイカー、ルーサー・ヴァンドロス他へのブラック・ミュージックへの憧憬が実現したかのような仕上がりとなっています。しかし、結果的には3枚目のカット・シングルとなったポップなロックンロール・ナンバー「Somewhere In My Heart」(ニュー・エディションやニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックも手掛けるマイケル・ジョンズンのプロデュース)が過去最高のチャート・アクション(全英3位)を記録し、アルバム自体もキャリア唯一の全英トップ10ヒットとなり、イギリスではプラチナ・ディスクとなっています(30万枚以上のセールスを記録しています)。

このアルバム収録のシングル曲のカップリングやリミックス曲で構成されたDisc Four(REMIXES, B-SIDES & LIVE 1986-1988)は、初CD化が、5「Deep & Wide & Tall (LP Edit)」:1987年の米Sireのプロモ用の12”シングルのB面収録ヴァージョン、 8「Working In A Goldmine」& 9「Somewhere In My Heart」(were live at Pinewood Studios for Wired): これら2曲は、1988年10月に再発された「Deep & Wide & Tall」の10”シングルのB面収録曲、14「Jump」 (live at Barrowlands Ballroom, Glasgow on Jan. 30th, 1988: 1988年7月リリースの「Somewhere In My Heart」の英《Wea》の12”、英《Wea》の10”シングルに収録)の計4曲。

10「Killermont Street」& 11「Pillar To Post」 (live in Los Angeles December 8, 1987 ※初出は1988年1月リリースの『How Men Are』の英《Wea》12”シングル)、13「Down The Dip」(live at Barrowlands Ballroom, Glasgow on Jan. 30th, 1988 ※初出は「Somewhere In My Heart」の英《Wea》の12”)の3曲のライヴは、1988年に日本盤のみでリリースされた『New Live And Rare』で初CD化(『Love』 のDeluxe Casebound Editionにも収録)。

12「How Men Are」(live on Night Network, 21st January 1988)と15「I Threw It All Away」 (live at The Colston Hall, Bristol, June 1988、ボブ・ディランのカヴァー) は共に「Working In A Goldmine」のCDシングルに収録されていました。

1979年から現在まで活動しているマンチェスターのインディー・バンド、ブルー・オーキッズ(Blue Orchids)の1982年作「Bad Education」のカヴァー(「Deep & Wide & Tall」のカップリング)、トラディショナルの労働讃歌「Red Flag」のカヴァー(「How Men Are」のカップリング)がDisc Three(『Love』)のボーナス・トラックとして収録されています。曲調は違えど、炭鉱夫のことを歌った「Working In A Goldmine」もあり、ポール・ウェラー宜しく労働党や炭鉱夫をサポートしていることで、(東京で自堕落な大学生になっていた私には)やはりイギリスのミュージシャンはかなり意識高いなと思ったのも確か。

そういえば、当時は日本ではザ・スタイル・カウンシルの『The Cost of Loving』(1987年)同様、ブラコン(ブラック・コンテポラリー)に接近した作品ということで、それまでのファンが付いていけなかった感もありましたが(といっても、ザ・スタイル・カウンシルは日本のテレビCMにも登場し、それなりには売れていました)、もしかすると80年代サウンドが再注目された近年の方が若者受けするのかもしれないと思ったりもしました(『The Cost of Loving』は現在日本では廃盤状態で、この2作品はそれ以前の作品との違いもあり、報われないなと思ったりもします)。16曲目には、1987年に配布された「Somewhere In My Heart」の米《Sire》制作のプロモーション用12”に収録用されていたインタビューが収録されています。

「Deep & Wide & Tall」の最初(1987年9月)のリリース時にはCDシングルのリリースはなく、「How Men Are」以降の『Love』からのシングルは3”のミニCDでもリリースされ、1988年の「Deep & Wide & Tall」の再リリース時には3”CDでリリースされました。このミニCD、日本ではシングル用の短冊型のパッケージで一般的になりましたが(アズテック・カメラも「The Crying Scene」の日本盤シングルはこの短冊形CDでリリースされました)、初期のCDプレーヤーでは専用アダプターがないと再生出来ず、海外では90年代に入ると殆どリリースされなくなりました。

イギリスでのマッドチェスター(ストーン・ローゼスやハッピー・マンデーズに代表されるマンチェスター・サウンドのムーヴメント)が吹き荒れた後の1990年6月にリリースされた4枚目のアルバム『Stray』(Disc Five)は、「Somewhere In My Heart」 のリミックス・ヴァージョンを手掛けたフランス人プロデューサー、エリック・カルヴィ(Eric Calvi)(『Love』にもエンジニアで参加。アフリカ・バンバータや角松敏生のプロデュースも手掛けている)とロディの共同プロデュース作で、当時は(前作の反動で)ロックに戻ったという評価があったかと思います。先行シングルの「The Crying Scene」は「Somewhere In My Heart」の延長線上とも言えるポップでストレートなロック・ナンバーで、このアルバムからのセカンド・シングルとなった(1990年9月リリースの)「Good Morning Britain」には当時、 Big Audio Dynamite(B.A.D)からBig Audio Dynamite IIへの移行期だった元ザ・クラッシュのミック・ジョーンズが参加して、(個人的に本来の意味での元祖ミクスチャー・ロック・バンドと思っていた)B.A.D的なビートが堪らないロックなプロテスト・ソングで、(今のところ最後の?)スマッシュ・ヒット(全英19位)になりました。『High Land, Hard Rain』収録の大名曲「Walk Out To Winter」の歌詞にはジョー・ストラマーが登場しましたが、元ザ・クラッシュとロディのコラボということだけでも上がった人が相当いたかと思います。

かなり多様なスタイルの楽曲が収録されていることもあり、アルバム・タイトルから、方向が定まらず「彷徨っている」アルバムと言われていましたが、1曲目のタイトル・トラック「Stray」や(ウェス・モンゴメリーやチェット・ベイカーを意識したという)「Over My Head」はジャジーでスローな名曲だし、アルバム後半の(初期の作品を彷彿とさせながらも、洗練を感じさせる)シンプルで落ち着いた楽曲群も非常に美しく(アルバム半分が分かりやすくロックな楽曲なこともあり、そのイメージが先行していましたが)、背伸びした印象の強かった『Love』よりもずっと地に足が着いた作品となっているように感じました。

「The Crying Scene」のカップリングだったシンディー・ローパーの「True Colors」のカヴァーおよび同シングルの10”EPや12”、CDシングルに収録されていた「Salvation」(クレジットのない女性ヴォーカルは誰?)がDisc Five(『Stray』)のボーナス・トラックとして追加収録されています。しかし、「The Crying Scene」のシングル・ヴァージョンは「Good Morning Britain」のUK盤の7”とCD用のシングル・ヴァージョンでリミックスを手掛けたジュリアン・メンデルソーン(ペット・ショップ・ボーイズやレヴェル42の諸作品からハウス期のア・サートゥン・レシオ他で有名なオーストラリア出身のプロデューサー)がミックスを担当しているのですが、あまり差異がないためか今回の9枚組の方では採用されていないようです。

また、Disc Six(REMIXES, RARITIES & LIVE 1990)には「Good Morning Britain」のUK盤の7インチ用のオリジナル・ミックス(『Stray』 のDeluxe Casebound Editionにも収録)からUS盤のCDシングルやプロモ12”に収録された全てのリミックス・ヴァージョン(当時はビーツ・インターナショナルのメンバーだったノーマン・クックによる「Morning Acid Mix」)も網羅され、 ミック・ジョーンズ本人も参加した「live at Glasgow Barrowlands on August 4th 1990」のライヴ音源も収録されています。

『Stray』には元スクイーズのポール・キャラック、元ブロックヘッズのミッキー・ギャラガー他、《Postcard》時代からの盟友、元オレンジ・ジュースのエドウィン・コリンズも参加しており、「Good Morning Britain」のCDシングルには、エドウィン本人も参加したオレンジ・ジュースの「Consolation Prize」のライヴ・カヴァー・ヴァージョン(live at Glasgow Barrowlands on August 4th 1990)が収録されています。 当時は、《Wea》音源ではなかった(UKでは1990年に《Chrysalis》よりリリースされたエイズ撲滅のためのベネフィット作品で、コール・ポーターのトリビュート・アルバムだった『Red Hot + Blue』収録曲で、シングル・カットもされた)コール・ポーターのカヴァー「Do I Love You?」も収録(『Stray』と同じレコーディング・メンバーで、同時期にレコーディングされたものと思われます)。

坂本龍一と取材に応じるロディ・フレイム



坂本龍一をプロデューサーに迎えた(ロディも共同プロデュースで名を連ねています)1993年5月リリースの『Dreamland』(Disc Eight)は、前作のシングル「The Crying Scene」と「Good Morning Britain」それぞれのリミックスを手掛けたジュリアン・メンデルソーンがミックスを担当しています。

(『Dreamland』からの)3枚目のシングルとなった「Birds」(グラウンド・ビートを繊細にしたかのようなたゆたうようなリズム)でスタートするこのアルバムは、リリース当時はミスマッチ? なのではと言われていました。一方で、この作品を最高傑作にあげる人が当時結構いたのも事実で、今回改めて聴き直してむしろ両者の良い点が出ていて納得させられました。初期の作品を彷彿とさせるリリカルなメロディも随所に登場し、坂本教授のプロデュースの賜物といえる空間を生かしたアコースティック楽器と電子音を優しく融合したサウンドは、予想以上にハマっていました。同じく坂本がプロデュースしたヴァージニア・アストレイの『Some Small Hope』(1986年)のような、最良なコラボレーションになっていると思いました。『Stray』が楽曲に合わせたアレンジが施され、アルバムとしての統一感があまりない内容だったのに対し、(『Knife』以来ともいえる)『Dreamland』は非常に統一感のあるアトモスフェリックな内容となっています。ナナ・ヴァスコンセロスやホメロ・ルバンボ等のブラジリアン・ミュージシャンも参加し、1992年7月リリースの先行シングル「Spanish Horses」に代表されるように様々な国や地域にインスパイアされた楽曲も多く収録され、熟達したアレンジや演奏が素晴らしく、非常に洗練度の高い、(90年代の)プリファブ・スプラウトや(『Hats』以降の)ブルー・ナイルとの共通性も感じさせる、彼のキャリアで一番非ロック的とも言えるアルバム。もしかしたら、この9枚の中で一番今、聴くべき盤かも。

Disc Eightのボーナス・トラックとして収録されている12曲目の「(If Paradise Is) Half As Nice」は、1992年にリリースされた英音楽紙《NME》(New Musical Express)の創刊40周年を記念した40曲収録のアルバム『Ruby Trax』に収録されていた楽曲で、英語ヴァージョンでこの曲を1969年にヒットさせた(UKで2週1位の)エイメン・コーナーのオリジナル・ヴォーカリスト、アンディ・フェアウェザー・ロウ本人が参加しています。

また、同ボーナス・トラック(13曲目)の「Just Like The USA」(live at Sala Apollo Barcelona May 5th, 1992)はシングル「Spanish Horses」のUK盤の7”とカセットのカップリングとして収録されていました。14曲目「Let Your Love Decide (Edit)」は米《Reprise》のプロモ盤CDのみに収録れていたヴァージョン。

順番は逆になりましたが、Disc Seven(LIVE AT RONNIE SCOTT’S)は、ロディ・フレイム名義で出演した全13曲(recorded live at Ronnie Scott’s Club, London, 23rd June 1991) の弾き語りライヴ音源(『Stray』に参加していたGary Sanctuaryがピアノとサックスで参加)。オリジナルは「Spanish Horses」のCDシングル2種、および『Dreamland』からのセカンド・シングルとなった1993年4月リリースの「Dream Sweet Dreams」のCDシングル2種のカップリングとして、それぞれ分けて収録されてたものを1枚のライヴ・アルバムのようにまとめたもので(このCDシングルの時点で「part 1~4 in a Roddy Frame Live collection」とサブ・タイトルが付いていました)、2012年に《Edsel》からリリースされた『Dreamland』のDeluxe Casebound EditionのDisc Twoにもまとめて収録されていましたが(Disc Eightに収録されている「Just Like The USA」のライブ音源も追加されていたため)、今回は純然と同日のみのライヴ音源になっています。7曲目の「Dolphins」はフレッド・ニールのカヴァー。この時期、カップリング曲の違うCDシングルを2種類同時にリリースするのが流行っていまして、「Spanish Horses」と「Dream Sweet Dreams」の計4枚のCDの背を合わせると、ロディの写真になっていました(「Spanish Horses」のCD2のジャケット写真と同じもの?)。「Birds」のCDシングルも2種類リリースされましたが、カップリングする未発表曲や未発表テイクがなくなったのか、過去の代表曲が収録されていました。

Disc Nineは、70年代後半よりマッドネス、エルヴィス・コステロ、デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ、デヴィッド・ボウイ、モリッシー他の数々の名曲や名盤を手掛けたクライヴ・ランガーとアラン・ウィンスタンレーがプロデュースを担当して(1984年のファンクラブ用音源だった「Oblivious」のリミックス以来のタッグ。この音源は『High Land, Hard Rain』の30周年記念のUS盤の2枚組CDに収録されています)、アズテック・カメラ名義での最後のアルバムとなった1995年11月リリースの『Frestonia』。ブリット・ポップ全盛時にリリースされたこともあり、1993年にはブラーも手掛けていたランガーとウィンスタンレーの起用も納得でしたが、ミドルテンポな生ドラムとラウドなエレキ・ギターが目立つクラッシック・ロック的(?)なイメージで、アコースティックなギターの響きはあまり目立たなく(アレンジの一部のように)なっていました。何となく前作の反動と時流を考慮し、敢えてバンド・サウンドを強調したようにも思えました。とはいえ、オリエンタルなメロディが要所要所に登場するのは前作からの延長線上と言えますし、シンプルなアンサンブルの楽曲はアズテック・カメラ/ロディ節が際立っています。ただ、このアルバムのアウト・テイクやB面用の新曲はなかったのか、唯一のシングル「Sun」のカップリングになったのは、アルバム収録曲で「Sun」のアコースティック・ヴァージョンと言える「Sunset」とライヴ音源のみでした。

ボーナス・トラックとして収録されているこれらのライブ音源は、その「Sun」のCDシングルの2種のカップリング(CD1から1曲「The Crying Scene」、CD2から3曲「Black Lucia」「We Could Send Letters」「Rainy Season」)のlive at the Phoenix Festival, July 1995のライヴ音源になります。このアルバムおよびシングルは、時代的にアナログ盤のリリースはなく、CDとカセットのみでした。

《Wea》との契約終了後、ロディは本人名義で作品をリリースするようになり、1998年の『The North Star』を始め、 4枚のアルバムを発表しています。現在のところの最新作は2014年の『Seven Dials』で、2013年にリリースされた『High Land, Hard Rain』の30周年記念のアナログ盤(《Domino》が再発)に400枚限定で封入された『AED EP』と同様、エドウィン・コリンズの主宰するレーベル、《AED》(Analogue Enhanced Digital)よりリリースされており(2002年の『Surf』、2006年の『Western Skies』 のアナログ盤も《AED》から2014年に再発された)、二人の友人関係が長く続いていることが嬉しくなったりもしました。

アズテック・カメラ名義の全6枚のスタジオ・アルバムにそれぞれボーナス・トラックを追加してリリースされた、2012年のDeluxe Casebound Editionのシリーズを持っていればもう大丈夫と思っていましたが、このボックスセットでの初CD化や、オフィシャル・リリースでは初登場となるヴァージョンやライヴがまとめて手に入るという意味でも、本当にお買い得な作品となっています(サブスクに無い音源も多数収録されています)。個人的には歳をとっても、声が甘いままで、(40代以降の作品は)しっくり来ない時もありましたが、この変わらない蒼さとデビュー時からのソングライティングの非凡さ(そして一度聴けば、ロディ節と分かるオリジナルなメロディ)が彼の魅力であり、(『High Land, Hard Rain』以外にも)後世まで語り継がれなければならないのではと思いました。

特に『Stray』と『Dreamland』は再評価すべきだし、そして楽曲の良さが際立つ、Disc Two と Disc Sevenのライヴ音源は本当に必聴です。同梱されている28Pのブックレットは当時のライヴのフライヤーや初めて見るような写真も掲載されており、詳細なクレジット、書き下ろしのライナー等々、非常に充実しています。

この機会に、『High Land, Hard Rain』以外の作品も是非聴いてみて下さい。(荻原孝文)

   

Text By Takafumi Ogihara


Aztec Camera

Backwards And Forwards: The Wea Recordings 1984-1995(9CD)

LABEL : Cherry Red / disk union
RELEASE DATE : 2021.09.15


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Tower Records / HMV / Amazon / disk union

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