Review

The Laughing Chimes: Whispers in the Speech Machine

2025 / Slumberland 
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自国の物語と繋がる音楽

25 February 2025 | By Nana Yoshizawa

オハイオ州南東部のアセンズを拠点とする4人組バンド、ラフィング・チャイムスのセカンド・アルバム『Whispers in the Speech Machine』を聴いてほしい。ザ・スミス、ザ・キュアーなどを思わせるギターの音色はもちろん素晴らしい。しかし、彼らのソングライティングの背景には、奇妙な現実が存在していることを感じてほしい。

エヴァン・サーカンプとクイン・サーカンプ兄弟を中心に結成されたこのバンドは、2021年のファースト・アルバム『In This Town』で軽快なギター・リフと高音域のメロディーを重ねる、ギター・ポップあるいはジャングル・ポップを特徴としていた。ギターの音作りに関しても、瑞々しいハリのある音粒を整列させており、コンプレッションをかなり細々とかけているように聞こえる。それにクリーン・トーンをうっすらと汚したような質感も相まって、懐かしい響きになっていた。

《Slumberland》からリリースとなる今作は、ギターやシンセサイザーなどの音響効果を拡張。そして意図的に、サザン・ゴシックの持つ暗さを取り入れた。 これには彼らの故郷である、オハイオ州ショーニーの街並みが関連している。19世紀後半から20世紀前半にかけて、石炭採掘により栄えていたショーニーの街。しかし今では、廃墟の建物が多くを占めている。このアパラチア山脈のふもとにあるオハイオ州南東部は、多くの人が知るとおり、アメリカ政権下の影響をダイレクトに受けている。オバマ前政権で進められた気候変動政策による石炭産業への弾圧だったり、トランプ大統領が当選した背景に主にこの地域からの支持があったように(ちなみに、『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』の著者J・D・バンスはオハイオ州ミドルタウンで育った)。

しかし、エヴァンは故郷がゴーストタウンであることにインスピレーションを受けてきた。それに「他に何もやることがないから音楽活動を始めた」というエピソードは、いかにこの街が荒れ果てていて、若者には刺激が薄いかがよくわかる。アパラチア山脈のふもとの荒地にロマンティシズムを吹き込んだ今作も、暗さのなかに明るい兆しが宿っている。

オープニング・トラック「Atrophy」のイントロ、一際前にでるタムの音から始まり、徐々に跳ね上がるリズムは80年代のニューウェーヴを思わせる。それにギターのアルペジオやチョーキング奏法による金属的なノイズは、ポストパンクの鋭さと陰鬱な想いを持ちあわせているようだ。続く「He Never Finished The Thought」はシューゲイザーのようにギターの残響が広がる。コーラスかおそらくフランジャーを重ねたエフェクトのなかを、エヴァンのヴォーカルが優雅に漂う。こうした音の重なりに、彼らの見つめる情景だったり日常が浮かび上がってくる。そして「High Beams」の煌びやかなシンセ・ソロは、レーベル(《Slumberland》)メイトでもあるペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートに通じる爽快さがある。甘いメロディだったり、キラキラとした音色によるフレーズだったり、眩さのあるソングライティングは非常に多彩だ。これは彼らが、80年代のサウンドをリファレンスとすることに留まらない、優れた演奏力も関係しているのだろう。

ラフィング・チャイムスのみならず、アメリカのバンドの多くが、当然ながら自国の物語と繋がっている。そう思ったとき、トランプ大統領になった絶望感はあるけれど、それでもその社会のなかで戦っている、ラフィング・チャイムスのような若いバンドを聴くと希望の光が見えてくるようで、気持ちが高揚する。(吉澤奈々)

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