過剰なまでにロマンチックなアルバムだ。バンドの勝利の方程式であったアップ・テンポな8ビートやシャッフル・ビートを封印し、ほぼ全ての曲のBPMが110~120の範囲内。これまで以上に多用されるトーマス・マーズ(ヴォーカル)のファルセットも含めて、イタロ・ディスコやヨット・ロックにインスパイアされたメロウでグルーヴィーな曲がアルバムの大半を占めている。
マーズは米《Billboard》のインタビューの中で本作について制作中「(現代の社会状況と)矛盾したレコードを作っている」ように感じたと語っている。そして、その罪悪感を受け入れながらも、本作を「解毒剤」として作ったのだ、とも。その意味で、本作は一種のコンセプト・アルバムなのだと言えるだろう。「フィオール・ディ・ラッテ」(モッツァレッラ・チーズのこと)なんかは、やり過ぎにも思えるが、「J-ボーイ」や「トゥッティフルッティ」には、ファンが愛して止まない彼らしいフックがあり、バンドの掲げる理想主義に現実の困難をひと時、忘れられるかも知れない。アルバム後半は、よりメランコリーが色濃くなる。そんなところも、息苦しく、不穏な、”この夏”の一枚として、ぴったりかも知れない。(坂内優太)