中国出身バンクーバー拠点の気鋭の女性によるデビュー作
2021年は去年までのメンタルヘルスやレイス、ジェンダーの問題を引き継ぎ、解決に向けて幾許か前進する年になるだろう。そうは言ってもどん詰まりのような世界であることに変わりはないが、それでも生きていく希望を見せてくれるのは彼女かもしれない。
ユー・スー(Yu Su)は中国にルーツを持ち、カナダはバンクーバーで活動するプロデューサー。そんな彼女が1月に発表したのが本作なのだが、彼女が生まれ育った開封市の隣に位置する母なる河=黄河への頌歌であり、彼女はアルバムを通して自身のストーリーを伝えようとした、とても意味のある1枚となっている。「Xiu」は亡くなった母のミドルネームから付けたタイトル。中国琴の美しい調、柔らかい囁き声、低く響くタイトなベースによるポリフォニックなフレーズがループし、母との思い出と悲しみを反芻しているよう。そして「Touch-Me-Not」は「よそよそしい女性」という意味らしく、オブスキュアな電子音による内省的な仕上がりになっている。これは、アルバム制作中にビザの問題で8ヶ月間に8都市を転々とせざるを得なかったことや、常にカナダ出身のアーティストとして見られることなど、レイスやアイデンティティの問題に対する疑問を色濃く反映させた結果だろう。
作品を以って、ルーツに誇りと愛情を持つ姿勢、アイデンティティや仕事におけるレイスの問題に向き合う態度を示し、加えてその問題に声をあげる様子は、彼女自身の物語の一部であると同時に、似た境遇の人々と共振し、エンパワメントするに違いない。また本作は中国のレフトフィールド・エレクトロニックミュージックのためのプラットフォームとして始動した彼女の新レーベル《bié Records》からのデビュー作でもある。中国ではエレクトロニック・シーンに関わる女性が増加しており、彼女は必然的にプレーヤーやプロデューサーとしてのロールモデルの役割を担ってもいるのだ。
昨年12月には、世界メンタルヘルスデイの活動としてリリースされたコンピレーション『Needs 008』に参加し、その意識向上に連帯した。彼女自身は中国三大宗教「道教」の影響を受け、メンタルヘルスのケアにも長けているようだ。音楽においても社会においても柔軟に対処するアティチュードを持ち、中国で生まれた音楽と欧米のオーディエンスの架け橋を目指す彼女の2021年に期待したい。(佐藤遥)
※アナログ・レコードも発売中。