Review

Sons Of Kemet: Your Queen Is A Reptile

2018 / Impulse! / Universal Music
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ジャズこそ今のUKポップの中心にあると宣言する、今年屈指の一枚

19 October 2018 | By Daichi Yamamoto

「これもジャズ!?」高揚感溢れるリズムに誘われ、一瞬そう思ってしまうのも無理はない。これはジャズの枠を軽々超えた、普遍的な祝福のダンス・ミュージックである。ロンドンで活動するサックス奏者で、昨今のUKジャズの盛り上がりの中心人物、シャバカ・ハッチングスを軸に、チューバ、ダブル・ドラムで編成されたバンド、サンズ・オブ・ケメット。彼らがアメリカの名門ジャズ・レーベル、《インパルス!》からリリースした本作は、多様性こそが英国音楽の本質であること、ジャズとてその例外でないことを教えてくれる。リリースから半年経った今だからこそ、この作品の持つ意味が浮かび上がって来る。

全ての曲名が「私の女王は~」というタイトルになっている本作は、英国の君主制や今も消えない階級制に抵抗し、ハッチングスが尊敬するアフリカン・ディアスポラの活動家達を女王として称える、ポリティカル、かつパンクな作品だ。例えば、彼のバルバドスの祖母(Ada Eastman)からガーナに存在したアシャンティ王国の王母で英国の占領に抵抗したヤァ・アサンテワァ、反アパルトヘイト活動家、アルベルティーナ・シスルまで。彼女達を称えるように、サウンドもカリプソやダブのようなカリブのビートから、フェラ・クティの「Zombie」を聴いた時の興奮を思い出させるようなアフロビートまで、貪欲に世界を横断して行くが、それらと同じくらい重要なのは「My Queen Is Mamie Phipps Clark」のMCをジャングル・シーンの革新者Congo Nattyが務めていることだ。

このアルバムが英国のブラック・ミュージックの歴史に接続され、レゲエやダブも取り込んで発達したグライム、バッシュメントや現代的なアフロビーツがミックスされた昨今のUKラップだって、直ぐ隣で鳴っている音楽として聴こえてくる。つまり、英国のポップ・ミュージックはいつだってアフリカン・ディアスポラの助けによってエクレクティックであり続けたこと、その全てが縦の歴史で繋がっていることを改めて教えてくれるのだ。アメリカにおいてカマシ・ワシントンやサンダーキャットがラップ・コミュニティと溶け合うように、ハッチングスと彼が率いるサンズ・オブ・ケメッツも、スケプタやストームジー、Jハスらと並ぶ現代の英国ブラック・ミュージックの立役者なのだ。(山本大地)

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