Review

北里彰久: Tones

2019 / Felicity
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ビーサンから本名名義へ
zAkの手腕が発揮された白昼夢にも似たトリップ感

11 July 2019 | By Dreamy Deka

初めてライブでAlfred Beach Sandal(ビーサン)こと北里彰久の歌声を聴いた衝撃を忘れることができない。それはただ単に美しい声、優れたピッチコントロールといった言葉で片付けてしまうことを許さない、天国と地獄の間をたゆたうような繊細さと凄みがあった。初めて本名でリリースされたニュー・アルバム『Tones』は、そんな彼の稀有な歌声とソングライターとしての才能を、これまでで最も深く堪能できる作品となっている。

ビーサン名義での前作『Unknown Moments』(2015年)やHALFBYやSTUTSとの共作において追及してきたスペクタクルなサウンドプロダクションや、R&B、ブレイクビーツとの相性の良さからすると、今作の音像はやや意外なほどシンプル。北里自身による演奏をベースとした、まるで素描画のような清廉さを漂わせるアコースティック主体の楽曲で統一されている。しかしその一聴するとさりげない音に耳をすませば、一切の無駄がないミニマルな美しさの中に、光永渉と池部幸太のリズム隊によるゆったりと身を委ねたくなるようなグルーヴや、山本沙織のフルートによる彩りを感じることができる。大学の同窓にして盟友・STUTSは本作においてもビートプログラミングを中心に参加しているが、北里の歌の世界をさらに広げていくようなオルガンやローズで鍵盤奏者としてのセンスが特に光っている。

そしてこの歌と演奏の絶妙なコミュニケーションを時に生々しく、時に夢幻的に記録していくのは、フィッシュマンズの名作を手掛たことでも知られる大御所エンジニアのzAk。アルバム冒頭を飾る「子午線」の残響音に少し注意して聴いてみれば、共同プロデューサーも務めた彼の偉大な仕事ぶりがわかるだろう。こうして重層的に完成度を高められたサウンドに乗る北里の歌声は、どの曲においても真摯で、聴き手をどこか遠い世界へと運び去っていくような力を備えている。この白昼夢のようなトリップ感は、再生回数を増やすほどに作用を高めていくようである。(ドリーミー刑事)

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