奏でる者たちの身体性
かつてヤング・ファーザーズ(YF)がマッシヴ・アタックの楽曲「Voodoo In My Blood」(2016年)に参加したとき、這うようなベースと力強いビートに、ダブのクロスオーヴァーの未来を感じたものだった。典型から離れながらも、強力な磁力があるウラの強調されたリズム。その後YFが2018年の『Cocoa Sugar』を経てリリースした新作『Heavy Heavy』は「Voodoo In My Blood」よりも更にアブストラクトになると同時に、『Cocoa Sugar』よりも強くビートが鳴っているように思う。
下降を繰り返すベースのうえに、サンプリングされたのちにソフトウェア上の編集で引き延ばされたような粗いウワモノが乗り、2・4拍のハンドクラップが重心となった強靭なグルーヴを持った「Rice」でアルバムは幕を開ける。アルバムを通して耳につくのは、打ち鳴らされるドラム、ゴスペルのようなコーラス隊、ヘヴィなベースだ。それらの音による祝祭を思わせるようなムードの中で、歌以外の楽器が消え《Anticon》譲りのキッチュなシンセだけになることもあるが、そのような場面転換はあっても、曲の雰囲気やテンポは保たれているように聴こえる。実際にこのアルバムの楽曲をDAWソフトにすべて取り込んで波形を確認してみると、テンポが少しずつ上がっていく「Holy Moly」を除いて、1曲を通して小節や拍のグリッドからずれる瞬間が無く、一定のテンポのクリックと同期することができる。
一方で、そこには生々しいダイナミクスとグルーヴがある。「Drum」に顕著なように、クレッシェンドにより1曲毎に最高潮の瞬間がもたらされるが、そこでは音量的な満ち引きという形で表れるミュージシャンたちの身体を聴き手が感じられるようだ。またほとんど常にキープされたテンポの上に、メンバー3人の歌と打楽器、そしてゲスト・ミュージシャンたちによるコーラスや生楽器の演奏が、聴き手の身体に訴えかけるような微妙な揺らぎを与えている。例えば「Tell Somebody」の後半で手数を抑えて演奏されるドラム [*1] や、「Ululation」でのけたたましい叫びのように。
YFの音楽はこのように、概してテンポが一定で、DAW的発想をベースとしているであろうエレクトロニック・ミュージックでありながらも、複数の人間の身体を感じさせながら、聴いている我々を巻き込んでいく。耳にした瞬間、何よりもまず身を任せてみたくなる音楽。そんな『Heavy Heavy』のような音楽に触れることができる経験は、現代において、以前にもまして尊いように思える。(Sawawo[Pot-pourri]) / 液晶[Pot-pourri])
[*1] クレジットを見てみると、ドラムおよびパーカッション類の奏者としてリアム・ハットンというゲスト・ミュージシャンが参加している。曲ごとのクレジットが無いため、どの曲のどこに参加しているかといった詳細は不明で、全曲に参加しているのかもわからないが、インスタグラムを見てみると先行シングルである「Gerinimo」「I Saw」「Tell Somebody」「Rice」リリースの際はそれぞれ告知しているため、少なくともこの4曲に参加しているかと思われる。