Review

Luna Li: When a Thought Grows Wings

2024 / AWAL
Back

国内外のフィメイル・シンガー・ソングライターと共振する、サイケデリアとR&Bテイストを強めた二作目

27 August 2024 | By Yasuyuki Ono

韓国にルーツを持つカナダ出身のシンガー・ソングライター、ルナ・リーとして活動するHannah Bussiere Kimが注目を集めるきっかけとなったのは、2020年のパンデミック期間、Twitterに投稿した一分足らずの短い、いくつもの演奏動画だった。後に『jams EP』(2021年)、「jams 2 EP」(2022年)としてコンパイルされる、ポスト・ヴェイパーウェイヴ的趣も感じる80年代ポップやアンビエントR&B、そして彼女の最大のリファレンスの一つであるというテーム・インパラを彷彿とさせるサイケデリアが混交した彼女の演奏は、瞬く間に多くの人の耳に届いた。その動画をきっかけに、同じく韓国にルーツを持つジャパニーズ・ブレックファストが『Jubilee』(2021年)リリース直後に開催した北米ツアーのオープニング・アクトに彼女は抜擢された。そして、2022年にはファースト・アルバム『Duality』をリリース。同作に参加したジェイ・サムやビーバドゥービーの名前を見れば、彼女の活動が近年活躍が顕著に目立つ、アジアにルーツを持つシンガー・ソングライターたちと共振したものであるかがわかるだろう。

そこから2年ぶりにリリースされたセカンド・フル・アルバムとなる本作は、多重コーラスによるアトモスフィックな録音が印象的な「Confusion Song」に始まり、アルバムを締めくくる「Bon Voyage」もヴォーカル・エコーとオーケストラルなサウンド・メイキングによる壮大なフォーク・ナンバーとなっているように、空間感覚を意識したアンビエントでサイケデリックな音像が強調され作品全体を包んでいる。

前作に収録されていた「Star Stuff」や「Alone But Not Lonely」のようなエレクトリック・ギターをフィーチュアしたロック色は本作では退行しているが、それでもなお作品全体を通して一面的な印象を受けないのは、ホーンやストリングス、ピアノによって多彩に、綿密に構成されたチェンパー・ポップ的サウンド・メイキングと、各所で顔をのぞかせるノイズ、フィールド・レコーディングの挿入といったエクスペリメンタルな要素の抜き差しによって制御されているところが大きいように思う。本作のプロデューサーには、カサンドラ・ジェンキンス『My Light, My Destroyer』(2024年)やロレイン『I Killed Your Dog』(2023年)といったアンビエント・フォーク、アヴァン・ポップ作品でプロデュースを務めてきたAndrew Lappinを招聘しており、実験的な愉しみを残しつつ全体としてポップにまとめ上げられた本作は彼の手腕によるところも多分にあるだろう。

本作のサウンドにおけるキーとなっているサイケデリアとR&B的感覚の浸透は、個人的に国内のフィメイル・シンガー・ソングライターによる近作からも感じてきたものだ。これまで以上にサイケデリアを振りまいたカネコアヤノ「ラッキー」(2024年)。アンビエンスを強調した夢見心地な音像で構成されたR&Bテイストの柴田聡子「Movie Light」(2024年)。さらにはサイケデリックで印象的なギター・リフがグルーヴするmei ehara「まだ早い果実」(2024年)からも本作との共振を感じる。さらに、上述したポスト・ヴェイパーウェイヴ的感性のインディー・ポップからは、例えばwai wai music resortや、ゆめであいましょうが発表してきた所謂、tiny pop作品群と本作を接続させて聴くこともできる。ルナ・リーによる本作は、文頭で記述したような交流と共演を重ねているアジア・ルーツのミュージシャンがリリースする作品を含め、国内外で近年益々活況を呈すフィメイル・シンガー・ソングライター・シーンの現在を指し示すような一枚となっている。(尾野泰幸)

More Reviews

1 2 3 71